43-1.(ヘンリック)後ろの後ろで見つかった
今日は仕事も少ないため、許可を出した。ティール侯爵が前日になって、休みたいと言い出すのは珍しい。急病ならば当日だろうし、何かあったのか。首を傾げながら仕事をこなし、半日で終わったため馬車に乗った。
窓の外は賑やかで、ふと土産を買おうと思いつく。確か、劇場の近くに菓子を売る店があると聞いた。先日、文官の一人から仕入れた情報で指示を出す。同行した執事ベルントにより行き先を変えた馬車は、賑やかな街の一角で止まった。
「旦那様、本日は人気の上演があるようで、混雑しております」
ここで選択肢は三つだ。気にせず向かう、ベルントを使いに出して待つ、諦める。最後の一つはあり得ないので無視し、少し考えた。先日、別の店でペンを購入した時を思い出す。プレゼントするレオンの顔を思い浮かべたら、すぐに欲しいペンが見つかった。
お菓子も自分で選んでみたい。
「俺が行く」
「承知いたしました。徒歩になりますが、ご容赦ください」
公爵家の馬車だから、混雑している中を強行することも可能だ。しかし権威を乱用することは好ましくない。貴族の子女も多いだろう。ケガでもさせたら、可哀想だ。以前なら責任問題になる心配をしたが、今は別の考えが浮かんだ。もしアマーリアやレオンが歩いていてぶつかったら?
想像だけで恐ろしい。他家の親にこのような思いをさせるなら、自分で歩くほうがマシだ。頷いて歩き出し、目的の店の近くで見慣れた顔を発見した。
「ベルント、あれは……ティール侯爵ではないか?」
「隣はティール侯爵夫人でいらっしゃいますね」
休みを取って、二人で観劇に来たのか。別に咎めぬから、理由を言えばよかったのに。口を濁して言わなかったので、いろいろ心配したぞ。明日、出仕したら……ん?
「隠れているように見えるのは、俺の気のせいか?」
「いえ、私にも同様に見受けられます……っ、旦那様隠れて」
なぜか俺達も隠れることになった。ベンチの近くの大木に隠れるティール公爵夫妻の後ろで、露店の陰から顔を覗かせる。
「……あれは、ユリアーナお嬢様と……ティール侯爵令息ですね」
ベルントが指で示す先に、ユリアーナ達が歩いている。腕を組んで仲がいい。婚約は正解だったなと思いながら、大きく首を傾げた。侯爵夫妻は何をしているのだ? まさか、息子のデートが気になって追ってきた? それともユリアーナに何かあるのか。
「大変です。お二人がカフェに入りました」
「なんだと?!」
つまり、俺が土産に購入する予定の菓子を、彼女はここで食べてしまう。ならば、別の店を探して買うべきか。悩ましいと唸る俺の隣で、ベルントが思わぬ指摘をした。
「旦那様……その……ティール侯爵閣下に見つかりました」
「っ?!」
こちらを振り返り凝視するティール侯爵と目が合ってしまい、互いにそっと目を逸らした。大丈夫だ、彼とは会わなかった。自分に言い聞かせ、ベルントをせかして場を離れる。
「土産は別の店で買おう」
「はい」
明日、何もなかった顔が出来るだろうか。




