77話 後期試験と約束の印
新暦1348年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
イリアの受験の前にトキたちには後期試験がやってきていた。
前期と同じく皆一丸となって協力して挑んだ。
筆記試験に関しては、今回はやや不安もあったが、ギルドのネットワークを活かして先輩方から過去問やノート(品質は悪い)を貸してもらったのでなんとかなった。
魔法実践Ⅱ、運動Ⅱ、建築学Ⅱ、薬草学Ⅱ、風魔法Ⅱ、治癒魔法Ⅱ、剣術Ⅱ、体術Ⅱは実技試験だった。
魔法実践Ⅱは二つの属性魔法を初級レベルで発現すること。
まぁこれは入学当初からほとんどの者ができていたので簡単に終わった。
運動Ⅱは行軍訓練だったのだが、荷物は軽いし、距離も10kmで遠足気分だった。
やはりあの補習は誰かしらの悪意が介入した結果だろう。
建築学Ⅱは全員で計画を立てて馬小屋を建てるというもので、厩舎の管理人からハクが大きくなりすぎたので新しくしてほしいという要望を授業で取り入れた結果だった。
後期を丸々これに費やし、途中飼い主であるトキが抜けることもあったが、無事期間内に建てることができた。
薬草学Ⅱはくじを引き、そこに書かれた症状を改善する薬を数十種類の薬草などから選択し、作るという面白い試験だった。
トキはラッキーなことに熱冷ましと簡単な部類で、複雑な工程が必要なものを引いた者をかわいそうにと眺めていた。
風魔法ⅡはⅢだろうがⅣだろうが、トキには問題ない。
治癒魔法は切り傷を治すというもので、自傷をためらう女子生徒が多かったため、トキたち男子が何度も傷つけては治すを繰り返すハメになった。
剣術Ⅱは教官との魔法なしの模擬戦で勝ち負けは問わないということだったが、勝てたのはトキと生徒会のファエルだけだった。
トキは防御に徹しての受け流しカウンターで辛くも勝てたが、ファエルは体重で勝る相手に正面から切り結んでいた。
ファエルが昔から習っていた騎士団の剣術は元々守ることに秀でていたのだが、トキと剣を交える内に攻撃面で目覚しい進歩を遂げていた。
その事実にファエル自身気づいてはいるが、礼を言うつもりもなく口を閉ざして剣を振るっている。
体術Ⅱは1kmほどの障害物走を決められた時間内にゴールした後に、教官との乱取り(1分間)だった。
楽をしたいと考えたトキは教官の打撃を掻い潜って懐に潜り、前回りで踏み込み体を沈めにわか1本背負いで投げた。
初めてかけられた技に受身も取れず、回る視界と痛みで気が動転している間に、そのまま持っていた腕に逆十字固めをかけて1分を待った。
手加減はしたのだが、教官の悲鳴に他の生徒が引いていたのはご愛嬌だ。
「さすが、剣鬼の弟子。まじ鬼だな」
これはケオランの言である。
それとは別に、今度朝のトレーニングの時にさっきの投げ技と関節技を教えてくれと言われた。
かまわないのだが、「おお、できた」と自分でも驚くくらいの初心者なので、正しい指導ができるかは疑問ではある。
そんなこんなで後期試験も終わり、成績表が配られ上位者が掲示板に提示された。
1年後期
首席 ファエル=ジブリスタ
次席 ユユ=クリストット
三席 ロインツ=クロムヴォル
四席 クウ=シャオラ
五席 シンク=テルガー
六席 クェーリ=ミグリー
七席 トキニア=ゼペルルクス
八席 ナナテア=エブリッツァ
九席 ゴルトウィッツ=インテリーア
十席 チーグル=クアン
後期はファエルが首席を獲得した。
おそらくかなり努力したのだろう。
トキは七席まで落ちたが、大して気にならない。
資金面では余裕が出来たし、授業に出れなかった分、筆記試験で少々手こずったことが影響したのだろう。
ユユも授業料免除になっているし、チーグルが躍進したことの方が嬉しかった。
ケオランは実技系に力を入れていたため、筆記試験はなんとか合格できたと言っていたので後期もランク外だった。
学園ギルドのメンバーも落第者はいなかったためほっとした。
