第10話
公開日時を間違えていました。
世の中後悔をしなかった人などいない。
そんな言葉を言ったのは誰だっただろう。いや、俺が今思ったのだが。
というか人は後悔する生き物だと正に今思っているところだ。
どういうことかと言うと……めっさ気まずいです。
フィルに誘われたため俺は夏休みに入って初のお出かけをしてるのだが、メンバーはフィル、シア、ルゥの三人。
普段の俺ならハーレムだぜわっふぉーい!となるのだが、今日ばかりは違う。
フィルは言わずもがな流石は妹……と胸を張って言える美少女。
シアはまるで人形とも思える整った顔立ち。
ルゥもクールな雰囲気を醸し出しているがとても可愛らしい。
野郎どもの視線が痛いわけですよはい。
地味にいこうと濃紺のパンツ、茶色のシャツに上から黒のジャケットというコーディネートをしたものだから逆に目立つ目立つ。
だってこの子ら華やかだもん。
そんな俺に気づくはずもなく三人はこれからの事で非常に盛り上がっております。
前に行ったショッピングモールとは別の大型ショッピングモールにスカイレールを乗り継いで行く……というプランを実行している。
何故ただ座っているだけなのにこんな思いをしなければいけないのだ。
世の中理不尽すぎる!
もういっそのことこのスカイレール落としてやろうかな。
「リオードさん? どうかしたんですか?」
様子のおかしい俺に気づいたのかシアが顔を覗き込む。
「いや、何でもないよ」
慌てて笑顔を作る。
「もしかして乗り物酔いするタイプ?」
お次はルゥによる問いかけ。
「いや、三半規管は強い方だと思うぜ?」
生まれてこの方乗り物に酔ったことはないしな。
「きっとくだらない事でも考えていたのでしょうね」
「ちょ、それ酷い」
まぁくだらないと言えばくだらないことなのだけど。
けどまぁ、もう少しほっとかれていたらマジでこのスカイレールをぶっ壊していたな。
なんて事を思っている俺は社交性というか、人間性が捻じ曲がっているのかもしれない。
さて、スカイレールに揺られて家からかなーり離れたショッピングモールへと来た俺らなのだが。
一つだけ言わせてくれ。
どうして女の子ってのはこんなにも買い物が長いのだろうか。
一人、つまりはフィルの時だけでもそう思うのだから三人もいるとそれはもう半端ない。
時間がかかるだけならまだいい。
だが服を試着するたびに俺に見せてくるのはやめてくれ。
俺のファッションの知識じゃ簡単ななことしか言えない。
それはつまり「よく似合うよ」を連発する事になるのだ。
「兄さん、これはどうですか?」
「よく似合ってるよ」
「リオードさん、これは?」
「うん、似合う」
「リオードくん、どう?」
「お似合いだ」
自分の語彙力の無さが悲しくなる今日この頃。
しかし、そんな人並み以下の言葉で満足しているのか、嬉しそうにどんどん試着する三人。
まぁ、嘘は言っていないのだから仕方ない。
三人が選ぶ洋服はどれも似合っていたのだから。
しかし少しずつではあるが、ギャラリーが増えてきたな。
お客として訪れた女性はもちろん、付き添いや関係のない男性まで見始める始末。
付き添いの男性は後で怒られるんじゃねえか?
「ちょっと何見とれてんのよ!」
ホラ、言わんこっちゃない。
同情はしない。
むしろ修羅場万歳いやっふぉーい!な俺なので聴いてて楽しい。
最低だとは自覚している。
しかしまぁあれだ。
こうやって色んな服を見てて思ったことがある。
ルゥは中々胸がデカイ気がする。
フィルはまぁ……あれだとして、シアはそこそこだ。
胸元が際どい服を着られると目のやり場に困る……なんて事はなく、興奮する!
仕方ないよね!
なんて思っていたら心なしか寒くなってきたな。
冷房の効きすぎじゃねえか?
