表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀翼の飛翔  作者: fey5
第6章 学園と仲間と ―2年度―
95/142

94話 戦闘の部 団体戦 一回戦

新暦1348年 ガレリア大陸 アルゼン帝国南東部 コロムロ




「ここまでは予想通りって感じかな」



トキは個人戦1回戦が終了した後にそうまとめた。


Bブロック最後に登場したイブキ=アキミヤは短い黒髪でトキと同じくらい背が高く、細長い直刀を持った美少女だった。


いつの間にか距離を縮め、一足飛びに相手の頭に面を食らわすその動作は剣道そのもので、彼女がその道の有段者であることが容易に想像できた。


トキの見立てでは光魔法によって足の運びや剣の間合いを見えづらくしているようだった。


彼女は魔法を補助にして、歩法と剣術を活かすタイプのようだ。



Cブロックのグレン=ホオツキは火魔法の魔法使いで、アイシュタット=フォールセムを上回る火力と弾幕でカルティアのカルツ=コクハルンを圧倒した。


トキの忠告通り、開始から閃光魔法による目潰しと水の刃による遠距離攻撃を仕掛けたが、グレン=ホオツキはなんなく回避し反撃してきたのだ。


勝ってもその表情は冷めていて、長い前髪に隠れたメガネを(ズレてもいないのに)治す仕草がキザ野郎という印象をトキに与えた。


(ああいうのをいじめるのも面白そうだよな。決勝まで来てくれねーかな)


トキの見る目は美味しそうな獲物を見つけたかのようなもので、無意識に笑みを浮かべていた。



同じくCブロックのケオランは勝った、以上。



「もっと言う事あるだろう!?」


「いや、だって……不戦勝じゃん?」



そう、ケオランの初戦の相手、クロウリアのヌガン=ウォーキンは腹痛により棄権してしまったのだ。


トキは「ラッキーね。うふふ」と笑うユユを見て一服盛ったのではないかと疑惑を抱いた。


どうやるのかはわからないが、ユユならば証拠を残さずやってのけそうなところが恐ろしい。



この他に棄権者が出ることはなく、フォート=ライレリック、ヤイチ=カネヤマ、マナミ=タテイシなどの注目生徒は問題なく勝ち上がった。


フォート=ライレリックは3矢を同時に構え、直線に向かう軌道と左右から回り込むような軌道の3方向から相手を責め立てた。


おそらく風魔法により軌道修正しているのだと思うが、その精度は弓の名門と呼ばれるだけのことがある常識離れしたもので、1回戦を僅か1射で終わらせてしまったのだ。


黒い長弓を手に鼻歌を歌うフォート=ライレリックを見て、トキは強者の匂いを嗅ぎ取っていた。


(こいつ、強いな。今のも全力には程遠い。どんだけやれるんだろうな)


なかなか面白そうなやつがいるではないかと、フォート=ライレリックの戦いぶりを見てもトキの上から目線は変わらない。



ヤイチ=カネヤマはなんというか、かなり派手なヤンキー風の男だった。


サイドはバリアートでラインを入れて、トップは編み込んだコーンロウスタイルだ。


鼻と耳にはいくつもピアスをしており、目はギラギラと周囲を睨みつけていた。


そして、両手には巨大な戦鎚を2本引っさげ、相手を威嚇するかのように見下ろす態度。


今から始まるのは試合ではなく、喧嘩だといった風体だ。


およそ人が持つのは1本がせいぜいであろう重量を誇る戦鎚を軽々と振り回し、魔法も武器も相手自身も関係なしに蹂躙する様はまさに暴君と呼ぶに相応しい。


風を裂き、地を砕く。


暴力の権化といった戦いぶりであったが、トキが見る限りではなにか魔法を使っているようには見えなかった。


(タネがわからん。筋肉バカってほどの体格でもないし、どうやってあれを振り回してんだ?)