余談だが、成績は各科目毎に点数ではなく、不可、可、良、秀、優の5段階で評価される。
不可を取ってしまい単位不足となれば、追試を受ける形となり、それにも落ちると退学となるらしい。
トキは良2、秀4、優6だった。
ちなみに、前期は秀5、優8。
それぞれ成績表を見たり見せ合ったりしていると、担任のナルバンド=ウリエンが静粛にと皆に注目させた。
「まず、このクラスで追試を受ける者がいないことを嬉しく思います。君たちは春休みを挟んで2年生となるわけですが、2年になるとより専門的な分野の授業が行われます。各自、進路について春休みの間にしっかりと考えてください。家に帰ってご家族と相談するのもいいでしょう。新学期が始まれば君たちにも後輩ができます。先達としてそれに相応しい言動をとることを心がけてください。それと、来年は夏休みに魔法学園交流戦がアルゼン帝国南東部の街コロムロで開催される予定です。5年毎に開催されるもので、本校は初出場になりますね。それに合わせて前期の行事も少し変更されます。詳しくは掲示板を見てください。では、皆さん。体に気をつけてよい春休みを」
交流戦というのは初めて聞いたが、先に掲示板を見ていたチーグルが説明してくれた。
魔法文化の発展や学生によい刺激を与える場として30年ほど前から始まったらしい。
高尚な目的がある一方、自国の魔法戦力を誇示し他国への牽制するという意味もあるとか。
交流戦は戦闘の部と魔法の部、研究の部の3つに分けられており、戦闘の部は個人戦13名と団体戦5人1組を2チーム10人、魔法の部は自由に魔法を披露し、その見栄えや精度を競うもので各学年2名ずつ、研究の部は各校5名までの1グループとなっている。
出場種目は重複できず、治癒や装備の点検などサポート要員を含めると50名ほどの団体となる上、希望者は観戦することもできるらしい。
戦闘の部と魔法の部はトーナメント方式になっており、各種目の順位によって以下の点数が加算されて総合優勝を争う。
戦闘の部 個人戦 64名(計480p)※開催国のみ12名
優勝:160p
準優勝:80p
ベスト4:40p
ベスト8:20p
ベスト16:10p
戦闘の部 団体戦 5名×10チーム(計200p)
優勝:80p
準優勝:60p
3位:40p
ベスト5:20p
魔法の部 学年毎10名×3(計600p)
優勝:80p
準優勝:60p
3位:40p
ベスト5:20p
研究の部 5チーム(計600p)
優勝:200p
準優勝:160p
3位:120p
4位:80p
5位:40p
初の五カ国参加による開催のためその中間にあたり、大河近くで海路でも行けるコロムロが開催地となった。
三カ国のみの参加であった時代、アルゼン帝国で開催される場合にこのコロムロが開催地にされており、収容人数2万人という四角い巨大闘技場が用いられてきた。
カルティアからは陸路で片道ひと月近くかかるらしく、夏休みは完全に潰れることになる。
出場者は生徒会が中心になって選抜し強化訓練をするということで、トキは戦闘の部で声がかかりそうだという。
前回大会はアルゼン帝国の国立魔法学園が総合優勝し、各部門で優秀な成績を残した者は賞賛と名誉が与えられ、あちこちから就職の話が舞い込んだとか。
トキはどうでもいいと思っているのだが、周りでは学園の威信をかけて全力で挑む機運が高まっていた。
今年の一大イベントで、観戦希望者もかなりの数にのぼりそうだ。
しかし、それもまだ半年以上先のこと。
トキたちは春休みの予定を話し合った。
ギルド本部に集合したメンバーはトキ、ケオラン、ユユ、チーグル、ジャクエル、フェレアそして、農業部部長のラズカール=シンプソンの7人だ。
イリアは受験のため、エレスは受験者を迎える側として王都に残る。
フェレアはチーグルに誘われたためで、トキたちが一緒ならとハウゼン男爵から許可をもらったらしい。
ラズエルはパイオニル村の現状から、農業面での意見を聞きたいため同行をお願いした。
寝泊りは野宿か、ファウスタイン侯爵家のあるフリーレンで宿を取るつもりだ。
