73話 これより裁判を始めます
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
冒険者ギルドのギルマスを訪ねると、ジャクエルの予想通り年明けの会合でトキをSSランクに推薦すると言われた。
剣魔十傑も2名を欠いたので、そちらにも名前が上がるだろうとのことだ。
ちなみに剣魔十傑は10名が定員というわけではないらしい。
七傑や十二傑なりと、時代によって増減するそうだ。
今回の一件は申告通り、冒険者の護衛依頼としてSSランクが認定されていた。
緊急依頼扱いとなっていたが、宰相が早い対応をしたようで報酬もその場で渡してもらえた。
報酬額は白金貨10枚。
さすがSSランクというだけはあるのだが、オークション以来トキの金銭感覚は狂い始めていたため、そんなものかという感じだった。
今までどおり全てギルドに預金し、これでトキの貯蓄は白金貨530枚ほどになった。
卒業までに1000枚にしたいと目論むトキだが、命がいくつあっても足らないと余人は思うだろう。
それから数日後、建国記念日を迎え、セルクスの立太子式とアリビアとの結婚式が催された。
他国からの賓客を混じえた盛大なものだったらしく、連日続いていたお祭り騒ぎは最高潮を迎えた。
それらの式は王城で行われたので、平民学生であるトキたちは第三区画の屋台を食べ歩きして楽しんだ。
高額収入を得たトキの奢りということで、ケオランたちは遠慮の欠片もなく片っ端から食い漁っていた。
唯一チーグルが誘ったフェレアだけは一人申し訳なさそうにしていた。
賑わいを見せる大通りを見ながら、広場のテーブルを陣取ってトキたちは一時休憩していた。
丁度木陰になっているため、だいぶ涼しく過ごせれる。
「王女殿下が王都に来た時もすごかったけど、今日は一段と盛り上がってるね」
「そうですわね。王都にこれだけの人がいたとは知りませんでした」
「フェレアは第三区画にはあんまり来ないのか?」
「はい。幼年学校は第二区画にありますし、買い物は家の者がしますので。魔法学園を訪れたのが久方ぶりといったところでした」
「それが今や、チーグルに誘われては第三区画に足を運ぶようになったわけか」
「ケオラン!変なふうに言わないでよ!フェレアちゃんが困ってるじゃないか!」
「わお、あのお兄さんこえーこえー」
からかうケオランは母親の影に隠れるようにユユを楯にする。
しかし、このときばかりはユユは味方しなかった。
「ケリー、からかうなら男らしく正面から堂々とからかいなさい。そして、徹底的にからかいなさい」
「ユユの中の男らしさってものに疑問が浮かぶのは俺だけだろうか」
トキを始め、チーグル、フェリアも困った様子だが、ケオランだけはさすがユユさんと笑っていた。
「しかし、この面子だとトキだけが溢れるな」
「そうかしら?私とケリー。チーグルとフェレアちゃん。トキとギン。いやだ、ケリーったら誰も溢れていないじゃない」
「あっそうか~。はっはっは」
「わざとらしい振りはいいんだよ!あと、チーグルとフェレア!お互いチラチラ見ながらもじもじしてんじゃねー!」
笑うケオラン・ユユ組、照れるチーグル・フェレア組、そして涙目のトキ・ギン(肉を食べるのに夢中)組。
「トキは誘わなかったのか?どっちも今は王都にいるだろ?」
「「どっちも?」」
ユユとフェレアがハモってトキに問いただす。
ケオランはまずっと顔を背けるが、口の端がニヤリと上がっている。
(わざとだな!?わざだよな!?ケオラン覚えてろよ!)
