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銀翼の飛翔  作者: fey5
第6章 学園と仲間と ―2年度―
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89話 各校の事情

新暦1348年 ガレリア大陸 アルゼン帝国南東部 コロムロ




ヒッポフ魔法学園の生徒に続いて、クロウリア魔法学園とタルム魔法学園の生徒も翌日に到着した。


さらに、翌日になるとカルティア魔法学園の生徒たちもコロムロへの長旅を終え、トキと再会することになった。



「トキ~久しぶり」

「ひと月ぶりだね」

「元気そうでがっかりしたわ」


「俺はお前らが相変わらずで嬉しいよ」



ケオラン、チーグル、ユユと同席して食事をしながら旅の話をした。


皆の方は特に問題はなく、馬車に乗っていたせいでお尻が痛いくらいだったようだ。


一方トキの方はというと、やはり鳥王との逃走劇が大きな話題になった。


他の生徒たちもそれに耳を傾けていて、皆の関心を寄せていた。


逃げるのに精一杯だったという結末を述べると、学園ギルドのメンバーからはダメ出しをくらってしまった。


素材を得られなかったために、ギルマスまじ使えねーと言われる始末である。


じゃあ自分で取ってこいと言うと、俺たちは正常者だからそんな無駄なことはしないと返された。



「なんにせよ、トキ君が無事でよかったわ」



エレスのフォローが身にしみる。



「個人戦優勝の160pはやっぱ惜しいですよね」


「当たり前じゃない。あるとないでは雲泥の差だわ」



エレスはトキの身よりポイントの方が大切だったようだ。


こういう扱いに慣れてしまっている自分が悲しい。



交流戦まで残り数日。


午前の訓練以外は自由にしていいらしい。


皆休養に充てたり修練に励んだり、下見や観光に出かけたりするようだ。


トキも自由時間はエレス、イリアといちゃついたり、ケオランたちの特訓に付き合ったりして過ごした。


そうこうしているうちにも知らない所で戦いは始まっていたらしく、前哨戦の如く情報戦が行われているとエレスから話を聞いた。



「大体のところは出回っているようよ。タルムは剣魔十傑カイ=エンの息子がエースで、個人戦に出てくるらしいわ。水属性の魔法使いに優秀な人材が多いようね。クロウリアはこちらも剣魔十傑で学園長であるサリビエ=ストックフォードの孫娘の名前が挙がっているわ。祖母と同じ土属性という話よ。他はそれほど有力な生徒は聞いてないわね。ヒッポフはライレリック家の嫡男が筆頭らしいわ。ライレリック家というのは代々達人クラスの弓術士を輩出してきた流派の家元なの。確かサルンガの剣魔十傑ピエール=カーバレルもライレリック流を修めていたはずだわ。他にも強力な剣使いと槍使い、戦斧使いがいて、魔法だけで戦う生徒は皆無らしく何かしらの武器を得意とするって。ギリギリになって最後に到着したアリジニステンはよくわからなくて、3年性の火魔法を使う生徒が強いってくらいね。確定ではないけど、やはりエース的な生徒は個人戦に出てくるみたい」


「下馬評通りなら一番強いというアリジニステンの情報が少ないのが気になりますね」



イリアはそう言うが、トキにとってはどこの誰と戦うことになろうが構わない。


絶対に優勝してご褒美をもらうのだ。



「トキ君、視線がいやらしいですよ」


「え?そ、そんなことないよ?気のせいだって」


「私たちの胸ばっか見てたでしょ。バレバレだよ?」


「男の性だ。気にするでない」


「開き直られても困るんですけど」


「ご褒美は勝たなきゃお預けだからね」


「大丈夫だ。問題ない」



そう言いながらむふーと鼻から息を吐くトキにやれやれといった表情で肩をすくめる二人だった。





時同じくして、クロウリア魔法学園の主要メンバーも情報を整理していた。



「魔法の部と研究の部で2位以上の座を確保して、あとは団子状態になれば総合優勝も見えます。ただ、やはりネックは個人戦でしょうね。シルエ、あなたが優勝してくれたらかなり楽になります。頑張ってください」



