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銀翼の飛翔  作者: fey5
第5章 学園と仲間と ―初年度―
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78話 故郷を案内してみた

新暦1348年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア




学園の門に集合した一行は商業ギルドへと向かう。


ハクに取り付けられたのは白い覆いがついたかなり大型の幌馬車だ。


2~3頭で引くのが普通らしいが、ハクは力持ちなので問題ない。


商業ギルドで荷物を乗せると、王都を出発した。


御者はトキがしているが、ハクは頭がいいのでこちらの意図をすぐ読み取ってくれるので楽なものだ。


まずは試運転に馬車の乗り心地を確かめてみる。


常歩では大して問題もないが、整えられた街道でも軽く振動を感じる。


街道を外れると、長時間は耐えられそうにない。


速歩では街道でもガタガタと揺れる。


サスペンションがほしいと思う程度には振動を大きく感じる。


さらに駈歩になると、乗っている者は馬車にしがみついていたほどだった。


体が浮くことがしばしばあり、長時間はきついかもしれない。


襲歩になると、全速になる前に皆からストップと声がかかった。


ハクの場合、駈歩から襲歩までの幅が大きいのだが、早々に皆がギブアップしてしまった。


それでも時間短縮をしたいトキは魔法を試すことにした。


ハクの背に乗っていたときに活躍した魔法。


風の道(ウインドロード)


