93話 戦闘の部 個人戦 一回戦
新暦1348年 ガレリア大陸 アルゼン帝国南東部 コロムロ
「皆さん、おはようございます。本日は戦闘の部前半戦が始まります。昨日に引き続き実況は私ナイザー=イェンガーと解説はゲッサントゥ辺境伯様に来て頂いております。今日も宜しくお願いします」
「よろしく」
交流戦3日目を迎え、個人戦1回戦、団体戦1回戦、個人戦2回戦が行われようとしていた。
早朝からいつも通りのトレーニングを終えたトキたちは自分達の出番まで観戦することにした。
2試合目には1番人気を誇るアイシュタット=フォールセムが登場し、闘技場が大歓声に包まれた。
お手並み拝見と見させてもらったが、彼は口先だけではないだけの実力を持ち合わせていた。
「ゼン君の放った水球がフォールセム君を襲うー!おっとー!フォールセム君これを回避せずにゼン君の水球を大きく上回る火球で迎撃ぃ!続く水球も悉く撃ち落としていきます!」
「相性の悪い火魔法でよくもあれだけ相殺できますね。火力もそうですが、的確に撃ち落とす技量も素晴らしいものがあります」
「次第に手数でもフォールセム君が上回り始めました!回避する場面が多くなってきています、タルムのロウ=ゼン君!ああっと、態勢を崩したぁ!そこを見逃さずフォールセム君の火の矢がクリーンヒット~!ゼン君立てません!ここで審判がフォールセム君の勝利を告げました!」
「スキを見逃さず、火球から火の矢に切り替えた判断もよかったですね。流石と言える戦いぶりでした」
1回戦ではタルムの生徒が放つ水魔法を相性の悪い火魔法で相殺するほどの火力を放ち、真正面から圧倒していた。
手の内がそれだけということはないであろうが、トキにとっては戦いやすそうな戦闘スタイルと言える。
そして、注目のジュウゾウ=オグマが登場した。
出場者は自分の試合が始まる3試合前までに待機室に行かなくてはならないため、トキはジュウゾウ=オグマの試合を入場口の壁をよじ登って観戦することになった。
「さぁ、ゲッサントゥ様が未知数とおっしゃっていた生徒が登場してきました。ジュウゾウ=オグマ君ですね。いや~いい体格してますね」
「今まで出場した生徒の中では断トツの体躯をしてますね。武器は持っていないようですが、どういった魔法を使うのか楽しみです」
体格はヒッポフの生徒会長ロッペンをも上回るほどの巨体で、武器を持たない丸刈りの男だった。
その体格だけで人気が出そうなものだが、情報が出回らなかったのだろう、観客からは残念がり落ち込む声があがっている。
相手であるクロウリアの生徒は若干萎縮しながらも、腰を落として両手でナイフを構えた。
「さぁ、試合開始です。ジュッツ君が先制攻撃!速い!ナイフを投擲しましたが、かなりのスピードです。しかし、オグマ君はこれを回避!余裕のある避け方でした!」
「ジュッツ君は風属性で速度を速めているのでしょう。今チラッと見えましたが、ローブの内側に相当数の投げナイフを装備していました。これが彼の基本スタイルのようですね」
「さぁオグマ君、遠距離攻撃を仕掛けるジュッツ君に対してどう出るか!?……ん?あれは……両腕の肘辺りから手先まで何かが覆っていますね。何でしょうか?」
「土属性……でしょうか?発動する瞬間を見逃しましたが、おそらく土属性魔法で装甲のようにしているのでしょう。そうなると、彼は近接戦闘を得意とするのかもしれませんね」
「オグマ君、ジュッツ君に向かって突進だー!飛んでくるナイフを腕の装甲で弾いてスピードを緩めません!まるで巨大な熊が迫ってくるかのような迫力があります!至近距離でジュッツ君、足を狙って投擲するも躱されてしまい、万事休すだー!オグマ君の拳打を躱すが、いや、掴まれた!……え!?なんとも回すように投げてジュッツ君を床に叩きつけました!ジュッツ君立ち上がれず、ジュウゾウ=オグマ君の勝利です!」
「回避、防御ともに高いレベルではありましたが、オグマ君の最後の体術は見慣れないものでしたね。一撃で仕留めるだけあの威力は恐ろしいものがあります」
(土属性の防御に柔道か。最後のは大腰って技かな?全体重かけて石の上に叩きつけられたら、そりゃたまったもんじゃねーだろうな。受け身も取ってねーし、ここじゃなきゃ死ぬかも知れんぞ)
掴まったらどうするか、自分なら投げられてからも態勢を制御できるので問題はないかと結論付ける。
避けなきゃいけないのは寝技に持ち込まれること。
そうなれば体格も経験にも劣る自分では太刀打ちできないだろう。
そう考えるトキとは別に、ケオランは観客席で考え込んでいた。
(最後の投げ技……形は違うけど体術Ⅱの試験の時にトキが教官を投げた技に似ていた。どういうことだ?)
