891.小さな騎士様は英雄だから
階段を上り切ると、レオンはぺたんと座った。普段しない運動だから、使わない場所の筋肉が刺激されたのね。明日は筋肉痛かもしれないわ。
「よく頑張ったわね、さすが小さな騎士様。とても頼りになるわ」
「うん、ぼく……たよらりる」
これは「頼られる」? それとも「頼りになる」かしら? 両方混じった感じね。頷いたら嬉しそうに笑った。後ろで万が一に備えていたユリアンも、ほっとした顔で手摺りに寄りかかる。
「ユリアン、お行儀悪いわ。それに危険よ?」
「大丈夫、リア姉が管理する屋敷で手摺りが折れるわけないだろ」
前世でそれはフラグなのよ? 危険なの。どう言い聞かせたらいいかと思っていたら、通りかかったフランクに見つかった。
「シュミット伯爵令息ユリアン様。そのような姿勢でどうなさいました?」
遠回しの嫌味で「みっともない」と指摘されたユリアンが、顔を歪める。口が「あちゃぁ、見つかった」と動いたのを見て、フランクの説教が火を噴いた。まさにそう表現するしかない。きっちり詰められ、最後に涙目で「ごめんなさい」をするユリアンに苦笑いした。
素直に私の話を聞けばよかったのに……。
「ふりゃんく……こあいね」
以前と同じ幼い言い方になったのは、それだけ怖かった証拠かも。自分が叱られたわけでもないのに、レオンは震えながら私の後ろに隠れた。スカートの隙間から覗いて、すぐに顔を引っ込める。
叱り終えたフランクが「今後お気をつけください」と言って、表情を和らげた。それを目撃したレオンが、へにゃりと顔を笑み崩す。
「いつも、の……ふらんきゅ」
ダメよ、ここで笑ったら。ぐっと腹に力を入れて頬を引き締める。馬鹿にして笑うわけじゃなくても、幼子は心が柔らかいの。傷を受けたら簡単に直らない。だから我慢しないと……さっきもそうだけれど、そう思うほどにこみ上げてくる。
「いつものフランクよ。怖くないでしょう? おてて繋いでもらったらどうかしら?」
私の提案に、フランクが満面の笑みになった。以前から孫のように愛するレオンを抱っこしたがる彼は、膝をついて手を差し出す。じっと見るレオンへ、上手に交渉した。
「疲れてしまったので、小さな騎士様のお手を借りたいのですが……助けてくださいますか?」
騎士は困った人を助ける英雄。レオンは絵本からそう学んでいる。私の読み聞かせで覚えた英雄に憧れていた。きらきらと目を輝かせ「うん!」とフランクの手を握る。僕、ちゃんとできているでしょう? そんな顔で私を見上げるから、もう片方の手は私が繋ぎましょうね。
「なんか、俺だけ可哀想くねぇ?」
「ユリアン」
笑顔で私とフランクが名を呼ぶ。言葉遣いを注意する二人の声が重なり、ユリアンはぴしっと背筋を正して「すみませんでした!」と敬礼した。