重量は以前の倍以上あるだろう。


そのため、かなり強化して発動してみた。


一応乗ることはできたが重いと感じる。


空を飛ぶことは難しいかもしれない。


走らせると、まるでツルツルなタイルの上を走っているかのように衝撃がほとんどない。


以降、快適な乗り心地を得ることはできたのだが、ジャクエルからこの馬車はハクの駈歩を超える速度には耐えられないと言われたため、それより少し遅い速度を保った。


普段より数倍の重さを引いているにも関わらず、ハクの体力はなお余裕があった。


それで、少し空を飛んでみてもいいかと皆に聞くと、怖いから止めてくれと言われたので断念した。


ハクよりもトキの魔力が先に尽きることになったが、それでも普通の馬や馬車を使って15日ほどかかる道のりを半分の時間で昼過ぎに到着することができたのだった。





ファウスタイン侯爵領の領都フリーレンに到着した一行はひとまず宿を取ることにした。


ハクと馬車を預けてからファウスタイン侯爵家に向かう。


シリウスとマルサは昼食を終えたところのようで、食後のお茶をしていた。


フェレアは学園祭の折に会っていたようだが、他は初対面だったため紹介をした。


シリウスとマルサはトキと仲良くしてくれている礼を言い、これからも協力してあげるようお願いをしてくれていた。


侯爵夫妻に頭を下げられて恐縮する面々。


トキは心の中でそんな二人に深い感謝をしていた。


イリアの様子も伝え、今日は宿で一泊して明日パイオニル村に向かって墓参りしてくると言うと、侯爵家に泊まればいいと言われた。


宿はすでにとっていたのだが、それでは夕食だけでもと言われついぞご相伴にあずかることにした。


その食事中にシリウスに領民を募集したいが、いい方法が見つからないと相談した。


通常、開拓は国や現地の領主の命令によって行われるのだが、そうでない場合は領主に許可証を発行してもらう必要がある。


その許可証を持って王都の人事局に申請すれば国が各方へ募集してくれるらしい。


人事局というのは流通局と同じ国の行政機関のひとつで、主に国民の就職や行政機関の人事を調整する役所らしい。


開拓希望者や就職希望者は人事局でその募集を見て志望し、現地に来るそうだ。


ジャクエルもこれについては知らなかったようで、散々頭を悩ましていたのが馬鹿らしくなった。


王都に戻ったら仕組みを詳しく聞きに行こうと思う。




翌日、晴れ。


青空の下、轍も消えたやや枯れ草が交じる草原の中をほとんど音を立てずに馬車が行く。



「何もねーな」

「何もないね」

「何もないですね」

「話が違うわ。御者、何とか言いなさい」


「だから何もねーって言ってたろうが!」



パイオニル村周辺は見事に過疎化している。


予めそう注意していたというのに改めて言われると出身者としては傷つく。


誇れるものと言えば、広大な草原と深い森、そしておいしい空気だけだ。



「私に野生児になれっていうのかしら?どこかのトキのように」


「それ、もう俺って言ってるじゃん?それと野生児じゃねーし」


「ふん、まるで陸の孤島ね。ぼっちのトキにはお似合いな場所だわ」


「なんか今日ユユの機嫌が悪くねーか?」


「昨日トキが侯爵様に指輪受け取ってもらいましたって報告してたろ。たぶんそれだ」


「じゃあケオランのせいじゃねーか!」


「俺に直接言えない所がかわいいよな」


「お前の好みのポイントがよく理解できねー。あと被害を被るこっちの身にもなれ」



そんな会話をしながら3日目の昼過ぎにパイオニル村跡地に着いた。


本当に人が住んでいたのだろうかというほど、その景観は自然と同化していた。


これが夏のことだったら、なおさら村の跡地だとわからなかっただろう。


トキ以外の一面は崩れかけ植物に覆われた家々を目にし、当時の様子を思い浮かべ、所々に未だ残る破壊の爪痕に眉をひそめた。


トキの後に従い森との区切れ(?)までいくと、そこには数十もの石が作為的に並べられてあった。


今回はだいぶマシだなというトキに習い、その墓石周辺の掃除を行う。


それに礼を言い皆に紹介をした。



「そっちが父のロクスで、こっちが母のリリー、んでこの小さいのが妹のリアゼな。家族もそうだし、いい村だったんだよ、ほんと……」



少し暗い空気になりつつあったので、トキが切り替えた。



「まっ、そういうわけでさ、なんとか前みたいないい村に戻したいわけよ。だけど、それは俺ひとりじゃ無理だ。皆の協力が必要なわけで、だから、その~……よろしくお願いします」



