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バカと天才は"神"一重  作者: 抹茶
復讐の仮面編
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第14話



 俺が放った三枚の魔符はまるで意志を持ったかのように高く舞い上がる。


「行け」


 そう小さく呟くとまるで鳥のように魔符が動き始める。


 これは【式神】とも呼ばれる陰陽術に伝わる技の一種である。


 札に自身の霊力を込め、意のままに操る術。


 俺が今使っているのはそのアレンジ版でただ不規則に動くだけのもの。


「む……」


 何かあると勘ぐったのかロアーツは自分に向かってくる式神を見て足を止める。


 しかし式神はただ奴の周りを動くだけで特にアクションを起こすことはない。


 それに痺れを切らしたのか奴は風でナイフを形成し式神に向かって投擲する。


「かかったな」


 俺は多分今悪どい笑みを浮かべているだろう。


 何故なら式神にはオマケがあるからだ。


 三本の風のナイフが同時に式神を切り裂いた瞬間、決して小規模とはいえない爆発が起きる。


 実は投げた三枚の式神に起爆札をくっつけておいたのだ。


 黒煙がロアーツを包み込むがそれは俺にとっても邪魔になるため、神楽を一閃風で煙を吹き飛ばす。


 流石にあの距離からの爆発は堪えたのか少しフラついている。


「フィル!」

「ハイ、兄さん!」


 俺の声に返事をしたフィルは既に魔術を発動していた。


 フィルの周りに浮かび上がる六つの刻印。


 そしてそこからロアーツに向かって放たれる大量の水流。


 水流系魔術【ハイドロリアス】


 大量の水を一点に凝縮しそれを砲撃として放つ遠距離砲撃型の魔術。


 一切の遠慮、加減、容赦なく放たれたハイドロリアス。


 ランクにするとA級に分類されるこの魔術は一つの水流だけで人骨程度なら簡単に折ってしまう。


 それが六つ……しかも放ったのは十五歳ながらA級魔術をいとも簡単に使いこなす我が妹。


 太い水流が六つ、無防備のロアーツをまるで大蛇が獲物を食らうかの如く飲み込んでいった。


「これで終わりだ」


 それを確認した俺は懐に仕込んでいた魔符……攻撃用の残り三枚をロアーツに向かって飛ばした。


 俺の手を離れた魔符は一定の高さまでくると、まるで一枚の札だったかのように綺麗に重なり合った。


 その刹那、魔符からパチパチという放電音と青白い閃光が起き始めた。


 これはフィルのハイドロリアスを利用した俺にできる渾身の一撃。


 水は電気を通す。しかしそれは真水の場合に限り例外となる。


 つまり不純物を含んでいれば水は電気を通すということだ。


 基本雷や炎などの自然系統やの魔術には”それ”本来の物質以外は含まれない。


 この場合で言えばフィルが放った水流には水の成分のみで不純物は含まれない。


 しかしフィルはしっかりと俺の意思を汲み取り、気流操作の魔術も併用させ少しばかりの塵や埃といった不純物を混ぜて使用した。


 それにより今のフィルのハイドロリアスは”電気をよく通す”ということになる。


 そして今から俺が放とうとしているのは小規模ではあるが、対象に雷を落とす【落雷】の魔符。


 そのまま使えば相手を麻痺させ体の自由を奪うくらいだろう。


 しかし今の状態で、しかも三枚同時発動となれば百パーセントロアーツを殺してしまう。


 しかし奴もただではやられてくれないだろう。


 きっと防御くらいはしてくるはずだ。


 元々ロアーツの盾を破り、矛を突き立てることを想定してこのプランを練った。


 オーバーキルになったのであればそれはそれだ。


