90話 閑話 5×2=10
いつも一緒って意味をこめて。
???
「おはよ~エックス。昨日のハイジ見た?」
「っはよ、ゴンツ。もちろんチェックしたよ。実況して討論して、おかげですっごい眠い」
「さすが同志。俺も眠いわ~。今日2限くらいまでおねむします」
「僕もそうしよっかな~」
「で……昨日のあれ、どう思った?」
「いや~流石○○監督、分かってるね!」
「だよなっ!やっぱさ――」
俺、座間権太は林香高校、通称リン高に通う高校1年生だ。
リン高は普通科の高校で、1クラス30人で1学年8クラスあり、俺は1年7組に在籍している。
俺をゴンツと呼ぶこいつは楠木栄司、あだ名はエックス。
エックスと呼ぶのはクラスでも俺だけで、他のやつらは栄ちゃんと呼んでいる。
エックスは身長が155cmと低いが、美少年風のルックスで学年問わず女子の人気が高く、アイドル的な存在となっている。
告白されたこともあるらしいが彼女はいない。
どうしてだと聞くと、今は(ゲームと漫画とアニメ見るのに)忙しいからと答えるようなやつだ。
だが、これが俺とエックスを結んだ共通点でもある。
俺の見た目はエックスと比べるのもおこがましいとさえ自負している。
身長160cm、体重87kg、とまぁよく横だけに成長したものだと思う。
顔は下の上で、デブ補正により下の中になっている。
運動なんて体育の授業と登下校時の往復で徒歩10分足らずしかしないせいでもある。
小中高と家の各方面に学校が集中していたのだから仕方がない。(高校は近いという理由だけで選んだが)
『運動が嫌いで授業は真面目に受けるデブオタク』という言葉で俺の8割は言い表せれると思う。
残り2割はエックスというリアルの友人がいることで埋められる。
女子や一部の男子から蔑まれることもあるがいじめというほどでもなく、エックスという友人がいるおかげで俺の学校生活は充実していると言えた。
見た目に反してオタクという一面を持つエックス。
中学までぼっちだった俺は高校でも一人で趣味を堪能しようと画策していたのだが、偶然隣の席であったエックスが気さくに話しかけてきたことにより計画は大幅修正されることになった。
(うっわ、なにこのイケメン。死ねばいいのに)
そんなことを思いながら礼儀として俺が名前を言おうとする前に、エックスは聞いてもいない趣味の話をしだしたのだ。
誰かに話したくてしょうがなかったという様子のエックスを止めるのには苦労した。
俺ですら若干引いていたのだから、たぶん他のやつならドン引きだったと思う。
今にしてみればどうしてそうしたのかわからないが、俺はエックスが他の人にも暴走しだすのを止めるようになった。
今まで他人に関わろうとしなかった俺にしては珍しいことだった。
それからというもの、趣味が合った俺たちはすぐに意気投合し、二人して帰宅部となってエックスは俺の家に入り浸るようになった。
エックスは元々漫画やゲームもするスポーツ少年という感じだったらしく、中学ではバレー部に入ってリベロをしていたらしい。
そんで、受験シーズンの休憩中に深夜放送のアニメを見てハマってしまったらしく、成績が落ちてえらい目にあったと笑いながら話していた。
高校に入って俺と知り合ってからというもの、漫画、ゲーム、小説、アニメ、音楽と、いいと思う作品を紹介してやるとエックスは片っ端から網羅していった。
俺の趣味を全面に出すことができ、共に笑い、共に感動し、共に熱くなり、時に意見が対立する。
俺はエックスという友人を得て、今までにはなかった楽しみを覚えるようになった。
10年経ってもこうだった、ああだったと懐かしい思い出話ができる親友になれる、そう思っていたんだ。
だけど、その日の授業が終わってからのHRの最中に、それが永遠に叶わなくなる事件が起こった。
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担任の立花七郎(32歳独身)が連絡事項を読み上げていた。
(今日もエックスが来るって言ってたから、焼いたDVD渡して、板チェックして、夜に……)
そんなことを考えていると突如教室に激震が走った。