うまく言葉が見つからなかったトキは深く頭を下げた。


それに対し友人たちは任せろと頷いてくれた。


今日はここに拠点を作り、明日から各調査を行うことになった。


調べることは地質、水源、生息生物、森の資源についてなどだ。


天候をはじめ降雨量、周辺村や街道の整備状況などの情報はファウスタイン侯爵に教えてもらったのでデータは揃っている。


火を囲ってリアゼがどれだけ可愛かったかを熱弁するトキの話を聞く内に、皆いつの間にか寝てしまっていた。



明けて翌日、調査初日は北側と周囲をジャクエル、ラズカールに任せ、本拠地で食事当番にフェレアとチーグルを残し、トキ、ケオラン、ユユは南側の森を担当することにした。


森の中は人の手が入らなくなっていたため、とても歩きにくく体力を奪われる。


カルティア王国の1/3がこの南部の大森林と言われているほど広大で、実際、トキが空中から見ても地平の彼方までずっと森になっている。


冒険心をくすぐるが、歩いても歩いても景観に変化はない。


名前は知らないが常緑樹が多いようで、針葉樹に広葉樹が少し混じる。


幹が太いものがかなり見受けられ、人手があればフリーレンのように住宅や家財用に林業を進めることもできるかもしれない。


足元には雑草や枯れ枝、落ち葉が重なり、背の低いシダ植物などが生えている。


昔サクおばあちゃんとこの森に入っていたことを思い出した。


すうっと息を吸いマイナスイオンを感じたい気分だが、周囲の警戒を怠らずに足を進める。


ちなみに、隊列はトキ、ケオラン、ユユの順だ。


森のさざめきや鳥の声が聞こえてくるが、生き物の姿は見られない。


だが、所々でいくつかの薬になるものを発見した。


取りすぎない程度にそれを背嚢にしまっているとケオランが口を開いた。



「なんか拍子抜けするほど何も起こらないな」


「まだ浅い所だからな。昔ももうちょい先までは人が入ってたんだが、ずっと突き進んでいけばトラブルが待ち構えてるんじゃね?」


「「いってらっしゃいませ」」


「いやいや、俺もそれは勘弁だから。行く気はねーよ。おおまかな植生はわかったし、今日は帰ろうぜ」


「水源は?川とかないのか?」


「そういえば、井戸は村ん中にあったけど、川は見たことないな」


ピュイ


口笛を吹いて上空のギンを呼んだ。


困ったときはギン先生に聞くのが一番である。



「ギン。川とか池とか水があるとこ知らない?」


キュエエ



そして、トキの疑問に答えてくれるギンさんまじ便利。


どうやら西の方に水があるらしい。


そのため昼食も兼ねて一度拠点に戻ることにした。



拠点に戻るとチーグルとフェレアがいちゃつきながら料理をしていた。


二人はこちらに背を向けて座っており、肩を寄せ合ってチーグルが(見ている側としては気持ち悪い)笑顔で鍋を混ぜている。


おのれ、と思ったトキはケオランとユユに静かにとジェスチャーしてチーグルの後ろから忍び寄った。


フェレアにも合図して、鍋を守るように指示する。



「わっ!!」


「ひゃえああ!!」

「きゃっ!」



チーグルの反応は過敏かつ俊敏で、見ていたフェレアも避けられず抱きつかれて倒れてしまった。


慎ましいフェレアの胸に頬を当てる形で。


状況を理解した二人の悲鳴が再び村に響き渡った。



声を聞いて駆けつけたジャクエルとラズカールは、トキとチーグルが顔を真っ赤にしたフェレアに頭を下げている状況を見ることになる。


ケオランはくくくと笑いながらチーグルにラッキーだったなと小さい声でからかっていたが、聞こえていたユユに頭を叩かれていた。



「トキさんのいたずらを許してしまった私にも原因があるのでもういいです」



そう言ったフェレアはなかったことにしたらしい。


区切りをつけて、昼食をとりながら土地を見てきたラズカールとジャクエルから報告を聞いた。



「麦畑跡地ですが、土壌は十分だと思います。ただ、雑草の駆除は大変そうですね。村の規模からするとやや小さいかなと思いましたが、土台がある分普通に開拓するよりは楽だと思いますよ。あと畑の方も大きな問題はありませんが、井戸は生活水として、別に水を引いた方がいいですね。学園に戻ったら農作の計画を考えてみましょう」


「跡地を全て元に戻したとして天災などに見舞われなければ、税も換算すると60~100人が賄える程度かと。人数が少なければそれだけ収穫などで苦労するでしょうね。畑もありますし、開拓する土地もあります。農家や職人など職場や土地が足りていない所はあるでしょうが、やはり場所が問題です。僻地も僻地なのでどれだけ人が集まるかは全く予想できません。そういうわけで、私たちが見た範囲では特にこれといった特徴や利点はなさそうでした」


「そうか。まぁそこは人事局で聞いてみるしかないな。希望者が少なそうだったら何か特典をつけなきゃならんかもな。それは今後考えるとして、水源についてはギンが見つけたらしいから、午後に皆で行ってみようか。西は森もそこまで深くもないから」