「って俺の足が凍ってきてるぅぅぅぅぅぅ!!」
寒いと感じてるのは俺だけではない、ただ凍ってきてるのは俺だけだ。
「全く兄さんはイヤラシイですね……」
どこかからそんな声が聞こえてきたような気がした。
「いや、マジすいませ……アーーーッ!!」
◇
「すみません兄さん」
「すみませんリオードさん」
「ごめんねリオードくん」
「いや、大丈夫」
そろそろ昼食をとろうと、ショッピングモールの三階にあるオープンカフェに来た俺ら。
何故謝られているかというと、さっき俺が凍らされたからというわけではない。
まぁ、フィルに「申し訳ございません! ですが、兄さんが悪いのです」と少し頬を染めた顔でそう言われたがもう終わった事である。
単に俺が三人が買った荷物を持ってここまで来たからである。
フィルと買い物に行く時はいつもそうしていたので、無意識にやってしまったわ。
まぁ三人だとそれなりに、しかも個人で中々の量だったが日頃から鍛えてる俺には苦にもならない。
「ま、まぁそんな事より注文しようぜ?」
何かこのまま謝り続けられたら俺が悪い気になってしまう。
なので注文を促して無理矢理話題をそらした。
「二人とも、兄さんがそうおっしゃるから選びましょ?」
俺の意思を汲み取ったフィルが更に注文を促す。
それが功をそうしたのか二人はメニュー表を開いて吟味し始めた。
切り替えはやっ!
まぁ、引きずられても困るのでいいんですが。
そう思い俺もメニュー表を開く。
どうやらオススメはパスタ系らしい。
その中から俺はカルボナーラを選んだ。
他の三人を見るとどうやらそっちも決まったらしい。
俺は三人に尋ね、手元のパネルで注文を済ませる。
ちなみにフィルがミートソーススパゲティとレモンティー、シアとルゥは揃ってミックスサンドで飲み物はそれぞれアイスティーとミルクティー。
俺はオーダーしたついでにそのまま金額を電子マネーで振り込む。
これで一々お会計でレジに並ぶことはなくなった。
それに気づいたフィルが目配せしてきたが、微笑を浮かべて返事をすると顔を赤くして黙ってしまった。
その時だった。
「ん?」
何やら外に一瞬妙な気配を感じた気がした。
「リオードさん?」
シアがそれに気づき俺を見たが、何でもない……と言ったら納得してくれたのかフィル達とお喋りを始めた。
多分気のせいだろうな。
そう自分を納得させて、俺も三人の会話に加わった。
◇
リオードが何かを感じ取り、それを気のせいだと判断した正にその時。
周辺の町並みには少し変化があった。
昼過ぎということもあってショッピングモールだけではなく、その周辺にも人は多く見受けられる。
それもそのはず、ここはショッピングモール以外にも様々なお店が連ねているのだから。
だが、変化というのはそこではない。
それがここにやって来ていたのだ。
それと表現するのはどこか変かもしれないが、その男はここにきていた。
まるで出会うためにここを選んだかのように。
夏という季節にそぐわないコートは昔なら人目をひいたかもしれない。
しかし今ではそれは珍しいことではなく、比較的よく見る光景といっていいだろう。
だからこそ、男に目を向ける者は殆どいなかった。
殆ど……ということは少なからず視線を送るものもいる、ということだ。
その視線は奇異の視線。
服装ではなくその男の雰囲気に問題があった。
フラフラと、まるでどこかで一杯ひっかけてきたような足取り。
ハットから見える長めの金髪は少々くすんでおり、お世辞にもどこかの兄妹のように綺麗だ……とはいえない。
それでいて身長は百八十を超えており、それに見合わずかなり痩せている。
栄養失調というほどではないが、痩せ型と呼ぶにしては些か肉が足りない。
そして口元には三日月の如く君の悪い笑みが張り付いている。
主にその笑みのせいですれ違う人々は無駄に距離を開けている。
今日のこの付近は歩行者天国となっており、距離をあけてすれ違っても特に問題は生じない。
だがそれでもそのような姿で道のど真ん中を闊歩すれば自然と人々は左右に偏ってしまう。
男はそれを気にすることはない。
何故なら今男の頭にある思考はただ一つだからだ。
どす黒く、湧き上がるその欲求は世の中では悪とされるもの。
今、その男の元に一人の子供が近づいてきた。
別に用があるわけではない。
はしゃいで親から距離をとったがための接近だった。
慌てて子供の後を追う母親らしき人物。
だがそれよりも早く子供は男の近くへとやってきた。
それを見た男は笑った。
ここから始めよう……と思った。
自身を満たすために。
彼は欲していた。
血を……肉を……骨を……
その刹那、辺りに鮮血が舞った。




