906.散髪上手なリリーにお任せ
髪を切ると散らかるので、掃除しやすいよう、フローリングの上で切ってもらう。廊下も絨毯があるから、玄関ホールを提案したら却下された。お客様がと鉢合わせする可能性があるから、ダメだそうよ。テラスも風が吹くので、切りにくそう。食堂は絨毯がないので、ここが一番だわ。
私がやろうとハサミを手にしたら、イルゼに全力で止められた。リリーも「私にお任せください」と請け合うので、それならとハサミを離した。
結果としては、リリーに任せて大正解だった。凄いのよ、リリーは美容師顔負けの技術者だわ。指の間でハサミが軽やかにシャンシャン動くの。見惚れている間に綺麗になり、ついでだからとユリアンやユリアーナも整えてもらった。
「俺は、後ろのここだけ長くする」
いわゆる尻尾というやつね。襟足の部分を細く長く残す。承諾したリリーは頭の上の方も多めに残していた。将来的に長くなったら、上の部分と襟足を一緒に結べるようにと説明されて頷く。もし襟足だけでいいなら、後で切ってしまえばいいだけの話よ。
ユリアーナは前髪を自分で整えていたようで、さほど弄る場所はなかった。伸ばした長い髪を綺麗に櫛で梳いてから、長さを揃える程度。
「助かったわ、次もお願いしていい? 自分でやると引っ張るからか、左右の長さが揃わなくて困っていたの」
もちろんですと受けるリリーが、ハサミを置いてこちらを向いた。
「奥様はどうなさいますか?」
明日はお茶会だから、そうね……綺麗にしておきましょう。前髪を少し短く整えてもらい、後ろは毛量を減らしてもらった。希望したら首を傾げていたので、簡単に説明する。裏側の見えない位置の髪を透かすように減らすの。
髪を持ち上げて話したら、頭のいいリリーはすぐに理解した。
「そんな切り方は知りませんでした。奥様の知識は凄いですね」
「ありがとう。私も読んだり聞いたりして得た知識なのよ」
前世の……とは言えないので、誤魔化す。全員の髪を切り終えたところで、レオンがしゃがんで床を眺めた。摘まんでまた落とす。
「手が汚れちゃうわよ? レオン」
「うん……ぼくの、ちがう」
どきっとした。私はくすんだ金髪で、ローズにも遺伝している。双子もよく似た髪色よ。レオンはヘンリック様の遺伝で、黒髪……確かに一人だけ色が違う。
「お父様の色ね」
悲しんでいるのかと思えば、にこにこと黒い髪を拾って手のひらに並べた。
「うん、お父様と、おなし!」
「ええ、同じ色。綺麗ね」
目を丸くした後、首を傾げている。綺麗と言われて、金髪も摘まんだ。くすんだ金髪より、艶のある青みがかった黒髪のほうが、何倍も綺麗だと思うの。
「猫の毛も、いろんな色があるでしょう? 白だから綺麗? アイやサビーネだって綺麗で可愛いわ」
どの色だから綺麗、ではない。どの色が好きかは人によって違うけれど、髪も肌も目の色も、違っていいのよ。レオンは満面の笑みで頷いた。