パワーと破壊力は確かにすごいが、遠距離で攻撃するなりトキならば近距離で避けるなり、要は当たらなければいいので大した相手には感じなかった。



その後のマナミ=タテイシはさらに理解不能だった。


長いボサボサの髪で顔は隠れ、某ホラー映画に登場するキャラのような彼女は試合開始と同時に両手を上げて、頭上に1m立方ほどの黒い塊を発生させた。


闇魔法かと思われたが、それは相手に向かって伸びるかのように飛んでいき、放たれる攻撃をものともせず相手の体を包み込んだのだ。


数秒後に黒い靄が消え去ると、相手は気絶しておりマナミ=タテイシの勝利が告げられた。


本来視覚的な阻害にしか役立たない不遇な属性、それが闇属性である。


だが、マナミ=タテイシの魔法はそれを否定した。


会場内が困惑と驚愕に包まれる中、トキもその魔法を解析しようとしていた。


(有り得るのは2つ。闇魔法には視覚阻害以外の作用があるってこと。光魔法に治癒や迷彩効果があるんだがら、闇魔法にあっても不思議ではない。となると精神汚染とかそんなんか?そんなイメージの魔法を作るなんて、なんとも根暗な性格してるな。もう一つはあれが闇属性の魔法ではないということ。闇属性にも派生属性はないとされてるけど、実はありましたってかんじか。物理的な特性もあるのかもな)


正解は後者。


後に本人からの告白で、闇属性の派生属性として冥属性の存在が世間に知らされた。


どういった作用を及ぼすのかまでは秘匿とされたが、それに包まれた者は死ぬとされ、マナミ=タテイシはガルツ=ルーパーの後継として死神の二つ名が与えられることになる。


ただ、冥属性は魔力消費量が途轍もなく多いため、魔力量5130というマナミ=タテイシであっても、無限に死を撒き散らかすこともできず、本人自身は非常に弱いこともあって無敵を誇るということはなかった。




アリジニステンの活躍が多く見られた個人戦の1回戦は終了し、団体戦の1回戦が始まろうとしていた。


待機のために席を立つユユにケオランが声をかける。



「頑張ってな」



短いその言葉にユユは珍しい笑顔を見せながら頷いた。


その様子に2人がどれだけ想い合っているかがよくわかった。



「個人戦で2回戦進出を決めたのはカルティアが6人、クロウリアが4人、タルムが3人、ヒッポフが9人、アリジニステンが10人か。やっぱアリジニステンとヒッポフが強いな~」



ユユが立ち去った後、そう述べたケオランの言葉は見ていた者の多くが感じたことだろう。


二大国の層は厚い、と結果だけを見てもそう言える。


その中でもカルティアは健闘している方だ。



「個人戦は予定通りくらいにはいってるんじゃない?あとは……団体戦、だね」



個人戦を見る限り、アリジニステンは早い段階で潰しておくべきだろうが、団体戦メンバーもおそらく近いレベルが揃っていると思われた。


ユユやファエルたちのことを心配するチーグルは、観客席で応援するしかない自分に悔しさを滲ませていた。


だが、その前にエレスたちAチームが登場する。


まずはこっちの応援だと切り替えて声援を送っている。



「いよいよ団体戦が始まります。先に登場してきたのはカルティアAチーム。生徒会長のエレスティナ=ケルストさんをリーダーにルウ=シャオラさん、ケリン=マクバリッチさん、ウェッテン=シールセン君、ロックケーツ=インテリーア君と全員3年性のチームです。インテリーア君は先ほど個人戦で見事2回戦進出を決めたゴルトウィッツ=インテリーア君のお兄さんのようですね」



