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バカと天才は"神"一重  作者: 抹茶
復讐の仮面編
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第6話


「あるぇ……」


 俺は時間を確認してそう言葉を漏らした。

 フィルがトイレに行ってからそろそろ二十分になろうとしている。


 いくら何でも遅くねーか?

 もしやおっきいほうか?

 ビッグな方なのか?


 なんて思ったが、それを口に出したら俺の命が危うそうなのでやめておいた。

 あいつは俺を慕ってくれている筈なのだが、時々俺を兄として扱わない時がある。


 というか友達だとしても酷い……と思う時がある。

 まぁあいつも十五になったのだから、心境の変化くらいはあるか。


 いや、むしろ子供の頃からあんな感じだったような。

 勉強もスポーツも、そして魔術も学校でトップクラスのフィル。

 優等生ならではの悩みでもあるのだろうか。


 いやしかし!

 だからと言ってお兄ちゃんに対しても礼儀というものは……。


「フィルちゃん……君は一体どこで育ち方を間違えたんだ」


 割とガチな感じで落ち込み頭を抱えながら俺はその場に蹲る。


「おい、大丈夫か?」


 ふと頭の上から声が降ってきた。

 この場にいたのは俺だけなので、必然的に俺が声をかけられたことになる。

 ゆっくりと顔をあげると、知らない男が心配そうな面持ちで俺を覗き込んでいた。


「あぁ、大丈夫だ」


 見られていたことが妙に気恥ずかしく、俺は笑って立ち上がって男をまじまじと見る。


 正直異様だった。


 歳は俺とあまり変わらない。

 身長も俺より少し低いくらい。


 黒のTシャツに紺のジーンズといったシンプルな服装。

 恐らく元々が細身なのだろうが、黒色のTシャツなのでよりいっそう細さを感じる。


 前髪だけかなり長く、横に至っては刈り込んでいる。

 襟足もそこまで長くはない。

 切れ長の鋭い目付きには男らしさを感じる。


 そして何より気になるのは、その長い前髪に隠れているが左目に眼帯をしているということだった。


「そっか……ならいいんだ」


 男はニカッ……という表現が似合う顔で笑い、ジーンズのポケットからタバコを取り出した。

 灰色のパッケージに小さく悪魔の絵が描かれており、英語でBlack Devilと表記されていた。


 こいつタバコ吸うのか。


「ん? あぁ、そっか」


 俺がジッと見ている事に何を思ったのかもう一度ポケットに手を突っ込む。

 取り出しのは黒い正方形の機械らしい物体。

 そのてっぺんにあるボタンを押し地面に置く。


 これは小型の空気清浄機。

 どういった原理なのかはよくわからんが、その小さな容量に半径二メートル前後の空気をクリーンにしてくれるという品。


「マナーは大切だよな」


 独り言のように……と言っても実際独り言だが、男は満足したように笑いいつの間にか手にしていたジッポで火をつけた。


「フゥ……」


 男は旨そうに煙を吐く。

 小型空気清浄機の効力は抜群でこんなに近くにいるのに、匂いはまったくしなかった。

 科学力様々だな。


「なぁ」

「ん?」


 俺が声をかけると、愛嬌を感じさせる笑みでこちらへ振り向く。


「あんた歳いくつ?」


 別にタバコを吸っていたからというわけではないが、気になったので尋ねてみた。


「今年の六月に十六になったぜ?」


 タメだった。


「なら同い年だな。そんな若い頃からタバコ吸ってると早死にするぜ?」


 一応法律では飲酒、喫煙と共に二十歳未満は禁止されている。

 しかし未成年の飲酒、喫煙は珍しくないので別に咎めることはしない。


「おっ、タメか。まぁ大丈夫大丈夫、俺は百二十までは生きるから」


 何を根拠にかは知らないがアッサリとそう言うのでそれ以上追求はしなかった。


「ってかこんな所で何してんの?」

「妹を待ってんのよ」

「おっ奇遇だな、俺も人待ち」


 これは何だろう……。

 今の境遇が同じだから……というわけではないのだが何故か、何かしら、俺はこの男に勝手ながらシンパシーを感じていた。


 そして見た時から気になっていた事があった。


「なぁ、何で眼帯してるの?」


 左眼につけている眼帯の事だ。

 今では医療技術も発達しているため、ものもらいや結膜炎程度なら病院で処方される薬ですぐに治ってしまうからだ。


「あぁこれ? ちょっと小さい頃に事故ってな」


 そう言って苦笑する男。

 心なしか周りの空気も若干変わったような気がした。


 あれ?これもしかして地雷踏んだ?

