記憶の片隅
春。
「夏樹ぃ、もう準備はできてるの?」
「うん、いつもの場所行ってくる」
「船出る前に戻ってきなさいよー?」
「うん、わかってるよ」
高校を卒業後、今日にこの島を後にする。
僕は父さんの会社に勤める事にした。
なにか目的でもあれば、大学や専門学校に進学も少しは考えたかも知れない。でも、僕の将来通りの選択が、今ここにある事実。
母さんからこの街から出る支度を聞かれたけれど、そんなものは残酷にもいち早く整っていて、あとはこの気持ちを埋めるこの場所。
そんな平凡を探していたいだけ。
やっぱり誰もいない砂浜。
皆んな揃って、この浅瀬を飽きてしまったのだろうか。
夏よりも柔らかい気温は潮の風をよく運んでくれる。
浅瀬に到達する不規則な波は、音を出しては帰っていくを繰り返す。
気づけば裸足な僕。優しい波に打たれながら歩いている。
「おーい!やっぱり来たなあ!」
「えっ、あいつら。居たのか」
浅瀬に夢中な僕を裏切ってくれたのは、いつもの場所に居たいつもの3人。僕は息が切れないように、浅瀬を踏みしめながら走る。
「またぼっちなのかよ、あんたは」
「うるさいなあ、浅瀬が好きなだけ」
んふふ。
「なつき、次会う時も、ここで待ってるから。だから、帰ってくる時くらいは、ちゃんと連絡してねっ?あと!何かあったらひとりで背負わないで、ちゃんと誰かに頼ったり、私に相談してね?ぜったいだよ?」
「うん、大丈夫だよ」
「大事じゃないよっ!」
「うっ、はい。ちゃんと連絡はします」
あはははは!
僕と君からはかなり重い雰囲気。
笑う進藤と二ノ宮がいるから、そうでもないのか。
そう言えば、なんでここに来たんだっけ。
確か、みんなに会う為だったような気もしている。
今はただ、そうであってほしいと思える。




