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バカと天才は"神"一重  作者: 抹茶
復讐の仮面編
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第21話

 


 侵入者集団を早々に片付けたミラは一人の男と対峙していた。


 見た目は二十代後半くらい。

 白のTシャツに黒のジーンズといったシンプルな格好をしている。

 ただ、長く伸ばした髪と髭が少しばかりだらしなさを与えていた。


「えっと……ここは関係者以外立ち入り禁止なんだが」


 的確……とは言い難いが、とりあえずミラはその言葉を最初に口にした。


「なら俺は関係者だな」


 見た目通りと言うべきか見た目に反してと言うべきか、低めのトーンで男は返事をした。


「それはこいつらのって意味か?」


 そう言うミラの示す先は倒れている黒ずくめの侵入者達。

 ミラの攻撃が余程辛かったのか誰もピクリとも動かない。


「まぁ、そうだな」


 そう肯定したにしては倒れている者達を気にかける様子もない。


(何だこいつは。魔力自体は感じられないが妙に嫌な気配がしやがる)


 表情こそ変えないまでもミラはいつでも行動に起こせるような状態だった。


「お前、ガキのくせに凄いな。流石魔術学園といったところか」


 文的には褒めているのだろうが、ミラは決してそうは感じなかった。


(顔からはそんな感じしないけどな)


「やはり俺らが出てきて正解だったな」


「?」


 ミラは男の言葉に違和感を持った。


「俺″ら″……だと?」


「あぁ、俺らだ」


 ミラの問いに男は簡潔に返す。


(まだ他にもいるってのかよ。クソッ、リューネを一人にしたのは間違いだったか)


 ミラの顔に動揺の色が見える。

 リューネを一人で行かせたのは黒ずくめの集団の実力を見抜いていたからであって、この男のような者が他にもいるのは完全に予想外だった。


 別にリューネの実力を過小評価しているわけではない。


 学園五位という序列に位置する彼女の実力は普通の魔術師でも敵わない程。

 しかし相手の力が読めない上に他にもいるとなるとこれはまた別問題なのである。


(援護しねぇと……)


 ミラの頭は今それで埋め尽くされていた。


「行かせると思うか?」


「!?」


 まるでミラの思考を呼んだかのように男はそう言った。


「別にお前らガキどもに恨みは無いが……そこ若い芽を潰させてもらう」


 淡々と話しているが男の目は鋭く、纏う雰囲気も先ほどとは打って変わって恐ろしいものだった。


(何だ、一体何の話をしてるんだ)


 ミラは男の発言を不審に思い銃をその手に握る。

 それと同時に男の右手にはあるものが握られていた。

 それはリオードがロアーツと戦った時に彼が使用していたUSBメモリのようなものだった。


「何だそれは」


「復讐の為の道具さ」


(復讐?)


 ミラの疑問を他所に男はそのメモリらしき機械を自身が身につけていた装飾されたベルトに差し込んだ。


(何だありゃ……)


 機械を差し込んだ瞬間にベルトが目も眩むようなまばゆい光を放つ。

 それと同時にミラが感じたものがあった。


「これは……魔力!?」


 男から迸るのは紛れもない魔力。

 それも並大抵のものではない。


(どういうことだ、さっきまで魔力なんて微塵も感じなかったぞ)


 動揺するミラを他所に男が放つ光は一層強さを増し、やがて徐々に弱まっていく。

 そして光が治ったあとミラが目にしたのは、黒光りする甲冑に包まれた男の姿だった。

 まるで重戦士のような出で立ち。見ただけでかなりの強度を誇るであろう甲冑が体の全てを覆う。

 額の兜には月を思わせるような三日月の装飾、顔も鋼のそれで覆われており細く鋭く光る眼球が隙間から覗く。


 そして腰には一本の刀。


「何だ……こりゃあ……」


 唖然とするミラに対し男は意気揚々と口を開く。


「力が溢れてくる……。そして抑えきれぬ昂りがっ!!」


 さっきの物静かなイメージからはかけ離れて凶暴で力強い男。

 腰の刀を抜き面越しにもわかる高らかな笑みを浮かべた。


「俺の名はアビス・ユークリッド。いざ、参る!!」


 刀を抜き、上段の構えで距離を一瞬にして詰めてくるアビスに対しミラはそれを黒銃で受け止める。

 互いの力が拮抗し、鍔迫り合いの状態で硬直する。

 まあミラの場合は銃なので鍔という表現は当てはまらないが。


 鈍い金属音が少しばかり流れた後、二人は後ろに跳び適度な距離をとった。

 そこからミラはすぐ様魔力で生成した銃弾を六発放つ。


「何のこれしき!」


 アビスは気合と共に刀を振り全てを弾いた。


「拙者の愛刀飛丸(とびまる)にかかればそんなもの塵に等しいでござる」


 刀を水平に構えながらアビスは意気揚々と言い放った。

 表情もミラの前に現れた時に比べてどこか楽しそうに見えないこともない。


 それに対しミラは若干冷めたような面持ちである。


(何だコイツ、さっきまでと性格が違うじゃねえか。拙者とかいつの時代だ)


