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銀翼の飛翔  作者: fey5
第5章 学園と仲間と ―初年度―
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69話 舞台の裏側

新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国南東部




SSランクである剣魔十傑の内、これまで4人と相対してきたことでわかったことがある。


まず、剣魔十傑にも実力差があるということ。


バクスターがいい例で、トキにとってはただ少し硬いだけの亀でしかなかった。


相性の問題もあるのだと思うが、拍子抜けだったのは否めない。


ロリック=シルバーやガルツ=ルーパーがトキの攻撃にも対応していたことを考えればその差は明らかだろう。


そして、SSランクに類する人間では魔物の王らSSランクに到底匹敵しないこと。


今までの歴史上の事実ではあるのだが、トキの飛行魔法のように特殊な手札を持っていないと瞬殺されることになるだろう。




さて、翌日からの話。


魔物と数度遭遇したものの、以降の移動は静かなものだった。


領兵や秘匿された兵力による襲撃にも備えていたのだが、それはいらぬ心配だったようだ。


無事に増員派遣された部隊とも合流することができ、護衛の数は800弱になっていた。


ちなみにだが、捕まえた傭兵はバクスターを除いた全員、野営地で処罰された。


バクスターだけは証言者として連行し、そのあとに処分が下されることになる。


先行して王都に報告も派遣したので、ブンゴット辺境伯には査察が入るだろうとツェラート団長は話していた。


証拠があがれば大逆罪、不敬罪を問われることになり、お家取り潰しの上で三親等までの血族が問答無用で死罪、五親等までの姻族が貴族身分剥奪となる。


辺境伯となると血縁関係は広く、有罪となれば処罰者はかなりの数にのぼる。


経済や統治への影響も少なからず出るだろうが、他国の王族を巻き込んだ事件であるために断固とした処置が必要とされる。


そうなると国の上層部は頭を抱えることになるだろう。



立ち寄る街中では民衆の注目を集め、アリビアはお得意の猫かぶりで民衆に手を振っていた。



「この国の人達は皆いい顔をしていますね。安心しました」


「まぁ、食料自給率はいいからな。経済もうまく回してるみたいだし、その基盤もあって今代の陛下は教育と医療に力を注いでいて国民の評判もいいしな」


「話には聞いていましたが、やはり自分の目で見るのとでは違いますわね。セルクス様はどういった考えなのかしら?」


「手紙では聞いてないのか?まぁ、それは本人に聞けよ。もうすぐ会えるんだから」


「そうですわね。ところでトキの婚約者の方はどんな人柄ですの?」


「ぶっ!……おい、なんでそんなこと、いや、言わんでもわかる。言っとくけど相手が勝手に言ってるだけで俺は了承してないからな」


「あら、そうでしたか。いつか私にも紹介していただこうかと思っていたのですが、残念です。で、どんな人なのですか?」


「そこは察して諦めろよ。嫁さんなんて気が早いっての。まだまだ先の話だよ」


「ふふふ。以前のような反応が見れて少し嬉しいですわね。では、その時を楽しみにして気長に待っていますわ」



ガルツ=ルーパーや赤狼との戦闘では、今まで知らなかった恐ろしい一面を垣間見てトキを遠く感じていたアリビアだったが、年相応な表情に安心を覚えていた。


口を尖らせてぶすっとしたトキの横顔を見つめながら青空の下、一行は王都カルティアに向けて進んでいく。




一方その頃――


ブンゴット辺境伯邸で当主であるニエルム=ブンゴット辺境伯の執務室に乱暴に入ってくる者がいた。



「父上!お願いしていた名馬はどうなりましたか!?」


「おお、ニブルよ。大丈夫だ。かわいいお前との約束を破るはずがないではないか。先方が随分渋っておったが、白金貨30枚まで釣り上げたらようやく首を縦に振りよった」


「本当ですか!?いつ届きますか!?」


「おそらくあと10日ほどだろう。それまで待っていなさい」


「10日後ですね!わかりました!」



魔法学園を退学処分にされ自領に戻ってきてからも、ブンゴット辺境伯の親バカぶりは変わらなかった。


ニブル自身も反省の色は全くなく、相変わらずのやりたい放題である。


名馬というのは、以前ハクに乗ろうとして失敗したことを悔しく思い、父である辺境伯にそれを上回る馬をねだったのだ。


ニエルムもあちらこちらから馬を取り寄せてみたが、ハクよりも大きく立派な馬がいなかったためニブルを満足させることができなかった。


そこで王都で開催されたオークションで白金貨14枚以上という高値で落札された名馬の話を聞いた。


このときに既にブンゴット辺境伯家は危機に瀕していたのだが、ニブルはこの名馬が欲しいと父にお願いした。


それどころではなかったのだが、かわいい息子のために問い合わせると言ってごまかすニエルム。


ブンゴット辺境伯家の台所事情はここ数年で下降気味だったのだが、お家の危機に瀕するほどの事態ではなかった。


そもそもの発端は数ヶ月前のこと。


カルティア王国の西側にそびえるバドワイ山脈は一部を除いて鉱石発掘が盛んに行われており、カルティア王国側は深い森があるためそれほどでもないのだが、サルンガ共和国側では良質の鉱石や貴金属が採掘され大きな産業となっている。


