62話 オークション炎上
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
「なに、この人だかり。入場料は金貨10枚じゃなかったっけ?」
「予想以上の反響があったようですね。国中の貴族や商会、ギルド、騎士団、傭兵なども来ているようですよ」
王都カルティアの北側第三区画には3層バルコニー型の劇場ホールがある。
収容人数2000人を誇るカルティア王国最大の劇場だ。
オークション開催にあたって商業ギルドは諸手を挙げて賛同してここを貸し切った。
落札参加者の入場料金貨10枚に加え、落札価格の5%を商業ギルドに譲渡することをトキが提案したところ、冷静沈着なギルドマスターがひどく興奮していたのは記憶に新しい。
その入場料にトキはぼったくりじゃね?とも思ったが、開場前だというのに1000人以上が並ぶ列を見て、自分たちとは違う商業ギルドの予測計算の凄さに舌を巻いていた。
この分では満員御礼となりそうだ。
(使用料がどんなもんか知らないけど大儲け確実だな、こりゃ)
トキは主要出展者ということでVIP待遇を受けていた。
4人までの同席も可能ということで、ケオラン、ユユ、チーグル、ジャクエルを連れての来場となった。
つまるところ野次馬である。
一般入場口とは異なる特別入場口から入り、3階横のプライベートスペースへ案内された。
「なぁなぁ、トキ。俺ら完全に場違いじゃね?」
「間違いなくそうだろうけど、ここなら変な目で見られることもないだろ」
「案内冊子もらったけど、ユユも見るかい?」
「ええ、見せてちょうだい。……へぇ~こんな販売形式なのね。参加者は声を出して値段を提示するのね」
「競りの間は値段提示以外の音を出さないよう静粛に願いますって、こりゃ聞く側が大変そうだな」
「ああ。話を聞いたんだけどな、その見極めをするのに各場所に人を配して練習を重ねたらしいぞ。司会者のために声を大きくする魔道具もわざわざ購入したとか言ってた」
「ほへ~すごいね。トキ以外の出展物も結構あるんだね」
「今まで個別売買がほとんどだった分、このオークション自体が注目されてたからな。他の出展物は知らないけど、どいつも値段を釣り上げる気満々だろうさ。一般入場口からは出品する順番で並べられた現物を事前に見ることもできるらしいぞ。俺の出展物は並ばないらしいけど。特別入場口から入る人には予め詳細を知らせておいたって言ってた」
「げっ!おいトキ!お前の出展物、最低落札価格がどれも白金貨3枚以上からになってんぞ!?牙なんて白金貨10枚からって!」
「たぶんその数倍の値段はつくんじゃないかって商業ギルドのギルマスは言ってたぞ。ホクホク顔でな。俺も同じだよ、ははは」
「あなた、そんなにお金を集めてどうする気よ。私に半分よこしなさい」
「やらねーよ。ってか半分ってひどいな、おい。まぁ何に使うかは今度話すよ」
トキの出展物は部位ごとに内蔵の袋・膜、翼膜、筋、爪、革、鱗、骨、牙の順に出てくる。
合計8品で最後の出展となる。
今回のオークションで出展されるのは厳選された30品で、現金もしくはギルド証書による一括払いが原則だ。
競り落として払えませんとなったら、品物は渡されず落札価格の半値が罰金として課せられる。
競りの最低単位は金貨1枚で、もし値がつかなかったら最低価格のまま商業ギルドが買い取ることになる。
このような原則・規則については発案者であるトキの意向も組み込まれている。
例えば、人身売買の禁止や入場料さえ払えば社会的身分が影響しないよう落札に参加できる平等権、落札物の運搬サービスを商業ギルドが負担するなどだ。
盗賊がいるくらいなので人身売買はこの世界、というよりも裏の世界ではあるようで、奴隷と呼ばれる身分こそないがそれに近い扱いを受ける人はいるらしい。
犯罪を犯したものは鉱山送りに、人さらいや口減らしの場合は娼婦や農奴、戦奴として売られる。