「どういうこと?まさか、トキ。あなた二股かけてるの?そんな子に育てた覚えはないわよ」
「最近では無関心の域にまでいっていたユユから、そんな言葉をいただけるとは思いもしなかったよ」
「トキニアさん、どういうことなんですか?私、よくわからないんですが」
「僕が教えてあげるよ、フェレアちゃん。ぺらぺ~ら、ぺらぺ~らぺらぺら……」
「ふむふむ……えええ!?ファウスタインって!?」
「あらら~チーグルは友情よりも女を取るんだな」
「あら、ケリーは私よりもトキとの友情を取るというの?」
「友情?何それ、おいしいの?ユユの方がン億倍も大事に決まってるだろ」
「ケリーったら正直者ね」
「もういやだ、この人たち(涙」
一通り訂正する点もないほど詳しく話し終えたチーグルを睨みつつも、ユユ裁判官の前でトキは被告人席に立たされた。
「被告人、当学園生徒会長エレスティナ=ケルスト氏との関係を述べよ」
「何の関係もありません」
「彼女が婚約を申し出ており、ケルスト公爵家もこれを認めたとありますが?」
「私は認知しておりません」
「参考人フェレア=ハウゼン氏によると、ここまでの推移を鑑みるに婚約は不可避ということですが?」
「知ったことではありません」
「わかりました。では、イリアフェル=ファウスタイン氏についてお聞きします。彼女との関係は?」
「特にありません」
「裁判長!被告人は虚偽を行っています!被告人はイリアフェル嬢に『僕の翼になっておくれと唆した』と自供しておりました!」
「ケオラン!てめーこそ嘘ついてんじゃねーよ!誰が、んな恥ずかしいセリフ言うか!それに唆してなんかねーし!」
「被告人!許可なく発言しないように!検察官も同様です。では、被告人。あなたはどちらを選ぶつもりなのですか?」
「……イリア(ぼそ」
「つまり、不可避であるエレスティナ嬢との婚約をしつつ、イリアフェル嬢もゲットというわけですね」
「…………」
「判決を取ります」
「最低」
「クズ」
「死ね」
「見損ないました」
「うあああああああ!!」
叫びながら逃亡しようとするトキをケオランとチーグルが捕まえて無理やり連れ戻す。
「被告人。被告人!」
ユユの呼びかけに力なく顔をあげる。
優しく慈愛に満ちた表情でトキに語りかけた。
「ほら、ご覧なさい。フェレアちゃんを見てください。ほら、あの汚れたものを見たかのような目を。心底残念そうな目を。あれはあなたに向けられているのですよ?ねえ、今どんな気分?ねえ?泣いてないで現実を見なさいよ。ほらほらほら。ククク」
「あ~ユユが心底楽しんでいる。ちょっとトキがかわいそうになってきたな」
「日頃の毒舌もあれで抑えてたんだね。なんか色々ストレスを発散させている感じ」
「ユユさんが怖いですぅ」
散々ユユにいたぶられたトキは精根尽きていた。
しかし、そうは問屋が卸さない。
左側から短い金髪の女学生が、右側からはグレーの髪をロングにした女の子がやってきた。
左から来る女性に関してはケオラン、ユユ、チーグルには見覚えがあった。
今話題にしていたエレスティナ生徒会長だ。
同じタイミングで右から来た子はフェレアが知っていた。
両方共知る人物は現在グロッキー状態である。
「ごきげんよう、皆さん。その倒れ込んでいるのはトキ君ですか?どうしたのです?」
「フェレアちゃん、こんにちは。お友達ですか?」
「こんにちはイリア先輩。えっと~多分、イリア先輩も知っている人がいるのですが……」
聞いたことがある声に反応してトキが顔をあげた。
「生徒会長!?って、イリア様!?」
いきなりの急展開にトキの鼓動が早くなり、体中から冷や汗が出てきた。
ユユが小さい声で楽しそうに「修~羅場、修羅場~」と囁いている。
しかし、トキを放っておいて居合わせたエレスとイリアはお互いに驚いているようだった。
「エレス先輩!お久しぶりです!」
「イリアちゃん!?フェレアちゃんも!やだーお久しぶり!こんな所で奇遇ね!」
キャイキャイ話す様子から、なにやら二人は知り合いだったらしい。
困り果てていたトキにフェレアが説明してくれた。
「お二人は私が現在通っている幼年学校、カルレイナ女学院の先輩に当たるのですよ。学年は違いますが、幼年学校は5年制で3人とも生徒会に入っていたので、よく知った仲というわけです」
世間は狭いもんだなと納得がいった。
そして、最後にフェレアがそういうわけです、キッと睨んできた。
睨んでも全然そんな感じはしないのが、残念なところ。
「まさかお二人が知り合いだったとは知りませんでした」
