表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バカと天才は"神"一重  作者: 抹茶
復讐の仮面編
77/88

第15話





 時が……いや、世界が止まった。

 比喩表現をするならこれが一番的確だった。

 結界の外からでも嫌という程わかる猛威が一瞬にして消えたからだ。


 静寂が訪れた。


 無がこの場に現れた。


「え……?」


 そして止まっていた時は動き出した。

 最初に声を放ったのはルゥ。

 たった一文字のその言葉に何が起こったの?という疑問があるのがわかった。


「止まっ……た?」


 直後にシアが恐る恐る口を開いた。

 こちらも多くの疑問と信じられない……という驚愕を残して。


「ふぅ……」


 俺は小さく息を吐いた。

 ロアーツの魔力は全くといっていいほど感じられず、当の本人も今は地面に伏している状態だ。

 完全に魔力を使い果たしたようだな。


「一体……どうなった?」


 ルゥが俺の顔を覗き込む。


「多分最後の結界が破られると同時に魔力が尽きたんだろうな。マジでギリギリだったわ」


 当たり障りのない説明をして俺は再度息を吐いた。


「なるほど……」


 一応納得してくれたようだ。

 ルゥは倒れているロアーツに視線を移していた。

 フィルは黙ったままその場から動かない。


「流石リオードさんですね!」


 何故だかわからないがシアが目を輝かせている。


「いや、それを防いだのはフィルの結界によるものが大きい。よくやったな?」


 論点をフィルに持って行き優しく頭を撫でる。


「あ、はい……」

「?」


 フィルにしては珍しく煮え切らない……というような様子だった。

 どこか調子が悪いのだろうか?

 考えられるのは魔力の減耗による疲労とか……?