王都では第三区画東にある歓楽街の裏手にいくと見られるとか。
それも経済活動の一部を担う分野なのだろうが、いい気分はしないのでギルマスには確約させておいたのだ。
自分の出す物以外の出展物は聞いていなかったので、トキも冊子に目を通した。
すると、ある品のところで目が止まった。
『遮絶の輪』――最低落札価格:白金貨2枚
5m四方の紐の輪っかでできた魔道具。
角の金具の形に沿って地面に置き、魔力を通すことでその中にあるものを収納できる。
収納可能の高さは測定不能。
収納時、紐の直上にあるものはいかなるものも断ち切られるため注意が必要。
再び同じ状態で魔力を通すと収納時と同じ状態で出てくる。
原理はわからないが、生物を入れると消えてなくなる。
(これは……買いだろ。俺なら高く積めるし、人員以外の兵站をある程度賄える)
トキの持ち金は預けてあるのを合わせると白金貨11枚と少しだ。
急いで冒険者ギルドで預金の証書を出してもらい、念のため商業ギルドのギルマスに確認をとった。
するとギルマスは今回の出品落札価格を考慮して、白金貨30枚までの保証をしてくれた。
合計白金貨41枚、2億円近い予算だ。
できれば白金貨11枚以内で収めたいが、競ることになれば叩き潰してやるつもりになっていた。
そんなトキの行動力に連れの仲間たちは呆れている。
「白金貨41枚って、お前何考えてんだよ」
「トキは今後オークションには出ないほうがいいよ。身を滅ぼしそう」
「金の亡者ね。さらに汚らわしくなってるわ」
「ギルマス、私に給料を払ってください」
それぞれケオラン、チーグル、ユユ、ジャクエルの反応だ。
他はたいして興味がわかなかったので、仲間の言葉を気にすることなく開催を待った。
開場されて徐々に客席が埋まってきた。
場内はざわざわと騒がしい。
予想どおり満員御礼となり、立ち見するものも現れていた。
そして、壇上に商業ギルドのギルマスが登場して挨拶を述べる。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました!只今より、第一回カルティア競売大会を開催致します!!」
ワアアアアアアアアア
盛大な歓声と拍手に会場は包まれた。
「本日は厳選に厳選を重ねた一級品のみを取り揃えさせていただきました。競売を始めるにあたり、ここで競売に関する注意・説明をさせていただきます」
それらの内容は冊子に載っていたもので、再確認といったものだった。
「説明は以上になります。では、さっそく競売を始めさせていただきます。登録番号1番!今は亡きエイシャン王国王家に伝わったとされる宝刀!最低落札価格は金貨80枚からです。では、どうぞ!」
競りが始まって各所で声が上がり、最初の落札が決定した。
落札価格は白金貨2枚,金貨10枚だ。
1階席の真ん中辺りの人が落札したらしい。
落札したら係りの者が札を渡し、全ての競売が終了してから現物を購入できる仕組みとなっている。
さらに、次々と落札が決定していく。
どれも最低落札価格の2倍以上の値がついていた。
トキの目当ての魔道具は休憩を挟んで17番目の出展となるのでまだまだ先だ。
観戦していると、前半最後の15番目に出てきた名馬という紹介の馬を二人の男が激しく競り合った。
最低落札価格は白金貨1枚,金貨70枚だったのに、白金貨10枚を超えていた。
会場の熱もヒートアップする。
「すっげー!!」
「これどこまで上がるんだろう」
「人間って愚かね」
「まだまだいきそうな勢いですよ、これは」
盛り上がりが続き、とうとう片方が下りてしまい歓声が響いた。
落札価格は白金貨14枚,金貨55枚だ。
どこかの貴族が落札したらしい。
個人売買ならばこれだけの値はつかなかっただろう。
しかし、貴族の男はご満悦のようで、周囲に手を挙げながら喝采を浴びていた。
貴族の場合だといい自慢の種にもなるのだろう。
休憩中も場内は先ほどの熱気を保ったままだった。