他のカルティアの生徒たちはジュウゾウ=オグマの実力を目にして危機感を覚えていた。
全員があのレベルの技量を持っているかもしれないという不安が生徒たちを包みこんでいたからだ。
さらにそれを決定づける者が2試合後に現れることになる。
「続きまして、先ほど素晴らしい実力を見せたジュウゾウ=オグマ君と同様に情報が少ない生徒が登場してきました。アリジニステンのゴンタ=ザマ君とタルムのニータ=ビゼル君の試合です」
「彼も実力は未知数ですからね。楽しみです。どうやらオグマ君同様に武器は持っていないようですね」
外見だけ見れば、ゴンタ=ザマは弱そうに見える。
低い身長に肥満体形で、戦うには不向きな体型と言える。
それに対してニータ=ビゼルは平均的な体格で、大ぶりなナイフを2本両腰に装備している。
「さぁ、試合開始です!ビゼル君がナイフを投げました!おお!ナイフは細長い水魔法で手元に繋がっております!それを操作してナイフを鞭のように扱っています!これをザマ君は……避けない!?ああっと!土属性魔法で土の壁を作った~!かなりの厚さがあるようです!ビゼル君、これを回り込んで攻撃を仕掛けます!ザマ君、さらに土壁を作って防ぎます!ここでビゼル君がもう1本のナイフで同時攻撃だー!」
これを見てゴンタ=ザマは地面に手をつき、自分の周囲360度と上を土壁によって覆った。
ニータ=ビゼルのナイフはこの壁を破ることができず、小さな傷を作るだけしかできない。
「これは堅固な防御ですよ。しかし、ザマ君はここからどうするつもりでしょうか……」
ニータ=ビゼルは回り込んで隙がないか確かようとした。
その一歩を踏み出した瞬間、地面が大きく隆起してニータ=ビゼルは宙を飛んだ。
「これは!?ザマ君の土魔法がビゼル君をクリーンヒット~!吹き飛んだビゼル君、動けません!ゴンタ=ザマ君の勝利だ~!」
「視覚的には塞がれていたので、何かの感知魔法を発動していたのでしょうね。防御と攻撃を兼ねそろえた素晴らしい魔法でした」
(俺ならあの防御くらい破れるだろうけど、剣だけじゃ時間がかかりそうだな。土壁ごと破壊するのが手っとり早いか)
2回戦で当たる相手を分析してみても負けるとは思わなかった。
感知魔法については振動系の可能性が大だが、速度で翻弄して回避すればいいし地面が隆起した瞬間に飛べばいいので、自分にとってはやはり大した脅威にはならないと考えた。
防御という点ではシルエ=ストックフォードに期待を寄せているが、トキと当たるにはライ=エンを倒す必要があるので難しいだろうと思っている。
だが、ジュウゾウ=オグマもゴンタ=ザマも実力的にはB~Aランクはありそうなので、他の連中では厳しいだろうとも思った。
(有力な生徒がいないブロックのケオランにはまじでベスト8には残ってもらわなきゃならんだろうな)
ケオランの実力を客観的にみると、魔法無しではBランク、魔法ありだとCランク程度だと推察している。
ベスト16はいくだろうが、3回戦でヒッポフの生徒が出てくると思われるので、そこが正念場と言えるだろう。
(って、他人事より自分のことがまず大事か。さて、集中集中…………ご褒美楽しみだな。ぐふふ)
「さて、次はゲッサントゥ様も最有力と見ているトキニア=ゼペルルクス君が登場します。彼は飛行魔法を使う風属性の魔法使いということですが、この試合では見れるでしょうか?」
「どうでしょう。飛行魔法以外の情報はあまり聞きませんが、Sランク傭兵団『赤狼』を単独で壊滅したという未確認情報もありますので、広範囲攻撃もできるとは思います」
「なるほど、ゼペルルクス君とヒッポフのワイツ=セッツォ君が入場してきました。相手のセッツォ君はどうでしょう?」
「初戦の相手がゼペルルクス君というわけで人気は高くありませんが、個人戦に出てくるヒッポフの中では2番手の実力と言われていますので、高レベルな試合が期待できますね」
「ゼペルルクス君は短剣の二刀流という情報がありますが、武器を構えていません。それに対し、セッツォ君は金属製の先端を持つ棍を構えています」
構える相手からは気力十分な気配が漂っていた。
(こいつもBランクはありそうだ。魔法次第ではもうひとつ上がるかもな)
そう高評価を下したトキはそれでも変わらず自然体で立っているだけだった。
「試合開始です!」
合図とともにセッツォは正面から迫ってきた。
