899.おやつの時間に天才現る!
おやつの時間に、焼き菓子を並べる。つまみ食いしたユリアンも、ローズの分を持ち帰ったレオンも、もじもじしながら席に着いた。ユリアーナが笑いながら「また叱られたの?」と二人の頬を指先で突く。
「お行儀が悪いわ、ユリアーナ。淑女らしく、ね?」
「はい」
いい返事で手を引っ込めたユリアーナは、用意された紅茶のカップを手に取った。指先まで動きが綺麗な子だわ。オイゲンがご両親から爵位を貰って独立予定だから、未来の奥様目指して頑張っている。貴族として生きていく覚悟を決めたユリアーナは、ブレなかった。
様々な技術やマナーを習得し、きちんと振る舞う。友人になったヴェンデルガルト嬢の影響は大きいと思うの。彼女は公爵令嬢で、幼い頃から母パウリーネ様の指導を受けてきた。年季が違うというか、本当に所作が優雅なのよ。良いお手本がいるから、ユリアーナの成長も早いのでしょう。
「やーい、叱られてやんの」
「ユリアン、あなたはもっと礼儀作法を覚えなくてはダメね。それでは師匠であるアウラー様の元へ返せないわ」
きちんと振る舞わないと、ピアノを続けられないわよ! ぴしっと叱る。びくっとした後、ユリアーナに「すまない」と謝罪した。お菓子を前にそわそわしているレオンが可哀想……いえ、可愛すぎるからもう食べましょうか。
「どうぞ召し上がれ」
「あぃがと!」
レオンの言葉遣いがまた幼い感じに戻っている。ディに続いてローズも体調を崩し、あまり構ってあげられなかったから? いわゆる赤ちゃん返りの一種かしら。まあいいわ、レオンが幼子なのは間違いないもの。
「お父様のは?」
「安心して、ちゃんと別にしてあるわ」
レオンが心配そうに尋ねるから、微笑んでお菓子を勧める。きっとつまみ食いの時は、一枚目の鉄板しか見なかったのね。二枚目があると知らないので、足りなくなると思ったんだわ。
ふと、そこで気づいた。二枚目の鉄板以前に……もしかしたら数をある程度把握している? このくらいの年齢の子は、一人分ずつ目の前で分けて数える。ざっと見て、何人分くらいありそうと判断するのは計算を覚えてからよ。
「レオン、どうして足りないと思ったの?」
右手と左手にお菓子を持ち、頬を膨らませたレオンがもごもごと口を動かす。そんなに頬張ったら、顔の皮が伸びちゃいそう。ふふっと笑って「食べ終えてからでいいわ」と伝えた。ぱんぱんに詰め込む姿は、リスみたいだった。
「ん……このくらい……お父様」
両手のお菓子を一度置いて、両手の指を広げて場所を示す。指の数ではなくて、その面積で計測した? さすがに「うちの子は天才」と騒ぎたい気持ちは呑み込んだけれど、それでもやっぱり賢いわ!




