71話 閑話 託されたモノ②
新暦1285年 ガレリア大陸 アルゼン帝国 第二の都市アリージア
日が落ちた夜半過ぎ、月明かりが僅かにこぼれる路地裏を疾駆する影があった。
全身真っ黒の姿をした子供くらいの背丈――ガリーだ。
表の道は火がくべられて若干の明るさを灯しており、警邏の兵士たちも歩いている。
そのため、真っ暗でほとんど何も見えない路地裏を通る他ない。
常人であれば歩くことさえ困難な場所を、まるで昼間のようにすいすいと駆けていく。
闇と同化するガリーの目には、僅かな月明かりでも十分な視野を確保することができた。
程なくして、東西に延びる通り近くに達した。
目的とする貴族の屋敷はこの通りの向こう側にあり、その屋敷の壁がガリーの視線の先にあった。
物陰から周辺をのぞき見る。
右手正門前に2名の兵士が駐在しており、壁に沿って一定間隔で火が焚かれている。
壁の高さは3m近く。
子供のガリーでは飛び越えれない高さだ。
そこでガリーはドン・ペルシに聞かされていた建物へと入る。
お膳立てはできている。
そう言っていた彼の言葉に従って、建物の階段を上り、天井扉を開けて屋上へと出た。
そこに用意されていたのは鉤爪が結ばれた黒いロープといくつかの黒い石。
屋上から様子を伺うと、周辺に変化はなかった。
ここらだと、ちょうど焚かれた火と火の間に位置する。
石を持ったガリーは兵士たちの左側に届くように石を思いっきり投げた。
さらに時間差で鉤爪を壁の向こうへと投げ込む。
投げた石が音を鳴らし、兵士がそちらへ向くと壁の向こうでも鉤爪の音が鳴った。
恐る恐る顔を上げると兵士たちはこちらには気づかなかったようだ。
(第一段階成功。次は……)
ゆっくりとロープを引いていくと、何かに引っかかったようで動かなくなった。
天井扉の取っ手に結び付けて固定する。
(第二段階成功。落ちませんように……)
暗闇の中をロープを伝っていく。
落ちたらただでは済まないだろう。
そして、見つかれば殺されるに違いない。
押しつぶされそうなプレッシャーの中、ガルツはゆっくりと進んでいく。
訓練をしていない、ましてや子供ができる芸当ではないが、姉への思いだけを胸にガリーは見事渡過を果たした。
(第三段階侵入成功)
静かに敷地内に下りたガリーは潜入口を探す。
使用人が使うという部屋の窓を探す。
そこはいつも開いており、子供であれば十分入れると言われていた。
(あそこだ)
闇と同化しながら移動し、教えられていた窓から屋敷内へと入る。
頭に叩き込んだ屋敷の見取り図を思い出しながら慎重に部屋を出たガリーは階段へと進む。
途中、廊下を歩く兵士をやり過ごし、ホールに出て正面階段を上っていく。
見たことがないほどの建物や装飾品に目を奪われることなく、目的を果たすことだけを考えていた。
ここから先は未知なる道を歩くことになる。
(階段が左右に分かれてて、上ると通路。こっちに部屋が1、2、3。こっちにも部屋が3つと奥にも扉か。中は……どうする)
迷ったガルツだったが、見取り図と言われていたので各部屋の中も見ることにした。
右側の右手の部屋は小さな物置のような部屋だった。
左手にある2つの部屋は応接室と執務室。
左側の左手の部屋は最初の部屋と同様で、右手の部屋は大きく、寝室のようだった。
微かにする寝息を聞きとり、内部を素早く確認してすぐに扉を閉めた。
最後に奥の部屋を調べる。
これまでの部屋とは違い、月明かりも入らない真っ暗な空間だった。
ガリーの目でもその全容はわからない。
壁を伝いながら中へと入っていく。
その時、突如背後で光が灯った。
「っ!!?」
心臓が跳ね上がり振り返ると、一人の男が手から火の玉を浮かべて立っていた。
唇は厚く、赤みがかった髪をオールバックにしており、気味の悪い笑みを浮かべた男で口とは対照的に目は細く笑っていない。
「おやおや。どんなネズミかと思えば、子ネズミでしたか。はてさて、どうしましょうかねぇ」
絶望に包まれるガリーは泣きそうな顔でナイフを取り出し、震える体で男に突進した。