その実況の声にトキは驚いたが、何故か周囲のカルティア生徒は平然と声援を送っていた。


またもや気づいてなかったのはトキだけのようだった。



「さぁ対戦相手のタルムBチームも姿を現しました。こちらは2年生と3年生の混合チームです。ゲッサントゥ様はこの試合をどう見られますか?」


「カルティアのケルストさんは非常に優秀な魔法使いとして入学当時から名前が上がっていました。彼女が指揮をとるこのチームがカルティアの本命と呼べるでしょう。彼女をはじめ、カルティアには多彩な魔法を期待したいところですね。対して、タルムはお家芸とも呼べる水魔法が得意な生徒を揃えているようです。チームの連携がうまくいけば面白い試合になるでしょう」


「ということは、ややカルティアが優勢という意見でしょうか。さぁいよいよ団体戦1回戦が始まります!」



試合開始と同時に、先頭のエレスが目の前に高さ3m横幅5mほどの分厚い土壁を形成した。


まずは身を隠して遠距離攻撃を仕掛けるようだ。


土壁の内側の端には傾斜をそれぞれ作り、左右の上と下4箇所から攻撃を放つ。


タルム側は全員がまとまった位置におり、カルティアのように身を隠す場所がないため、防御魔法の使用が多くて攻撃も散発的になっている。


エレスは正面方向に相手を見ずに水魔法を放ち続けており、タルム側の地面は水びたしになっていた。


4人は相手が前進したり、回り込もうとするのを足止めするかのように魔法を放ち、その場に釘付けにする。


頃合と見てエレスは苦手とする火魔法を発動し始めた。


2mほどの大火球を作るのにだいぶ時間を費やしたが、これで準備が整う。


ルウがさっと土壁の内側に駆け登るための斜面を作り、そこをエレスが駆け上がって土壁の上からタルム陣営を目掛けて大火球を投げつけた。


ぎょっとするタルムの生徒たちは3人がかりで水壁を作ってそれを防ごうとする。


大火球は水壁と水びたしの床にぶつかり、大量の水蒸気を発生させた。


それに乗じてカルティア側の4人は一斉に飛び出す。


エレスが引き続き正面から攻撃している間に左右へ展開し、無防備となっている側面から魔法で挟み撃ちにしたのだ。


視界も晴れず蜂の巣にされたタルム側は3人が戦闘不能になった時点で負けを認め、審判に降参を告げた。


想像していた魔闘技のような乱戦とは違って、エレスたちは終始自分たちの作戦通りに事を運んだ。


すぐにあれだけの土壁を作れるエレスの技量とタルム側が火魔法に対して水魔法を使うという予想に基づいた作戦が光る戦いで、ゲッサントゥ辺境伯もその点を褒め称えていた。



「さすが生徒会長。相手に何もさせずに完勝したな」


「あれだけの規模を即座に発動できるのは会長くらいだよ。少なくとも僕には無理だ」


「与し易い相手ではあったけど、これでひとまず20pはゲットだな」




次はアリジニステンのBチームが登場する。


アリジニステンは急造チームでどこまでやれるのか。


もちろん個人の能力も必要となるが、団体戦はよほど突出していないければ一人でどうこうできるものではない。


(可能性があるとすれば俺の他には……グレン=ホオツキとシルエ=ストックフォードくらいか。他は皆いい的にしかならんだろうな)


溜めが必要ないか味方の防御があるならライ=エンは可能性があるだろうか。


防御かスピードか殲滅力に長けていなければ無理だろう。


1回戦が終わっただけなのでまだわからないが、1対1での実力ではフォート=ライレリック、ライ=エン、グレン=ホオツキ、シルエ=ストックフォートくらいの順だとトキは考えていた。


(上位陣はまだまだ手を明かしてないだろうな。一番不気味なのはマナミ=タテイシだけど、あの黒い靄は遅いから本人を攻撃すればいいだけだし問題ない。アリジニステンの団体戦メンバーはどういった基準で選ばれたんだろ)



「ヒッポフBチームが姿を見せました。このチームはどうでしょう?ゲッサントゥ様はどう見られますか?」


「両手剣と風魔法を使うクリス=キリスト君を中心に全員が前衛をこなせる攻撃的なチームですね。アリジニステンは分断されると一気にやられますよ」


「なるほど。続いて、個人戦では予想を上回る戦いぶりを見せるアリジニステンのBチームも登場してきたました……が、何でしょう?見るからにまとまりがない様子で、バラバラの登場です」