ドンと凄まじい音と衝撃がしたかと思うと、座ってもいられないような揺れに襲われた。
クラス中がパニックに陥り、悲鳴が上がる。
座間権太も何が何だかわからず床に転がる。
いつの間にか揺れは収まっていて、気づくと暗い中で横になっていた。
いや、床がほのかに白光していて辺りを照らしている。
次第にその暗さにも目が慣れていくと、俺の周囲でもクラスメートが体を起き上がらせ始めていた。
教室とは違う暗い空間のようで、先ほどまで見えていた窓から覗く日の光もない。
「ゴンツ、ゴンツ、大丈夫?」
「ああ、俺は平気。エックスこそ大丈夫か?」
「うん。でも、様子がおかしい。ここ教室じゃないみたいだ」
「机と椅子もないな。床が光ってるんだけど……エックス、ちょっと立ってみ?」
「うん?……っ!これってゴンツ、まさか!?」
「う~ん……何かしらの魔法陣っぽいと言えばっぽいのかな?ハハハ」
「仮定でそうだとして、どういう系だと思う?」
「それは相手次第でしょ。情報が少なすぎるわ。他に誰もいないし」
エックスが相槌を打つと、クラスメートが騒ぎ出した。
「ここどこだよ!」
「どうなってんだよ、これ!」
「今日バイトなんだけど~マジ勘弁してほしいし~」
収拾がつかない状態になりつつあったその時、教室の後ろ側に穴があったようでそこから人が降りてきた。
なんとも珍妙な服装で生徒たちはヒソヒソと言葉を交わす。
「なに?あいつら。頭おかしい人か?」
「コスプレするならもうちょっと違う方向性でしょ」
「変な宗教勧められそう」
現れた男たちは皆黒っぽいローブを羽織り、髪を後ろになでつけている。
髪の色も様々で、変わった色では紫や緑のような人もいる。
どの人も口を開けて驚いた表情をしている。
不審に思う生徒たちの前へ一人の男が進んで口を開いた。
「君たちは……何者だ?」
一番近くにいた菖蒲京平が答える。
「リン高の生徒だけど?」
「リンコウ……生徒ということは君たちはリンコウという学園の生徒というわけだね」
「はい、そうです」
男たちが火を照らし部屋を明るくしたため、彼らの様子もよくわかるようになった。
代表して答える菖蒲京平も言葉使いを直した。
「君たちはどこの国に属するのだ?」
「日本という国です。あの……ここはどこなんですか?俺たち突然こんなところに来ちゃって。気がついたらここにいたんです」
「ニホン……知らない国だ。ここはガレリア大陸のアルゼン帝国の帝都アリジニステンだ。その王宮の地下にあたる。聞き覚えは?」
「……誰か聞いたことあるか?……誰も知らないようです」
誰ひとりとして大陸にも国にも聞き覚えがなかった。
座間権太は小さい声で楠木栄司に話しかけた。
「あり得るとしたら未来か超古代か異世界か、どっちにしろ現代ってことはなさそうみたいだな」
「だね。あと聞きたいのは僕たちをここに呼んだ目的と戻る手段の有無は確認したいね」
「よし、万事任せた。骨は拾ってやる。GOGOGO!」
まぁここで質問するとしたら自分か、とため息をついて前へと進んだ。
「すみません。二つほどお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ」
「一つ目は私たちがなぜここにいるのか。故意か偶然か。故意であなた方が呼んだのであれば目的をお聞きしたいのです。二つ目は私たちが元の場所へ戻れるかどうか、方法をご存知ですか?」
「一つ目の理由は私たちも知りたい。二つ目も同様だ。この事態は我々も予期していなかった。君たち自身、何か身に覚えはないかな?」
「いえ、私たちも全く予期しない出来事でした。お答えしていただきありがとうございます」
再び小声で相談し合う二人は眉をひそめていた。
「偶発的なものみたいだな。言葉が通じてるのがまずおかしいけど、仕様か?」
「通じないよりかはいいでしょ。それよか帝国って言ってたけど、軍事国家くさくない?」
「思った。異世界人チート兵器部隊に1票」
「自分の身におきるなら笑えないよ。特に変化があるようには思えないし」
「ここだけの話、小声でステータスとかオープンとかシステムとか声に出してみた」
「うわ、それ小声じゃなかったら満点だったのに。で、結果は?」