トキは静かに風の囁きと疾風の鎧を不可視レベルで発動し、闇の法衣の発動も準備する。
「シッ!!」
セッツォは間合いに入り、トキの喉を目がけて強烈な突きを放った。
捉えた!と思った瞬間、トキの姿が消える。
驚愕すると同時に、首筋に冷たい刃が当てられた。
「まだやるか?」
いつの間にか背後に回られていたのだ。
「ま、まいった」
その声にトキは短剣を収めてその場を後にする。
会場からは驚愕といった大歓声が鳴り響いた。
「今、ゼペルルクス君の動きがよくわからなかったんですが、ゲッサントゥ様はおわかりになりましたか?」
「いえ、私も消えたと思った時にはすでにゼペルルクス君は背後に立っていました。これは……圧倒的すぎますね。SSランクになるだけのことはあります。しかも、まだまだ実力を出していないでしょう。セッツォ君の実力が低かったわけではありません。相手が悪すぎました。果たして彼に勝てる生徒が、いや彼に勝てる人間がいるのかどうかも分かりませんよ」
「ゲッサントゥ様の大絶賛も納得の実力を見せてくれました。トキニア=ゼペルルクス君の勝利です!」
観客席のカルティアの生徒たちは大喝采を送っていた。
「やっべー!ギルマス圧勝!」
「あの人まじぱねーわ!」
「さすがうちのエースだよね!」
皆が手放しでトキを褒め称える中、ウィリアムスだけは静かにトキの背中を嫉妬と悔恨の混じった目で見つめていた。
「ウィリアムス君、あまり自分を卑下するのは止めなさいね。それとあの人を羨むのもね」
「ケルスト生徒会長……」
「トキ君はね、特別……というより異常なのよ。彼があんな風になったのには厳しい境遇のせいよ。家族を殺されて、次は守れるように命がけで力を求めたせい。暴力を巻き散らかすだけの存在にならなかったのが奇跡だと思うわ。だから、あの人の強さを認めても同じようになろうとはしないで。あなたはあなただけの強さを手に入れなさい」
「……少し、考えてみます」
「ええ、まだ1年生なんだから焦ることはないわ」
入学してから彼の自信を打ち砕くことが続いてしまい、ナイーヴな感情になりかけていたので声をかけたのだが、立ち直ってくれることを信じて待つことにした。
さりげない気配りができるエレスは立派に生徒会長の役割をこなしている。
トキが待機室に戻ると、ライ=エンが試合の開始を待っていた。
「親父も最速の名を返上しなくちゃならないかもな」
「あれで7割くらいの速さだぞ?」
「……化け物め」
「たまたま師匠に恵まれただけだよ。戦うなら準決勝だな。負けんなよ」
「あったりめーだ!じっくり見てろよ!」
勇み足でライ=エンは入場口に向かっていく。
ライ=エンはシルエ=ストックフォードとイブキ=アキミヤに勝たなければトキと戦うことができない。
ジュウゾウ=オグマとゴンタ=ザマ、アイシュタット=フォールセムに勝たなければならないトキよりかは少しマシではあるものの、厳しいブロックと言える。
準決勝で会えるかどうかはこれからの試合で実力を見せてもらえば大まかな予想はつくだろう。
トキは少し足早に観客席へと移動した。
観客席にいくと友人たちが席を確保してくれていた。
「お疲れ~。余裕の勝利だったな」
「相手も初見だった分、楽できたわ。次の相手からは何かしらの対策とられるだろうな」
それでもトキなら勝てるだろとケオランは頭の後ろで手を組んで苦笑いする。
「ケリー、他人のことより自分の心配しなさい。大丈夫なの?」
「ユユの言うとおりだよ。ケオランはベスト8までは有力な生徒がいないブロックなんだから負けられないよ?」
「と言われてもな~。初戦の相手は情報ないし、俺のできることなんて限られてるだろ?ジタバタしたってどうしようもねーって」
ケオランは普段から緊張とは縁がないタイプではあるが、今日ここに至ってもそれは変わらないようだ。
話しているうちにライ=エンの試合が始まろうとしていた。
「ゼペルルクス君に続いて今度はタルムのエース、ライ=エン君の登場です。対するはクロウリアのイルム=パーディ君。どういう戦いになるでしょう?」
「迅雷の異名をとるカイ=エンの息子ということで話題になりましたが、彼も雷魔法を扱えるという話は聞きました」
「ほ~派生型魔法ですか。最速攻撃とされておりますが、私は見たことがありません。どういった魔法なのですか?」