 目の前のアビスの変わりように唖然としている……と言った方が正しいだろうか。

 銃を下げただアビスを見るだけ。

 しかしそんな小休止も束の間、

 アビスが再び地面を強く蹴った。


「ハァッ!!」


「っ!」


 唐竹、右の逆袈裟、左の袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、突き。

 様々な方向からミラを襲う銀の刃。

 しかしミラは全てを見切り、紙一重でかわしていく。

 そして最後の突きだけは自身の持っている銃身で弾き返す。


「むぅっ!」


 刀を弾かれ一瞬無防備となった胴にミラは照準を定める。


「【ディビジョン】」


 小さく言い放ち引き金を引く。

 銃口から放たれたのはミラの顔ほどのサイズの魔力弾。

 それが弾丸の速さでアビスに向かって飛ぶ。


「何のこれしき!!」


 気合と共に刀を振り降ろそうとする。

 ……が、


「甘い」


「ぬ!?」


 その弾丸は目の前でいきなり二つに分裂、左右挟み撃ちの状態でアビスを直撃した。

 そこまで大きくない爆発音と共に湧き上がる爆煙がミラの視界に広がる。


「…………」


 ミラは更に行動を起こそうとはせず、ただ目の前を直視するだけだった。


「…………!」


 何かを察したようにミラはその場から跳んだ。


(確かに小手調べのつもりで撃ったけどよ)


 苦笑をその口元に浮かべ、またいつでも発砲できるように再度銃を構える。


 予想通りか、それともあるいは。

 晴れた煙から現れたアビスの姿は無傷、爆発の際の汚れが所々についているくらいだった。


 先程のミラが放った遠隔射撃式特殊型魔術【ディビジョン】は、魔力で作り出した攻撃を本人の意思で分裂させることのできるというものだ。


(ガードできないように側面を狙ったら、そうきたか)


 自身の攻撃から現状までを分析しながらミラは素直に感心していた。


 アビスの両肩付近に魔力で出来た刀が数本見える。

 恐らくこれでミラの攻撃を防いだのだろう。


「なるほど、刀は一本だけじゃ無いってか」


「左様、拙者の刀は限りはない」


「魔力が続く限りは……だろ?」


「それはお主も同じであろう?」


「にゃろ……」


 ミラにも少し学生らしい所があったようだ。

 アビスに指摘され一瞬しかめた顔はまるで、子供のそれであったからだ。


「魔力はかなり多い、動きも中々、頭も良く回るときたか。面倒だ」


「何か申されたかな?」


 どうやら聞こえなかったようで、アビスの頭からは疑問符が浮かんできそうであった。


「いや、さっきの続きといこうかって言ったんだよ」


 そう言いながら自身の持つ愛銃【シュバルツ】に魔力を込めるミラ。

 全身漆黒に包まれたマガジンタイプの銃がそれに応えるかのように光る。


「ふっ……面白い」


 アビスは手にしている刀【飛丸】を水平に構える。


(先手必勝!)


 ミラの人差し指が幾度か動いた。

 それに呼応するかのようにシュバルツの銃口から小さめの発砲音が三回。


 今度は弾丸ではなく、レーザーのような収縮された光が三つ……アビス目掛けて放たれた。


 アビスは咄嗟に体を動かしギリギリでその光をよける。

 少しばかり甲冑を掠ったが、その程度では傷にもならない。


 そしてそれに怯むことなく、アビスは刀を持っていない方の手をミラにかざした。


 すると約二十本ほどの魔力で出来た刀がアビスの頭上に出現した。

 もちろん刃先は全てミラに向いている。


 ミラの反応を見ることもなくアビスが腕を振り下ろすと、全ての刃がミラ目掛けて飛んで行った。


 シュバルツから放たれた弾は少し異様だった。

 というか弾と呼ぶには明らかにその定義通りの形をしていない。


 周りの空気が歪んで波打っているように見え、弾ではなく空気そのものを撃ち放っているようにも感じられた。


 加圧振動系遠隔広域射撃魔術【グラビシャ】。


 使用者の持つ魔力の干渉力を使い周りの大気に強大な圧力をかけ、まるで重力で圧し潰すかのような振動波を与える魔術。


 ここでいう干渉力とは個人の魔力が物体、空間など、事象に干渉する力の事をさす。


 そもそもに魔術師の魔力というものは似て非なるものであり、全く同じ波長、質、量の魔力は存在しない。

 そしてその魔力からは魔力量、魔力濃度、干渉力……などの個人情報が得られるといっても過言ではない。


 そしてこの干渉力が大きければ大きいほど、魔術に作用する割合は増えてくるのである。


 今、ミラが発動した【グラビシャ】は理論的に説明してしまえば空間に魔力干渉し、その密度や状態を書き換えてしまう魔術であるといえる。


 その干渉力が大きいほど規模や、圧力は増していくのである。

 そしてミラは学園屈指の実力者、魔力干渉力は生徒内では五本の指に入るだろう。


 つまりどういうことかというと……。


「ぐぅぅぅぅ…!!」


 要はとてつもない圧力が敵を襲うのである。

 アビスは刀を頭上に構え必死にのしかかる圧力に堪えようと歯を食いしばる。


 弱冠十八歳の学生はであるが十二家に名を連ねるニュート家の分家にして、その右腕とも言われるアルバート家の息子。


 敵のその姿を見ても甘さは見せない。

 むしろそこで見せてしまえば命取りだ。

 後で情報を聞き出すため、口が利けるのであればそれで良し。


 そう判断してこその一撃だった。


 何も無いはずの空間からギシギシと歪む音がする。

 押し潰されまいとアビスの魔力が更に上昇していく。


 二人の魔力のぶつかり合いはアビスの意地とミラのプライドが形を成しているかのようにも見えた。


 そして刹那、二人の巻き込む程の大爆発へと変わり辺りを灼熱の炎が襲った。




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