907.ドレスの森で遭難してみる
髪を切り終えて、軽く櫛を通す。これである程度、毛は落とせたと思う。侍従が片付けに現れ、綺麗に掃除する姿をレオンは興味深そうに見つめた。
「ぼく、あれ……やりたい」
「お掃除してくれるの? 助かるわ。このお部屋をお願いね」
猫の部屋へ連れて行き、ユリアンと一緒に掃除を頼む。箒を手にしたレオンは嬉しそうに頷いた。やり方はユリアンが知っていると話したら、目を丸くしていた。何でも知っていると驚いたようで、ユリアンは満更でもなさそう。
ユリアンは丸く掃除する傾向があって、隅だけ残っているの。文句を言って、何度もやり直しをさせた。昔を思い出して笑ってしまう。ユリアンが睨むので、言わないわよと首を横に振った。レオンがお兄ちゃんしたいのと同じで、ユリアンも兄貴風を吹かせたいのよ。邪魔はしないわ。
「アイ達を驚かさないでね」
「うん」
手を振って分かれ、私は大急ぎでクローゼットになっている部屋に向かった。明日の衣装を調整しないと間に合わない。すでにユリアーナが待っていた。
「お待たせ」
「いいのよ、ね? ローズちゃん」
「あい!」
元気に返事をするローズは、衣裳部屋を走り回っている。綺麗なドレスの森は、楽しそうね。転ばなければ問題ないので、マーサに世話を任せた。
「フランクは?」
「旦那様の衣装を確認しております」
イルゼが代わりに答えた。いつもならもっと早くに衣装合わせをする。今回はぎりぎりまで参加が危うかったから、後回しにしたのよ。ディとローズの体調不良が、伝染性の病だったら周囲に菌をばらまいてしまう。参加が確定してから衣装を選ぼうと考えたの。
実際は看病したり、レオンの様子を見たりで忙しく、衣装を選んでいる場合ではなかった。ようやく一段落したと思ったら、もう明日だった。
「バルシュミューデ公爵家から通達はあった?」
「主催は水色を主体として、お揃いになさるそうです」
お茶会では、事前に衣装の調整が行われる。たとえば王太后陛下と男爵令嬢の衣装の色が被ると、お互いに気まずいでしょう? 事前に公表してくれたら、それ以外の色を選べるわ。こういった根回しは、侍女長や執事長などの上級使用人同士で情報交換されてきた。
今回もフランク経由でイルゼが確認している。手元のメモを読み上げた結果、王家がミント、主催のバルシュミューデ公爵家が水色、リースフェルト公爵家はピンク。見事にバラバラだった。そこにティール侯爵家の薄茶が加わる。
「……そうなると……白、薄紫、黄色やオレンジ……」
昼間のお茶会に真っ赤やマリンブルーは使えない。当然、黒も選べなかった。淡い色を探しにドレスの森をかき分ける。黄色やオレンジは、金髪が霞むから選びたくないのだけれど。