「聞かぬが仏。でだ、この後の展開について」
「王様、じゃなくて皇帝か。謁見タイム突入一確でしょ」
「んで、素質判定タイム、か。もうちょいひねって欲しいよな」
「仕方ないんじゃない?でも真面目な話、戦争とか言われたらどうする?」
「褒美に美人エルフとかロリドワーフとかのハーレムくれるんなら考えるわ」
「真面目にって言ってるのに。無茶苦茶な要求されたら逃亡もあり?」
「言葉は通じるみたいだけど、まだまだ情報が少なすぎっしょ。食料も金もなしに土地勘もない世界で逃げてどうするってわけよ?」
「戻れないパターンだったら凹むなぁ。今季のアニメ豊作だったのに」
「落ち込むの理由がそこっていうのがエックスらしいけどさ。取り敢えず静観でいんでない?」
「んっ、らじゃ」
二人で話しているうちに男たちとの話し役は担任の立花七郎になっていた。
彼も巻き込まれてしまったらしく、終始落ち着きがない様子だ。
その後の話し合いで教師1名、男子生徒15名、女子生徒14名、合計30名は王宮へと案内されることになった。
二人の予想は順番が逆ではあったものの正解となった。
30名に行われたのは名前と魔力測定の記録だった。
全員が全員、高い魔力量を保持していることがわかったのだ。
低い者でも5000、高い者では13000と軒並みトップクラスの数字を叩き出した。
リン高の生徒には何の検査かは言っていないが、座間権太や楠木栄司は自分たちが何か高い能力を持っているのだと薄々勘づいていた。
検査が終わって数時間待たされることになり、その間も生徒たちの多くは自分たちの未来について不安を抱えていた。
中には泣き出す女生徒もいて、お通夜のような落ち込んだ雰囲気になった。
大人である立花七郎もまた、自分の身が心配で打ちひしがれていた。
そこである男子生徒が立ち上がる。
「皆、どうなってしまったのかよくわからない状況だけど、どうやったら元の場所へ戻れるか。それを探すには落ち込んでいては何も始まらない。だからさ、前を向こう。下ばっか見てちゃ先がわからない。今の自分たちがどういう場所にいるのか、それを知るために周りを見よう。なっ!」
「とらっち、かっこええ。まぁ確かに、下向いてても仕方ないよな。うし!皆もとらっちの言うとおり前を見ようぜ!元いた場所に戻れるように!」
朝雛寅彦の声に菖蒲京平が応え、半数ほどの生徒がそれに同意して励まし合う。
残りの反応は薄く様々だった。
座間権太と楠木栄司はこれから行われる皇帝との謁見のシュミレートに余念がなかった。
相手の要求、自分たちの立場、帝国の国勢、皇帝の人格など、不謹慎ながらも座間権太は楠木栄司とのこうした会話を楽しんでいた。
生贄として召喚という最悪の展開が回避されたことやエックスという友人がいたおかげで心に余裕が持てていたのである。
数時間経ってようやく皇帝との謁見となった。
見上げるような大きな扉が開かれ、謁見の間へと通された。
赤い絨毯に赤い柱、赤い紋章つきの旗が掲げられた壁。
部屋全体が赤を基調としており、謁見の間にいる者たちもそれにそった格好をしている。
並び立つ全身甲冑の騎士は総勢5,60人にもなるだろうか。
物々しい雰囲気である。
騎士たちの奥に壇上の椅子に座る50代ほどの男性がおり、いかにもといった冠と服装を着ており、この人物が皇帝であることが伺えた。
生徒たちが前へと進むと、壇上の下にいた重臣といった感じの男が告げた。
「皇帝陛下の御前である。一同膝をつき頭を垂れよ」
その声に多くの者は周りを見回しながら膝をついて頭を下げた。
残った者も他の者に言われて渋々それに倣う。
「面をあげよ」
皇帝のその言葉で皆頭を上げる。
「余はアルゼン帝国第41代皇帝アリサントロス=アルゼンである。報告によればそなたらはこの世界、少なくともこの大陸の者ではないそうだな」
「は、はい。そのようでございます」
代表して立花七郎が答えるが、その声は震えていた。
「元の世界に戻りたいというそなたらの願いも聞いたが、この度の出来事は調査中の事故ということなのでまかり通らん。追々判明することもあろうが、それまでそなたらを客分として預かろうと思っている。よいな?」