 俺は特に迷うこともせず魔符を投げ上げた時からずっと挙げていた左手を勢いよく振り下ろした。


 それと同時に魔符が轟音と共に凄まじい程の威力を持った雷を落とした。


 水がなだれ込む中に雷の一撃。


「くっ!」


 ほとばしる閃光と耳をつんざくような音にフィルは顔をしかめる。


 俺は片目だけを瞑ってしっかりとその様子を見届ける。


『さて、どうなるでしょうか……』

「さぁな。これで無事ならもうやべーよ。正直殺るつもりで放ったからな」

『容赦ないですね』


 雪と軽口を叩き合いながら俺は決して目をそらさなかった。


 何が起こっても対処できるように。


 最悪の場合フィルだけでも守れるように。


 水流と落雷が巻き起こした凄まじい衝撃と閃光は徐々に収まっていった。


 どうだ……。


 俺はフィルの前に立ち神楽を構える。


「ヴぅぅ……」


 煙の中から姿を現したのはボロボロになったロアーツの姿だった。


 既にフラフラで意識も朦朧としている。


 まだ息がある上に立っていられるのには驚いたが、恐らくもう立っているのがやっとだろう。


「ふぅ〜……」


 肩の力を抜き安堵の息を吐く。


「やりましたね兄さん!」

「あぁ」


 フィルにそう笑って返す。


 しかし強敵だった。


 場所の関係もあるが、フィルと二人がかりでもここまでやらないと勝てないってのは正直驚きだ。


「フィル、リオードさん!!」


 随分と懐かしいような声が聞こえてきたので、俺とフィルは揃って振り返る。


 そこには息を切らしながらこっちへと走ってくるシアとルゥの姿があった。


 あ、やべ!


 俺は慌てて神楽を消す。


「二人とも大丈夫!?」


 心配そうな顔で話しかけてくるシア。


 どうやらばれてないみたいだ。


 クラスメイトには見せちゃったけど、まぁあれは例外ってことで。


「大丈夫ですよ。それよりも随分と遅かったですね?」


 俺を庇うようにフィルが一歩前に出る。


「あ、そうだ!」


 いつもは表情があまり豊かではないルゥが珍しく慌てたように顔を変えた。


「あ、そうなんですよ! 警務隊を呼んだ後すぐに向かおうとしたら、何やらヘンテコな人達に襲われたんです!!」


 続いてシアが間髪入れずに話す。といっても何が何やらわからないのだが。


「あのね、こっちから少し離れた所に顔を覆うマスクに全身黒タイツみたいなコスチュームを着た人達がたくさんいて、それを退治してたら遅くなった」


 ルゥのフォローでようやく納得がいった。


「マスクに黒タイツ……そしてロアーツ……マジで変態仮面集団かよ」


 フラフラしながらも未だに立っているロアーツを一瞥して俺は呟いた。


 それは突然だった。


 突如、急に、いきなり、起こった。


 多分いち早く気づいたのは俺。


 膨大な魔力が体を震わせるのを感じた。


 慌ててその場所に視線を送る。


 するとそこにはロアーツの姿が。


 奴の体から………いや、身につけているベルトから溢れんばかりの魔力が風となって吹き荒れていた。


「兄さん! あれは!?」

「わからん……いや、待てよ?」


 フィルにそう言ってあることに気がついた。


 ロアーツに最早意識はない。


 立ったまま気絶している……という感じだ。


 つまり、魔力が暴走している。


 制御が効かなくなったのか?


 しかしそれよりもヤバイ事がある。


 確かに台風並みの暴風が吹いているのもあれだが、問題視すべき点はそれ以上の魔力が凝縮されているということ。


 このままじゃ……


「爆発する」

「え!?」

「えぇっ!?」

「!」


 俺の言葉に三者三様の表情を見せてくれる。


 皆さん本当に違いがあってよろしい。


 ってそんな場合じゃねぇ!!


