42.(ハンナ)ただ心配なだけよ
ティール侯爵家を出ていく馬車を見送る。執事に合図をして、用意したもう一台に乗り込む。オイゲンを追うよう伝えたところへ、夫が加わった。
「あなた、お仕事は?」
「休みをもらった」
王宮の文官の方々にご迷惑をかけたかしら? 後で休憩用の茶菓子を差し入れるよう、手配しておきましょう。走り出した馬車の中で、手短に事情を説明する。ずっと長男にかまけて、次男を後回しにしてきた。それどころか年齢も個性も違うのに、比較して傷つけたの。
母親として出来ることがあるなら、何でもしてあげたかった。だって、ケンプフェルト公爵家で預かっていただいた後から、あまりにも貴族らしく振る舞うんですもの。いきなり息子が大人になったみたいで、寂しいのよ。
「わかるが、干渉しすぎもよくないぞ」
「……気を付けるわ」
オイゲンはローレンツ様の側近にと誘われている。騎士になるつもりと言っていたので、キューネ子爵家を継がせるつもりだった。騎士は一代限りの爵位を貰えるけれど、フォン・シュミット伯爵のご令嬢と婚約している。爵位なしでは釣り合わないわ。
本人は未来を確定せず、何でも挑戦する気になっていた。オイゲンの前向きな姿勢は、いまの私の誇りでもある。すべてアマーリア様のお陰ね。
馬車は公爵家の近くで止まった。ユリアーナ嬢を乗せるまで、ここで待つ。私に注意したくせに、自分はカーテンの隙間から顔を覗かせる夫。ぱしっと肩を叩いた。
「もう! バレたらどうするの!」
「すまん、劇場に先回りしたほうがよかったか?」
「でも開演まで時間があるの。きっとお茶を飲む予定だと思うわ」
「なるほど」
デートプランとしては良く練られている。頷く夫の感想をよそに、私は口角を持ち上げた。人気のカフェ情報をオイゲンの前で、わざと話したのよ。お菓子が持ち帰れる話と一緒に、ね。ケンプフェルト公爵家へのお土産も手配できるでしょう? あの子はそういうところ、気が利かなさそうだから。
カフェの前に馬車を止めると目立つので、通行人の振りをすることにした。馬車を下りて、ベンチがある大木の陰に隠れる。遠すぎて、店内の様子がわからないわ。
「事前に席を予約するべきだったわ」
衝立を用意してもらえば、姿が見えない。予約席なら不審に思われず、近くに行けたのに。悔しく思いながら呟けば、夫が呆れたと首を横に振った。
「ハンナ、嫉妬深い姑の顔になってるぞ」
「何を言ってるの! ユリアーナ嬢は可愛い私の娘になるのよ。嫉妬なんてしません!」
あの子が嫁いでくるのを、どれだけ楽しみにしているか。今夜こんこんと語って差し上げるわ! 寝かせませんからね!!