「は、はい。ありがとうございます。し、しかし、私どもは帰れるのでしょうか?」
「あの遺跡の調査は急務ではあるが、確約することはできぬ」
「そ、そんな!わ、私は帰りたい!帰りたいんだ!こんな所に来たくて来たんじゃない!私は被害者なんだ!」
喚きだした立花七郎に対して皇帝は目を細め冷めた視線を送った。
並び立つ騎士たちが身構えるのを見て、生徒たちが立花七郎を嗜める。
「先生、落ち着いて」
「そうですよ、あの人たちも協力してくれると言ってくれてるんですから」
そんな生徒の言葉を振り切って立花七郎は錯乱する。
「うううるさい!私に指図するなっ!私はお前らガキと、私はぁぁあああ!」
「貴様……」
皇帝が重々しい口調で立花七郎に問いかけた。
先ほどにはない冷徹な雰囲気がほとばしっている。
「我が国を、我がアルゼン帝国をこんな所と言いおったか。ふん、気が変わった。そなたらの処遇を変更する。来たるべく戦では最前線に送ってやる。だが、貴様は別だ」
皇帝は何かを合図するように騎士に向かって腕を振るった。
すると、騎士の2名が剣の柄に手を当てて立花七郎へと歩み寄る。
「お、お待ちください、皇帝陛下。なにぶん知らぬ土地に来てしまい、この者を始め皆不安で仕方ないのです。先ほどの言葉は謝罪いたします。申し訳ござしませんでした。どうか平にご容赦を!」
楠木栄司が騎士の前へと進み、土下座をして謝った。
生徒たちはその行動に驚き、騎士たちがどうするつもりだったのか理解した。
しかし、座間権太の考えは違った。
(エックス!それは悪手だ!)
ここまでの会話から皇帝を典型的な独裁的支配者という印象を持っていた。
侮辱的な言動をした立花七郎は不敬罪という皇帝のキルゾーンに踏み込んでしまったのだ。
そして、それを庇おうとする者もその領域に入って頭を下げていることになる。
また気が変わるという可能性は低く、2-8でアウトというのが瞬時に判断した座間権太の予想だ。
そんな座間権太の予想通り、皇帝はそれ以上言葉を吐かずに動作だけで意を示した。
右手でポンポンと2度叩いて再度右に手を振るう。
皆その意味を理解した。
楠木栄司は真っ青な顔で固まり、すぐ近くに立ち止まった騎士を見上げた。
「ックス……エックス!」
動くことができず手だけを伸ばす座間権太の声に反応し、引きつった顔を向けた楠木栄司を騎士の振り上げられた剣が襲う。
それは一瞬の出来事のようで、座間権太は何もできなかった。
嫌な音が耳に届き、地に紅い血が広がる。
生徒たちは悲鳴を上げて後ずさり、状況は阿鼻叫喚となった。
それに続き、立花七郎の叫び声も同じ音の発生とともに消え去る。
周囲を騎士に囲まれた生徒たちに逃げ場などない。
自分の殻に閉じこもり、隣の生徒と抱き合い、今起こった惨状から逃げようとしていた。
そこへ皇帝が再度口を開いて沙汰を下した。
「異世界の若者よ、私は何も今すぐ戦場に行けとは言わぬ。戦場で生き残るための力をつける時間は与えてやろう。魔法の素質があったことを感謝せよ。これからは余と帝国のために尽くすのだ」
高笑いしながら謁見の間を辞した皇帝を見送った面々は茫然自失していた。
立花七郎と楠木栄司の遺体を運ぶ騎士たちを見ても誰も口も挟めず、誰も動けなかった。
残ったのは赤い絨毯にできた赤いシミのみ。
そのシミに手を伸ばし、座間権太は絶叫する。
彼の唯一無二の友人エックスはもういない。
それからの日々は垂れ流すかのように過ぎ去っていった。
歩兵と同じ食事に狭い兵舎。
朝起きて軍事訓練と魔法訓練の毎日。
殺される恐怖に追い立てられての日々に皆疲弊していた。
そんなある日、皇帝から勅命が下る。
アリジニステン魔法学園の生徒として、五国の交流戦に出場し優勝すること。
半数の生徒は逃げ出さないよう人質として残され、男女7名ずつの16名が帝国南東の町コロムロに向かうことになった。
その中にはゴンツこと座間権太の姿もあった。
(異世界、異世界の町だぜ、エックス。ファンタジーだ。でも……お前がいなきゃ楽しくねーよ)
喜びも楽しみも半減以下、むしろ皆無である。
楽しんでいたのは最初だけ。
異世界の町並みはひどく色褪せて見えるのだった。




