63話 学園ギルド新規約と男共の恋バナ
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
「しつけーんだよ!あいつら!」
「俺たちに言ってもしゃーないっしょ」
「ギルドの方でも入会者が来てるらしいよ」
「自業自得。自縄自縛。つまりトキは自分から進んで自分を虐めたがる被虐体質の変態ってことね」
「それ、そんな解釈はしねーはずだぞ?」
オークションから二日後、トキたちはいつもと同じ食堂ではなく、学園ギルドの本部で買ってきた昼食を食べていた。
オークション翌日には噂は学園中に広まっており、学生たちがトキに近づこうとわらわらと寄ってきたのだ。
授業中、休み時間、昼休み、放課後と、言葉ではっきり断っても際限がなく、魔法を使って逃げるほどの状況となっていた。
貴族で家から言われたのか囲もうとする者や付き合って欲しいと迫る女子生徒、将来雇ってほしいと言う者、投資や儲け話を持ちかける者、怪しい宗教じみた勧誘をしてくる者など様々で、金をせびろうとしてきた愚か者まで出る始末で、その者たちには鉄拳制裁を加えてやった。
このままでは仲間たちにまで被害が及びそうだ。
いや、耳にはしていないがすでに被害を受けているかもしれない。
「今日の放課後、学園ギルドの緊急会議を開くぞ。全員招集しろ」
思い立ったトキの行動は早かった。
整備された連絡網により全員に通達が行き渡り、全ギルドメンバーが一堂に会した。
「皆、集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは他でもない。先日、俺が個人的に出展したオークションの反響についてだ。予想を超える値がついたこともあって、周囲が色々と騒がしくなっている。この中にはそのとばっちりで、何者からか既に被害を受けている者もいるかもしれない。本当にすまない。俺は皆を守るギルドマスターでありながら、その責を負えていなかった。そこで、俺はここで二つの案件について皆に問いたい。一つ目、ギルドマスターの解任案について。ギルドメンバーの何%以上の可決を持って解任とするか。これは無記名の投票を持って行うつもりだ。二つ目、ギルドメンバーを守るための手段について。規約にある通り、学園ギルドはいかなる組織、集団、派閥にも与しないことは知っているな。現在のように、何者かが学園ギルドに、もしくは個人に関与してきた場合に備えて、威嚇、防衛、攻撃の手段を持っておくべきだと思う。これはその賛否も含めて議論したい」
ギルドマスターの解任権をギルドメンバーが持つという案に室内は騒然となった。
そうなれば学園ギルド内でも派閥ができてしまうのではないかと危惧する意見が出た。
ギルドマスターは選ばれたらその責任を最後まで全うすべきという声があがり、多くのものがこれに賛同する。
学生である内の失敗は大きな経験となる、それは皆が負っていることで、ギルドマスターだけに解任という罰則を背負わせていいものではないという話になった。
「第一案は否決ということでいいかな?うん。皆、ありがとう。俺は卒業までギルドマスターの責任を果たし、ギルドのために力を尽くすことをここに誓うよ」
やいのやいのと拍手が巻き起こり、トキは次の案件を切り出した。
「では、第二案。学園ギルドの防衛、自衛手段についてだ。まず、ここで守るものは何か問いたい。学園ギルドの規約、組織、そしてギルドメンバー自身とその財産、尊厳といったところだろうか?」
トキの意見に加えて、活動先での権利と学園内の施設があがった。
「では、それが攻撃されたり、損害を受けないための防衛手段は?」
これには報復する方法と力を開示しておく、ギルドメンバーは卒業してもその場合には協力するなどの意見が出された。
「各部門毎で対応するギルドとの関係を密にしておき、学園ギルドを中心にした広域の協力体制を築くことを今後の目標とし、報復手段を盛り込んだ規約を学内と各ギルドへ提示する、ということでいいかな?よし。では、最後に攻撃方法だ。直接的な暴力は学生として褒められたもんじゃないだろう」
「昨日金寄越せって言ってきたやつを叩き潰してたトキが言うことかよ」
ケオランの野次に皆が笑う。
「そういうのは黙って見逃すのが友人ってもんだぞ」
「あのときは黙ってたろ」
「嘘つけ!爆笑してたじゃねーか!」
そうだったっけ?ととぼけるケオランにまた皆が笑う。
ほどほどにしとけよギルマスーという声も聞こえた。
「おほん、で~攻撃手段だが、何か意見はあるか?」
「殴る」
「埋めちゃうぞ?」
「沈めちゃうぞ?」
「直接的すぎるだろって。あと、サリーとミランダは可愛く言ってもおっかないだけだぞ」
「「え?可愛い?」」
「そこだけ二人して反応すんな!」
「呪殺」
「誰だ、今ボソッと言ったやつ!?間接的でもだめだからな!」
「経済制裁がいいんじゃない?」
「どうやって?」
「商業ギルドとかに協力してもらったりとか」
「それじゃ商業ギルドに貸しを与えちまって規約に違反しねーか?」
「具体的な攻撃方法を持つより、後ろ盾を持ったら?」
「だから、誰にだよ。そんなの無償で引き受けるような力持ったとこがあるわけないだろ」
「ん~ギルマスが一発派手にかまして、以降後ろ盾になるってのはどうかな?今だって、竜王倒したっていっても誰も見てないから、その力を恐れず金に集まってるんでしょ?」
「一発派手にとは?」