「そっか、やっぱりフィルは凄いね!」

「うんうん、お疲れ様」


 尊敬の眼差しと感嘆の眼差しをそれぞれ向けるシアとルゥ。


「えぇ、ありがとうございます」


 そう言って一々丁寧にお辞儀をするフィルだが、やはり表情はどこか晴れないままだった。

 俺はもう一度ロアーツの様子を確認する。

 少し遠目だが死んではいないしこれ以上立ち上がる事は今は不可能だ。


 となれば……


「よし、帰るか」

「えぇっ!?」


 俺の提案にシアがいち早く反応する。


「この人置いていくんですか!?」

「だってもう奴は魔力は残ってないし。野次馬も集まり始めたしそろそろ警務隊も来るだろうしこれ以上の面倒ごとは御免被るよ」


 被害が収まった途端ワラワラと出てくるから困るぜ。

 まぁそれも人の性なんだろうけどさ。


「確かに、あれこれ聞かれるのはめんどくさい」


 ルゥも俺と同じ意見のようだ。


「だろっ? というわけで退散しようか。行くぞフィル」

「……あ、ハイ」


 考え事でもしていたのかフィルの反応はワンテンポ遅れていた。

 さっきから何なんだろうか。


「んじゃ、俺らはこれで」

「あ、ハイ! お疲れ様でした」

「またね」


 手を振る二人に俺も笑顔で手を振り返しその場を後にする。

 色々と疑問は残るが一々俺らが考えることではない。

 それよりもまずやることがあるな。

 シアとルゥの姿が見えなくなったところを見計らい、ポケットからバンドツールを取り出して素早く番号を入力する。

 無機質なコール音が数回続いた後電話が繋がった。


『もしもし?』


 聞こえて来るのは少し高いが男とわかるくらいの声。


「あ、オレオレ」

『えっと昔流行ったっていう詐欺ですか?』

「バーカ、名前が出てるだろうが」


 まー振ったのは俺なんですが。


『ハイハイ……で、何の用?』


 軽いおふざけを済ませた後電話の主は本題に入るよう促す。


「あー、ミストレアの中心部にあるショッピングモールから半径五キロにある防犯カメラの映像を消去しておいて」


 周りに誰もいないのを確認して電話の向こう側の相手にそう伝える。


『……何かあった?』


 すぐに状況を察したのか声のトーンが少し変わった。


「まーな。わけは今度話すから頼むわ」

『りょーかい。二分で終わらせるよ』

「さっすが。んじゃ、よろしく頼むねルッ君」


 俺は素直に感嘆する。

 あの範囲内のカメラのデータを二分で弄れるやつはそうはいないからな。


『あいよー。んじゃね』

「あぁ」


 そのやり取りを最後に俺は通話を終了した。


「今のはアルマーノさんですか?」


 俺がバンドツールをポケットにしまうのを確認したからかフィルが口を開いた。


「あぁ、成り行きとはいえ俺らの映像を残すわけにはいかないからな」


 俺は苦笑を浮かべて返事をする。

 ルッ君というのはまぁ俺の知り合いだ。

 かくかくしかじかしかくいむーヴで知り合ったのだ。


「大丈夫……なのですか?」


 フィルが心配そうな眼差しをこちらに向ける。

 それは自分ではなく俺だけに心配を向ける眼差し。

 しかもどこか違和感を覚えるような眼差しだった。

 俺はフィルの頭の上に優しく手を乗せる。


「大丈夫だろう。恐らくクソジジイにはバレるかもしれないがそれだけなら問題ない。まぁあの場を放っておくことも出来なかったわけだから仕方ないさ」


 そう言ってやると少し安心したように笑みを見せてくれた。

 ……が、それも束の間。

 急に険しい顔になって今度は睨んできた。


「兄さん?」

「は、はいっ!?」


 北極部に裸で放り込まれたような寒気を感じて思わず声が上ずってしまう。

 しかしフィルの言葉を待てども彼女は口を開かずただ俺を睨むばかり。


「な、なんすか?」


 恐る恐ーる尋ねてみる。


「とぼけないでくださいっ!!」

「うおうっ!!」


 いきなり声を荒げたのでまたしても声が上ずってしまう俺。

 フィルはそれを見て一度ため息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「その左腕……折れてますよね?」

「!」


 驚いたという気持ちとやはり……という気持ちと半々だった。

 一緒に暮らしているだけあり、フィルの事は手に取るようによくわかる。

 それはフィル側からにしても同じことが言える。

 しかしその反面気づかれないように振舞えていた……という自覚もある。

 実際シアとルゥには気取られていないのだから。


「やっぱり気づかれてたか」


 俺が選択した言葉はそれだった。


「当たり前です。兄さんの事ですから」


 不満気な感情を隠そうとせずそう言うと右手に嵌めていた指輪を外し俺の胸元あたりに向けた。

 すると淡い光が俺を包み込み儚く散っていった。

 それと同時に俺の左腕の違和感は嘘のように消えていた。


「すまん」


 どうしようもない気持ちに苛まれ俺はその言葉を発した。


「いえ、これくらいわけありません」

「だからって別に全身にかけなくても良かったんだが」

「私がそうしたかったんです。つべこべ言わないで下さい」

「……ハイ」


 めっさこえぇぇぇ!!