その一部の貴金属が海路の裏ルートを通ってミアザまで届き、これをブンゴット辺境伯が勝負どころと一括で買い取ったのだ。


この時の金額はおよそ白金貨200枚。


ニエルムはこれらを加工し転売しようと画策していたのだが、それらの職人に当てがなかった。


そこへ話を聞きつけた商人がある取引を持ちかけた。



「私にはそれらを加工する伝と販売網がございます。どうでしょう?白金貨250枚でお譲りしていただけませんか?それだけではなく、それらの取引先にも直接ご紹介させていただきましょう。そうなれば、今後さらなる利益を生むでしょう。私としましても、辺境伯様とは末永くお付き合いさせていただきたいのです。」



この申し出をニエルムは熟考の末聞き入れることにした。


この商人の言葉には嘘偽りはなかった。


実際、その言葉通り自分の顧客を数名紹介するつもりだったし、正規の取引手続きを踏んだ上での交渉だった。


しかし、不運なことが二つ重なった。


一つは、この商人がアルゼン帝国に籍を置いた帝室御用達の商人で、新たにナルビス・カルティアとの販路を作るために事前調査として来国していたため、十分な輸送船を持っていなかったこと。


これによって、ブンゴット辺境伯の船舶で一度タルム女王国まで輸送しなくてはならなくなった。


職人達の手配や顧客への販売を検討するため、一足先に出発した商人を見送ったニエルムはこれを機に輸送船を3隻購入し、合計5隻の輸送船団を形成した。


鉱石類だけでなく、積めるだけ積んだ商品を積載した船団は2週間遅れでミアザを出発。


そして、ナルビス王国の東沖で二つ目の不運が襲った。


集中的な大嵐に見舞われたか、大型の魔物に襲われたかは不明だが、船団が全滅したのだ。


消息が絶たれた船団は、海岸にブンゴット辺境伯の所属を示す船舶の一部が打ち上げられたことによりそう報告がされた。


これを聞いたニエルムは声にならない悲鳴をあげた。


この世界には保険というものはない。


あるのは違約金のみ。


貴金属及びその他の商品の契約不履行、3隻分の残りの購入額、5隻の船舶と商品と人夫の損害費。


失った金額は白金貨500枚を超えた。


それに加え、支払い要求金額は白金貨450枚。


資産と屋敷を除く調度品など、一切合切を金に変えても白金貨300枚ほどにしかならないという。


それに加えて、他家や商会から借りてきた金額が白金貨100枚。


合わせて白金貨400枚という額を以てしても、あと白金貨50枚ほど違約金に足りていなかった。


大金をせしめたという憎き若造に手紙を認めても梨の礫。


困り果てたところへ丁度よく舞い込んできたのが、密入国者500名を匿えば白金貨100枚を報酬として渡すという話だ。


素性もよくわからない人間からの接触だったが、白金貨100枚という金額に後先考えずに飛びついてしまった。


前金の50枚を受け取り、密入国者がどのような素性かも調べずにその者たちが立ち去った後に残りの50枚も受け取って一息をついた。


知らぬ間に大逆の罪の片棒を担がされていたとは露知らず、これで息子の馬を買ってやれる分も確保できたと満足げに頷くニエルムだった。





新暦1347年 ガレリア大陸 ???



「なに!?失敗しただと!?ば、馬鹿な……」


「私も信じられませんが死神ガルツ=ルーパー、赤狼バクスター及び赤狼傭兵団は全滅したとの報告です」


「数的有利な上に猛者揃いの傭兵団と剣魔十傑を2名も投入したのだぞ。詳細は分からぬのか?」


「不明です。監視要員も含めて全員が戻らなかったようですので」


「……追って調査しろ。徹底的にだ。かの国の戦力を見誤っていては計画に支障が出かねん」


「はっ」



配下の者を下がらせた男は椅子に背を預けたまま目を閉じ、何が起こったのか頭を巡らす。


カルティア王国の騎士団がこちらの予想以上の高みにあるのか、それとも突出した力の持ち主がいたのか。


ここ5年ほどの間にも小競り合い程度の戦いは起こっていたが、それほどの強兵策があの国でとられているとも思えない。


今の国王は教育と医療に政策を強めているというが、それは見せかけで裏では…否、それならば質より数を増やす方が遥かに効率的だ。


ならば話は後者か。


騎士団の中に隠れた実力者がいたか、そういえばとSクラスの冒険者が護衛に加わったという途中報告があったことを思い出す。


取るに足らぬと大きくは捉えなかったが、まさかその冒険者が……?


冒険者といえば、カルティア王国に出現した暴風竜を若い冒険者が単独で討伐したという噂が流れたことがあった。


我が国でも1万人規模の兵力を以てしても能わなかった事実により、当時はそんなことがあるわけがないと諸侯共々一笑に付したが、もしそれが事実だったならば――カルティア王国は個人でそれに匹敵する怪物を飼っているということ。



男は諜報の配下に暴風竜の件を合わせて調べさせることにした。



「もしその怪物がわが国を攻めてきたなら……これは計画を早めねばならんかもしれんな」



地下で偶然発見された古代の遺産。


その全容は明らかになっておらず、自らの野望のために他の箇所についての調査も進めなければならないと男は考えていた。

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