「こちらは情報が全然ないのですが、なんとも不安に感じますね。大丈夫でしょうか」



坊主っぽい赤茶に染めたソフトモヒカン、耳にはピアスをした中肉中背のハルト=ムカイが先頭で、獰猛な笑みを浮かべて登場した。


背が低く金髪ウルフカットのオサム=ヒガがキョロキョロしながらその後に続く。


2人から離れて、明るい茶髪にゆるふわパーマをかけたモモカ=マツザカは面倒そうな態度でダラダラと歩いている。


その後ろで、サチエ=タケザトは毛先をカールさせて巻いた髪をいじりながら、フレンチボブのウメノ=キクオカとぺちゃくちゃ話しながら現れた。


(け、けばいな、女3人。どうでもいいけど、あいつら化粧道具持ってこっち来たのか?)


装備を見ると、オサム=ヒガが細い短刀を2本、モモカ=マツザカが丸めて束ねられた鞭のようなものを腰に備えている。


他の3人は無手で、男2人はローブを着ておらず、防具も急所だけをカバーした最低限な程度だ。


アリジニステン側はそのまま2-1-2といった陣形で試合に臨むつもりらしい。


ヒッポフ側は1-2-2と鶴翼陣形で、剣、鉄甲、槍、棍といった武器を持っている。


試合開始の合図でヒッポフが全員で突撃した。


(イケイケすぎんだろ!?)


なんとも強引な戦術にトキをはじめ会場中が驚く。



「サチウメ~任せるわ~」



ハルト=ムカイはだるそうにそう言い、前中衛の3人は後退して2-3の陣形になった。



「はいは~い。いっくよ~」

「くたばっちゃえ~」



ウメノ=キクオカとサチエ=タケザトがせーのっと勢いをつけて両手を前に振り下ろした。


すると突如、ヒッポフの前3人が車に撥ねられたかのように吹き飛んだ。


後ろの2人も顔を押さえてうずくまっている。



「え!?な、何!?何したんだ!?」



隣りのケオランは意味不明だと口走る。


観客側で理解していた者は少なかった。


ケオランとチーグルにトキが自分の予想を述べる。



「たぶん……いしつぶてみたいな魔法だ。それも見えないくらいかなり小さい石つぶだ。ただ、その数が多い上になにか効果を加えてたっぽいな。それを風魔法で噴出したってカンジだと思う」



解説をしてトキは思考にふける。


(殺傷性を高めるように形状変化させたか、熱したか、隠蔽して見えづらくしたか……どれにしても、えげつない魔法だな。見えないってのにまるで散弾銃だ。近距離であれを喰らったらたまったもんじゃないだろう)


トキは試合中ずっと風の囁き(ウインドウィスパー)を邪魔にならない程度に弱く発動して解析しようとしていた。


感知では何かの塊があるように感じるのに、視覚では全く見えない。


(範囲は90度くらいで、効果距離は10mくらいってとこか。範囲ぎりぎりにでもいない限り、俺以外で回避できるやつはいないだろう。効果距離外から遠距離攻撃をするか、防御を常にしながら前進するか、他の敵を射角に入れた方向から攻めるくらいしかないな)


試合は3人が致命傷により気絶、2人は戦闘続行不能となり、アリジニステンBチームの勝利が告げられていた。


肌をさらしている部位からは例外なく血が流れている。


無傷で勝利したアリジニステン側は敗北したヒッポフ側の周囲であざ笑い続けており、ヒッポフの生徒はおろか会場中の多くの者から非難の視線を浴びていた。



「まじ弱すぎだろ。こいつら何しに来たんだ?」


「春人、可哀想だからそれ以上は……ぷははは!」


「ちょ、まじウケるんだけど~」


「ウチら最強じゃね~?」


「ってか、最短試合でしょ。キャハハハ!」



審判から注意を受けてようやく退場していく。


開会セレモニーの時に漂っていた空気とは違う雰囲気があるとトキが感じていた。


(帝国ではまとも扱いを受けていないか、帰る手段がないとわかったのか、そういったことがあると思っていたんだがな……。まともそうなやつが少なすぎだろう)



