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バカと天才は"神"一重  作者: 抹茶
復讐の仮面編
73/88

第11話




「キャアァァァァァァ!!!」


 甲高い悲鳴が轟いた。


「「「!?」」」


 それは昼食を食べ終え、ティータイムを楽しんでいる俺達の耳にもはっきりと届いた。


「兄さん! 今のは」

「あぁ、悲鳴だな」


 フィルにそう返して俺は立ち上がる。

 柵から身を乗り出し声が聞こえた方に目を凝らす。


 ここから約一キロ程離れた所で人が何人も倒れているのと、その真ん中で立っている黒コートの男がいるのが見えた。


「何があったんですか!?」

「ここからじゃ詳しくはわからん……が、多分通り魔かな? 男が周りの人達を襲っている」


 シアの問いかけに俺は見た通りの事を話す。

 それを聞いた二人は唖然としていた。

 まぁ無理もない。こんな事が起こるなんてのは普通じゃない。


 少し驚いてはいるが、それでも平然としているフィルは流石というべきか。


「とりあえず俺はあっちに向かう! 既にやられてるかもしれないが、シアとルゥは警務隊に連絡してくれ! フィル、お前は着いてこい!」

「かしこまりました!」


 次々と放たれる俺の言葉にいち早く反応したのはフィル。

 後の返事を聞くことなく俺は柵を飛び越えた。それにフィルが続く。


 三階という普通なら危ない高さだが特に問題はない。

 フィルは重力軽減の魔術を使いフワリ……と音もなく着地。

 俺は別にこのくらいの高さなら全く問題ない。

 着地するや否や地面を蹴り、渦中へと全速力で向かう。

 フィルも加速の術を使って俺の横を走る。


「兄さん、一体何が起こってるのでしょうか?」

「わからん。たださすがに放っておくわけにはいかないだろ」


 フルスピードで向かいながらそんな会話をする。


 やはりさっきの妙な気配は……。


 なんて、今更思ってみても後の祭りだ。


 とりあえず早く向かわなくては。


 雑念を振り払い、より一層強く地面を蹴った。

 俺がハッキリとその光景を捉えた時には既に状況は最悪と言っていい程だった。


「あ、あぁ……」

「ぐぅぅ……」

「痛ぇよぉ……」


 倒れている人の数は更に増えていた。

 傷口を抑えて呻く人々もいるが、殆どはもう動かなかった。

 辺りにおびただしく流れる真っ赤な血と、鼻をつく鉄の匂い。


 これにはさすがのフィルも顔をしかめた。

 シアとルゥが居なくて良かったかもな、と少し不謹慎な事まで思わせてしまう。


 そして尚も恐怖に動けなくなった人を襲うコートの男。


 紛れもなく奴が主犯だ。


 奴はすぐ近くにいる少女を手にかけようとしている。


 その右手に携えているナイフで。


 俺はコートの中に仕込んでいた魔符を一枚取り出して素早く投擲する。


 微かな魔力を帯びたその魔符は狙い通り少女と男の間へ飛んでいき、金属音と共に奴のナイフを弾いた。


 男は予想外の事にその場から飛び退く。が、すぐに気づいたように俺を見る。


「フィル、今のうちにあの子を逃がせ!」

「はい!」


 俺の指示に素直に頷いたフィルは急いで女の子の元に駆け寄る。


「立てますか?」

「は、はい…」


 フィルの差し出した手に捕まり何とか立ち上がる少女。

 それを見たコートの男は無言でフィル達に斬りかかる。


「いやっ!」


 少女が短い悲鳴をあげた。

 だが、そのナイフは二人に届くことはない。


「おい、人の妹に手出してんじゃねえよ」


 勿論俺がそんな事をさせるはずがなく、ナイフを握っている奴の手を掴む事で動きを止める。


「誰だお前は……」

「そっちこそ誰だ。こんな街中で派手にやらかしてくれやがって」


 男の問いに問いで返すと、無言でその場から離れた。

 身長は俺より高い、痩せ型、金髪、それにハットを被っている。


 ハットに隠れてよく見えないが、心なしか楽しんでいるように見えた。


 厄介だな。


 俺は心の中で悪態をつく。


 ただの通り魔なら簡単に抑えられるが、こいつは違うみたいだ。

 街中で暴れるわけにはいかないが。

 最悪、フィルの力も借りるかもしれないな。


 あれこれと策を張り巡らせながら、警務隊が来るまでの時間を稼ごうと俺は身構えた。


「……るよ」

「あ?」


 声がくぐもっているせいで何を言っているのか聞き取れない。


 しかし肩を震わせ何やら堪えている感じがするということは、泣いている?それとも怒っている?


