903.全快したら遊びも全力
マスクはさっそくローズへ届けられ、私も使うことにした。レースが細いタイプでよかったわ。視界に入って気になることもなかったの。
あれから数日、ヘンリック様は仕事を詰めて忙しそうにしている。お茶会までに絶対、仕事を終わらせると意気込んでいた。付き合うベルントが気の毒なので、何かご褒美を用意したほうが良さそうね。
「おか、しゃ! こりぇ……とえた」
マスク越しになると発音が怪しいローズが駆け寄り、マスクの下の紐が解けたと訴える。大人は右耳、左耳と輪を作って掛けた。でも子どもはそれだと取れてしまうの。先日思いついた、上側と下側をそれぞれに結んで頭の後ろで結ぶ形にしたら、遊んでいても取れなかった。
病室を出たローズには、絶対にマスクをすることを条件として理解させた。自室を出て遊ぶなら、マスクをする。自分の部屋ではマスクを外してもいい。貴族令嬢だから、人がいない場所と教えたらトイレくらいしか残らなかった。幼子なら、トイレにも手伝いが入るし。
それでは日常生活に支障をきたすし、不便だった。そこで自分の部屋とそれ以外で教えたの。そのまま外へ出てくるたびに叱っていたら、覚えて実践している。今朝なんて、部屋から出たくて「ましゅく!」と絶叫したのよ。ふふっ、思い出すとおかしくなっちゃう。
ディも問題なく回復し、昨日からミルクの量が増えたと乳母が喜んでいた。家族にとって一番大事なのは、やっぱり健康よね。その意味で、レオンは優秀だった。風邪を引かないのも、外で日を浴びて鍛錬しているお陰かもしれないわ。
「おかぁ、しゃま。にぃに、わ?」
「レオンならお外よ」
目を輝かせて飛び出そうとするローズに、慌てたマーサが上着を羽織らせる。少し肌寒いのは、昨夜から早朝にかけて雨が降ったせいでしょう。外はまだひんやりしていた。
「お兄ちゃんを応援してあげてね」
「あい!」
返事は元気で威勢のいいローズだが、玄関扉から吹き込む寒さに首を竦めた。寒いからやめると言い出すかしら? 様子見していると、こちらを振り返りきゅっと唇をへの字に曲げた。そのまま駆け出していく。マーサが一礼して後を追った。
「またお風邪を召すのでは……」
心配そうなリリーに、そうねと相槌を打つ。明日はお茶会なので、できれば元気でいてほしい。となれば、理由を付けて戻ってきてもらいましょう。
「少ししたら、レオンとユリアンにお菓子があると伝えて。それでローズも戻ってくるわ」
「承知いたしました」
微笑んだリリーに任せて、私は絨毯の部屋に向かう。部屋の中はすでに暖められていた。部屋ごとに暖炉があるため、熾火の状態で十分だった。そうだ、暖炉で炙るマシュマロを、料理長に頼んでみましょうか。きっと、あの子達も喜ぶわ。