次のクロウリアA対ヒッポフAの試合ではヒッポフが、というより生徒会長のロッペン=キンオニアが爆発する。



「予想だにしない展開でヒッポフが敗れてしまいましたが、今度はどうなるでしょうか。クロウリアAチームから登場してきました」


「正直クロウリアは苦しい戦いになると思いますね。なにせ相手は団体戦優勝候補ですから」


「下馬評ではそのような高評価を得ているヒッポフAチームも出てきました」



先頭のロッペン=キンオニアは足先まで隠れるロングコートに身を包んでいて武具を装備しているのかわからない。


黒の短髪で細身の会計、クインサ=アーレイは防具だけで無手だ。


双子と紹介された書記のヒルコ=ポローニャ(ピンク髪)とキルコ=ポローニャ(緑髪)は身の丈ほどの大斧と大剣を背負っていて、スレンダーな白髪美人の副会長、ベネチア=パンダルは十字槍を手にしている。


ヒッポフAチームは全員が生徒会メンバーらしい。


(あの双子は学園ギルドのちびっ子コンビに似てるな。雰囲気的に。……ん?なんだ?)


闘技場内もヒッポフの陣形を見てざわつきだした。



「ヒッポフAチーム、これはどういうことでしょう!?生徒会長のキンオニア君を除いて全員が後方に下がってしまいました!」


「まさか、1人で戦うつもりでしょうか。確かに彼の実力は高いという話ですが……」



相手のクロウリアAチームは馬鹿にしやがってと怒り立っている。


取り残されたロッペン=キンオニアは至極真面目な表情だ。


(さっきの試合後のアリジニステンの態度がよっぽど気に入らなかったのか。それとも4人が必要ないほどの実力を持っている自信の現れか。マジで1人でやる気みたいだな)


