第16話
うだるような暑さと眩しすぎる日光が嫌というほど夏を感じさせる。
こんな日は外になんて出たくない。
家でクーラーの冷風を浴びつつのんびりとミルクティーでも飲んで日を過ごしたいものだ。
一つ言わせて貰うとすればミルクティーも俺の好みだ。
しかしそんな日に、このクソ暑い日に!俺は外出しなければならない。
正式には俺ら……であるが。
俺らというのは何もフィルと二人だけというわけではない。
ミストレア学園に通う全生徒、全教師が登園する出校日というやつである。
なんでも生徒達の健康状態とかを確かめるためだとか。
俺としては行きたくないのだが、そこは優等生であるフィルに引っ張られる勢いなのだから行かなくてはならない。
今すぐ学校を破壊して残りの休みを修繕にあてれば出校しなくていいのではと思うのだが、流石に前科者にはなりたくない。
それならば一瞬でバックレる!という意気込みだったのだが、フィルが一枚上手だった。
逃げようとした俺の首にとこぞのお店で使うような鎖付きの首輪を嵌めやがったのである。
「フィルちゃ~ん。そろそろこれ外してくんねーかな?」
これとはもちろん首輪の事である。
歩くたびに擦れて痛いんだこれが。
「ダメです。これを外したら兄さんは逃げるじゃないですか」
「うん、そうなんだけ……ってイタタッ!! フィルちゃんこれキツくなったよ!?」
「あぁ、これは込める魔力量によって締め付けの強さを変えられるんです」
そんなもの兄に嵌めるなよ!!
いくら兄ちゃんがSとMどっちでもいけるからってこんな道中でやったらみんなに見られるじゃん!!
気持ちいいじゃん!!!
「なら問題ないですよね?」
「あ、うん確かにね」
しまった!
フィルちゃんには俺の心が丸見えなのか!!
仕方ないのでフィルの気が済むまで引きずられる事にした俺だった。
言うまでもなく学校まで引きずられ、言うまでもなく行く行く人々に変な目で見られた俺でもあった。
フィルと別れた俺は自分の教室の前で立ち止まる。
数週間ぶりだろうか。
約三ヶ月学んだこの教室へと入るのは。
クラスメートは俺を含めたったの五人だが楽しく切磋琢磨してきた。
魔術に乏しい(という認識をされてるだけで実際は違う)という名目で作られたEクラス。
そんな不本意な肩書きを背負った俺たちの学園生活は順風満帆とはとても言えなかった。
しかしそれを乗り越えた俺らは固い絆で結ばれている。
……はずなのだが。
「よっ、変態」
「相変わらずの変態ですね」
「リオード君……」
「変態め」
何なんだこいつらの第一声は。
これが友人に向ける言葉なのか?
順にシン、グラン、テトラ、リリーである。
何だ久しぶりに会った俺に向かって変態の雨とは。
「だって妹に首輪嵌められて登校する奴が変態以外の何者なんだ」
「僕達だけでなく学園中の人達がそう思ったはずですよ」
「見てるこっちが恥ずかしいよ」
「変態め」
おいおい、言いたい放題だな。
「とりあえずリリー、結婚しよう」
「「「今の流れで何でそうなった!?」」」
あら、三人とも息ぴったり。
「バッ……! 何を言っている!!」
あららリリーったら顔を赤らめちゃって可愛いのう。
「ってあれリリーさん? 何でMWを構えていらっしゃるの?」
俺の目の前にはバチバチと電光が走る銃が……。
俺なんか悪いことした?
「乙女心を弄んだ罰だね」
「テトラや、そんな分析よりもわたすを助けてはくれまいか?」
「ムリ」
「うん、いい笑顔」
んじゃあシンとグランに……ってあれ?
あいつらいつの間にかいねぇな。
逃げたな!!
こうなったら探し出して……ってあれれ~?
何故か足まで凍りついてらっしゃる。
確実にフィルちゃんの仕業だよねこれ。
何でAクラスからここの会話がわかるのかな?
「言い残すことはあるか?」
おっと、リリーが痺れを切らしたな。
どうやらここが人生の岐路みたいだ。
ここは男らしく決めますかね。
「愛してる」
「死ね」
俺はこの日、体が痺れるくらいの愛を体験した。
◇
痺れる愛を経験した俺は少しだけ大人の階段を登った。
そんな俺は今、学生生活初の体験をまたしている。
それは風紀委員会に呼び出されたということだ。
「ったくこんな日に面倒かけるなよ」
俺の目の前で面倒くさそうに書類を纏めているのは風紀委員長、ミラ・アルバートだ。
何でも学園内では基本魔術の行使は禁止されているとの事だ。
もちろん授業中などの例外はあるが、今回は明らかにルール違反の範疇である。
全く普通はダメだろーに。
「いや、ダメだからな。お前罰として校内清掃一週間な」
「何でっ!?」
そんな理不尽な事があるだろうか?いや、ない!
「何で反語なんだよ」
呆れたようにため息をつくミラだが、俺の意見は正しいはずだ。
だって俺は被害者なんだからねっ!!
「何かムカつくからお前が罰」
「職権濫用だなてめー」
よし、決めた。
校内清掃の前にこいつを掃除しよう。
「まーまー、流石に冗談だってリオード」
少し離れたところで優雅にティータイムをしているのは風紀副委員長のリューネ・ブルグさん。
ここって風紀委員室ですよね?
貴女の座ってる場所だけ喫茶店みたいなんですが。
「とりあえず魔術を使ったのはリリーなんだよな?」
「はい」
「ならリリーが悪いな」
ですよね!!
「だから二人で校内清掃な?」
「姐さぁぁぁぁぁん!?」
だから何で俺が!?