「ジャクエル、馬車の手筈はどうなった?」
「大型のものを格安で譲ってもらいました。厩舎につけてあります。これが馬車を合わせた請求書です」
「ん、わかった。食料とかの旅荷は?」
「商業ギルドに行けばいつでも受け取れるようになっています」
「よし、じゃ~皆は自分の荷物を纏めて、明日の早朝1の鐘に魔法学園の門に集合としよう」
「わかった」
「了解」
「分かりました」
その場で解散とし、トキはジョーの所へと向かった。
「毎度~っす。おやっさん、いますか~?」
「トキ、待ってたぞ。例のものが出来てるから裏に来てくれ」
店裏の倉庫前にはハク専用のハーネス(馬車と馬を繋ぐ馬具)が鎮座していた。
丸い輪っかのようなものをかぶせるらしく、ジョーにつけ方を教えてもらった。
ジョー曰く、ハクの力なら大型馬車だろうが一頭引きでいけるらしい。
その分、馬具の素材にはこだわっており、余っていた暴風竜の革と筋を使用し、負荷がかかる輪の内部にはプリュウムという軟体生物の体液を詰めているという。
プリュウムというは弾力に富んだ丸い水色の体を持ち、刃物では一切傷つかない無害な生き物で、持ち上げて水に沈めると死んでしまう憐れな生物のことである。
生態はよくわかっておらず、魔物化すると体色が赤くなり、触れると溶解しようとしてくる定形のスライムのような生物だ。
それを革の輪に詰め込んで結んだらしく、確かに弾力感があって癖になりそうな感触だった。
ともあれ、これでハクに馬車を引いてもらうことができる。
「おやっさん。それともうひとつの方は?」
「そっちも間に合ったぜ。ほいほいほいっと」
「え?うわ、わわわわ!」
ジョーが3つの小箱をトキに放り投げた。
「ちょ、大事なものなんですから、丁重に扱ってくださいよ」
「俺ぁラヴってのを信じねータチでな。信じるのはパッションだけだ」
「それ、ラヴにフェアを加えたらどこのリンさんって話ですよ?それ以前に俺お客様なんですけど?」
「店側も客を選ぶんだよ」
「閑古鳥が鳴くわけだわ。そういや、おやっさんは結婚してないんですよね?」
「ま~そういう相手にとんと縁がなくてな。別にしたくないわけでもねーんだよ」
「おやっさんって何歳っすか?」
「今年で29になるな」
「うそぉ!!?」
出会って3年以上たつが、ここにきて驚きの新事実である。
スキンヘッドに髭面で右目をはじめ古傷が多い外見から40代くらいと思っていた。
ところで、俺が29だと悪いんか、ああ?みたいなそういうメンチを切る行為は止めてほしい。
「お若かったんですね、おやっさん」
「ふん。まぁウチには女の客はこねーし、来るといえばお前んとこのガキどもばっかだからな。結婚なんてまだまだねーだろうよ」
「学園ギルドのメンバーですか?職人の。まだ来てるんですか?」
「ああ。縫製のサリー、ミランダのちびっ子コンビと革のイェン、クウトの師弟コンビ、あと細工のオルティナくらいだがな。そうだ、トキ。お前、ギルマスならちびっ子コンビに注意しとけ。あいつらウチの食い物やら素材やらを根こそぎかっぱらっていくんだぞ?余った物ならまだしも、結構な額が消えてっちまうんだよ」
「うわ~それはすみません。よく言い聞かせときます。他のやつは作品の相談とかっすか?」
「そうだな。イェンとクウトは真面目なもんで、俺の仕事の手伝いがほとんどだな。その分、少しだが金も渡してる。オルティナはいつも俺の仕事を後ろから見て勉強してる。そいつを作るときはあいつの意見を聞いてみたりもした」
良いように職人たちの勉強になっているようだ。
(サリーとミランダはダメっぽいけど。あいつら命知らずだな)
それで完成したのがこれというわけだ。
小箱を開けると、銀色の光が漏れた。
銀色のリングが二つ並んだ形をしており、それを土台にして縁つきの大きな宝石の周りを、五方向にやや小さい縁つきの宝石がくっつき花柄を模している。
加工方法に検討がつかないほど細かなカットがされた宝石は、多方向にその透き通るような銀色を瞬かせ、輝かしいのにも関わらず目を細める必要がない不思議な光を放っている。