何度か会ってはいたが、こういう試合をするような人物には見えなかったので驚いた。


試合開始が告げられる。


ロッペン=キンオニアが着ていたロングコートをバサァっと脱ぎ捨てた。


そして、その瞬間に悲鳴があがった。


観客席の主に女性からである。


ロングコートを脱いだロッペン=キンオニアはそう珍しくもない防具をつけていた。


武器は何も持っていない。


ただ、その防具というのが金色のビキニアーマーだったのだ。


急所を最低限カバーするだけのもので、尻は食い込んでいてほぼ丸見えである。


彼の後ろ側の観客は目をそらす者が多数いるだろう。


事実、味方であるはずのポローニャ姉妹とベネチア=パンダルは背を向けている。


だが、前側も見れたものではない。


股間はVの字で覆われているだけで毛ははみ出しており、見事なギャランドゥが見えていた。


いっそのことそれだけだった方がマシと思えるほど、毛深い胸毛を中途半端に隠すビキニブラが生理的嫌悪感を沸き立たせる。


観客の悲鳴を聞いてロッペン=キンオニアは至極真面目な表情から一変、気合を入れる。



「うおおおおおおおおお!」



踏ん張るような格好をするものなので、さらにきゃあきゃあと悲鳴があがる。


キッと相手を見つめるロッペン=キンオニアに変わった様子はない。


いや、変わりすぎているが、気合前後で変わった様子はない。


素足のロッペン=キンオニアは相手に向かって加速する。



「うおおりゃあああ!」



一歩踏み出すごとに尻が揺れ、股間部がきわどくなる。


向かってくる変態にクロウリアの生徒はパニック気味に魔法を乱射する。


だが、ロッペン=キンオニアは飛来する魔法を回避し、避けられないものは拳で殴り、脚で蹴り飛ばしながら前進する。



「ど、どういうことでしょう!?す、素手で魔法を迎撃!?いや、そもそもなんであんな!?」


「わ、私にも何が何だか……」



実況と解説もうまく言葉にできない。


誰であっても実況も解説もしたくないだろう。


接近したロッペン=キンオニアが一番近くの男子生徒にボディブローをかますと、大型トラックに轢かれたかのように軽々と吹き飛んでいった。


人間とは思えないような怪力で次々と殴り飛ばしていく。


最後の女子生徒は泣きながら逃げ出した。


それが実力によるものか、外見によるものかは定かではない。



「圧倒!圧倒的です!ロッペン=キンオニア君が1人でクロウリアAチームを撃破!まさかこのような事態になるとは誰が予想したでしょう!」


「誰もしませんよ……。姿はともかくとして、彼のあの戦いぶりは風魔法でしょうか?似たような戦い方を言えば、個人戦で登場したアリジニステンのヤイチ=カネヤマ君もそうですね。彼らのパワーはどうなっているのでしょう。魔法を使っているようには見えないのですが……」



(そう、こいつもだ。こいつらは風属性魔法を使っちゃいない。くそ、どうなってんだ?ってか、精神衛生上見るべきじゃないのはあんたのことだろう!)


他の生徒会メンバーをそう評していたロッペン=キンオニアに苦言を申し入れたいトキだった。


この力に関しては実のところ、ロッペン=キンオニアとヤイチ=カネヤマ自身もよくわかっていない。


「気合入れてぶん回す(ぶん殴る)だけ」


質問を受けて両者はそのように答えたという。


両者とも6属性の魔法を使えるには使えるが、レベルは低いため戦闘時には使用しない。


魔力は消費するが、目には見えない力が発揮されることから、ヒッポフでは研究の対象にもなっている。


彼らの力が詳しく判明するのはまだ先のこととなる。


ちなみにだが、ロッペン=キンオニアの装備については妥協した結果であり、素っ裸の方が力がより漲るという話だ。


魔法学園に入学する以前、修練する際には素っ裸で行う息子に対して、両親がせめてこれだけでもと買い与えたという涙ぐましい過去が存在する。


果たして彼の両親のおかげでより深刻な事態にならなかった者がどれだけいただろうか。


逆に、その意味不明なチョイスのせいで心に傷を負った者がどれだけいただろうか。


どちらにせよ、被害を被った者の数がこの交流戦で増えたことは間違いない。



泣いていた者たちも落ち着きを取り戻し、カルティアB対アリジニステンAの試合が始まろうとしていた。



「さぁ、気を取り直しまして、カルティアBチームの登場です。先頭から順にファエル=ジブリスタ君、クウ=シャオラさん、ロインツ=クロムヴォル君、ユユ=クリストットさん、ピニオン=ワークエル君です」


「こちらのチームは2年生のみで構成されているようですね。優秀な剣使いと評判のファエル君を中心にしたチームです。クウ=シャオラさんは団体戦Aチームのルウ=シャオラさんの妹さんで、1年生にも妹がいるという魔法使い姉妹らしいですね」


「シャオラ3姉妹というわけですか。おっと、アリジニステンAチームも登場してきました」


「こちらのチームはBチームのようにバラバラではありませんね。これまでの生徒同様、情報の少ないアリジニステンの生徒が活躍しているだけに期待は大きいですよ」



上背のあるトラヒコ=アサヒナは襟髪の長い黒髪で、爽やかそうなイケメンであるが、その表情は硬い。


腰に両手剣を差しているが、トキはその扱いに慣れてなさそうだと見抜いた。


その隣りに、同じ身長くらいでやや長い坊主頭のキョウヘイ=ショウブが並ぶ。


こちらは坊主が似合うキリッとした顔立ちで、ニヤリと笑いながらトラヒコ=アサヒナへ拳をコツンと突き出して励まし合う仕草も似合っていた。


腰周りにはズラリと投げナイフや黒いボールが備えられている。


(キョウヘイ=ショウブの方がカッコイイな)


