41-1.(ユリアーナ)お芝居を見に行くの
お姉様の提案で、全員が呼び捨てにしている。といっても、ランドルフは公爵夫人や公爵閣下と表現しているけれど、子供同士は呼び捨てだった。少し前まで「ユリアーナ嬢」なんて呼ばれて、ムズムズしちゃったけどね。
「いつもより華やかですね、お綺麗です」
七歳の子とは思えないわ。少なくとも、私が知っている七歳だったユリアンはクソガキだったもの。あら、淑女らしくない言葉遣いね。声に出さないようにしなくちゃ。
「ありがとう、ランドルフ。今日はオイゲンがお芝居に誘ってくれたの」
観劇は貴族のデートの定番だった。夜は社交の場となるから大人だけになる。逆に昼間は大人も子供もいるわ。親子で来たり、親戚同士もあると聞いた。婚約者と訪れるのも、珍しくないの。貴族は幼い頃に婚約する家も珍しくないわ。
「婚約者のティール侯爵令息ですね」
「……本当に七歳? 嘘じゃないかしら」
「褒めて頂いて嬉しい限りです」
いえ、嫌みのほうよ。にっこり笑って濁したら、つんつんと袖を引かれた。下を見れば、レオンが紫の目を大きく丸く開いている。こてりと首を傾げる仕草、本当に可愛いわ。お姉様が喜ぶのもわかるもの。スカートの裾に気を付けてしゃがみ、レオンと視線を合わせた。
「どうしたの?」
「……おでかけ?」
「ええ。オイゲンと出かけるわ」
俯いて黙り込んだレオンは、ぱっと顔を上げた。笑顔で「いってらっちゃい」と口にする。ちょっと言葉が怪しかったけれど、可愛いからいいわ。お土産を買ってくると約束し、黒髪を撫でた。艶があってすごく綺麗なの。金髪より黒髪のほうが艶が際立つ気がするわ。
立ち上がって手を振り、玄関のほうへ向かう。そろそろオイゲンが迎えに来る時間だった。後ろで何か言われた気がして振り返るも、二人はもう背を向けている。たぶん気のせいだわ。その場はそれ以上気にすることなく、私は玄関でオイゲンを出迎えた。
ケンプフェルト公爵本邸に暮らすようになってから、出かけるときは家令か執事の見送りがある。慣れたと言い切るには、まだね。どうしても違和感があった。生まれてこの方、家に家令や執事がいたことがなかったから。そもそもお屋敷に住むことも初めてだった。
玄関を家令のフランクが開ける。洒落たシャツに、明るい色のスカーフを胸に差している。襟と袖に刺繍がしてあって、凄く素敵だった。
「お迎えにあがりました、ユリアーナ嬢」
到着したら、まず私への挨拶。微笑んで待つ私の斜め後ろに控えたフランクへ、オイゲンが行き先と帰宅予定を告げる。こういう扱いって、淑女っぽくて好きよ。尊重されている気分だもの。復唱したフランクに見送られ、馬車に乗った。今日のお芝居、どんなお話かしら? 楽しみだわ。