落札に参加していない者はお目当ての品が出ていないのか、ケオランたちのように観戦しに来ただけなのだろう。
娯楽の一面もあるのかもしれない。
後半の競売が始まると、威勢の良い声があがるようになっていた。
刺激を受けた参加者は多いようだ。
魔道具が馬の前に出されていればと悔しがったが、自分の出展物もよい影響を受けそうなので気にしないことにした。
「続きまして、登録番号17番!遮絶の輪!取り扱いには注意が必要な危険な魔道具でもありますので、競売参加者は予めご了承ください。では、どうぞ!」
「白金貨2枚,金貨30枚」「白金貨2枚,金貨50枚」「白金貨2枚,金貨80枚」「白金貨3枚」
どんどん値が上がって行き、白金貨5枚,金貨20枚となったところで少し間が空き、すかさずトキが声をあげた。
「白金貨10枚!!」
おおおお、とどよめきが起こった。
ええええ、と隣では信じられないといった声が聞こえる。
ジャクエルにいたっては頭を抱えていた。
「白金貨10枚が出ました!他はありませんか!?…………いないようですね。では、白金貨10枚の落札となります!」
ワアアアアア
拍手喝采を受けてトキは腕を組んで、
「ふっ、他愛もないな」
と、ふんぞり返った。
「お前、馬鹿だろ!?」
「馬鹿だね」
「馬鹿以下よ」
「実家に……以下略」
「あれは役に立つ、はず。確実に手に入れたかったんだよ」
「にしても、もっと低価格で手に入れられただろうに」
チーグルに他3名も頷いていたが、トキには反省も後悔もなかった。
その後も盛り上がりを見せながら競売は続き、とうとう話題の真打が登場する。
突如会場の明かりが消え、場内が騒然となる。
すると、暗闇の中からギルマスの声が響いた。
「竜王、それは我々人類では到底適わなかった怪物。過去、幾千もの英雄が、達人が、屈強な兵士が、何度となく挑みはしたものの、討伐することはできなかった魔物の王。しかし、現代における幼い英雄が、たった一人で死闘を繰り広げ、遂に!その空の王者を地に沈めた。その幼い英雄の名は銀翼、トキニア=ゼペルルクス。彼が討伐した竜王の一角!その素材が今ここに!お待たせしました!暴風竜のぉ~登・場・です!」
あれこれ盛り上げようと必死な演出に辟易しながらも、会場の明るさが戻り、壇上に飾られた暴風竜の素材がお披露目された。
会場内が爆発するような歓声に包まれる中、隣のケオラン、チーグル、ユユはトキの紹介に爆笑していた。
「今回出展された素材は内蔵の袋・膜、翼膜、筋、爪、革、鱗、骨、牙の8部位となります。いずれも観賞用としてではなく、素材用として分けられておりますのでご了承ください。ここで、簡単な各素材についての説明をさせていただきます。全ての素材は違和感を覚えるほど重量を感じません。それでいて、内蔵の袋・膜と筋は伸張性に優れており、翼膜は最も薄い素材となります。他に類を見ない強度を誇り、牙が最も硬く、順に骨、爪、鱗、革となります。牙、骨、爪は鍛えることによって刀剣として活用できることが確認されており、鱗と革の防御性は驚異の一言に尽きましょう。これらの素材は厳重な管理体制で保管しておりましたので、これらが全て暴風竜の素材であることは確認済です。触ることはできませんが、これよりお客様方に間近で見ていただく時間をとらせてもらいますので、係りの指示に従って順番にその様をご確認ください」
「だってさ。俺らはもう見たからいいだろ?」
トキの言うとおり学園ギルドのメンバーは何度も見ていたので、皆不服はないようだ。
どの部位の落札に参加するか決めかねているように考え込む者もいれば、観光客のように間近で見てはしゃぐ者もおり、部位ごとの量や用途を換算しながらかじっと見つめる傭兵風の男もいる。
観察が終わり、競売が再開されるまではかなりの時間がかかった。
それでも、世に初めて出る品に皆の関心は高まっている。
「お待たせいたしました。それでは、いよいよ暴風竜の素材の競売を始めさせていただきます。まずは、内蔵の袋・膜。最低落札価格は白金貨3枚からです。では、どうぞ!」