どうでもいいことをトキは思い浮かべた。


男性陣のすぐ後ろに女性3名が続く。


カナコ=フジガサキは黒髪を三つ編みでひとつに纏め、メガネをかけているため委員長っぽい感じで、ローブの上からでもわかるほどの胸の持ち主だ。


槍の穂先を剣状にしたグレイブのような武器を持っているが、剣先は鞘で収められている。


胸が邪魔で振り回すのには苦労しそうな気がする。


真ん中のオウカ=サカノウエはかなり身長が低く、ロングの黒髪の先をリボンで結んで背に流しており、見た感じだとかなり可愛らしい顔をしている。


弓を背負っているが、体のせいでかなり大きいものに見えてしまい、ちゃんと引くことができるのか疑問に思えてくる。


チヅル=シラスカは唯一武器を持っていない。


栗色の長い髪の毛先は若干ウェーブがかかっており、お嬢様っぽい印象を受ける美人さんだ。


カナコ=フジガサキと同じくらいの胸の持ち主で、間に挟まれた貧……慎ましい胸のオウカ=サカノウエが可哀想に見えてくる。



「カルティアBチームはファエル=ジブリスタ君が最も前で、ユユ=クリストットさん、ピニオン=ワークエル君が剣と盾を持って左右に開いています。クウ=シャオラさん、ロインツ=クロムヴォル君が武器を持たず後衛という陣形です。一方、アリジニステンAチームは男子生徒が前衛、フジガサキさんが中衛、残り2名が後衛という陣形。これをどう見ますか?」


「前衛が当たって中衛がフォローし、後衛が間から攻撃するのでしょう。お互いに似た戦術を取るとは思いますが、不可解なのはサカノウエさんですね。彼女、弓は持っていますが矢を持っていませんよ?」