「それは見てからのお楽しみとしましょう。実は私も見たことはないので。ははは」
「わかりました。ではじっくり観戦させていただきましょう」
開始合図とともに、イルム=バーディは距離をとる。
小手調べのように風属性魔法で風弾をライ=エン目がけて放った。
ライ=エンは試合が始まってから右手を前方に出したまま動かない。
「ッルアアア!」
気合い一閃、右手を思いっきり振り落とす。
ドーーーーン
光ったと思うと同時にすさまじい音が闘技場に鳴り響いた。
目を隠した腕を下げて、試合場を見るとイルム=バーディは立ったまま……ライ=エンが倒れていた。
「ええええ!?」
派手な演出はなんだったんだと思ったが、ライ=エンが立ち上がる。
「いててて……。防御のこと忘れてた。ん?おーい、審判。終わったぞ~?」
何が起きたのかよくわかっていない審判だが、イルム=バーディが立っているため試合続行を告げる。
「いや、そいつもう気絶してるはずだぜ?俺の魔法が直撃したんだから」
信じられないように審判が確認すると、イルム=バーディは立ったまま気絶していた。
これによってライ=エンの勝利が告げられた。
「なんと!バーディ君、立ったまま気絶しているとのことでライ=エン君の勝利が決まりました!どうなったのでしょうか?」
「おそらくあれが雷魔法なのでしょう。とてつもないスピードと破壊力だったようですね。あの一撃で致命傷となったのでしょう」
「いや~見ていた私も信じられません!目にもとまらぬ、いや目を開けられぬ攻撃でライ=エン君が2回戦進出を決定しました!」
トキは冷や汗をかいていた。
(当たったらお陀仏ってわけね。鳥王と変わらん攻撃力だな。しかも、攻撃起点がわからなかった。着弾点もどうやって決まったんだ?まだ決定づけるのは早計だが、あの攻撃には溜めが必要かもってのが弱点か)
「僕、個人戦に出てなくてほんとよかったと思うよ」
「団体戦に出てこられたらまとめて一網打尽できそうね」
「反対のブロックでよかった~」
3人とも触らぬ神に祟りなしといった様子だ。
「トキならどうするんだ?」
「ん~まだどういった魔法を使うのか見る機会があるからわからんけど、俺なら瞬殺するか、視認できない魔法と速度で狙いをつけなくさせるとかかなぁ」
「うちのオックス先輩は勝てば2回戦で、ハスラー先輩は3回戦であれと当たるんだよな。どうすんだろ?」
「ハスラー先輩はその前にシルエ=ストックフォードと当たるわよ?かわいそうに」
「ありゃりゃ。彼女はライ=エン相手にどうすんだろな。土属性だっけ?やっぱ防御が固いのかな?」
「もうすぐ出てくるから見てたらわかるでしょ。そういえばサリビエ=ストックフォードのように金属性ではないのかしら。」
「適正属性は遺伝しないことの方が多いとか授業で言ってなかったっけ?」
「派生属性は別よ。長い歴史の中でも数十人しか現れてないけど、その多くに血のつながりが認められているわ。派生属性の適正が見られた家系ではそれが再現しやすいのよ。二代続いてや兄弟姉妹で派生属性の適正が2人に出現ってこともあったそうだし、実際に今のエン家がそうでしょ?これも1年前期の魔法属性学で言ってたわよ?」
1年前のことなんか忘れたというケオランにユユはため息をつく。
「派生属性って確か4つ、炎と雷、氷と金があるんだっけ?今は炎がいないだけだけだよね?」
「ええ、そう言われているわね。でも、魔法属性学の先生が過去には16種類の属性があったらしいと言ってたわ。そういうことを示唆する過去の文献があっただけで証明する手立てがないらしいけど」
「16種類!?基本6属性と派生4属性だけでも10種類しかないよ?あと6個も……想像がつかないや」
ユユは個別に質問した時に教えてもらったそうだが、授業では世界の認識である通りに教えているらしい。
(炎が爆、氷が凍、雷が~駄目だ思いつかねー。効果が上がるだけで変わるわけじゃねーし。金がさらに派生してダイヤモンドになったり……しないか。失われた属性か……なんかロマンを感じるな)
今までは10種類と言われていた魔法属性。
だが、新たな属性使いがこの後登場するとはこの時誰も想像していなかった。
歓声が上がって試合場を見ると、噂をしていたシルエ=ストックフォードが登場したところだった。
いつの間にやらそれまでの試合は終わっており、オックス、ハスラー両名は人知れず敗北となっていた。