「すっげー綺麗……」
「俺も加工を頼んで返ってきた時は驚いたぜ。オルティナもそれをすっげー欲しがってな、大変だったわ、がははは」
「これは大満足です。ありがとうございました」
「その分、高くついたぞ。ひとつにつき、ウチは金貨2枚、魔石の加工には金貨20枚かかった。計金貨66枚だな」
「いや、それくらいの価値はあるでしょう、これは。即金で払いますよ。加工した方にもお礼を言いたいくらいです」
「いや、人嫌いの偏屈な相手だからな。まぁ俺から伝えとくわ。サイズが違うから、それぞれ名前を小箱に刻んでるからな。渡す相手を間違えんなよ」
「ははは。それは最悪ですね。気をつけます」
依頼金と再度礼を言って、店を出て駆け出した。
早く渡したくてたまらなかった。
まずはエレスを探した。
トキとしては両方一緒に渡したかったが、生徒会室にいるだろうと予測もついていたし、イリアならエレス先輩から先に渡してと言いそうだからだ。
エレスはイリアに気を使いつつも遠慮はしないが、イリアは何かとエレスを立てることが多い。
階段を駆け上り、生徒会室の前で息を整えノックする。
出てきたのは1年のクウ=シャオラだった。
トキの姿を見て、一言「会長?」とだけ告げる。
首肯して答えると、一度ドアを閉められた。
すると、すぐにエレスが廊下へと出てきた。
「トキ君、珍しいですね。あなたが生徒会室まで来るなんて。よっぽどの急用かしら?」
「明日の早朝には王都を出発するから、そのお別れに」
「……そっか。しばらく会えなくなりますね。いいなぁ……私もトキ君の故郷に見たかった……」
少し俯いて残念がるエレス。
その頭を撫でながら背中に手をやり抱き寄せる。
エレスはその行為に驚き、かなり肩に力が入っているようで自分の服の裾を握っている。
「いつか案内する、必ず。家族にも紹介したいしな」
「……うん」
そう言って手を解いて、恐る恐るトキの背中に手を回した。
少しの間柔らかな髪と体、女の子特有のいい香りに包まれたトキは先ほどの小箱を開けながら言う。
「それと、これはその約束の印として受け取ってほしい」
二人の間で光が溢れる。
その美しさに目を奪われたエレスだが、トキを見上げ満面の笑みで飛びついた。
感謝感激の言葉を送り、トキに指輪を通してもらう。
「……ありがとう。大切にしますね」
大事そうに両手を重ねながら、そう言ったエレスの笑顔がたまらなく愛しく思えた。
エレスの頬に手を当て、そのまま自然にキスをする。
心臓の高鳴りが耳に届く。
柔らかな感触があったような、なかったような。
とても短い気がしたキスをして、じゃあまた、と言って背を向けて歩き出した。
エレスはそれを見送った後、壁に背を預けてへたりこんだ。
心臓のバクバクが止まらない。
5分ほどしてようやく胸が収まってから生徒会室に入ったのだが、顔の方はまだ紅く、指輪も相まってルウによる質問攻めを受けたのは仕方ないことだった。
そして、トキはエレスから姿が見えなくなった所で走り出していた。
そして、屋外修練場で叫んだ。
(やっちまった。いや、でも、いいだろ。キスくらい。婚約者なんだし。可愛いエレスがいけない、うん。でもこのままイリアに会うのもなぁ)
後悔はない、むしろまだしたいくらいなのだが、続けて別の女性に会うことには躊躇いがあった。
(どんな顔していけばいいんだよ)
俯きながら学園を出て歩く。
「トキ?」
後ろから呼ばれてドキッとする。
まさか、と後ろを振り向くとケオラン、ユユがそこにいた。
「ふぅぅぅ。お前らか。驚かせんなよ」
「なんだ?何かやましいことでもあったのか?」
「いや、別に……」
ズバリ的中なのだが、誤魔化そうとした。
そこへユユがケオラン同様ズバリ的中なことを言い出した。
「おおかた女でしょ。どっちつかずの行動で、片方に入れ込んでもう片方に会わせる顔がない、どうしようって悩んでるんじゃない?その会わせる顔がない相手と私たちを勘違いしたってところかしら?」