 俺ってKYなの?

 自分から言い出したため、とても気まずい雰囲気になってしまった。


 ど、どどどどうしよう!!


「あ、兄さーん!」


 そんな時タイミングよくフィルの声がした。

 さすがフィルちゃん!

 やっぱり君は俺の天使だぜ!!


 そんな大袈裟かもしれない事を思いながら振り向くと、何故か隣には見知らぬ女の子が。


「リュウ!」


 そう言った女の子の視線は、俺の後ろに向いていた。


「リュウ?」

「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はリュウってんだ。改めてよろしくな?」

「こりゃあ丁寧にどうも。俺はリオードだ。こちらこそよろしくお願いします。これお近づきの印に……」

「お、何々?」

「さっき店で買い物した時の領収書です」

「お、さんきゅー……っていらねーよっ!!」


 お手本のようなノリツッコミと共に、リュウと名乗った男は領収書を地面に叩きつけた。

 このやり取りだけでこいつが只者じゃないとわかる。


 主に変な意味で。

 そんな事を思っていると、あることに気がついた。


「え、というかお前が待ってるってこの子の事?」

「そーだけど?」


 しれっと当たり前のように答えやがった。


「あ、どうも。私、ユーナです。さっきフィルちゃんとは知り合いました。よろしく、お兄さん?」


 元気のいい挨拶と無邪気な笑み。

 人懐っこい性格なのだろう。


「あぁ、こちらこそ。ただお兄さんはやめてくれ」


 一応、自己主張は忘れないのが俺。


「兄さん、実は──」


 フィルからこれまでに起きたことを聞いて、俺は珍しいこともあるものだと思った。


「へぇ、そういう経緯があったのね~」


 だって俺とリュウが知り合ったとほぼ同時刻にフィルとユーナは出会っているのだ。


 意外とこの国は狭いな。

 まぁ、それよりも……。


「フィルをナンパしようとしたやつを葬ってくる」


 勿論骨も残さずにな!


「いや待てって! というか第一どうやって見つけるつもりだっての!!」

「大丈夫だ、俺の全力を持ってそいつらの居所を突き止める」

「そういう問題じゃねぇよ!!」


 後ろから羽交い締めにされては仕方がない。

 そんな趣味はないが、渋々諦めておこう。


「うふふ……。リオードってシスコンなんだね」


 俺達の会話を聞いていたユーナは片手で口を抑えて笑っていた。

 会って間もない女子にシスコンと言われるとは……。


「シスコンで何が悪い! 兄が妹を愛しているということの何がおかしいってんだ!!」


 まぁ、開き直りますげとね。


「に、兄さん! そ、そんな堂々と……」


 あれ? フィルが壊れた。


「どうやら妹の方はブラコンらしいな」

「みたいだね」


 少し離れた所でコソコソと話しているが、俺の鍛え上げた聴覚はその内容をハッキリと捉えていた。


 シバいてやろうかな。


「んじゃ、連れとも合流できたし俺らはそろそろ行くわ」


 俺の計画虚しく、リュウは逃亡を試みた。


「もうお帰りになられるのですか?」


 少し……いや、かなり残念そうにフィルが言った。


 それは珍しい光景だった。

 フィルは自ら話しかけるタイプでもないし、また昨日今日知り合ったばかりの人との別れを惜しむ事など初見である。


「うん、ゴメンね? 今からまた用事があるからさ」


 こちらも寂しそうにこれからの予定を告げた。


「なら仕方ないですね」

「うん、今度近いうちに遊ぼうよ!」

「まぁ! それは是非お願いいたします!」


 まぁ、妹に友達が出来るのはこちらとしても嬉しいから俺は黙って見ている。


「んじゃ、こっちもお近づきの印に……」


 リュウはそう言って俺とフィルの眼前に右手を差し出した。

 そして手首をクルッと回すと、その手にはいつの間にか白と赤、二輪のバラが握られていた。


「は?」

「え?」


 俺らがビックリしている間にリュウはバラを手渡してユーナと共に去って行った。


 また会おーぜ、という言葉を残して。



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