第22話
体育館ではファウストが侵入者を狩り終え、エレノア先輩が生徒達を非難させているところであった。
俺はこれからファウストに質問という名の尋問を受けるため未だに残っている。
(クソ、さっさと帰りたかったのによ)
まぁそうは思ってもファウストからしたら無理な話である。
謎の多い事件の手掛かりを知っている人が現れたのならそれを逃す刑事はいるのか?
いや、いないだろう。
ファウストは刑事じゃねぇけど。
「なぁファウスト、俺も帰っていいか?」
「ダメだ。つか誰もまだ帰さねえよ」
「何!? そうなのか!?」
あれ?俺ってばてっきり帰れるものかと。
「まだ外に残っているかもしれないのに帰れるわけありませんよ。まぁ、ミラ先輩とリューネ先輩が帰ってくるまでは確実にダメですね」
おぉフィルちゃんよ……。
お前には兄のこの帰宅への執念がわからんのか。
「わかりたくはないですね」
「ちょ、酷い」
「お前ら緊張感持てよ。何が起こるかわかんねーんだぞ?」
おっと、こちは久しぶりのセリフのシンさんじゃないですか。
ってかファウスト抜いて九名は残りすぎだろ。
「てか、何でお前らはここにいんの?」
「いやいや、お前がいるからだろ。お前だけ残してると怖いし。なぁグラン?」
「そうですね。貴方だけだと怖いです」
「うんうん」
「不愉快だがな」
ちょ皆さん酷いです。
リリーに至っては文句ですし。
「そいつの言うとおりだぜぇ? 何が起こるかわかんねぇからなぁ!!」
「そうだぞシン。お前は状況を考えろ」
「おい、リオード!! それはお前に言いたいわ!!」
「ハッハァ! そいつの言うとおりだぁ! てめぇらも無事に済むと思うなよぉ!!」
「全くだ……。無事に帰れる保証なんて……って………………………………
お前誰だ?」
「「「「………………………………」」」」
「誰ってお前ぇ、じゃあ何で普通に話してたんだよぉ!!」
「いや、なんかノリで」
こういうことってよくあるよね。
つか語尾を伸ばすなうざってえ。
本当に誰ですかこの人。
茶髪の髪をツンツンにたててっていうかモヒカンだなこりゃ。
それでいて鋭く細い目に耳とか鼻とかピアス付けてるわけで……、もう何処のチンピラですか?と問いたくなるわけですよ。
「あ、俺かぁ? 俺はミネトーネ・ボージャンだぁ! よろしくなぁ!!」
そういって少しだけ笑みを見せるこの男。
「よろしく、ミネストローネ君」
「誰がミネストローネだぁ!! 俺はミネトーネだぁ!!」
うるっせぇ。
てか、こんな簡単に素性バラしちゃっていいのかよ。
一応お前らの認識は不審者かテロリストなのよ?
見た目的にオツムは弱そうだが実際に弱かったと、
俺は心のメモに書き留めておいた。
「おいリオード、お前は何故こうと緊張感がない」
たしなめるような口調でファウストが肩を掴む。
まぁたしなめられてるんですけどね。
暗にバカにされてるのでここで俺は弁明するとしよう。
「違うぞファウスト。敢えていつも通り振る舞う事で相手が面食らい、そこから洩れた情報を得るという高等テクニックだ」
「嘘だろ」
「嘘だ」
だって今考えたしね。
そんな、無駄極まりない言葉のキャッチボールをファウストとしていると、俺の側にフィルが寄ってきた。
「兄さん。一応あの方々はこの騒動の中心に間違いないでしょうし、おふざけはここまでにされたほうがよろしいのでは?」
呆れるでもなく、蔑むでもなく、ただ普通の表情でそう言った。
まあ最もな発言である。
それでいて真面目に且つ、俺にどうにかしろよ……という他力本願でもある。
策士やでこの子。
……ってか、
「あの方々?」
いや、ここにいる敵はあのウザチンピラのミネストローネ君だけじゃ…………。
「………………」
「あ」
もう一人居たわ。
「おぉっとぉ!! 俺もすっかり忘れてたぜぇ!!」
隣を見て大袈裟なリアクションをとるミネストローネ君。
いや、隣に居るなら気付くだろうよ……とは思ったが目の前にいて気づかない俺らも同罪か。
てかミネストローネ君の存在感がパネェ。
っと、敵はこいつだけじゃないんだ。
もう一人にも目を向ける必要がある。
俺はミネストローネから見て右に立っている者へ視線を送った。
「…………………」
「いや、何か喋れよ」
沈黙に耐え切れず突っ込んでしまった。
そんな俺を誰も責めないで欲しい。
この無口な青年……いや、これは少年だな。
身長は恐らく百七十もない。
そして歳は俺らとあまり変わらないだろう。
目を隠す前髪と何も話さない事からクールというよりは根暗だという、あくまで俺の勝手な印象を持った。
「ミネストローネ君、この子の名前を教えてくれ」
「いやリオード、いくら何でもそんな簡単な──」
「こいつはカルロ・スリングだぁ!」
「──って言うんかい!!」
俺の言葉を否定しかけたシンだったがそれは思わぬところから破られた。
ミネストローネ君グッジョブ!