矢をローブの下に隠しているようにも見えない。


解説を聞いて気づく者もおり、どういうつもりなのか皆疑問に思った。


試合開始が告げられ、カルティア側が先に動いた。


前中衛の3人が前進し、後衛がさらに大きく左右に開いて遠距離魔法を放つ。



「回避!キョンと桜花と千鶴は離れて前衛を足止めしろ!加奈子は左、俺は右から回り込んで後衛を叩くぞ!」



トラヒコ=アサヒナの指示によってそれぞれ行動に移る。


キョウヘイ=ショウブは風魔法によって加速される投擲を行う。


そのフォームは完全に野球のそれだ。


しかし、観客の視線はそこには向かなかった。


チヅル=シラスカが発動した魔法。


それは紛れもなく氷属性によって作り出された氷の矢だったからだ。


それだけではなく、矢を持っていないと思われたオウカ=サカノウエが弓を構えた状態で光の矢を生み出したのだ。


矢を取る動作がなく、次々と矢を放っていく。


これらの遠距離攻撃を受けて、カルティア側は盾を持つユユとピニオンが前に立ち、ファエルがその後ろで遠距離攻撃を放つという陣形に変わった。


足が止まったカルティア前衛陣は完全に手数で負けていた。


高速連射で放たれる光の矢は通常の矢と同じような感触を盾越しに感じる。


氷の矢も際限なく生成されて飛んできており、キョウヘイ=ショウブの投げる黒いボールはコントロールが精密で、速度も150kmを超える高速球だ。


甲羅に篭るカメのような状態で、カルティアBチームは劣勢に立たされる。


左右に展開したトラヒコ=アサヒナとカナコ=フジガサキがクウ、ロインツの攻撃を掻い潜り接近しつつあったため、ここでファエルが決断する。



「ピニオン!ユユ!あの3人を動かないようここで耐えてくれ!俺は回り込む2人を叩く!」



そう指示したファエルは後方に走り、さらにロインツに指示を出す。



「ロインツ!クウと2人であっちの男を倒せ!こっちの女は俺が片付ける!」



各個撃破を狙うファエルたちをアリジニステンの3人が目標を変更して攻撃を仕掛けようとすると、ユユたちが魔法を放ちながら前進してこれを阻止する。



「相手は各個撃破を狙ってる!まずは数的有利にある俺らがあの2人を倒すぞ!」



キョウヘイ=ショウブの声でカナコ=フジガサキは魔法を牽制から倒すものへと変える。


1対1になったカナコ=フジガサキは呼吸を荒くしていた。


戦闘訓練はしていたが、彼女は人を傷つける行為に慣れることはできなかった。


他の者も大半がそうであり、彼女は特に罪悪感に苛まれていたのだ。


構えも下段で、相手の足を狙いつつ防御を主体としたもので、刃に鞘をかけているのもそうした彼女の意思表示だった。


そんな事情は知ったことではないファエルは牽制として相手の足元に火球を投げつける。


その回避動作とともに一気に自分の間合いに踏み込もうとした。


カナコ=フジガサキは穂先で水の膜を作り振り上げてこれを防いだ。


ファエルは振り上げた相手の右脇に鋭い刺突を放つ。


だが、それをカナコ=フジガサキはグレイブを握る両手の中心を軸にし回転させこれを防ぎ、そのままの勢いでさらに回して相手の足をすくい上げる。


刃物ではないとはいえ、遠心力の効いた切り上げによってファエルは足をすくわれ、顔から地面に叩きつけられた。



「ぐあっ!……くっ」


「ま、まだやりますか?」



穂先を顔に突きつけられ、ファエルは歯を食いしばった後、敗北を認めた。


1対1で女性生徒にいいようにあしらわれた事実がファエルに悔し涙を促した。


ファエルは敗れたが、クウとロインツはトラヒコ=アサクラを追い詰めていた。


クウは風刃、ロインツは土弾によって絶え間なく攻め続け、逆に迫っていき手傷を追わせていた。


疲労と傷によって動きに俊敏さはなく、とうとうロインツの土弾が鳩尾にクリーンヒットしてその場に倒れ込んだ。


これで両者共に、リーダーを最初に失ったことになる。


カルティア側はそのままクウとロインツが数的有利を保ったまま、カナコ=フジガサキを遠距離から攻撃しようと移動し始めた。


だが、その目論見はあっさりと崩れる。



「ああっ!」

「ぐああ!」



ユユとピニオンが盾ごと吹き飛ばされたのだ。


その原因は直径3mもの氷塊。


恐るべきはその発動速度で、2人は回避も間に合わなかった。


これによって2対4と一気に形勢が逆転し、クウとロインツの懸命な戦いも虚しくカルティアBチームの敗北が決定した。



「ん~結構いい線いってたんだけどな~。個人の実力差が出ちまったな」



トキの言葉を聞いてケオランはバッと立ち上がった。



「ユユんとこ、行ってくる」



そう言って走り出したケオランをトキとチーグルは見送った。



「今、茶化したら殺されそうだな」


「言わないでよかったよ。けど……世界は広いね。ユユたちでも勝てない相手はたくさんいる。僕なんかじゃ到底かなわないや」


「……チーグル。悪いが、俺がお前に求めるのはそういう力じゃねーぞ?気を悪くしたら謝る。けどさ、お前が戦闘で体張る時はフェレアを守る時だけでいいんじゃないか?」


「……うん。そうだね。その時は全力で守るよ」


「ま~戦闘の前にお父上のハウゼン男爵と対峙しなきゃだけどな。カカカ」


「あ~うん。ソウダネ。アハハハ」



この日最後の団体戦となるタルムA対クロウリアBの試合は、生徒会長エイラ=タンを擁すタルムAチームの勝利で幕を閉じた。


そして、個人戦2回戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