全員の了承を得たので、食事を終えた後7人で出発した。


西側の森を縁に沿って真っ直ぐ進むと浅い森があり、その奥にはバドワイ山脈がそびえ立つ。


といっても、近くの山はそれほど高い山ではない。


そびえ立つほどの高さの山はまだまだ奥の方だ。


ギンの案内に従って西の森を進んでいくと、山に沿う形で小川が流れていた。


川幅は広い所でも2mほどの小さな川だが、透明度もそこそこあって綺麗だ。


揺らめく水藻の間を魚が泳いでおり、水面からは冷気がほとばしっている。


冬でも雪は降らないので雪解け水ではないだろうが、キンキンに冷えていそうだ。


水に当たったことはないので、少し飲もうとした。



「え?つめ……たくないどころか、温かいぞ!?」


「え?ほんとだ!あったけー!」

「うわあ。温かい川なんて初めてだよ」

「不思議ね。でも、トキという存在ほどではないわ」



存在が不思議ちゃんというユユの扱いにいつもなら反応するはずだが、トキは何か思案しているようで聞こえていなかった。



「まさか、温泉が沸いてる……のか?」


「は?オンセン?ってなんだ?」


「は?温泉だよ、温泉。まさか知らないのか?」



一同、トキの言う言葉がわからず困った表情をしている。


ユユだけは「ふっまたか。」というような嘲りを浮かべていたが。



「ん?そういえば寮の浴室の湯ってどうやって温めてるんだ?」


「そりゃ火属性の魔法でだろ。火をくべてたら時間かかりすぎるし、それがどうかしたのか?」


「ああ、いや、いいわ。とりあえず、上流に向かってみよう。っと……待てよ」



再び思案するトキに全員がよくわからないといった表情をして、もちろんユユだけは(あなたがおかしいのは)よくわかっているという表情だ。


(ただの温水が湧き出してるだけならいい。原理はよく知らんが地熱性のものか火山性のもの、だったか?バドワイ山脈の話を聞くかぎり後者の可能性が高い。だとすれば……)


突然手を広げて、風を感じるか何かの力を集めるような仕草にいよいよおかしくなったかと全員が思い始めていた。


否、ユユだけは腕を組んで何度も頷き、わかっているようだった。



「トキ、どうしたんだ?」


「ああ、悪い。ここからだとバドワイ山脈の北西に火山があるって知ってるか?火焔竜の縄張りらしいけど」


「え?そうなの?初めて聞いたよ」



ケオラン、ユユ、ジャクエルは知っていたようだ。


自分もうろ覚えだと前述して説明した。



「火山があるってことはその周辺では地震や噴火の危険性がある。でも、いい点もあってな。その近くで温かいお湯が出ることがあるんだ。もしくは何らかの成分を含んだ水だな。それを温泉って言ってな。違う要因の温泉もあるらしいが、地理的に見て地下水が温められた火山性の温泉って可能性が高い。で、問題はここから。火山性の温泉が出るところだと、有毒ガスが発生している可能性もあるんだ。この川の上流に温泉があるとするなら、安全を確かめないとまずい」


「え~っと、温泉ってものがあるかもしれない。だとしたら火山性のそれっぽい。そこでは有毒なものが発生しているかもしれない。で、いいのか?」


「ああ、魚がいるくらいだからここの水自体は大丈夫だと思うけど、念のため口にするな。有毒ガスは風向きによっては気づいたときには死んでいた、なんてことになりかねんからな。刺激臭なら気づく可能性もあるけど、無味無臭ってこともある。だから、皆はここで待機しててくれ。俺は空を飛んで風上から様子を見てくる」



ギンを伴ったが、離れているよう注意を促した。


風はそこそこ強く西から東へ吹いている。


さっきの場所から北へ500mほど進むと、なぜか川幅が大きくなり水量も増えていた。


その変化点を見ると、山脈の下へ潜る本流があった。


先程までのは逸れた支流に過ぎなかったようだ。


そこからさらに先に進むと、川の終わり、いや、始まりが見えた。


そこは岩場に囲まれた幅の広い丸い池のようになっており、上空へ湯気が立ち上っていた。


少し遠いが水の色はさきほどの川と遜色ないようようで、水底でボコボコと湧いている様子も見える。


距離を十分にとり様子を伺っていると、池の縁に動くものがあった。


小動物のようだ。


(あそこらへんは大丈夫か。怖いな。ガス検知器が欲しいんだけど。ギンに先行させて何かあったら嫌だし、仕方ないか)


効果があるかわからないが、疾風の鎧(ゲイルアーマー)を強めに発動したまま、恐る恐るゆっくりと下に降りる。


変な匂いはしないし、体に異常は感じられない。


岩場に足を着いて周囲を観察する。


周辺に動物の骨などもない。


お湯からも特に変わった匂いもしないので、そっと水に手をつけてみた。



「あっつ!!」



とても体を浸かる温度ではない。


よくわからなかったが、確実に40℃を下回ることはないだろう。


ふと見ると、トキのいる場所から少し下った場所でモフっとした毛に包まれたリスのような小動物が温水を飲んでいた。


(かわいい。いやいや、飲めるくらいには安全なんだな。ってか、熱くないんだろうか……)


そこから道を下っていくと、200mほどいったところで気持ちがいいくらいの水温になっていた。


(湧出量は多いし、安全が確保できるなら温泉宿作ろうかな。ちょうどいい水温の所まで来ると水量は少なくなるから工事が必要だろうな)


服を脱いで入りたかったが、とりあえず仲間の所へ戻ることにした。

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