「さぁクロウリアのエース、シルエ=スットクフォードさんが登場してきました。1年生ながらクロウリア最強と呼ばれる彼女の実力とは如何程のものか、ゲッサントゥ様はどう思われますか?」
「見たところ武器は所持していないようですので、遠距離攻撃を得意としているのでしょうか。なんにせよ、緊張はしていないようですね」
試合場に立ったシルエ=ストックフォードは腕を組んだまま仁王立ちしており、不敵な笑みを浮かべている。
その様子から随分と自信家であることが伺えた。
(その態度に実力が追いついてりゃいいけどな。簡単にやられたりしたら爆笑間違いなしだぞ)
試合開始とともにシルエ=ストックフォードは両手で魔法を発動し、ジュウゾウ=オグマのように両腕に土属性の装甲を装備した。
しかし、魔法の習熟度はジュウゾウ=オグマとはレベルが違うことがすぐにわかる。
鈍色で直線的なそのフォルムは一級品と言えるような形状をしており、ジュウゾウ=オグマの装甲を土偶と称すならば、シルエ=ストックフォードのそれはミロのヴィーナスと言えるほどの差がある。
(おそらく、防御力は格段にこっちのが上だな)
しかし、驚きはそれだけではなかった。
「はぁあああああ!」
シルエ=ストックフォードは今度は両脚にも腕と似た形状の装甲を装着したのだ。
「ななななんと!ストックフォードさん、4つの並列魔法を展開しました!足で魔法を発動するなど見たことも聞いたことありません!」
「これはすごい魔法ですね。人外レベルの器用さが必要とされるでしょう」
普通、人間は手から習熟度が上がり、手ほど器用で細かな動作が可能な部位はない。
脚は立ち上がり体のバランスを取るためのものであって、手のような細かい制御をすることには向かない。
以前、トキの魔法について箸を例にしてみたが、利き手ではない手で箸を操ることは訓練次第でできるようにはなる。
だが、足を使ってできるかというと無理であろう。
並列魔法で3つ以上同時展開することはそれくらい無茶なことであり、歴史上それを可能とする者が現れなかったのも当然のものであると言える。
(あいつは今まで会った中で最も俺に近い技術を持ってるな。でも……それだけ器用ならもっと汎用性のある魔法ができたんじゃないか?)
そう評価するのはトキだけで、他の観衆は皆その技量に感嘆の声をあげている。
シルエ=ストックフォードは相手に向かって突進する。
対戦相手のデリック=アザセルは大盾と数本の手斧を持った3年生だ。
デリックは大盾を地面に突き刺してその影から手斧を投擲した。
遠心力とその重量でかなりの威力を持った手斧をシルエ=スットクフォードは腕を楯にして防ぎ、弾いた手斧を空中で掴んで投げ返す。
その速度は体格で劣るはずのデリック=アザセルよりも速く、大盾とぶつかって大きな音をたてた。
大盾にぶつかった手斧は少々変な方向へと弾かれた。
「アザセル君は大盾になにか魔法をかけているのでしょうか。大きな音が鳴りましたが、滑るように手斧は弾かれて大盾はびくともしません」
「おそらくそうでしょう。ここからではよく見えませんが、土と水の混合型魔法でしょうか。硬化系と何かを合わせて持った魔法のようですね」
再びデリック=アザセルが手斧を投擲しようと大盾から身を晒すと、待ち構えていたかのようにシルエ=ストックフォードが離れたところから渾身の右ストレートを放った。
すると、右拳から拳ほどの大きさの石弾が発射され、デリック=アザセルの右腕を直撃する。
大盾の後ろで痛みに悶えている間にシルエ=ストックフォードは全力でダッシュし、大盾の中心に飛び蹴りをかましてデリック=アザセルもろとも吹き飛ばした。
思いっきりの力技で、相手の防御魔法を正面から食い破った。
大盾が頭部に直撃したデリック=アザセルは立ち上がれず、シルエ=ストックフォードの勝利が告げられる。
シルエ=ストックフォードは敗者に向かって笑いながら何かをしゃべって退場していった。
歓声があがり距離があったため聞こえなかったが、短い言葉だったので何を言ったのかトキは気づいた。
(雑魚が、か……。性格に難アリは確定だな、こりゃ。あういうやつを懲らしめるのって楽しいんだけどな~。ライ=エンに代わってもらいますか)
生意気な下級生の鼻を自らへし折るのは難しいだろうと結論づけ、残念無念と思いながらその背を見送った。