 反論したら首が飛びそうだわ。


「ハァ……」


 俺の心を知ってか知らずか……フィルは大きくため息をついた。


「何でアレを使ったんですか?」


 今度は優しく諭すような言い方だった。


「あの場を切り抜けるにはアレしかないと思った。あんな膨大な魔力はそう防げるものじゃねえ」

「それなら私が解放すれば済むはずです。実際に私は解放するつもりでした」

「しかし、お前が解放したら後々面倒な事に……」

「兄さんの方が厄介でしょう。アレは兄さんにしか出来ないものなのですから」

「ぐ……」


 悉く正論で返され言葉に詰まってしまう。

 確かにあの場では冷静さが少し欠けていたかもしれない。

 だからといって後悔は微塵もないが。

 いや、今はしてるか。

 淡々と話してはいるが、悲しそうな表情を浮かべているフィルを見て俺はそう思っていた。


「アレを使うということは常に代償が必要になります。今回は左腕が折れただけで済みましたがこれからはどうなるかわかりません。だから──」


 と、ここで言葉を区切って俺を見る。

 俺は無意識の内に背筋を正していた。

 何故かそうしなけらばならないような気がして。


「もう使わないでください。今度何かあったら私が何とかしますから」


 懇願だった。

 目元に涙を浮かべ祈るように言う。

 それを見た俺は無性に情けなくなった。

 同い年とはいえ本来なら護られるべきこいつが、こんなになっている。

 その原因を作ったのは護るべき立場の俺。

 兄という立場上仕方ないと思っているのだが、フィルのこんな表情を見たらついついそう思ってしまう。

 まだ俺もガキということだな。


「わかった」


 今回は素直に謝罪しておく。

 悲しませた事への詫びとして。


「またこんな事があったらフィルに任せて鼻ほじってるわ」

「刺しますよ?」


 とても物騒な言葉を真顔で言い切りやがった。

 もう少しで漏らすところだったってのは墓場まで持って行こう。


「兄さん」

「ん?」


 まだ何かあったか?という台詞は飲み込み、それだけを口にした。


「助けていただいてありがとうございました。今の私があるのは兄さんのおかげです」


 フィルは笑顔でそう言って深々とお辞儀をした。

 普通ならさっきの事のお礼を述べているのだと思うかもしれない。

 だが俺にはわかっていた。

 それだけじゃないと。

 それはずっと前から言われてきた俺たちだけにしかわからないやり取り。

 俺たち二人だけの真実。

 それが語られるのはまだ先の事。

 俺は笑顔で頷いた。

 そして心の中では謝っていた。

 この笑顔を護る為ならこの先何度でも俺はこの能力(ちから)を使う。

 例え俺がどうなろうとも。







 光あるところに影がある。

 太陽の光が降り注ぐなら必ずどこかに影ができる。

 そして人もまた同じようで陽の目を見る人間と陰でひっそりと生きる人間がいる。


 リオードを光とするならこの男は影である。

 眼帯をした謎の少年、リュウ。

 今日は一人で廃工場に座っていた。

 彼が見つめる先には手のひらサイズの電子端末。


「ロアーツがやられた……ねぇ」


 意外そうな表情を浮かべてその文字を眺めていた。

 丁度その時端末から着信を告げる音が流れた。

 リュウは一瞬めんどくさそうな顔をしたが、すぐに電話に出た。


「俺だ。あぁ……わかった。他のメンバーには伝えとく」


 時間にして僅か十秒にも満たない内に通話は終了した。

 そして直ぐさま端末を弄り再度耳に当てた。


「あぁ、オレオレ。んだよ、詐欺じゃねぇっての」


 どこかで聞いたようなやり取りでその通話は始まった。


「ロアーツがドジりやがった。あ? まあやられちまったもんは仕方ねえだろ。厄介もんが消えたんだから問題児はいねえから心配すんなって」


 ロアーツの件で話すリュウ。

 その表情には動揺などは微塵も感じない。

 あくまで平常に淡々と現状を語る。


「んで、前の計画は一週間後に変更になった。あぁ、さっき伝えられたよ。他の奴らにも回してくれ」


 手持ち無沙汰になったのか、リュウはポケットからジッポを取り出す。

 そしてそれをかなりのスピードで指と指の間を通していく。

 恐ろしく器用な手先だった。


「とりあえず一週間経つまではなりを潜めとけってのも伝えてくれ。あぁ……んじゃな」


 その言葉を最後に通話は終了した。

 電子端末をジャケットのポケットにしまい、代わりに取り出したのはタバコ。

 当たり前のように火をつけ宙に煙を吐き出す。


「一週間後まで何しようかな」


 そう言ったリュウが見せた表情は年相応のそれだった。


「リオードは今何してんのかな……」


 不意に口から出たその言葉に返事をする者などいるはずもなく、自身が吐き出した煙と共に消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