第7話
「何か随分アッサリと去って行きましたね」
「全くだ」
取り残された俺達はポカーンと二人がいってしまう後ろ姿を見つめるしかなかった。
「リュウさん……でしたっけ? どこか兄さんと似ている感じがしましたね?」
「確かに。話してて俺も思ったぜ」
「ユーナは私とは正反対という感じがしましたけど」
例えて言うならどこかの屋敷のお嬢様と、外で走り回る活発な少女だな……と思ったが口には出さなかった。
「でも、とても話しやすくてすぐに打ち解けてしまいました。あれがユーナの長所なのかもしれません」
嬉しそうに語るフィルに対していつもより饒舌だなと思った。
まぁそれほど気が合ったのかもしれないが。
まぁ、その面で言うなら俺もそうだ。
初めて……それも会ってから十分かそこらの奴にしてはよく話したと思う。
例え何かのきっかけで話すことになったとしても、リュウ以外の人とならそこまで楽しく、親近感を持つことは無かったはず……と俺は自負している。
実に面白い体験ができた。
「では、今度こそ帰りましょうか」
「あぁ、そうだな」
フィルの言葉に短く頷いて俺は一歩踏み出した。
そして何の気なしに先程貰った白いバラに目を向ける。
何も持っていなかったはずの手から現れたバラ。
魔力が感知されなかったから多分ただの手品の一種なのだろう。
そしてあの二人はノーマル……魔術を使えない一般人なのだと推測する。
それは魔術を学ぶ者にとってあまり関わることない人種だ。
そもそも同じ人間であるのにも関わらず人種と区別をつけるのはどこかおかしいような気もするが。
しかしこれは俺にとってもフィルにとっても良き出会いになったのは間違いない。
俺もフィルもそう思っているという確信を……意味のない確信を俺は勝手に持っていた。
「兄さん?」
「ん? あぁ、いや何でもないよ」
恐らく俺が思考しているのを感じたのだろう。
こちらをマジマジと見るフィルに笑ってそう返した。
いつかまた、会うことになりそうだ。
俺は心の片隅でそんな期待を抱いていた。
◇
あれから俺達が帰宅したのは午後七時を少し過ぎた頃だった。
空も黒んできている上に、誰も居ない我が部屋は真っ暗だった。
どことなく生活感のない家だな……と棚上げ的な事を思いながらドアノブに手をかける。
ピピッという小さな電子音のあと、ロックが外れる音がした。
言うまでもなく指紋認証システムである。
この防犯システムはここだけが特別だから……ということはない。
今ではどこの家庭でも導入されている。
何度目かはわからないが、新資源の発見と科学力の進歩様々だと思う。
リビングについた俺は腕時計の横に着いているボタンの一つを二回押す。
すると、少量の光と共に俺の身に纏っているものは私服から制服へと変化した。
これは以前説明したであろう機能の服飾物質交換。
登録されている衣服から好みのものを選択し、現在身に着けている服を分解し、別の服に変換するというシステム。
まぁ、言ってみれば自動着せ替えである。
着替えるのが面倒だ……という人にピッタリの代物だ。
別に俺は着替えるのがかったるいと思うほど怠惰ではない。
しかし学校から一般人もいる場所へ出かける時などは役立つものだ。
人が皆そうというわけではないのだが、魔術師に対していい感情を持たない人というのは少ならからず存在する。
そんな場所に魔術学園の制服を着ていくのは抵抗があるため、この道具を使っているわけなのである。
それは俺だけでなく魔術師なら皆そうしている。
暗黙の了解ってやつだな。
便利な世の中だが、所々で不便な面がある。
それは魔術が生み出された時点で切っても切り離せない事なのかもしれない。
「って何を染み染みと思ってんだか……」
恐らく今日の事が原因だな……と頭の中でもわかっているのだが、俺はそう呟かずにはいられなかった。
俺が物思いにふけっていると、いつの間にか部屋着に着替えてきたフィルがいた。
シンプルな黒シャツに白のショートパンツ。
何を着ても似合うなーとか思っている俺はシスコンではない。
「兄さん、ご飯にします? お風呂にします? それともわ・が・し?」
「うん、何故ご飯とデザートとで分けたのかな? てかそもそもにそれ兄妹の会話じゃないよね?」
危ない……和菓子と言われてなかった俺は確実に三番目を選んでいただろう。
そんな俺は決してシスコンではない。
「むぅ……ちゃんと答えてくださいよ」
むぅ……なんて実際に言う人がいるんだ……なんて疑問は置いておき、頬を膨らませて拗ねている妹に萌える俺は断じてシスコンではない。
「そうだな、お腹がすいたかな?」
一応答えは言っておく。
「かしこまりました。今日のメニューはトルコ風ライスの梅干添え、コーンスープの梅干添え、若鶏の蒸し焼きの梅干添え、シーザーサラダの梅干添えでよろしいですか?」
「梅干抜きで」
「かしこまりました」
おかしい……いつものフィルじゃない。
いつもならこんなボケを連発でかますことはしないはずだ。
「何かいいことでもあったか?」
ついつい聞いてしまう俺は仕方ないよね。
「いえ、別に」
「にしてはご機嫌だよね?」
「そうでしょうか? 私は夕食をお作りしますので、その間に兄さんはお風呂にでも入っていて下さい」
「そ、そうだな。んじゃあ沸かしてくるか」
「既に沸いておりますよ?」
はっや……。
うん、もう何も言うまい。
何がどうというわけではないのだが、無性に敗北感を感じた俺。
勝てる気はしないので素直に白旗を振っておく。
「それではごゆっくり」
淑女のような……優雅な一礼と笑顔でフィルはそう言った。
誰と誰の遺伝子がどう作用して、どのようにフィルだけに行き渡ったのか……、俺とは性格が違いすぎる。
なんて事を齢十六にして本気で考えてしまっている俺は枯れているのかもしれない……。




