浅照間島3
今日はもう、夜遅くて。
ひとり窓を開けて、塩混じりな夜風に涼しくあたる。
目に入る景色は、昼間の陽射しとは正反対。
優しく、うっとりと映る。
月は丸く、まばらな星も綺麗だろう。
こんな夜に、こんな梯子を使って浅瀬へと向かおうか。考える隙間ないまま、僕は梯子に足をかけている。
両足が梯子につく。
耳を澄ましても誰も僕の部屋に入ってはこない。
ただ、夜風と微かな漣の音が遠くから。
梯子をゆっくりと降りていく素足。
地面に足が触れて、懐かしくもなく、変わりようのない砂浜を歩く。
砂の粒が僕の体重を静かに沈めていく。
抗いも出来ないまま沈みかける足は前へ前へと進む。
誰もいないこの砂浜、浅瀬には懐かしさが響いているみたいだ。
もう既に、いつもの浅瀬。
伸び揺らぐ海面の月は、浅瀬には映らない。
柔らかい月光が透明を見せてくれる。
素足に感じる滑らかな波肌。この場所の音や匂いも、生ぬるい温度も懐かしい。
「はあ…やっと言える気がするんだよね」
なにを?
「そんなこと聞かれても、もう忘れた記憶だと思う」
そっかあ、じゃあまた会えたら教えて。
「そうだね、また会えたら…」
誰と会話をするでもなく、今日にみんなに向けて言えた将来の話を繰り返し思い出している。
懐かしい記憶になりつつあるこの感覚も忘れていかなきゃいけないのだろうか。
いいや、ただゆっくりと、忘れていくだけだろう。
俯く癖に気づく。いつから下を向いていたんだろう。いったい誰に指摘されて気づかされたんだろう。
頭の中、不可解な疑問や矛盾が混ざり込んでいた。
そんなとき、青く柔らかい光が浅瀬全体を透かした。
「わあお!なんだいまの…」
一瞬の出来事に浅瀬から離れた。
「あれ?なんだろう、なんか記憶にあるんだよなあ、いまの光」
デジャブって奴か?それともほんとうにどこかで見た記憶だったり。
「そう言えば、優希が言ってた洞窟って。なにかあったっけ?」
父さんが見つけた洞窟だろうが、特に気になるようなこともないはずなんだけど。
「やっぱり、なつきぃ!」
「あっ、結菜!さっき浅瀬がめっちゃ青く光ったんだよ!」
「うん、だから近寄ってみたの。そしたら夏樹がいたから…やっぱりって、思ってね」