「うあああああ!あぐっ!」
男はガリーの顔面に容赦なく前蹴りをして吹き飛ばした。
「ぐ……うぅ」
「さてさて、子ネズミさん。あなたの目的は何のか、教えてもらいましょうか」
男は脇に挟んでいた教鞭を叩きながらガリーへと差し迫った。
「ぎゃっ!あぅわぁぁあああ!」
「ほらほら。泣いてないで早く話しなさい。でなければもっと痛い思いをすることになりますよ?ほーらほら」
「ぎゃああああ!」
皮膚が焼けるような痛みに幼いガリーは耐えることができなかった。
「うぅぅああぁ……ひぃっ……み、見取り図、見取り図を作れって」
「ふーむ、ふーむ。見取り図ねぇ。誰の命令ですか?」
「ス、スラムの顔役。……ドン・ペルシ」
「なるほど、なるほど。で、どうやってあなたはここまで来たのですか?手引きしたのは誰です?」
「準備はドン・ペルシに。し、侵入は1人で」
「ほう、ほう。それはそれは。わかりました。ついでにスラムの大掃除といきましょうか」
「あ、姉がっ!姉がスラムにいるんです!人質にされていて!姉だけは助けてください!」
「なんと、なんと。この状況で私に頼みごとですか?姉もろとも死罪が妥当ですよ?」
「お願いします!お願いします!僕はどうなってもかまいません!姉だけは、姉だけは助けてください!」
「そうですか、そうですか。では、こうしましょう。あなたには私が言う人間を殺してもらいます。永遠に、死ぬまで」
「かまいません。それで姉を助けて下さるんなら。一生そうでもかまいません」
「結構、結構。交渉成立ですね。では、早速命令しましょう。ドン・ペルシという者を殺して首を持ってきなさい」
「わ、わかりました」
「ほほほほ。大変素直でよろしい。では――」
この男はアリージアの統治者で大公位を持つ大貴族だった。
そのままスラムへと戻ったガリーは男に言われるままに、スラムの顔役ドン・ペルシとその家来を殺した。
適当なことを言って扉を開けさせ、闇に紛れて寝首をかけば屈強な大男であろうと、殺すことは容易かった。
何度も吐きながらその首を持ちかえると、貴族の男は満足げな笑みを浮かべた。
「いいですね、いいですね。あなたにはこれからたくさん、たくさん人を殺してもらいましょう」
ドン・ペルシが何を画策していたかは不明のまま、同時期に四つのスラムの顔役全員と兵士が数名何者かに殺されるという事件が起こった。
真相は闇の中へと消え、すぐに誰もがそのことを忘れた。
姉ガーネ共々、二人の住居は貴族の屋敷内にある小部屋へと変わった。
突然の事態に戸惑うガーネに、ちゃんとした仕事にありつけたと事情を話して無理やり納得させた。
仕事内容は適当なものをでっち上げた。
ガーネには女中としての仕事が与えられ、ガリーにとっては人質を取られている状態には変わりなかった。
貴族の男は誰にも気づかされず侵入したガリーの才能を見抜いていた。
魔法使いとして自分の力量に自信を持つこの男とて、感知魔法をたまたま発動して若干の違和感を覚えただけであった。
この年にして類稀ない隠蔽魔法。
自分にとって邪魔な人間を殺すにはうってつけの人材と言えた。
屋敷に引き取られたことでガリーらには市民権が与えられた。
「そうですねぇ、そうですねぇ。仕事をする上で、あなたには新たな名を贈りましょう。ガルツ=ルーパー。ええ、ええ。そうしましょう」
古い言葉でガルツは獣、ルーパーは闇を意味するのだという。
そして、ガリーには一本の剣が授けられた。
刀身も柄も鍔も黒い刺突剣、銘は『陰月』。
死神ガルツ=ルーパーの誕生であった。
昔、自分も味わった絶望と苦渋に満ちた顔。
男も女も子供も老人も、貴族も市民も、誰であろうと関係なかった。
殺して、殺して、殺して、殺して――。
殺した人間のことは忘れられず、その者たちの死に顔が浮かんでくる。
幾度、この状況を打破しようと思っただろう。
しかし、暗殺者としての視点から見ても、姉ガーネは厳重過ぎる監視体制下にあった。
貴族の男は裏切りの予防策をあれこれと打っていたのだ。