「トキ君もイリアちゃんと知り合いだったの?」
「はい。ファウスタイン侯爵様は私の父の友人で、ご夫妻は私の命の恩人でもあります。以来、何かと面倒を見ていただいているのですよ」
「そう、だったのですか。奇遇ですね」
「はい……」
両者が気まずい雰囲気になりかけたところで、ケオランが空気を読んで、空気を読んでいないことを言い出した。
「よし!こっからは別行動にしようぜ!丁度トキの相手も来たことだしな」
そうしよっかとケオラン・ユユ組とチーグル・フェレア組は喧騒の中に消えていった。
フェレアはエレスとイリアに挨拶をしてからトットットッとチーグルを追いかける。
(どうしてくれるんだよ、これ)
女性二人は色々なものが胸中を渦巻いている様子だ。
「お二人は昼食を食べられましたか?」
「ええ、家の方で」
「私も学園の寮で済ませました」
「では、立ったままもなんですので、座りませんか?」
丸いテーブルで心底よかったと思う。
もし、これがベンチだったならば並び順に相当迷っていただろう。
「トキ君、休学して護衛依頼をしていたそうですね」
「ああ、生徒会長の耳にも入りましたか」
隠すようなことでもないので、イリアにもわかるように事情を説明した。
「また……そんな無茶をして。もっとご自愛なさい」
「エレス先輩の言うとおりです。もしものことがあれば……」
「ご心配をおかけした様ですね。ですが、守るものものがあったら、たぶん俺は何度も同じことをすると思います。こればっかりは聞けないですね。生きることを諦めるつもりは毛頭ありませんが、もう嫌なんですよ。あんな思いをするのは」
悲しみか同情か、沈痛な顔を見せられ、トキも悪いとは思いつつも決心は鈍らなかった。
「トキ君の相手は大変ね。手綱をしっかり握らないといけないわよ、イリアちゃん」
「エレス先輩、トキ様も。そのことでお話があります」
偶然の会合、そしてイリアとトキの様子からそれとなく察していたエレスをイリアが真剣な表情で見つめる。
「失礼を先にお詫びしておきます。エレス先輩がトキ様に婚約を持ちかけたという話を聞きました。本当ですか?」
「……本当よ。そして、トキ君はそれを、断ったわ」
「トキ様は何故断ったのですか?」
イリアがここまで言及するとは思いもしていなかった。
エレスは聞きたくない、というような悲しい表情で俯いていた。
トキは以前ルウに話した内容と同じことを話した。
「エレス先輩らしくないですね。個人のことをあれこれ調べた上で、それを相手に話されるなんて」
「言葉もないわ。トキ君、ごめんなさい」
「いえ、前にも謝っていただいたので」
「私もトキ様も、誰だって過ちを犯すことはあります。ですが、それだけでその人を判断するのはどうでしょうか?私はエレス先輩を尊敬しています。そんな一度の失敗を軽く覆すくらい良いところをたくさん知っています。エレス先輩、今一度はっきり言ってください。先輩はトキ様をお慕いしていますか?」
「ええ。自分でも戸惑うほどに」
「私もはっきり言います。私もトキ様をお慕いしております。ですが、その一方で尊敬するエレス先輩を拒絶することは許せれません。だから、その……」
「……く…くっっ、ははははは!」
突然笑い出したトキに二人は驚いた。
「あー……。ふぅ……悪い、口調を普段のに戻させてくれ。……イリア」
「は、はい」
「お前は俺が好きだが、エレスを選んで欲しいと?」
「はい……トキ様から見てエレス先輩は素敵だと思えませんか?」
「ん?そりゃ綺麗だし、性格も可愛いとこあるよ。柔らかそうな髪も抱き心地良さそうでいいしな」
その言葉にエレスは俯き、ボッと音がするかのように顔を赤くした。
「むぅ……でも、それが普通だと思います。では、私はどうですか?」
「めっちゃ可愛いよ。お持ち帰りしたいくらいに」
「そ、それは直接的すぎます」
「エレス。お前はどうなんだ?イリアの考えを聞いて」
「言える立場なの?私。」
「お前の考えを聞きたいんだよ」
「じゃ、じゃあ……私はトキ君と一緒にいられるなら構わないわ。でも、他の相手がイリアちゃんだけならだけど」
「二人を選んでもいいのか?しかもこんな可愛い子を。二股っていじられる……ならまだマシか。まじ刃傷沙汰になりそうだな」
「言わせておけばいいんです」
「そうね。甲斐性があるってことよ」
「はぁ~。でも、どっちが上とか下とかつけたくないからな」
二人共両親に話してからまた話をしようということになった。
ケオラン達には話さないようにしたのは経験則によるもの。