「ぐっ……想像力が豊かですな、ユユさんや」
「半端なコウモリ野郎は男女問わず軽蔑されるものよ、トキさんや。自分の決意を貫けないあなたなんて翼のないイモムシと同じよ。行きましょう、ケリー」
「あ、ああ」
よく理解できなかったトキはケオランとユユが去って行ってから呟いた。
「翼があるイモムシ=……奇妙奇天烈?翼がないイモムシ=普通のイモムシ?って、ざけんなー!」
どっちにしろイモムシ程度の扱いであることに怒ったトキだが、自分の決意を貫こうと考え直した。
二人を守ること、二人と一緒に幸せになること。
意気込んだトキは王都のファウスタイン侯爵家を訪問した。
生憎と今は不在で、授業はもうないはずだが、イリアが通っているカルレイナ女学院で他の受験希望者と勉強していると執事から聞いた。
その近くで待っていれば帰ってくる時に会えるはずだが、トキはその学院へと向かった。
だが、残念ながら敷地内は関係者以外立ち入り禁止らしく、守衛の兵士に止められてしまう。
「私はカルティア魔法学園1年トキニア=ゼペルルクスと申します。こちらに通われている婚約者であるイリアフェル=ファウスタイン嬢との面会を希望します。お取次ぎ願えませんか?」
トキの名前を聞き、身分証明書を確認して警戒を解いた守衛たちは少々お待ちを、と言って敷地内に一人が走っていった。
10分ほどすると校内放送が流れてイリアが呼び出された。
悪いことをしたなと反省し、さらに10分ほど待つと二人の女生徒が校舎から出てきた。
しかも、あちこちの教室から生徒が顔を覗かせこちらに注目している。
「ん?イリア、今度は違う男だぞ?」
そう言ったのは茶色がかった黒髪を後ろで結びポニーテールのようにしたキリッとした顔立ちの女子生徒だ。
「え?あっ!トキ!?」
その背中から顔を覗かせてトキを見たイリアは、ぱぁっと花が咲いたような笑顔をして駆けてきた。
「イリア、ごめん。なんか大事になっちゃって」
「ううん、気にしないで。まさかトキが学院を訪ねてくるとは思っていなくって驚いちゃった」
イリアはトキと二人の時は砕けた口調になっていた。
「それで、どうしたの?」
「ああ、明日の早朝に王都を出発することになったから、お別れを言おうと思って」
「明日……そっか。お父様とお母様によろしく言っておいてね」
「ああ、必ず。それと、これ。不安にならないようにって言ってたやつなんだけど、受け取ってくれるかな?」
小箱を開けてイリアに見せると、口を両手で隠すようにして驚いた。
「……れしい。うれしい。ありがとう」
イリアの目からは大粒の涙が溢れていた。
指輪をイリアの指に通すと、イリアがハッとしてトキに聞いた。
「エレス先輩は?エレス先輩にはもう渡したの?」
「イリアならそう言うかなと思ってさっき渡した。それで……」
イリアは先に渡したと聞いてホッとし、続く言葉に何かあったのかと心配になった。
「エレスに渡したとき……キス、して……んぅ!?」
近づいてきたイリアが背を伸ばしながらトキの首に手を回し、口を塞いだ。
「ふぅ。……エレス先輩とキスして……なぁに?」
不敵な笑顔を浮かべるイリアだが、顔は紅い。
「……ふっくくく、ははは!ったく、イリアは格好良いな。さすが俺の婚約者だわ」
「でしょ?でも……もう1回、今度はトキからしてくれない?」
ん、と言って今度はトキからキスをした。
柔らかく軽く唇を当て合ってから、舌でイリアの唇、そして舌、口内を蹂躙する。
結構長い時間キスをして、終わった時にはイリアは力が抜けている様子だった。
「一応待っていただけど、人前、しかも学院の門前であなたたちやりすぎよ。というより、イリア。ちょっと問題になるんじゃない?」
「「あっ」」
他の存在に気づき、二人で猛省した。
付き添いで来てた子はコウというイリアの親友らしく、魔法学園を受験すると軽く紹介された。
イリアにお別れを言って寮に帰ることに。
その後学院中でキャーキャーと噂が飛び交い、受験勉強の合間に質問攻めにあった。
自業自得である。




