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銀翼の飛翔  作者: fey5
第5章 学園と仲間と ―初年度―
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72話 戻ってきて……

新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア




王都の南門をくぐると民衆の盛大な歓声が出迎えた。


長い大通りに溢れかえるほどの人たちが新たな王太子妃を一目見ようと集まっていた。


途中の街中でも熱烈な歓迎ぶりだったが、王都となると人数や歓声の規模が違う。


建国記念日に合わせて商売に励む露店も出されており、王都中がお祭り騒ぎのようだ。


アリビアはそれに笑顔で応え、一団はパレードさながらの行進を行った。


第二区画の門に来たところでトキはお役目御免となり、アリビアに別れを告げた。



「これにて依頼完了となりますので、私はこれにて失礼させていただきます。アリビア王女殿下」


「ご苦労様でした。トキがいてくれて暇をもてなすこともなく、安心してここまで来れました。また会える日を楽しみにしています」


「恐悦至極に存じ上げます。アリビア王女殿下もご健勝であられますようお祈りいたしております」


「ありがとう。では、また」



一行を見送ったトキはまずは学園長のロリックへ報告することにした。


数週間離れていただけだったが、ひどく懐かしい思いをしながら魔法学園内を歩く。


平日の昼過ぎなので今は授業中なのだろう。


野外演習場に生徒がチラッと見えたが、他に生徒の姿は見当たらない。


学園長室を訪ねると、ロリックが執務机に座って出迎えた。



「学園長先生、ただいま戻りました」


「帰ったか。また無茶したらしいな」


「派手な歓迎を受けましたよ。死神、赤狼にSランク傭兵団500名。学園長先生の予想を上回ってましたよ?」


「その点はすまない。宰相閣下には嫌味をたっぷりと言ってやりなさい。さて、詳細と君の考えを聞こうか」



話が違ったと暗に皮肉ったのだが、ロリックは素直に謝罪した。


言われてみればあの爺さんに言うべきことかと思い、それ以上は言及しなかった。



「とまぁ、こんな感じですね。ブンゴット辺境伯を叩けば色々出てきそうではありますが、そこからは上が考えることでしょう」


「なるほどな。…大丈夫かね?」


「それは…私のことですか?」


「そうだ。師の仇と数百人もの人間を手にかけたんだ。何かしら思うこともあるのではないのかね?」


「そう、ですね。人を殺すことに忌避感がないわけではないです。気分も悪いですし。ただ…自分の守りたいものを守るためならと思うと、判断は鈍らなかったですね。積極的に盗賊とか犯罪者を殺そうとは思いませんけど」


「ふむ。自分の中で線引きはきっちりしておきなさい。何のために魔法を使い、剣を振るうのか。これは師匠としての忠告だ」


「わかりました」


「今日のところは寮に帰って休みなさい。それと報酬は後日、冒険者ギルドに行けば受け取れるようになっているぞ。明日は授業も休みだからゆっくりして、授業は来週から出なさい」



返事をして言われた通り今日は休むことにした。



ケオランが部屋に帰ってきたことにも気づかず翌朝まで爆睡したトキは、起きていつものメンバーと早朝のトレーニングをしながら経緯を話した。



「本当に毎度毎度無茶するよな、トキは」


「本当に毎度毎度驚かせてくれるよね、トキは」


「本当に毎度毎度この時期は湿気が多くて嫌だわ」



ケオランとチーグルは呆れたように、ユユは自分の髪先を弄びながらつぶやいた。



「お~ユユの反応が呆れや嫌悪を通り越して無関心になっている」


「愛の反対だね。トキにも愛想が尽きたってかんじかな?」


「罵倒されていた頃が懐かしいわぁ~」



「おい、言ったろ。そうなったのは不可抗力だっての!」


「いや、トキさぁ。俺もたぶんユユも思ってることだけど、もっと安全策を講じれたんじゃないか?護衛がお前一人ならまだしも、騎士団だっていたんだろ?結果的にはそれでもよかったのかもしれねーけどさ、もっと周りを頼るべきだったんじゃないか?」


「う~ん……まぁ確かに。ガルツ=ルーパーはまだしも、傭兵団の方は…いや、その前に自戦力を把握してなかったのがまずかったかな。騎士団側にも俺のこと教えてなかったし。そうすりゃ違った判断もしたかもな」


