59話 暴風竜の素材
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
あれから別れを告げてファウスタイン侯爵家を出発し、王都に戻ってきていた。
夏休みもあと数日といったところになり、ようやく素材を運んでいたファウスタイン侯爵らが到着した。
重ね重ねお礼を述べると侯爵は自領に帰っていった。
春休みにまた帰郷することを伝えておいた。
届けられた素材は全てジョーのところで預かってもらうことにした。
事前に話を通しておいたのだが、それでも半信半疑だったようで、素材を前にしてようやく事実だったと理解したようだ。
「で……この宝の山で装備を一新したいと?凄まじく贅沢だな」
「まぁ命懸けでしたからそのくらいのご褒美があってもいいでしょう。装備はどんな感じにできますかね?あまり今と変わらないものがいいのですが」
「そうだな。短剣以外は一から作ったほうがいいだろう。お前さんの得物は相当な業物だ。俺は専門じゃないから信用できる鍛冶屋に聞いといてやる。他は任せろ。ブーツ、肩当て付きで胸当て、グローブ、手甲、ジャケット、コート、ハク用の防具も作るか。他に必要なのはあるか?」
「コートは厚手のものと薄手もの二つお願いします。それと前と同じく各装備に投げナイフを仕舞えるようにしてください。あとズボンも2着。顔と頭を護るものもほしいのですが、着脱が簡単で視界や呼吸が楽なものってないですかね?」
「お前さんは軽装を好むからヘルム系はダメだろうしな。鉢金か、いやフードを細工して…むしろ布や皮ではなくて…。よし、全て任せろ!」
「……派手にならないようにお願いしますよ」
「大丈夫だ。いや~腕が鳴るぜ!こんな素材を扱えるなんて職人冥利に尽きるってもんだな」
「そうですか。……おやっさん、ひとつお願いがあるんですが。うちの職人達にも手伝いをさせてもらえませんか?」
「ん?まぁかまわんぜ。依頼人のご要望だしな。いい経験にもなるだろう」
「ありがとうございます。後期が始まってから、放課後と休日にここへ出向くように言っておきますね」
「ああ。全てできるまでは3ヶ月はもらうぞ。それと管理はしっかりしておくが、お前さんの方で素材護衛の依頼を出しておけ。こんな超高素材、四六時中見張っておくに越したことはねーからな」
「わかりました。今から行ってきます」
冒険者ギルドに行き依頼を出すことにした。
ランクは念のためAランクとし、3ヶ月間で二つのパーティを雇うことにする。
依頼料は金貨200枚と言われたが、素材を売れば大丈夫と奮発した。
この他に、ジョーの店で寝泊りする予定のため食費もトキ持ちとなる。
合計で金貨300枚弱の支出だ。
Aランク以上となると依頼料も高くなる分、指名依頼とすることもできる。
予定日から依頼を受けられるパーティの一覧表を見ていると、Bランクへのランクアップ試験でお世話になった『集う刃』の名前があったため彼らにお願いすることにした。
もう片方はギルド員に勧められた『大地の息吹』という4人パーティに決めた。
バランスのとれた信頼の置ける熟練者らしい。
指名依頼は断られることもあるので、明後日にその報告をくれるそうだ。
依頼内容の詳細を話し終えたトキはギルドを出ようとしたところで呼び出しを受けた。
初めて2階に通されたトキを待っていたのはギルドマスターだった。
「トキニア君、この度はすまなかった。情報収集をお願いしたとはいえ、君に危険な目に合わせてしまい申し訳ない」
「いえ、誰も竜王の出現など予想もできなかったのですから、不可抗力でしょう。私ももっと注意して索敵をするべきだったわけですし、気になさらないでください」
「ありがとう。今後の教訓とさせてもらうよ。それで今回の一件だが、緊急依頼としては異例なこととなったため時間がかかったが、報酬がようやく決まったのでそれをお知らせしようと思ってね。依頼料はSSランクと同等の白金貨10枚。こちらにあるが、ギルドに預けるかね?」
「……さすがに多いですね。ええ、そのようにお願いします」