それは、ガリーの暗殺術の向上に比例してより厳しくなっていった。
そして、姉を救い出すよりもガリーの心が壊れる方が早かった。
最後に残ったのは使命感。
自分は姉を守るために殺さなくてはならない。
そして、自分は殺してきた者たちのように殺されなければならない。
機械のように淡々と暗殺を続けるようになった。
それから数年後、貴族の男の息子がガーネに手をつけた。
身を整えたガーネは成長し、十分に女性としての魅力を持ち合わせていた。
妾として待遇が変わったガーネはやがて身ごもり、女児を1人もうけることになる。
名前はカーシャ。
屋敷から出ることは許されない。
不自由しない不自由な生活であっても、自分の赤子を抱くガーネは愛する家族が増えて幸せそうであった。
「ねぇ、ガリー。仕事は順調?」
「大丈夫だよ、姉さん。今度は長期の仕事で外国に行くことになったけど、平気さ」
「そう。無茶だけはしないでね?」
「……わかってるさ」
この頃になると、貴族の男は息子に家督を譲っており、息子がガリーの新しい雇い主となっていた。
息子は自分の都合だけでなく、暗殺ギルドを介して依頼を受け、暗殺を命じて金を儲けるという手段を選んでいた。
この世界には殺してほしいと願う人間が腐るほどいたのだ。
今回はタルム女王国の人間からの依頼で、半年以上かかるかもしれなかった。
貴族の家名を名乗ることはできずとも、カーシャは一市民として生きていける。
新しい雇い主とそう契約を新たにした代償として、さらなる忠誠と仕事の邁進に励むことになった。
健やかに寝息をたてる姪の姿を見守るガリーは決してその腕で抱くことはなかった。
自分の手は血塗られたものであると自覚していたからだ。
やがて裏社会のみならず、大陸中にガルツ=ルーパーの悪名は轟いた。
失敗は許されない。
それゆえに、ガリーは隠蔽魔法だけでなく戦闘能力も磨きあげていった。
そして、ガリーが20歳近くになった折、ナルビス王国の貴族から依頼を受けることになった。
貴族同士の争いに介入して、とある貴族の一家を暗殺するという内容だ。
入念な下調べの後、仕事を完遂したガリーに依頼者の貴族から追加依頼が舞い込んだ。
魔法使いの夫婦の暗殺。
雇い主は既に受注しており、ガリーはいつも通り従うしかなかった。
これまでも魔法使いを暗殺することは何度もあった。
感知魔法を得意とする者が警護にあたっていることもある。
しかし、人間は四六時中警戒し続けることはできない。
どんな人間にも穴があり、そこを確実につくことで暗殺を成功してきたのだ。
ところが、今回は急遽追加された依頼だけに情報が少なかった。
分かっているのは相手の現在地とSランクの魔法使い夫婦であるということだけ。
相手の実力がわからなかったため、二人が離れた隙に片方ずつ殺していくことにした。
その好機は尾行して4日目、野宿の最中に訪れた。
用を足しに少し離れた夫から狙おうとしたが、異変に気づかれてしまう。
予定変更して妻の方から狙うことにした。
背後から急所に黒剣を突き刺す。
夫の戻りは予想以上に早かった。
激昂した夫が襲いかかる。
そのスピードは未だかつてないものだった。
ガリーの頭の中で生存本能とも言うべき警鐘が鳴り、大きく後退する。
その隙に夫は妻を抱きかかえて、なんと空を飛んだ。
唖然とするガリーは追いかけるが、すぐに見失ってしまう。
悔恨と恐怖に歯をくいしばる。
初めての失敗。
潜伏している暗殺ギルドの監視員はすぐにこの情報を依頼主と雇い主に知らせるだろう。
表立って名を出していないものの、雇い主の顔に泥を塗る形となった。
ターゲットは空を飛ぶ。
再度発見することは困難に思えたガリーは姉と姪の身を心配して、すぐに帰国することにした。
戻ったガリーは雇い主の所へは見向きもせずに、姉ガーネの部屋へと向かう。
ガーネは……床に伏せていた。
意識が混濁しており、原因不明の病だという。
だが、ガリーにはその原因に思い当たる節があった。
暗殺ギルドで扱うこともある、一般的にも出回っているそれは――カファ。
