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僕らは浅瀬で恋をする  作者: 秋乃しん
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浅照間島4


 「それでさあ、なんか忘れてる気がしてて。ゆいなは何か思い出せる?」


「うーん、私もわからないかも。忘れちゃった気がする」


 先ほどの光といい、この脳内に残っていそうな柔い記憶といい。

思い出せそうで、思い出せないこの事象。


「洞窟いってみる?何か思い出せるかも…」


「駄目だよっ、」


「えっ、そ、そっか。ごめん…」


「うん、ごめんね」


隣の君に何気ない提案をした直ぐのこと。

君は真っ向から僕を否定するように、僕の手を強く握った。

だから僕は、ゆっくりと握り返す。

 沈黙のつづくこの浅瀬が心地いいのは、記憶が薄れ、波に流されていく過程だから。

君に手を握ってもらえていると、他のことなんて何も要らなくて、君に何か伝えておかなければならないことが浅瀬から伝わっているよう。


 「ねえ、結菜…」


また言葉を掛けると、一度は緩んだ君の手のひらが僕の手のひらを、ぎゅっ、と握った。


「どうしたの、なつき」


 浅瀬に目をやっていた僕。

この時ばかりは隣の君の方へと顔を向けていた。そして、正解に近いような、そんな気がする言葉を探していた。


「あのさ、その…。えっとー、結婚?とかって…考えてる?」


 あはははは!


当然、君に笑われてしまったこの状況。

 僕が君に思いを伝える為だけに用意されたような言葉。こんなにも簡単な言葉があるのか。

なんだか、すごく浅く感じている。


「なつきぃ、んふふっ。ごめんね、笑っちゃいけないところだよね」


目から涙を流している君は悲しそうではなくて、笑い泣きしたのだろう。そう理解している。

 別に、笑われたって気持ちは変わるわけでもないし、気恥ずかしさだけが残ってるだけ。

だから、浅瀬に目を向け、その気恥ずかしさを誤魔化している。


「涙でるくらい面白かった?やっぱり、恥ずかしいなあ…」


「ちがうちがう、えっとね。なつき…」


 今度は君だ。

なにか伝えたい事でもあるのかのように、僕へと身体を向けた。だから僕は、少し遅れて君に身体を向ける。

 まだ治っていない君の涙が月光に照らされて透明。

そんな綺麗な光景を目に、僕はこの時にやっと。やっとなんだ。

こんなにも浅く透明で、綺麗な君のことを知れた気がした。


「結菜っ、俺。結菜とずっと、ずっと一緒にいたい」


「うんっ、私もだよっ、夏樹っ」


笑ってる君が霞む。

記憶の水面をひとつ、掬い上げるように。

僕の目からは、君と等しく、浅く透明な涙が流れているのを感じていた。



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