俺は関係ないのに!?
ここには敵しかいないのっ!?
「それが嫌なら一週間私の奴隷でもいいぞ?」
「イヌとお呼びください」
俺は持てる体力全てを使って素早くリューネ先輩の元に跪いた。
「なら今日から一週間私の言うことは何でも聞くんだぞー?」
「Yes!your highness!! この命尽きるまでお供いたします。」
流石は姐さんだぜ!!
俺のM心をくすぐってくれる!!
「お前にはプライドとかないのか」
ミラが隣でため息をつく。
ふっ……プライド?何それそんなに大事なものなの?
「いや、もういい」
勝った……!
下剋上っていい響きだよね。
俺がリューネ先輩の前で跪いていた丁度その時、風紀委員室の扉が音をたてて開かれた。
入ってきたのは自称生徒会長のファウスト・ニュート。
「誰が自称だ」
そう突っ込むサマは立派な旅芸人レベルだが、十二家に連なるニュート家の長男で魔術レベルは圧倒的に高い。
と、その恋人にして許婚にして生徒会副会長のエレノア・マシーヌ先輩である。
「リオード、何しているのですか?」
貴族に仕える執事のようなリューネ先輩はまるで(良い意味で)生徒会副会長になんて見えないが、熱狂的な男女を含め生徒からの信頼がとても厚い。
「ミラの理不尽な横暴に救いを差し伸べたリューネ先輩に忠誠を誓ってるとこです」
「ごめんなさい、全然わかりません」
あれ?
何か悲しそうなものを見る目だよそれ。
「まぁバカは放っておけ。それで、何しに来たんだファウスト」
リオードはミラに見捨てられた。
リオードのぼっち耐性が七上がった。
リオードはぼっち予備軍の称号を得た。
って何も嬉しくねぇこんなステータス。
「あぁ、とりあえず今日の集会の打ち合わせに来たん──」
「集会っ!?」
ファウストの言葉を遮るように俺は叫んだ。
「ちょっと待てコラ。俺は集会があるなんて一言も聞いてないぞ」
とりあえず怒りの矛先をファウストに向ける。理由は何となくだ。
「あ? 今日集会があることは誰でも知ってるっての。てか、何で知らねえんだよ」
呆れたように侮蔑の視線を俺に送るファウスト。
あ、男に向けられると全然気持ちよくないわ。
「よし決めた。俺は帰るぞ。集会があるなんて聞いたらこんなとこにはいられねぇ」
「何を言ってるのですか……?」
俺のこの言葉には流石にエレノア先輩も驚いたようだ。
「エレノア先輩……男にはやらなきゃいけない時があるんスよ。今が正にその時なんです」
「ごめんなさい、全く理解できません。でも許しません。今回は急遽話さないといけない事もあるみたいなので」
「それでも! 俺はこの気持ちから逃げたくないんです!! あ、でも集会からは逃げます!!」
「はぁ……リューネ、何か言ってください」
諦めたのかエレノア先輩はそう言ってリューネ先輩に後を投げた。
「リオード、集会に参加しろー。これは命令な?」
「ひゃっほい! 姐さん任してくださいよ!!」
「「変わり身はえーな」」
………………。
「つか、集会って意味あるのか?」
感情論だけでは丸め込めないと判断した俺は論理的に話を進めてみることにした。
何が感情論で何が論理的とかは全く知らんがそこら辺は一切ムシだ。
「とりあえず大袈裟に言えば全員の安否の確認、そんで連絡事項とかそんなもんだが……」
「なら各クラスで出席とって連絡事項伝えたらオッケーだな」
ファウストのどこか曖昧な説明に対し俺は一気にまくしたてる。
ハイこれで論破!
って何も論破じゃないですねすみません。
「だから~、急遽話さなきゃいけないことがあるって言っただろー? それは大事な話なんだぞー」
横からリューネ先輩の正論が突き刺さる。
くっ……こんな時に緊急の話なんぞ……。
「つか、その話ってそんなに大事な事なんスか?」
これは最もな意見だと思う。
それほどまでに緊急の事態なら何かしら耳に入っている可能性が高いはずだが……。
「一応はまだ機密なんだが、一週間前に起こった無差別通り魔事件の事だな」
わーお。
耳に入るどころか遭遇してますわ。
当事者パーリナイッスわ。
しかしその驚きを微塵にも出さないポーカーフェイス。マジでプライスレス。
「んでそんな事件が起きてるからその為に理事長のありがたーいお話があるの」
気だるそうにそう言ってドカッと椅子に座るファウストは絶対生徒会長のそれじゃない。
っとそれより珍しいワードが出たな。
「理事長が出てくんの?」
そう、理事長である。
ここの理事長は滅多に学園に姿を現さないことで有名だ。
かくいう俺は一度ベルさんと一緒に呼ばれたことがある。
断じて俺のせいではない。
「そうだぞー。しかも理事長って三虎家の当主でもあるから色々情報は持ってるんじゃねーか?」
「ハァッ!? 三虎家っ!?」
リューネ先輩のこの言葉には流石の俺もビビった。
あの理事長が三虎家当主ぅぅぅぅぅ!?
何それ聞いてないんですけど。
「逆に知らないお前にビックリだわ」
ミラが呆れたようにため息をつく。
てか、さっきからため息しかついてないよこの人。
いやそれにしても、まさか理事長が三虎家だったなんて。
てっきり俺は怒ったら怖いオッサンかと……。
「逃げたら十中八九呼び出しですのでやめといた方がいいのでは?」
「みたいッスね」
エレノア先輩が俺の肩に手を置くと俺はがっくり項垂れた。
いや、マジ逃げたら殺されそうだわ。




