43-2.(ヘンリック)甘く高鳴るチョコレート
土産は別の店に行った。ユリアーナはカフェでケーキを頼むだろうから、ケーキ以外の菓子だ。御者が知っていた新しい店で、チョコレートを購入した。ティール侯爵とは、また視線が合わないようにして別れる。俺達は会わなかった、そのほうがいいだろう。
「まあ、そんなことがあったのね」
ふふっと笑うアマーリアは、俺から事情を聞きだしてご機嫌だ。俺は普通にしていたつもりだが、何かが違ったらしい。すぐに問い詰められ、お菓子の箱とともに白状した。彼女には勝てない。
「レオン、ローズ、先に頂きましょうか」
「これ、なぁに?」
「にゃーに?」
いつも優しい兄が大好きなローズは、最近レオンの真似ばかりだ。両手を広げてローズを抱き上げ、レオンと手を繋いだ。お菓子の箱はアマーリアの手にある。上着やバッグを受け取ったベルントが下がり、絨毯の間へ向かった。
団欒で使う部屋だが、靴を脱いで寛ぐスタイルに慣れると他の部屋は使わなくなる。いっそ食事もこちらでいいのでは? と提案したら、マナーの問題で却下された。レオンやローズの教育内容に、食事のマナーが含まれる。貴族ならば当然だ。
普段からきちんと食堂で食べる生活をしていないと、外へ行っても床に座って食べると勘違いする。幼子とは、そういった驚く習性があるそうだ。自分もそうだったか考えてみたが、そもそも絨毯の上に座ったことがなかった。他の事例だと何が該当するか。
「あなた、どうなさったの?」
家族だけだと「あなた」と呼んでくれることがある。嬉しくなって「なんでもない」と返し、彼女の隣に座った。契約結婚から告白して妻になり、子もなしたというのに……いまだに照れてしまう。嬉しいし、どきどきするのだ。俺は毎日、新しくアマーリアを好きになっている気がした。
「綺麗なチョコレートだこと」
喜ぶ顔を思い浮かべたら、買いすぎてしまった。実はこの箱のほかにも、二箱ほどある。アマーリア、レオン、ローズ、ユリアーナ、順番に選んでいたのだが……ディはまだ食べられない。そこでフランクやイルゼを思い浮かべ、隣で注文するベルントの分も……となかったら止まらなくなった。
ついには箱でセットになったものをまとめ買いし、二箱を使用人達に渡したのだ。さすがに家族で食べる量ではないからな、と伝えたところ……イルゼが微笑みながらお礼を言ってくれた。素直に買ってきたと言えばよかったか? まあ、バレているだろう。
「あーん」
「あーっ!」
親指の爪より一回り大きいチョコレートを一つずつ味わう。レオンへアマーリアが食べさせ、俺はローズの口に入れた。二つ目を摘まんで、アマーリアの唇をつつく。恥ずかしそうに口を開けた彼女に、鼓動が激しくなった。そのうち飛び出しそうだ。
「ヘンリック様も、どうぞ」
差し出されたチョコレートを食べた際、悪気はないが指を舐めてしまった。真っ赤になったアマーリアを見て、苦しいくらい胸が高鳴る。
「……どうしたの?」
流暢に話せるようになったレオンに「しぃ」と合図して、俺はもう一つ口に入れた。唇を尖らせた息子に一つ、するとローズが「あっ」と口を開ける。結局、二つずつ味わい……ローズが夕食を残したことで今後は一つまでと決まった。