薄めると嗜好品や医療にも用いられるが、カファの成分を高濃縮する特殊加工によって、それは毒となる。
それを飲用すれば意識が混濁して体の機能が低下していき、最後には眠るように死ぬ。
もって数日の命。
ガーネは倒れて3日目だという。
真っ白な顔をしたガーネの手は冷たかった。
傍らで膝をつき寄り添うガリーに気づいたガーネは、最後の力を振り絞って話しかけた。
「ガリー……ごめん、なさい。カーシャ……あの子を、守って……おね……」
どういった意味の謝罪と願いなのか。
何から守るというのだ。
返事を聞くこともなく、ガーネはそれ以上言葉を綴らなくなった。
ガリーの目から涙はこぼれない。
いつかこんなことになると予期していたからか、悲しみより怒りが優っていたからかはわからない。
もしかすれば、泣く資格がないとわかっていたからかもしれない。
いつまでも茫然と姉の手を握りしめるガリー。
その背後から部屋に入ってきたのは雇い主である当主の男だった。
「この度のことは残念に思う。ああ、残念だとも。しかし、君には遺されたカーシャがいる。そうだろう?ガルツ=ルーパー?」
「…………」
「今回のようなことが起こらないよう君の働きには期待しているよ?大いに期待している。それと、なんでも仕事を失敗してしまったとか。気にしないでもらいたいが、片はつけとくように。では」
それだけ言うと、男は部屋を出て行った。
男の言葉は頭に入ってこなかった。
ガリーの心中には柔らかく笑う姉との思い出で一杯だった。
余計なことは排除していた。
幼かった頃から順に姉を思いだし、そして旅立つ前に見た娘を抱く姉の姿が甦る。
そして、姉が最後に願った言葉に従い、あの子を守ることだけに尽力すると誓った。
しかし、ガリーの誓いを打ち砕くように、当主は先手を打った。
今回を機に、ガリーは姪カーシャと会うことを禁じられてしまう。
仕事をひとつ片付けると、少しの間遠くから見ることだけを許された。
やがて月日が流れ、ガリーは自分の老いを感じるようになった。
カーシャは立派に成長し、町へ出て食堂を営む家の男と結婚した。
普通の市民としての幸せを掴み、家庭を築いていったのだ。
もう自分が守る必要はない。
そう思うようになったガリーはそれでも暗殺業を続けた。
死に場所を探そうとしたのだ。
しかし、死神ガルツ=ルーパーという名前は万人にとって恐怖の代名詞となり、依頼する者も徐々に減っていった。
なかなか死ねない、殺されない。
老衰という未来が遮り、悪夢のように感じてきていた。
そんなある日、偶然カルティア王国にいたガリーに目を覚ますような情報が届いた。
「空を飛ぶ魔法使いを見かけた」
昔、逃したターゲット。
姉が殺されることになった原因。
裏ギルドに調査を要請した結果、あの夫婦の片割れである可能性が大きくなった。
たった一度の失敗は、数えきれぬ程の成功によって消えてしまっていたのにもかかわらず、ガリーは動いた。
暗殺者としての矜持、義務感から、ではない。
あの男ならば自分を殺してくれるかもしれないという望みからであった。
標的を発見したガリーはそのまま背後から剣を突き刺した。
突き刺してしまった。
(あっけない。こんなものなのか。俺は……)
「ようやく、これで……(死ねると思ったのに)」
老人と言えるだけ年をとった男には付き添いの者がいた。
標的と同じく空を飛ぶ銀髪の少年。
地上に降りてきた少年はガリーの死臭が纏わりついた気配に委縮しているようだ。
標的にとどめを刺そうとすると、その少年は果敢にも攻撃してきた。
その目はかつて姉を守ろうとした自分に似ていて――。
攻撃を回避して距離をとると、上空で鳥が鳴き、少年はこちらの居場所に気づいた。
「ほう。鳥を使うか。貴様はあれの親族か?」
「……弟子だ」
「弟子か。なるほど。では用はないな。ここまでとするか」
「待て、お前は何なんだ!?」
聞き返す少年の目は見れば見るほど、昔の自分と重なって見えた。
「俺は……昔依頼されたことを終わらせただけだ」