「それとトキニア君のランクを特例措置としてSランクとすることが決まった。SSランクの単独討伐を成し遂げた者がSランク以上の依頼を受けられないという状況は避けたいのでね」
「それは……もういいか。わかりました。諦めます」
「はっはっは。君の周りが騒がしくなるのはまだまだこれからだと思うがね。それで素材の方はどうするつもりかな?」
「装備を作るので余ったものは売るつもりです。ですが、モノがモノですので、今回はオークション形式にしたいのです。出品したものに一番高い値をつけた人が落札する形式ですね」
「なるほど。確かに、その価値はウチでもわからないものだからな。わかった、商業ギルドと打ち合わせてその場を作ろう。かまわないかね?」
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
開催は3ヶ月後、場所は商業ギルドに任せ、他にも出品物を出して最後に竜王の素材を出すことにした。
オークション参加者はカルティア王国関係者のみとする。
他国に流れることを国はよしとしないだろうとの判断だ。
(それでも他国の手のものが混ざりそうだけどな。国、というより王家には別途で贈り物をするか)
大筋が決まり、お茶を飲みながら雑談をしていて、トキは思い出すようにギルドマスターに頼み事をした。
「今回の件で自分よりも強いものはいくらでもいると痛感しました。できればでSSランクに関する情報をお聞きしたいのですが」
「すまないが、SSランクに属する人間の情報は規制されている。私も詳しくは知らないしね。だが、SSランクの魔物については大丈夫だ。君も知っている通り、SSランクの魔物は王種と呼ばれる。これまでに確認されているのは7種11匹だね。それぞれ話していこうか」
ギルドマスターの話をまとめると以下のようだ。
竜王――全て30年以内で生息確認。
火焔竜……バドワイ山脈の北方火口付近。
水氷竜……タルム女王国のシーサン湖。
暴風竜……大陸各地、討伐済み。
土震竜……アルゼン帝国北西ダンギス荒地の岩石地帯。
鳥王――100年前、50年前でそれぞれ生息確認。
スカイアウァー……黄金の針のような羽を持つ巨鳥。アルゼン帝国北東の島、カンタ諸島。
サンダラーシス……雷を纏う竜のような顔をした巨鳥。ゴウホウ霊山東部。
獣王――現在も生息。
ケイラード……巨大な四足獣。サルンガ共和国北部のエイシャン大平原。
海王――近年では10年前に確認。
インヴィティア……目のない巨大な海蛇。ナルビス王国の南沖を始め、世界中の海。
亜王――500年以上前に確認。
アケロプス……人型の巨人。カルティア王国の前身に当たるカルティア皇国を滅ぼしたとされる。
樹王――現在も健在。
ペルベオ……七色の花を持つ美しい大樹。消化器官を持ち近づくものを捉えて食べる雑食。サルンガ共和国南方の大森林。
蟲王――100年ほど前に確認。
ルクスナンシ……甲殻類にして多足類。挾みと羽をもった巨大な毒虫。サルンガ共和国南方の大森林。
これらの生息域には近づかないようにしようとトキは決意した。
ちなみに暴風竜は火焔竜、鳥王と並んで小さい部類になるらしい。
軍隊が針山にされたり、燃やされたり、氷漬けにされたり、切り刻まれたり、船ごと食べられたり、踏み潰されたり、溶かされたりなど過去、王種に挑んだものはことごとくそのような目にあったとか。
本当に自分は運が良かったとしか言い様がない逸話ばかりだった。
ギルドマスターに礼を言って今日は寮に帰ることにした。
既に9割くらいの生徒が戻ってきており、トキの噂も広がっているようで、クラスメートや学園ギルドメンバーに話をせがまれた。
学園ギルドのメンバーには明日会議を開くことを連絡しておく。
ケオラン、チーグル、ユユも帰ってきており、夕食を一緒にした。
「トキ、お前無茶しすぎ」
「だね。噂を聞いて最初は意味わかんなかったよ」
「ケオランもチーグルも納得しなさい。トキのような奇人変人を私たち正常者が理解できるはずもないでしょ」
「ユユの辛辣な物言いを聞くと、日常に戻ったって気がするのが悲しいな」