「そんな状態で戦闘になってよく勝てたよ。しかも剣魔十傑2名を撃破って、英雄にでもなるつもりか?」


「そういや言ってなかったっけ?俺、将来は故郷の復興を目指してるからド田舎に引っ込むぞ?そうだった。お前らにも手伝って欲しいんだけど、いいだろ?」


「「「…………」」」



3人とも目を点にして固まってしまった。



「あ~悪い。急な話だし、まぁ空いた時間にでも「「「このバカ!!」」」……え?なんで?」


「忘れてたような言い方してんじゃねーよ!」

「散々悩んでたのが馬鹿らしくなるね」

「……バカ」


「なに?俺が悪いの?なんで?」



嘆息しながら呆れたような視線を向けられるが、3人の心中が理解できないトキ。


トキの中ではいつの間にか3人の協力は確定事項になっていたので、軽い口調で悪く言えば上から目線で誘ってしまった。


よく言えば仲間として信頼していることを示しており、トキの言動からもおそらくそうなのだと思われた。


そういう関係であることに安心感を覚える一方で、もう少し言い方を考えろともっと文句を言いたい3人だった。



「まぁそういうわけで、資金は今んとこ十分貯まってるから食うには困らないと思う。あとは人材と現地調査だな。春休みに調べるつもり。一緒に行くか?」


「実家には夏に帰ったし、俺はいいぜ」


「僕もかまわないよ」


「ケリーが行くなら私も行くわ」


「あと、ジャクエルも誘っとくかな。となると馬車買わなきゃならんな。時間はあるし、追々煮詰めていくか」



トレーニングを終えてから汗を流し、学園ギルドの本部に向かった。


ギルドメンバーからお帰りなさいと声をかけられると胸をこみ上げてくるものがあった。


どこから漏れたのか昨日帰ってきたばかりだというのに、トキが剣魔十傑を2名倒したことも知られていた。


王都中噂になっているらしく、皆真相を聞きたくてしょうがないといった様子だ。


責任者なのにろくな説明もせずに留守にしてしまった手前、報告する義理もあるかと思い皆を集めるように言った。



「とまぁこんなかんじだ。ジャクエル、ギルドの方で変わったことはあったか?」


「いえ、ありません。しかし、これでは例のものは必要ないかもしれませんね」



ジャクエルの言葉にあちこちから同意する声があがる。


要領を得ないトキにジャクエルが答えた。



「念のためギルマスが間に合った時のために建国記念日の計画を練っていたのですが、剣魔十傑2名にSクラス傭兵団を撃破というのが事実ならば何かしらの報奨が与えられるでしょう。前例はありませんが、最年少かつ学生でSSランク昇格もありえますよ。冒険者ギルドに問い合わせてみてください。そうなれば、後ろ盾としては十分なのものになるでしょう」


「ふ~ん、まあ変なことせずに済むならそれでいっか。今日の昼にでも行ってみるわ」


「軽すぎだろ!」

「SSランクだぞ!?SSランク!」

「剣魔十傑にもなるかもしれないんだぞ!?」



どうでもいいような反応に皆から避難が殺到し、面を食らいつつも飄々と答える。



「Sランクになった時点でSSランクの依頼も受けられるから大した意味はねーだろ。最年少だろうがそんな記録ってのはすぐに塗り替えられるもんなんだよ。変な称号もいらん。俺は俺。違うか?」



肩をすくめながら言うトキに呆気にとられつつも、こういうやつだったと納得もするメンバー達。


苦笑、そして次第に嘲笑のような笑いに包まれた。


その反応にニヤリと笑ったトキは話題を変えた。



「ところで、後期の活動についてはどうなった?」


「各々グループに別れて随時活動しています。魔法部門7グループは依頼と研究をしており、後期予算を優先して回しました。冒険者部門5グループはギルマスを除きCランク3名、Dランク8名、Eランク12名で2年8名はDランク以上となり、1年も近々全員がDランクになるでしょう。初期装備は行き渡っています。商業部門は取り扱う商品毎に別れ、それぞれ少しずつですが利益を出しています。依頼報酬や利益の一部をギルドで預かり、農業部門と職人部門に割り当ててそこから商品を作って売るという形ですね」


「後期残り予算と月での純利はどのくらいになる?」


「残りは金貨4枚と少し、純利は月金貨6枚ほどですね。学園祭の利益はそのまま金貨24枚ほど残しています」


「そうか。学園祭の元手はまだ俺が出さんとならんな。新人勧誘の方は?」


「部門毎の偏りは度外視して30~50名を目標にして、集団演武や料理の提供、職人による実演を行う予定です」


「わかった。他に何かあるか?」


「オルティナとカットンがつけてるギルド章つきのリングをギルドメンバーの証みたいにしたいんだけど」


「あれいいよね~」

「俺も欲しいわ」

「ギルマスもつけてるよな」



羨ましかったのだろう、皆が騒ぎ出した。



「はいはい!静かに!言われてみれば、個人の証明になるようなものはなかったから俺もいいと思う。オルティナ、カットン。安い素材で作るならひとついくらで作れる?」


「たぶん銅貨1枚はかからないかな。鉄貨6~8枚ってところだと思う」


「じゃ~二人はそれ優先で作業を進めてくれ。商業部は二人とよく相談して素材交渉に当たれ。後期予算から捻出しろ。他は?」


「家畜を飼いたいんですけど、まだ駄目ですか?」



農業部長が恐る恐るといった感じに手を挙げて言った。



「何を飼うつもりだ?」


「乳からギルマスがチーズって呼んでたものと卵を取りたいんです」


「あ~学園祭でも出せるようにか。卵はなんて鳥だ?乳の方はクレウスとか言ったか、あの黒牛。1頭いくらすんだ?」


「卵はクック鳥が一般的ですね。1羽銀貨4,5枚ってところでしょうか。クレウスの肉は安い方ですが、金貨5,6枚はします」


「ジャクエル、学園祭の料理をそこから賄うのは現実的か?」


「相当数必要になるでしょうから、購入費と飼育費がかかりすぎて金銭的にも場所的にも無理でしょう」


「ということだ。それでも飼いたいなら皆が納得する内容で話を持ってこい。ただし、チーズ作りは構わんだろう。試験的に少量から行っていき様子をみよう。商業部、料理人と相談しとけ。他は?……うし、会議みたいになっちまったが、目標に向けて各々励むように。解散!」



その後、ジャクエルにケオラン達の協力が得れたことを話した。


ジェクエルはトキの口ぶりから、自分より前にそうしていたとばかり思っていたようだ。


経緯を話すとケオラン達の心情を含めて説教された。


色々と腑に落ちたのだが、それでも自分が悪いのかと文句を言いたいトキであった。

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