少年が息を飲む。
姿を消す前に静かにガリーは口にした。
「いつか、敵討ちをしに俺を殺しに来い。強くなれ、少年」
ガリーの独白は少年の耳には届かなかった。
それから数年が経ってもガリーはまだ生きていた。
家族、友人、恋人、大切な者を自分に殺された人間によって恨まれながら、苦しみながら殺されることを願っていた。
そこへ、自分の年齢を考えても、最後となるかもしれない大仕事が入ってきた。
ナルビス王国第一王女アリビアをカルティア王国内で暗殺せよ。
この件の依頼主はガリーの年齢を加味してか、赤狼バクスター率いる傭兵集団を同時に雇っていた。
情報屋によると、その依頼主は尻尾を掴まれている節があった。
バクスターという若造だけでなく、こちらの動きも察知されているかもしれないらしい。
相手は精鋭の騎士団。
そして、追加情報によれば、巷で噂の銀翼も護衛に加わったと聞く。
ようやく自分は殺されるかもしれない、そうと思うと、感慨深さが浸みわたった。
「もう十分だろ?ガーネ姉さん」
数日後、標的の集団を発見したガリーは尾行を開始した。
そこへ、裏ギルドのメンバーからバクスターが予定より早く仕掛けるようだという話を聞く。
あちらは保険だったはずだが、自分の知らないところで色々事情が変わってるようだ。
昼間にも関わらず、ガリーは接近することにした。
そして、護衛の中に銀髪の少年がいることに気付いた。
(あれは……)
面影がある。
あの時の少年だとガリーはすぐに理解した。
そして、あの少年が成長し強くなり、銀翼という名を冠していることも。
(これが、運命か)
ガリーは少年との巡り合わせに感謝の念を抱き、距離を縮めた。
少年はすぐに気付いた。
あの時の鳥も一緒のようだ。
「久しぶりだな、ガルツ=ルーパー。俺を覚えているか?」
(忘れようはずもない)
少年の忠告を聞ききながら剣を抜き、暗器を懐から取り出した。
(俺の隠蔽魔法を見破るまでになったか。さて、腕前はどうか)
少年に投げつけた暗器は簡単に叩き落とされた。
それを見て、思わず顔が笑う。
「確認か?言葉もなしにとんだ挨拶だな。3年ぶりの再会なんだ。少しくらい話してもいいんじゃないか?」
(それも、またよしか……)
魔法を解除して姿を見せる。
「お前はあのときの弟子か。時の流れを感じるな」
「覚えていてくれたようで何よりだ。俺はあんたに会えてうれしいぜ?復讐なんざ考えてなかったが、自分が強さを確認できるいい機会だ」
「殺した者は全て覚えている。あの時の小僧がな。俺を見ることができる程度には成長したか」
「どの程度まで成長したかは後でたっぷりと教えてやる。二つ質問をしたい」
「…………」
少年の質問に答えるつもりはなかった。
自分の罪はよくわかっている。
だが、何のために暗殺すると聞かれて、答えが口からこぼれてしまった。
「……託されたモノのためだ」
(だが、もういい。それはもう、俺の役目じゃない)
自分なりに納得した様子の少年が剣を構え、最後の闘いが始まった。
少年は強かった。
強くなっていた。
かつての師を超えるスピードと感知能力、体術や剣術をはじめ、戦いに挑む気力に満ち満ちていた。
ガリーも衰えた体に鞭打ってこれまで培った術の全力をもって手を尽くす。
幾度となく剣を交えながらガリーは涙を流していた。
どういったものかと言えば、間違いなく歓喜の涙だった。
枯れたと思っていた涙腺は止めどなく溢れ、視界がぼやける。
覆面をして隠蔽魔法をかけていたため、少年は気づいていないようだった。
そして、決着が訪れる。
致命傷を負ったガリーは仰向けに倒れ、空を見上げた。
どこまでも青い空と白い雲。
そこには自由が広がっていた。
声にならないまま、ガリーは少年に最後の言葉をかけた。
「ありがとう」
(ようやく……自由に……なれ……る)
長い血塗られた道を歩み続けたガリーの最後は、自分が望んでいた苦しみに満ちたものではなかった。
それは、覆面の下で満足気に笑う彼の死に顔が物語っていた。