「丁度一ヶ月くらい後に王子殿下の結婚式が建国記念日にあるじゃない?そのときだったら人も多いだろうし、そこでバーンと魔法をぶっ放すとか?」
「ほうほう、それは妙案だな」
「「「「「ギルマス、じゃあそういうことで」」」」」
「そういうことでじゃねーよ!そんなことしたら俺捕まっちまうじゃねーか!」
「トキ、安心しなさい。私は味方よ」
「いや、ユユ。お前が素直に俺をかばってくれるとは思ってないから言わなくていいよ」
「面会には行ってあげるわ。10年に1回。だから生まれ変わってね」
「やっぱな」
ギルドメンバーの意向は決まったようで、どのような策を講じるか議論が始まっていた。
ギルマスを放置して白熱した意見が出され、自作自演のピエロ案がいいのではと聞こえてくる。
勘弁してくれと嘆くトキだった。
結局、具体的な方法は記載せずに断固とした処置を下すとだけ規約には明記することになり、後日各所に配布されることになった。
そのおかげかどうかはわからないが、数日でトキの周りも若干の落ち着きを取り戻していた。
告白や婚約を申し込む女子生徒には効力がなかったことを追記しておく。
「ったく、まさか自分が玉の輿の標的にされるとは思わなかったわ」
「いいじゃねーか、もててよ。羨ましいぜ?くくく」
「僕は勘弁だなぁ」
今はトキとケオランの部屋に戻ってチーグルと3人で勉強に励みつつ、休憩にお茶を飲んでいた。
トキの荷物が増えたことで部屋の中は以前より少し狭くなっていた。
「俺は金目的の女なんてまっぴらゴメンだよ」
「そもそもトキの好みってどういう子なの?好きな子とかいないの?」
キョトンと頭をかしげるチーグルを見てリスを思い浮かべた。
「ん~綺麗より可愛い系が好み。小柄な方がいいかも」
「で、それ誰よ?生徒会長じゃねーよな?あの人超美人だし。誰思い浮かべたんだ?」
「誰だっていいだろ。ケオランとチーグルはどうなんだよ?」
「俺か?俺は今の彼女が好みばっちりだな」
「「ぶーーーーーっ!!」」
突然の報告にトキとチーグルは飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「ちょっちょっちょっちょと待ってよ!」
「はぁ!?お前付き合ってる子いるの!?誰だよ!?」
「うるせーし、きたねーよ。あ~あ~床汚しちゃって。いきなり大きな声出すなよな。ユユだよ、ユユ」
「えええええ!!?」
「まっ!……ぷはぁはぁはぁ。マジで?」
「マジで。夏休みんとき一緒に帰郷したろ?そん時に俺から言った。んで、いいよって言われた」
「かーーーーー!知らんかった……。ユユは謎過ぎてそんなこと全然考えつかなかったわ」
「僕も全然気づかなかったよ。そういうのはユユ隠しそうだしね」
「可愛いとこもあんだぜ?聞きたいか?いや、言ったら怒られそうだから止めとくわ」
「そうしろ。俺たちも聞きたくない」
「んで、トキの好きな子って誰だよ?俺は言ったぜ?トキが言ったらチーグルの番だからな」
チーグルは顔を真っ赤にしてごもっているが、二人はおろか学園ギルド全員がチーグルの好きな相手を知っている。
「んー。俺がファウスタイン侯爵領の出身だってのは言ったよな」
「あっ、ピーンときたわ。そこのご令嬢とか?」
「正解。侯爵家の長女でイリアって子。来年魔法学園を受験する」
「侯爵令嬢とはまた高嶺の花だな。しっかし、年下か~。で、告ったんですか?トキニア先輩は」
「殺っすぞ。竜王倒した後に初めて会ったんだけど、その翌日にそれっぽいこと言ったら『困りましたね、嬉しいのですが、障害が多いでしょう、皆が幸せになれる道を選択してください』って言われた。これって遠まわしの拒絶かね?」
「いや~たぶんその子もトキの周りのことを聞いてたんだろう。公爵令嬢の婚約者様とかな。俺は実家の制約はほぼ皆無だけど、お前は個人的に名前が売れすぎてるからなぁ。今だって見知らぬ女子に迫られてるし、国やギルドの上層部と関わりもあるんだろ?俺の解釈だと周りを納得させてから私を迎えにきてくださいってとこか?わかんねーけどな。まぁ望みはあるんじゃね?チーグルはどう思う?」
「トキは自分の思うように行動すればいいんじゃないかな。二股は関心しないけど、貴族の中にはそういう人もいるしね。一人の女性だけを愛することが大事だと僕は思うけど、トキの自由だよ。いくら女の子をはべらそうが泣かせようがかまわないけど、彼女だけは手を出さないでよね!」
「最後のが本音でどっちだろうといいんじゃねってことだな。チーグルはフェレア嬢と進展あったのか?」
「べべべべべべ別に僕はフェレアちゃんとはなななんもないよっ!?」
「ほう、フェレア『ちゃん』ね。こいつは簡単に掘り起こせそうだな」
「フェレアちゃんと呼ぶくらいの仲にはなったんだな」
「いいいやいや、僕たちは清らかなゆゆうしょうを育んでいるだけで……」
「清らかな優勝ってどこぞの大会で優勝したんだ?」
「さぁな。初々しいカップルを決める大会じゃね?で、俺から見ればハウゼン男爵は大して反対しているようにも思えなかったんだが、お父上は攻略したのか?」
「お…おちちちうえ……」
「あーやっちまったか?こりゃ。変なスイッチ入っちゃったかも」
「チーグルの恋の道はまだまだ険しいのであった。チャンチャン。さて、勉強の続きしようぜ」
「ああ」
ブツブツと虚ろな表情で固まったチーグルを放っておいて勉強を再開する。
男どもの恋愛話はこれにて終了となった。