「そういう問題じゃないと思う」
少し離れた所からルゥがボソッとツッコミを入れる。
「リオードお前は黙ってろ」
俺の行動を見かねたであろうファウストが間に割って入ってくる。
特に邪魔する気もないので俺は黙って後ろに下がった。
「幾つか聞かせてもらう。まず、この黒ずくめ集団を率いてるのはお前達か?」
そう言ったファウストの指差した先には拘束されている奴らがいた。
「あぁ、そうだぁ」
何故か満足気に胸を張るミネストローネ君。
「そうか、なら次の質問だ。お前達の目的は?」
おっと、核心に迫ったな。
こればかりは俺も奴の言動に集中する。
言わずもがなロアーツとの一件があるからだ。
「目的……だとぉ?」
そう言ったミネストローネ君の細めが更に細く、鋭くなった。
何かに怒っているような……ピリピリとした空気が伝わってくる。
そしてそんな空気を放っているミネストローネ君は忌々しそうに口を開いた。
「俺の……いや、俺らの目的はなぁ!! お前ら魔術師全員に復讐することだぁ!!!」
「魔術師への復讐……?」
眉を潜めながらファウストは質問とも独り言ともとれるような口調で呟いた。
流石にこの発言には俺も驚いた。
目的がアッサリわかった事も含めてだが、魔術師への復讐という言葉が出るとは思わなかったからだ。
「何故魔術師に恨みを持つ?」
直ぐに冷静さを取り戻したファウストは次の質問へ移る。
「そんなの理由がありすぎて答えられねぇなぁ!! まあ、お前ら魔術師の行いが俺らの人生を奪った……って事だけは確かってのだけは教えてやるよぉ!!」
先程のどこか抜けたような雰囲気から一転、ミネストローネ君の殺意ともとれる怒気が一気に吹き荒れる。
「喋りすぎだよミネトーネ」
その時まだ聞いたことのない声色が俺の鼓膜を刺激した。
ミネストローネ君の連れのカルロとかいう奴だ。
やはり見た目相応というか、まだ声変わりしきっていない感じがする。
「僕達の今の目的はこの未来ある魔術学園を壊滅させることだ。
余計な事は話さなくていい」
淡々と物騒な発言を……。
「壊滅だと!? させると思うかよ」
それに対抗するようにファウストが更に一歩前に出る。
「何とでも好きに言いなよ。僕達はここを潰す」
「おっとぉ! 珍しくやる気じゃんカルロォ!!」
ファウストの言葉に静かな反抗の意志を見せる海崎。
そしてそれに触発されるかのように吠えるミネストローネ君。
三者とも言うまでもなくやる気満々だ。
「どうしますか?」
こちらは至って冷静なフィルちゃんです。
それ以外は慣れない展開に唖然としているといったところか。
「ん~……まぁファウスト一人でも何とかなるでしょ。俺らはその間に避難でもすればいいんじゃないか?」
「なるほど……かしこまりました」
そう言ってフィルは俺の斜め後ろに下がった。
何この遥か昔に流行ったらしい良き妻みたいな作法は。
三歩下がって支えます的な?
なんて余裕をかましていた俺だが、次の瞬間には顔色が変わることになる。
ロアーツが変身した時と同じ、USBメモリのような物が海崎の手に握られていたからだ。
「兄さん!」
「わかってる!!」
それだけでフィルと俺のやり取りは終わった。
前に一度見ているためアレはヤバい……と本能が告げていた。
後の事を考えると面倒くさいのだが人命に関わるため致し方ない。
もちろんフィルの命が最優先事項である。
「ファウスト!」
「あ? なん……」
何かを言いかけたファウストだったが、途中で真剣な表情へと変わっていた。
ただ名前を呼んだだけだったが、ちゃんと伝わったらしい。
これでファウストは大丈夫だろう。
残る問題は後はシン達をどうするか……だ。
あいつらの処理を手伝ってもらうか、逃がすか、はたまた一緒に逃げるかなんだが……
正直三つ目は無理な気がする。
ならばどうするべきか……。
そんなまとまりきらない俺の思考は中断されることとなる。
ミネストローネ君も同じようにアレを取り出したから。
しかも視線は確実に俺に向いている。
「後で詳しく聞くからな」
視線はカルロからそらさずにファウストは戦闘態勢に入っていた。
その右手にはいつの間になく剣が握られている。
刃だけでなく柄も鍔も純白に輝くその剣はどこか神々しさを感じさせる。
これがファウストのMWか……とついつい見とれてしまっていた。
だがそうしてる場合ではない。
面倒くさい事に俺も標的みたいだからだ。
「さぁて……行くぜぇ!!」
まず先にミネストローネ君が腰に付けていた装飾ベルトにUSBを差し込む。
そしてカルロも同様に無言でベルトに差し込む。
一瞬眩い光が発生し、それが治るとやはり二人の姿は変わっていた。
カルロは全身金属と思わしき銀色ボディに包まれており、背が小さい事を除けばかなりカッコいいと思う。
一方ミネストローネ君は黄色をベースにした黒茶の斑模様が至る所に散りばめられており、顔は豹のようなマスクを被っているように見える。
豹人間ですねわかります。
そしてさっきは感じなかった凄まじい程の魔力。
「おいおい、どういうことだ……」
わかるよファウスト、俺もそう思ったから。
そして後ろの奴らは最早驚いて声も出ないようだ。
「だりぃ……」
これからの事を考えた俺は現実逃避の如く他人事のように呟いた。




