第3話
所変わってこちらは学園内の食堂。
Eクラスの俺ら五人に加えてAクラスの四人、計九人という中々の大所帯で昼食をとっている。
俺とフィル、テトラにルゥは弁当を持参、残りは食堂のメニューから好きなものを選んできた。
「相変わらずフィルの作る弁当は美味しそうだなー」
弁当箱の蓋を開けるなりシアが中を覗き込む。
今日のメニューは梅干しの乗った白米、ハンバーグ、ポテトサラダ、人参とほうれん草の炒め物、小さくカットされたフルーツとバランスのよいものだ。
ちなみに俺も同じメニュー。
「でも、二人分の朝ごはんにお弁当作るって大変じゃない?」
そう言いながら大きめな弁当箱に入っている卵焼きをつまむテトラ。
「慣れれば苦ではありませんし、私自身お料理は好きなんです」
そう言ってニッコリ微笑むフィルは正に出来た嫁……いや、妹。
「そういや、リオードは料理とかしねーのか?」
牛丼という何ともらしいメニューのシンはそう言って俺を見た。
「そこそこだな。たまに作る時もある」
「へぇ、何か得意料理とかあったりすんのか?」
得意料理か。
「まぁ挙げるなら、サーモンのカルパッチョ」
「おぉ! 何かスゲーな!」
「牛ヒレ肉のカルパッチョ」
「お、おぉ……」
「後は……酢豚……」
「おっ、それは本格的だな」
「……のカルパッチョかな?」
「カルパッチョ!? それは違わねえかっ!?」
とまぁ俺が得意と言えるのはそれくらいかな?
「まぁ、私が家事はほぼこなしますので、兄さんがキッチンに立つことはほとんどありませんよ」
「でも前に聞いた話だと二人で部屋を借りてるのでしょう? それだと不公平じゃありませんか?」
ここでグランが発言する。
一応はここにいるメンバーには、俺とフィルが事情あって二人暮らしとは伝えてあるので問題はない。
「兄さんのお世話をさせていただくのは私の生き甲斐ですから」
満面の笑顔でそう言ったフィルに何やら寒気というか、妙な感情を抱いたのは俺だけではないだろう。
そして相変わらず何も言わずにこちらを見るリリーに気づいたのは……俺だけだろうな。
「ね、これ見て」
さっきから会話に入っていなかったルゥが、突然いじっていたバンドツールを俺らに見えるように具象化した。
少し身を乗り出して見てみると、そこには【◯◯区内の魔術研究局、原因不明の火災により崩壊!】との見出しのニュースが掲載されていた。
「これは……」
流石のリリーもこのニュースには興味を示したようだ。
「確か他の場所でも何件か起きてるよね?」
マイクウッドが更に調べようと自身のバンドツールを操作し始める。
そう、この事件は今に始まったことではない。
ここ一年前くらいから何件か同じように起きている。
共通していることは、壊滅した建物が全て魔術関連に携わっている……ということくらいだ。
「でもそれって反魔術派の仕業じゃないの?」
そうシアが言葉を洩らす。
反魔術派はその名の通り魔術を否定し、その存在の滅亡を企む巨大な組織の事だ。
魔術による文明を発達を良しとせず、科学による力を誇示している事から科学派とも呼ばれている。
俺らは科学と魔術との共存を選んだ中立派とも言うべきか、そういう派閥に含まれる。
しかし反魔術派はそれすらも認めようとはしない。
まあいつの世もそういう組織は存在する。
例えばとある国では政府を壊滅させようという過激派との紛争が続いている。
とまぁ話は反れたがそういう派閥があるということだ。だが、
「それは違うんじゃないか?」
俺はシアの意見を否定した。何故なら、
「倒壊した施設からは魔術の痕跡が発見されている。反魔術派の連中ならそんなものは残らないだろ」
つまりは、魔術師がこの事件には関与しているということになる。
「そっか~」
自身の予想が外れたことに落胆したのか、シアは少し唇を尖らせる。
誰が、そもそもに何故魔術関連の機関を襲うのか、全くの謎である。
情報という今の世の中に必要なモノが一切入ってこないこの状況では、俺らにわかることなどあるはずがなかった。
話に煮詰まっていると、タイミングがいいのか悪いのか予鈴が鳴った。
「おっともうこんな時間か」
「早く片付けて行きましょ?」
みんないそいそと食器や弁当箱やらを片付け始める。
俺もそれを見習って弁当箱を片付け席を立つ。
「あ、兄さん」
小さくも凛とした声でフィルは俺を呼んだ。
振り向いた俺はフィルのその表情から何やら真剣めいたものを感じた。
「どした?」
「あの、先程の話なのですが……」
それはさっき話していたテロ関係の事だと推測した。
「兄さんは何か情報を掴んでおいでですか?」
「いや、さすがに何も。最近は活動もしてないからな」
その答えでどうやらフィルには通じたようだ。
活動というのは俺の一応秘密事項に関わる事なので詳しくは言えないが、活動を行うことで色々な情報が入ってくる……とだけは伝えておこう。
このご時世、情報は大切なものだ。
知っていると知らないとでは大きな差が生まれるくらいに。
まぁ何も知らないんだけどね。
「何事もなければいいのですが……」
心配そうに顔を曇らせるフィル。
当然と言えば当然の反応だけどな。
「大丈夫だって」
俺はそう言ってそっとフィルの頭に手を置いた。
「狙われてるのはここじゃねえんだ。それに警務隊も動いているだろうし、時間の問題だよ」
あくまでも気休め程度にしかならないが、それだけでもフィルには充分だったのだろう。
幾分か表情が緩んでいた。
「そう……ですよね」
「あぁそうだ」
そう言って笑ってやるとようやくフィルも笑みを見せてくれた。
「さぁ戻ろう」
「あ、兄さん! もう一つ」
今度は少し慌てたような声で呼び止められた。
振り向くと、少し気恥ずかしそうな表情を浮かべこちらを見るフィルの姿がある。
「あの……申し訳ございませんが、放課後私のお買い物に付き合っていただけませんか?」
何だそんな事か。
何を言うのやらと少し構えていたが、杞憂だったようだ。
「あぁいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
さっきの事はすでに忘れてしまってるような、笑みだった。
それにつられて俺も笑い、もう一度教室へ戻ることをフィルに促して歩き始めた。