「あのレベルの魔力が爆発したらここら一体軽く吹き飛ぶぞ!!」


 もちろん俺らも巻き込まれてあっぱー……だ。


「ど、どどどどどどうすればいいんですか!?」


 シアよ、慌てたい気持ちはわかるが少し落ち着け。


「ヤバイね」


 ルゥ、君はもう少し表情を豊かに……。本当にそう思ってるのかわからん。


「ふぅ……今日も空が青いなー」

「何気に兄さんが一番おかしいですよね」


 よっ、フィルちゃんナイスツッコミ。


 流石は俺の妹だぜ。


「兄さんったらそんな」


 両手を頬にあてて悶え始めるフィル。

 というか何故考えてることがわかった。


「兄さんの妹ですから」

「あ、さよけ」


 もう何も言うまい。


 俺のプライバシーは既に無いものだ。


「ってそんな事してる場合じゃ無いですよ!!」


 シアの懇願にもとれるような叫びでオレたち……いや、俺は現実へと意識を戻した。


 ロアーツに溜まっていた魔力は既に暴発寸前だった。


「フィル、シア、ルゥ! 緊急事態だ! フォーメーションハーレム!!」

「かしこまりました」

「え?」

「どういうこと?」


 順に俺、フィル、シア、ルゥである。


 フィルだけは理解しているようだ。


「要約すると兄さんの周りに集まればよろしいのです」

「それがどういう……あぁ、なるほど」


 フィルの説明に訝しげな表情だったシアはどうやら察したようで、ルゥを引っ張って俺の側に来た。


「どういうことですか?」


 ルゥは未だに首を傾げている。


「男性一人に対して女性が三人。つまりハーレム。要はリオードくんにくっつけってこと」

「そうだな、出来ればそれが望ましいが近くによるだけで構わん」


 シアの説明に補足をつける。


 美少女が三人も俺にくっつくと思うとふんがふんがふーんするわ。


(えーっと……リオードさんどうしたんですか?)

(気にしないでください。一日に何回かあぁなるので)


 おい、フィルさんや……しっかりと聞こえてるんだが……。


「ま、まぁ気にすんな。今はそれどころじゃないし早く集まってくれ」


 自分で振っておいて話題を反らすと防御用の魔符六枚全てを取り出す。


 まずは。


「フィル、ロアーツの周りに結界を張ってくれ」

「はい」


 フィルは俺の頼みに小さく頷くとしなやかに細い両腕を伸ばした。


 それに呼応するかのようにロアーツの半径二メートル周辺に光の層が発生する。


 そしてその光の外側に二回、三回と重ねるように同じ光が覆った。


 結界の複合魔術。


 かなり高度な技術が必要になるのだが、フィルはあっさりとやってのけた。


「さんきゅ」

「いえ」


 短いやり取りをかわし今度は俺が握っていた魔符を投げる。


 魔符は緩やかに飛んでいきロアーツの足元に六角形の軌道で張り付いた。


「【六柱結界(ろくちゅうけっかい)】」


 フィルが創った結界を補強するように張った防御壁。


 強度はかなりのものになったはずだ。


「さて、これでもってくれよ」


 俺は祈るようにそう言って暴発寸前のロアーツを見た。


 ふいに……先程まで台風の如く吹き荒れていた風がピタリと止んだ。


 音も全くといっていいほど無く、一瞬世界が止まったかのような錯覚を起こす。


 終わった……わけではない。


 これこそ正に"嵐の前の静けさ"なのである。


「くる」


 三人がこんな近くにいるのにも関わらず、言った俺にしか聞こえないような声量だった。


 その直後、嵐が起こった。


 普段聴き慣れている風の音ではない……何と現していいのかわからない、そんな魔力をもった暴風が一瞬にして拡散した。


「ガァァァァァァ!!!」


 痛みか歓喜か、人とは思えない声で叫ぶロアーツ。


「あ!」


 フィルが驚愕の表情を見せる。


 それもそのはず……三重に張ったはずの結界の二層が瞬く間に破壊された。


 残るは一層と俺の六柱結界。


 フィルは慌てて魔力を結界に込めて強化する。


 だが、それでもこの手の結界は魔力を送っても強度は微々たる程にしか変化しない。


 そしてフィルが創り上げた最後の結界にヒビが入る。


「兄……さん……」


 フィルの途切れ途切れの声が耳に入る。


 予想通りもう持たないみたいだ。


「クソッ!」


 風はさっきよりは弱まってきてはいるがそれでもここを吹き飛ばすのには充分だ。


「リオードさん……」

「ヤバいよ……」


 シアとルゥの苦しそうな声が聞こえる。


 フィルが盟廷に入学して初めて仲良くなった二人。


 そして、この二人は俺の友にもなってくれた。


「兄さん……」


 フィルの消え入りそうな声。


 同じに産まれ俺の妹になってくれた。


 こんな俺を慕ってくれる自慢で一番大切な存在。


 それをここで失うなんて選択は……。


「あるわけない……か」


 俺は自嘲気味に笑った。


 簡単な事だ。


 俺がやればいい。


 落ちこぼれだとかそんなものは関係ない。


 柄じゃないがこいつらを守りたい。


 俺は左手を胸に当てた。


 気のせいか少し暖かい、久しぶりに感じるこの感覚。


 とても心地いい。


 さて、終わらせよう。


 この言葉を紡いで。


 俺は目を瞑り意識をロアーツに向けた。


 そして誰にも気付かれないくらいの声を落とした。


seal.(シール)



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