901.カッコいいピンク
当初は、妹のためのマスクだから「ピンク」なのかと思ったわ。お揃いにするから、自分もピンク。それも理解できた。でも単純に「ピンク」という色そのものが好きなのかもしれない。
「レオンはピンクが好きなの?」
「うん!」
「綺麗だし、カッコいいよな」
にかっと歯を見せて笑うユリアンに、レオンはぱっと明るい笑顔を咲かせた。それはもう、満開の美しさよ。可愛い! ユリアンのお行儀の悪さは見逃してあげるわ。ここにフランクがいたら注意されたと思うけれど……。
「ぼく、かっくいい」
胸を張るレオンの姿に、素敵ねと同意した。褒められたと笑うレオンは、鞘を押さえて剣を抜く。カッコよさのアピールかもしれないわね。でも、ここは注意しておきましょう。
「小さな騎士様、敵がいないところで剣を抜くのは危ないわ」
「あぶない?」
「ええ。当たったら痛いでしょう?」
鍛錬を受ける過程で、むやみに剣先を人に向けない教育は施されると思う。誰彼構わず剣先を向けていたら、喧嘩になってしまうもの。自分を守る護身術以外の剣術は、公爵家嫡男には必要ない。そんな考え方もあるでしょうね。
レオンが望むのなら、剣術で名を馳せた公爵様という未来もあるわ。だから才能を摘む発言はしたくなかった。ただ、危ないと覚えてほしい。少し考えて、レオンはそっと鞘に収めた。
「鍛錬の場所で振るうのはカッコいいわ。この場所に敵はいないから、そのままのほうが素敵よ」
「そうね。ローズちゃんがいたら怖がるかも」
ユリアーナの応援に、レオンは慌てた。
「ぼく、やらない」
約束の歌で指切りをして、レオンはまた笑顔になった。ピンクのマスクはずっと顎に掛ったまま。
「レオン、こうしてみて」
言われた通りにマスクを戻したレオンは、もぞもぞと口元を動かす。いまいち据わりが悪いというか、違和感があるみたい。指先で触れて確認したユリアーナが「鼻先をもう少しカーブさせてもいいかも」と呟いた。変更は任せるわ。
「素敵なピンクとリボンね。虹みたいよ」
色を丁寧にグラデーションで並べたマスクを褒めると、得意げに顎を上げて首を反らす。縁をバイアステープのようにしたピンクのリボンで覆ってあった。あれなら洗濯をしてもほつれにくいわ。
「ユリアーナは本当に上手ね。……何をしているの?」
首を傾げて尋ねた先で、ユリアーナとユリアンが取っ組み合いをしていた。二人とも褒めたそばからこれ? 苦笑いして仲裁したら、ユリアーナが用意したマスクをユリアンが拒否していたことが判明する。
「マスクをしないと、アウラー様に病をうつしてしまうわ」
「……じゃあ、黒がいい」
むっとした顔で色を指定してきた。怒るかと思ったけれど、肩を竦めたユリアーナは「刺繍は?」と尋ねる。あれこれ相談した結果、刺繍も黒い糸で行うことになった。意外な趣味が判明したわ。中二病のお年頃かしらね。




