41-2.(ユリアーナ)手玉に取るにはまだ早い
遅れないよう早めに到着し、劇場近くのお店に入った。お茶やお菓子、軽食を提供する店みたいね。ちょうどいいので、ケンプフェルト公爵家へお菓子を届けてくれるようお願いした。買って持って行ってもいいけれど、劇を見ている時間は置きっぱなしになるんだもの。
「帰りに買いに寄るのはどう?」
席に着いてお茶を飲みながら、オイゲンが口を挟んだ。開演時間前に入り、ボックス席で観劇する予定だった。座席の表示を見たお義兄様がボックス席だと教えてくれたの。奮発したのに、黙っているオイゲンのために知らない振りをするけれどね。
「素敵だけれど、混むと思うの」
オイゲンの提案は魅力的だが、絶対に混雑する。近くにある店はほかにもあるが、食事を出すところが多い。軽食ならばともかく、貴族家のご令嬢が一緒なのに食事を済ませるとは考えにくかった。必然的にこの店が混む。証明するように、近くでカフェの工事が行われていた。
来客が見込めるから新しいカフェができる。そのくらいには混んでいるのよ。お土産のお菓子に品切れ多数で数が足りないとか、種類がなくなるとか。そちらの心配もあった。全部を口にすると嫌みになるし、せっかくの提案を貶したみたいに聞こえても嫌だわ。
「ユリアーナのそういうところ、好きだよ」
「あら、私はもっと好きよ」
以前なら照れて赤くなるところだけど、切り返して笑顔を添えた。これは先日のお茶会で、ユーリア様に教えて頂いたの。バルシュミューデ公爵夫人という呼び方から、ユーリア様に変えたのも同じ日だった。すごく親切に教えてくれるので、助かっている。きっとお姉様の妹だからね。
自分にそれほどの魅力があるとは思わない。お姉様は王太后陛下とも名前で呼び合うほど親しくしているけれど、勘違いするほど私は愚かじゃないわ。愛されているのも、親しくしているのもお姉様で私ではない。適切な距離を保つのがマナーよ。
「っ、上手になったなぁ」
「当然よ、あなたの奥様になるんですもの。恥をかかせないよう必死なの」
ここで、侍従が時間を告げる。少し早いけれど、劇場に入ろうと腕を差し出される。受けて腕を絡めた。いつ話すのかしら? ボックス席は人気で、なかなか押さえられないと聞いた。ドキドキしながら劇場へ向かい、案内されるまで黙っているなんて……。
「ボックス席を自慢するかと思っていたのよ?」
「そんなに子供じゃないさ。母上にも釘を刺されたし」
やっぱり自慢しようと思ったのね? ティール侯爵夫人が義母ならば、仲良く過ごせそうだわ。価値観が近い気がするから。ふふっと笑って、オイゲンの肩に寄り掛かった。暗くて人目がない半個室で、婚約者だもの……いいわよね?
切ない恋愛物語に感激して、お芝居なのに涙ぐんでしまう。ハンカチで押さえていたら、その上から指先にキスをされた。そこじゃないわ、こっちよ。手本を見せてあげるわ。彼の頬にキスをして、私も頬にお返しをもらう。とても楽しい時間だったわ。また来ましょうね!




