第12話
奴が発した魔力が凝縮され、着けているベルトへと集まっていく。
すると魔力が光の粒子へと変わり、奴の体を包むようにまとわりつく。
「なんだってんだ!!」
初めて見る光景に俺はその場に立ち尽くすしか出来ない。
そんな俺を尻目に奴を纏う粒子は収まっていく。
「……」
それは理解不能のモノだった。
先程とは明らかに質の違うシャツとコートに身を包んでいる。
所々に金属的な装甲を施している。
そして何よりも奇怪なのは奴の顔だ。
いや、奴の顔といっては語弊がある。
顔に装着している仮面。
顔に着けた、というよりは張り付いてるといった表現が正しいか。
目と口の部分だけ三日月のように裂けた仮面。
その身につけているものがワイシャツにコートであることと、仮面が一風変わっていることをふまえれば違うのかもしれないが、その前の行動は完璧におとぎ話の仮面ヒーローだ。
まぁ、ロアーツから感じるのは正義じゃなくて完全なる悪意だけど。
「ハッハァァ!! 力が漲ってくるぜぇぇぇぇ!!」
最早最初の陰気臭い雰囲気はどこへやら……今はもう一端の変質者ですわ。
しかしそれだけで侮ってはならないと、奴が放つおぞましい狂気が告げている。
「どうなってんだよ一体」
思わず苛立ちが俺の口から洩れる。
切り裂きジャックの再来と謳われた男。ヴァーナが全力をあげても捕まえきれなかった殺人鬼。
そいつがどういうわけか魔力を纏って俺の前に現れた。
「警務が来るまでの時間稼ぎのつもりだったのにな……」
それどころか俺がどうなるかすらも未知。
そこには当初のプランからかけ離れた現状に落胆しつつ、仕方ないと腹をくくった俺がいた。
某ヒーロー如く姿を変えたロアーツの力は未知数であり、わかることは何一つない。
長引かせるのは分が悪い。
ということは先手必勝!
俺は短期決戦で、あわよくば一撃で決めるべく地面を蹴った。
狙うは人体の急所の一つ、鳩尾。
打ち込もうと強く拳を握りしめた時、仮面から見えるロアーツの口元が緩んだ。
違和感を覚えたが気にせず攻撃をしようとすると、ロアーツが今度は軽く右腕を振った。
弱い風が俺の顔を撫でる。
それを感じた俺は全てのモーションを停止、一瞬でその場から飛びのいた。
着地した俺の体に無数の裂傷がついた。
「兄さん!!」
フィルが叫んだのが聞こえたが、そんなことを気にしている場合ではない。
今のは間違いなく魔術……しかも、
「自然系統刃切魔術、【鎌鼬】」
誰に聞かせるでもなく俺は呟いた。
刃と化した風を飛ばす魔術。
鎌鼬とは昔から妖怪の一種であることも、風が通り過ぎたと思ったら人体が切れていたなどという自然現象とも言われている。
ロアーツはやはり魔術を、しかも古来の東国式の魔術を使った。
魔術は世界各国で次々と発明され、大体は公表されている。
しかし古来の術式となると、公表はされていても使えるものは少ない。
何で奴が…。
俺は所々に走った傷を見て内心悪態をつく。
基本俺は魔術を使えないので、遠隔系の魔術とは相性が悪い。
というかまぁ、魔術師との勝負では全てにおいて相性は悪いんだけど。
「いいねいいねぇ……」
俺が複雑な表情を浮かべているからなのか、傷を何か思ったのか愉快という顔をしてやがる。
「徐々に切り刻んでやるよ……」
仮面越しでも笑っているのが丸わかりだ。
クソが……と思ったが奴が魔術を使えることは変えようがない。
「今日の手持ちは少ないんだがな」
コートの内側に備えてある魔符の数を数えつつ、それをどう工夫して使うか頭を働かせた。
「ヒャッハァ!!」
狂っているロアーツは俺が考える暇もなく迫ってきた。
しかしこれは好都合、
遠距離から放たれる鎌鼬では対処が限られてくるが、近寄ってくれるのなら俺の間合いだ。
「ハァァァ!!」
首元目掛けて向かってくる抜き手をかわし、すかさず上段蹴りを叩き込む。
ロアーツはそれを両腕で受ける。
当たるタイミングに合わせて横に飛びやがったか。
しかし今は無防備なので追撃を試みる。
もちろん鎌鼬を警戒して。
「ハッハァ!!」
俺の予想通りロアーツはさっきのように腕を振るい、鎌鼬を起こした。
無数の風の刃が俺に迫り俺を切り裂こうとする刹那、俺は縮地で奴の真後ろへ跳ぶ。
奴の目には俺が急に消えたように見えたはず。
後は首に手刀を打ち込むだけ。
しかしその判断は間違いだった。
「【スパイラルエッジ】」
ロアーツがそう言って指を鳴らした途端、凄まじい風が奴の体を中心に巻き起こった。
やべっ。
俺の直感がそう告げ、防衛本能を刺激した。
『雪!!』
『ハイッ!』
咄嗟に名前を呼んだが雪はしっかりと反応してくれた。
神楽の姿で俺の目の前に現れ、一人でに開いて局面を露わにする。
開いた瞬間に風が神楽を中心に収束し、風の結界を形成した。
神楽による【風玉結界】が完成した瞬間、ロアーツの放った暴風の刃が風玉結界を切りつける。
瞬間的に創ったモノだがそこはさすが武神というべきか、刃は俺に到達することなく消え去った。
『危なかったですね、リオくん』
「あぁ、助かったぜ雪」
そう言葉を交わして神楽は俺の手に収まる。
「兄さん、大丈夫ですか?」
フィルが心配そうに俺の元に駆け寄ってくる。
「何とかな。だがこのままじゃ埒があかねぇ」
そう苦々しく吐き捨てる。
「兄さん、私も戦います。」
愚痴を溢しただけだがフィルは全てを理解していた。
俺にそう告げて隣に立ち、その華奢な身体に魔力を纏った。