理知的な雰囲気を持つ生徒会長イーアン=ストリトスは長机の対面で横向きに右肘をついて、手に顎を乗せた態度をとっているシルエ=ストックフォードに言葉をかけた。


だが、シルエはリズムカルに机を指で叩いたまま反応はしない。


その態度にみかねた上級生がシルエに注意する。



「シルエ=ストックフォード!聞いてるのか!?」


「……うっさいなぁ。聞いてるっつーの。勝てばいいんでしょ、勝てば」


「相手は各学園精鋭の上級生です。あなたといえども簡単には勝てませんよ。誰と当たってもいいように対策を練らないと」


「だ~か~ら~?誰がきたってウチにとってはひとひねりよ。先輩方みたいにね。キャハハハ」



年長者であろうと学園で自分に勝てるものはいない。


その自信が歪曲して他者を見下すようになったシルエは話し合いなど不必要として退室していった。


1年生にして学園最強の座を手にした彼女を制御できるものはこの場にいなかった。


認めたくはないが彼女の実力は確かなため、よい成績を残すために一同は彼女の言動を黙認する他なかったのだ。


皆の秘めたる希望は彼女の鼻っ柱を叩き折ってもらった上での総合優勝であった。


そんな都合の良い話を考えるのは無駄だと思い直し、イーアンは残った生徒と対策の検討を再開した。





別の場所ではタルム魔法学園の面々が会議を行っていた。



「そういうわけで、予想としてはこういう結果になります」



紺の長い髪を三つ編みにした背の低い少女が皆に告げた。


張り出された紙には『優勝アリジニステン420p、2位ヒッポフ410p、同2位カルティア410p、4位タルム400p、5位クロウリア320p』とある。



「研究に関しては我が国が後進国であることは否めません。タルムが勝つには魔法の部で大差の優勝、これは必須です。あとはライ、あなたが準優勝以上してくれればいい線をいくでしょう。欲を言えば優勝して欲しいところですが」


「最高に欲張ると?」


「1,2回戦で銀翼、弓のライレリックを倒しての優勝ですね」


「了~解」


「そうなるには実力もですが、まず運が必要ですよ?」


「俺くじ運はいいんですよ。きっといい組み合わせになりますって」


「だといいんですけどね」



タルムの生徒会長エイラ=タンは嘆息しながら飄々とした態度のライを見ていた。


彼女は2年ほど前、学園長ニッセルト=サガンとトキの戦いを見ていた生徒の一人であった。


氷界の名に相応しい学園長の魔法に対し臆することなく挑み、引き分けとされたあの勝負は未だ鮮明な記憶として残っている。


あの戦いを別にして、トキの勇名がタルム女王国まで届くのに時間はかからなかった。


暴風竜や剣魔十傑を倒した幼き英雄。


空を駆け天を舞う人ならざる傑物。


それがエイラの思っているトキのイメージだ。


ライは強い、そのうち父カイ=エンの後継としてトキと肩を並べる存在になるだろう。


まだ父には及ばないと本人は言うものの、迅雷の異名をとるカイ=エンの若き日に比べると遥かに上だという。


はたしてどちらが上か、それは交流戦の成績と並んでエイラが強く関心を寄せていることだった。





最後に到着したアリジニステン魔法学園の生徒はというと――



「まぁそういうわけだが……こんな情報なぞ我らに必要はないだろう」



生徒会長アイシュタット=フォールセムは情報が書かれた紙をぺしぺしと叩きながら一笑に付した。



「まったく、フォールセム様の言うとおりで」

「我々帝国貴族には必要ありませんわ」

「このようなことで騒いでいては王者としての格が疑われるというものです」



他の生徒たちもアイシュタットと同様に笑って問題としない。


アイシュタットはアルゼン帝国の名門フォールセム大公の嫡男であり、魔法学園においてもその身分に笠に着た横柄な態度を貫き、学園を自分の思い通りにしていた。


身分格差が激しい帝国にあって学園も元々その風潮があったのだが、アイシュタットが入学してからというもの一段と如実に現れていた。


今回出場者として選ばれたのも半分は名門と呼ばれる貴族出身者だった。


玉座に座っているかのようなアイシュタットを取り巻く半数の生徒、それとは反対にもう半数の生徒は離れた席に固まって座っていた。


身分社会において何の権利も持たない彼らの心中は様々だった。


不安に押しつぶされそうな者、状況を楽しんでいる者、他人を思いやる者、惰眠を貪る者、殺意に燃える者。


それぞれの想いはてんでばらばらだった。


そんな十数名の生徒の中に彼――座間権太はいた。


彼はこれまでのことを振り返り、なぜこうなったのか理由を探すべく思いを馳せていた。


(こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃ……。どうして……エックス……)

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