「一体なん──」

「殺してやるよぉぉぉぉぉぉ!!」


 男は聞き返そうとした俺の言葉を遮り、地の底から湧き上がってくるような嫌な声で叫び出す。


 不覚にもちょっとビビった。

 何こいつキモいんだけど。


「邪魔をしてくれたお前には特別残酷な死をくれてやるよぉぉぉぉ!!」


 楽しくて仕方ないというような叫びをあげた男はかなりのスピードで俺に迫ってきた。


「兄さん!!」


 いつの間にか遠くにいたフィルが声をあげる。

 俺は男の振り抜くナイフを体を後ろに反らしてよける。

 中々速い一撃だが俺にとってはさして動揺する程ではない。


「ぬ?」


 よけられたことに違和感を感じる男を他所に、俺は背後へと回り込み無防備な背中へ蹴りを入れる。


「ぐっ!」


 鈍い音と低いうめき声をあげた男はそのまま飛ばされて行く。


 何だ、意外と弱いな。


 初撃を見る限り一般人で無いことはわかるが、そこまで脅威と言う程でもない。


 魔力を使う気配が無かったからだ。


 魔術師がいるこの世では犯罪を犯す一般人など滅多にいない。


 科学が発達している上に魔術によって犯人は簡単に取り押さえられるからだ。


 反対に魔術師による犯罪は多少起こることはある。


 だがそれも警務隊の力により逃げ切れることは殆どない。


 だが、ここで起きている事は紛れもない通り魔的犯行だ。


 それを魔術も使えない奴が起こすなんて、古いの歴史上なら紛れもなく珍事件として語られるだろう。


 これだけの殺戮を犯すこいつは一体。


 俺は倒れている男に目を向ける。


 そいつはゆっくりと立ち上がった。


 被っているハットは俺の蹴りでどこかへといってしまい、奴の素顔が露わになった。


「っ!!」


 その顔を見た俺は思わず目を見開いた。


 浮浪者を思わせる荒れた長い金髪、人を射殺すような目つき、獰猛さを現すような鋭い犬歯の如き八重歯。


 こいつは……


「ケーシィ・ロアーツ」


 ケーシィ・ロアーツ。

 数年前のヴァーナ大陸という他国で五十人の売春婦を殺害したとされるジャック・ザ・リッパー、その再来と謳われた大量殺人鬼。


 老若男女問わず八十人以上が被害にあっており、被害者全てが鋭利な刃物で身体中を切り刻まれている。


 魔術師でない事と顔がわれているにも関わらず、未だに捕まっていない


 国際指名手配犯である。


 なんでこんな奴がミストレアにいるんだ。


 俺が唖然としている前で奴は下卑た笑みを浮かべている。


「お前は違うな……」


 奴の口から気味の悪い声で言葉が発せられる。


「今まで殺してきたやつとは違う。簡単に切られない、血を流さない」


 さっきのように吠えるような口調ではなく、淡々と喋る様は違和感を覚える。


「奴らといる時までは我慢してたんだけどよ……こんなに獲物がいるとこに来たら我慢できなくなってくる……そこで今までとは違うお前がやってきた」


 ロアーツは独り言のように勝手に言葉を並べていく。

 そしてだんだん禍々しくなっていく奴の雰囲気。


「お前はただでは殺さない……足を、手を切って動けなくした後に内臓を抉り取ってやる……最後に首をかっ切れば……楽しみだなぁぁぁぁ!!!」


 それは爆発した。

 凄まじいまでの狂気。そして、


「これは魔力……?」


 今日一番の驚きだった。

 ロアーツは魔術師では無かったはずだ。

 現にさっきまで魔力は微量も感じなかった。

 魔術師ではないという情報が間違いだったというのか……。


 俺が驚愕している様を見て何が面白かったのかロアーツは笑みを浮かべ、コートの内側に手を入れた。


 そこから取り出されたのは握れるサイズの薄いUSBらしき物体。


 次にロアーツは着ていたコートを脱ぎ捨てた。


 俺の目を引いたのは腰に着けているベルト。


 最早ベルトとは呼べる物ではない。


 明らかに機械仕掛けで、真ん中にバックルではなく何かを入れるような窪みがある。


「さて、見せてくれよ!! お前の血を! 肉を! 死を!!」


 そう高らかに叫んで、ロアーツは持っていたUSBをベルトに差し込んだ。



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