ユユは以前と変わらぬ無表情で食後のお茶を飲んでおり、ケオランとチーグルはトキの言い様に笑っていた。
竜王討伐の経緯とその後の経過を話しても、三者の言い分は変わらなかった。
「となまぁそんなわけで、装備に関しては学園ギルドの職人にも手伝わすつもり。半端な素材が出たらお前らも何か作らすか?職人の練習がてらになるけど」
「「「いいの!?」」」
「あ、ああ。まぁ余った素材を使うから要望通りのものが作れるかはわからんけどな」
これがいい、あれがいいとトキの話はもう聞いていなかった。
その反応を見るにこのことは内緒にしていたほうがいいだろう。
翌日、学園ギルドの会議でも竜王の件で騒然となり、職人たちはまたとない機会に燃えていた。
関わるのは縫製(織物)職人1年のミランダ=カッツネル、同じく縫製職人1年のサリー=フェンス、細工職人2年のオルティナ=ヒウェン、同じく細工職人1年のカットン=バーナー、革職人2年のイェン=ホルン、同じく革職人1年のクウト=ラッセン、石工職人2年のベレンド=ガイスター、弓職人1年のトランバ=ミッセル、鍛冶職人2年のテイル=オッピニオン、同じく鍛冶職人1年のパウエル=ハミット、同じく鍛冶職人1年のリッカート=レベリアン、そしてそれら素材の管理に会計のジャクエルの12名だ。
弓は作れるかどうかはわからない。
学園ギルドの会計は後継の商業部1年に任せることになった。
鍛冶職人はジョーの知り合いということで頼んでみなくてはわからないが、他の職人たちについては明日の昼に顔見せするつもりだ。
前期の学園祭収益と合わせて後期の予算は各自の活動費用となる。
学園ギルドの後期目標はそれぞれが活動して、来年の新入生の勧誘に力を注ぐことになった。
内容はこれから会議を重ねていきながら決まるだろう。
さらに翌日、後期の授業開始を明日に控え、トキは午前中に冒険者ギルドへやってきていた。
受付で話を聞くと両パーティとも受領してくれたらしい。
今はギルド内の談話スペースに両方共いるというのでそちらを覗いてみた。
「おっ、噂の銀翼様がいらっしゃったぜ?」
「ほぉ、彼が……」
久しぶりだが『集う刃』のメンバーに変わりはないようだ。
それと向かい合う形で座っている中年のグループが例の『大地の息吹』だろう。
「お久しぶりです。ジェイムさん、アルムさん、ロインさん、チエルさん。以前はお世話になりました」
「久しぶりだね、トキニア君。世話といってもあまり手がかからなかったし、もう抜かれてしまったけどね。ははは」
ジェイムの言葉に『集う刃』の面々は苦笑いしながら頷いていた。
ジェイムたちは『大地の息吹』を知っていたようで紹介してくれた。
『大地の息吹』は全員30代くらいで、男性のみの4人組パーティだ。
リーダーは頬に傷のあるロットンさんで、手斧と大盾を使う所謂タンクだ。
つばのある帽子をかぶったティンさんは弓師。
クォータさんは槍使いで昼間っから酒を飲んでいた。
盾と片手剣を使うリリックさんは金属鎧で固めている。
魔法は使えないが、それでもAランクなのだから腕がいいのだろう。
依頼について話を詰めて、昼にジョーと学園ギルドの職人たちに顔合わせすることになった。
「随分と大所帯になったな。まぁいい。俺がこの店の店主でジョーだ。裏に素材を置いた倉庫がある。うちの2階は空き部屋が4つあるから好きに使ってくれ」
大雑把な説明だが、冒険者たちは学生とジョーに自己紹介した後、倉庫やその周り、家の中を下調べしに行った。
職人はジョーの強面に萎縮しているようだ。
どちらかと言えば鍛冶職人っぽい外見なので、縫製職人などの女性陣からは懐疑的な視線もあった。
腕は確かとだけ告げてあとはジョーに任せることにした。
その後鍛冶職人を連れて紹介された鍛冶屋に赴いた。
話は通っていたようで自分の要望を述べてから職人を手伝わせて欲しいと言うと、見学と簡単な手伝い程度ならと返事をもらえた。
それだけでも職人たちは嬉しそうにしていた。
トキにできることはもうなくなったので、寮に帰ることにした。
明日からまた新たな学園生活が始まる。