値は徐々に上がっていった。
商人たちと魔法ギルドが争っているようだ。
そして、最初の落札が決まった。
落札したのは魔法ギルドだ。
「ありがとうございます!暴風竜素材、内蔵の袋・膜は白金貨13枚の落札となります!」
トキはニヤニヤが止まらなかった。
「うーわ気持ちわりー笑顔」
「うわぁ悪人面だね」
「しっ、見ちゃいけません」
「…………」
四者の反応は気にしない。
今、トキの頭の中では金勘定が高速で行われていた。
顔は無意識によるものである。
続く翼膜は白金貨18枚,金貨15枚、筋は白金貨16枚,金貨70枚、爪は白金貨24枚,金貨15枚で落札された。
落札したのは職人ギルドのギルドマスターで、ギルドをあげて勝ち取りにきているようだ。
そして、革になってから価格がさらに跳ね上がった。
職人ギルドが白金貨40枚と言ったのに対して商人たちが45枚と対抗し、どんどん競い合って値は白金貨60枚を超えた。
競い合って先に根を上げたのは商人の方だった。
落札価格は白金貨76枚。
信じられないような値がついた。
これにはトキの笑顔も若干引きつっていた。
だが、競売は勢いをさらに増す。
鱗になると、傭兵ギルドと商人たちが競り合う形となった。
職人ギルドは革で値段を上げすぎたのか、早々に声を出さなくなった。
ここでも勝ったのは商人で、先ほどの落札者とは違う太った体型の男だった。
落札価格は白金貨90枚。
後半になると金貨という言葉が聞こえてこなくなっていた。
トキは引きつった笑顔のまま動かなくなった。
最も量の多い骨になると、貴族からの声も続くようになる。
貴族、傭兵、商人、騎士団、復活した職人、魔法ギルドが争う乱戦となった。
最後は商人に騎士団と傭兵が負ける結果に終わる。
落札価格は白金貨138枚。
遠目にだが、落札した商人は商業ギルドで見た覚えがあった。
どっかの大商会の会長だったはずだ。
加工してかそのままかで転売するのだろう。
トキは胸が苦しくなり、脂汗をかいていた。
最後の牙の競売が始まった。
白金貨100枚を過ぎた辺りで傭兵と職人が脱落し、貴族と商人と騎士団の三つ巴となった。
2,3枚ずつ上がっていたが白金貨127枚となったところで、騎士団が一気に140枚と釣り上げた。
最後のあがきと見たのか貴族が立ち上がってさらに150枚に釣り上げると、騎士団の男ががくっと肩を落とした。
威張るように周囲を見渡した貴族に商人が待ったをかけた。
「白金貨180枚!!」
立ち上がっていた貴族が驚愕の表情をした後、歯を食いしばりながら席についた。
最後まで競い合い、ついに落札したのは40代ほどの商人風の男だった。
格好は商人のようだが、その風体は傭兵と言ったほうが似合いそうだ。
トキは口を開けて上を見上げたまま虚空を見つめていた。
落札価格の5%と魔道具の価格を引いて、白金貨518枚と金貨20枚がトキに入る金額だ。
以前、生徒会室で大言を吐いたが、その5倍以上の金を僅か13歳弱で手に入れたのだ。
金貨4,5枚くらいの臨時収入であれば、御飯奢って~と気軽に言えるが、文字通り桁違いすぎて逆に憐れんだ表情で仲間たちはトキを見ていた。
トキが億万長者となったことは周知の事実となり、よからぬ思惑を持った者たちが押し寄せてくるだろう。
「ドンマイ」
「ご愁傷様」
「ざまぁないわね」
「今後も手伝わすなら給料をいただきます」
「……ふ、はははは!良かったじゃないか!予算が増えたと思えば万事オーケーだ!ははは、は……は、はぁ」
落札者は裏へと呼ばれたので、トキは立ち上がった。
「行ってくる。うごっ!」
気を持ち直したように見えたが、プライベートスペースから出るのに壁にぶつかってしまう。
「い、行ってくる」
足取りはしっかりしているが、大丈夫だろうかとユユを除く3人は心配した。
そして、危惧していた通りの影響が出ることになる。




