60話 後期開始、賄賂はこちらで~す
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
始業式が行われ、簡単な授業説明や連絡事項などで今日は終わった。
授業は明日かららしい。
後期は必須科目が数学、古代史(王国史と世界史を兼ねる)、魔法社会学、魔法実践Ⅱ、運動Ⅱ、で、選択科目は一般科目が建築学Ⅱ、薬草学Ⅱで魔法科目が風魔法Ⅱ、治癒魔法Ⅱ、魔道具Ⅱで武術科目が剣術Ⅱ、体術Ⅱとした。
後期は選択の魔法科目を二つ以上合格しなくてはならない以外は変わらない。
そのため、3コマ分空くことになったのだが、この時間は魔法の練習に当てる予定だ。
魔道具Ⅱは前期受けれなかったため少し不安もあるが、以前から興味があったので取ることにした。
ケオランは前期と同じく魔法生物学Ⅱをとるようだが、霊獣を仲間にできるわけでもないのに聞く耳持たずだ。
朝からのトレーニングではケオランにお願いして、目隠しをした状態でゆっくりとした動きの模擬戦をするようになった。
まだ早く動かれると感知が追いつかないためだ。
授業が始まって数日後、空いた時間にトキは屋外修練場に向かっていた。
すると、前から来た女子生徒二人と男子生徒一人のうち、先頭の見知らぬ女子生徒が声をかけてきた。
「トキ君、お久しぶりです。お話は伺っております。ご無事でなによりでした」
その女子生徒は生徒会長のエレスだった。
だが、ウェーブがかかった長い黄金色の髪をばっさりと切ってナチュラルショートにしてしまっていた。
「き、づきませんでした。お久しぶりです、生徒会長。ルウ先輩とラック先輩もご無沙汰してました。……随分と、思い切りましたね」
「……はい。変でしょうか?」
「いえ、大変お似合いですよ」
儚い笑顔を見せて、ではとすぐにエレスは立ち去っていった。
二人もあとに続くが、ルウが折り返してきた。
「トキニア君。今日の放課後少し話があるのだが、かまわないか?」
「……ええ。生徒会室に行けばよろしいですか?」
「いや、個人的な用件なのでな。第三校舎2階端の空き教室に来てくれ。じゃあ」
(愛の告白だったらラック先輩に殺されるな。まぁ、エレス絡みだろう。面倒なことになりそうだな)
頭を切り替えて屋外修練場へ向かう。
竜巻を次々と巻き起こしていく。
竜王戦から竜巻に関しては規模と発動時間に上昇が見られた。
今トキの周りでは6個の巨大竜巻が発生している。
回転方向が同じなので、竜巻同士が合体して巨大化していくのだ。
『竜巻の散乱』
思いもせぬ副産物となったが、十分な範囲攻撃といえる。
(味方がいたら巻き込みそうだけどな。)
竜巻を霧散させ、次の魔法を発動する。
前方に渦状の風を発生させて、回転数を上げ尖端を鋭くしていく。
理想はランスのような形だ。
まだまだ丸っこいが、これだけでもぶつかればその回転に巻き込まれて体が引き裂かれるだろう。
その証左として地面が深く削れて砂埃が舞っていた。
このままでは貫通力というより突進力特化の魔法になりそうだ。
斬撃の刃は少し速度が上がった、ような気がする。
視認性をもっと下げたいので今後の課題とした。
最後に防御魔法を試す。
竜王の背後をとるために、ぶっつけ本番で自分を中心に竜巻を発生させたあれだ。
あの時は風に乗って上昇したが、今度はそれを防御に当てる。
これも同じように気分が悪くなりそうなので疾風の鎧で自分を保護する。
規模としては結構高いのだが、どの程度の防御力があるのかわからないので誰かに協力を願おうと思う。
練習を終えて汗を流しに寮へと帰った。
放課後、ルウに指定された教室に来た。
「こんにちは、ルウ先輩。さぁこちらの準備はいつでも大丈夫ですよ」
「いきなり何の話をしているんだ?」
「何って、ルウ先輩が熱い愛の告白をするって場面じゃないんですか?」
「いきなり何の話をしているんだ!?」
「違うんですか?そうか、そうですよね。ルウ先輩にはラック先輩がいますもんね」
「だだだだだから、何のは、話をしているんだ!?」
「ああ、わかり易すぎです。ご馳走様。で、何の用件なんですか?」
「くっ……おほん。話というのはエレスのことだ。君が彼女に何をしたのかは知らないが、相当傷ついていたぞ。いや、今も傷ついている。周囲には毅然とした態度を保っているが、夏休みに会った時も泣いていた。余計なお世話だとはわかっているが、彼女の友人として言わせてもらう。君が権力や貴族社会を忌避しているのは承知しているし、彼女をそういう目で見ることも仕方ないだろう。だが、エレスがまだ13歳の女の子であることも事実だ。貴族の娘という肩書きのみで彼女の全てを判断するのは止めてほしい。どうも君はそういう先入観のみでエレスを見ている気がしてならないんだ。受け入れるにしろ、受け入れないにしろ、彼女をあまり知りもせず拒否するのは友人として我慢できない」
「なるほど……。確かにおっしゃることはわかります。ですが、私のことを知りもせずに、いや勝手に知ろうと探りをいれることは許されるのですか?彼女の言動に問題があったことも事実だと思いますよ。それを止めらなかった友人であるあなたにも」
「その点は謝罪するしかない。なにぶんエレスがあれほど君に夢中になるとは思いもしなかったのでね。今後は気をつけるよ」
「はぁ、わかりました。前向きに検討しましょう。しかし、ルウ先輩も苦労しますね」
「そう言うならあまり私の友人を泣かさないでくれ」
お互い気苦労が絶えそうにないことに苦笑いを浮かべた。
後日ラックに出会った時にはそれとなく放課後、二人きり、個人的な用件、といったキーワードでからかってやった。
どういう関係なのか知らないが、このくらいは許されるだろう。
前向きに検討すると言いながらもトキはそれを行動に移すことができずにいた。
生徒会室は他のメンバーがいるので、二人で話す機会が見つからなかったからだ。
授業や制作活動、ギルド運営をこなしているうちに時間はどんどん過ぎていった。
そして、休日の今日は王城へと足を運んでいた。
以前から要請していたのだが、ようやく面会が叶ったのだ。
普通、要請したからといって平民は王城に入ることはできないのだが、配達依頼の折に連絡方法を交わしていたトキだからこそできたのだ。
面会場所は前回と同じ国王陛下の私室だった。
「トキ、大きくなったな」
「ご無沙汰しておりました。国王陛下、王子殿下、宰相閣下」
休憩中というより、おそらくトキと会うためにこの部屋を用意してくれたのだろう。
部屋に入るとセルクスが最初に声をあげた。
今は私的な時間という意味が含まれていた。
「トキニアよ、しばし会わぬうちに大したことをしてくれたな。おかげで後世には儂の名よりそなたの名の方が大きく書かれるだろう」
「ご冗談を。陛下がもたらした教育と医療の治世はこの国に大きな影響を与えております。私もその恩恵を受ける身ですので、今回の件も陛下が撒いた種が芽吹いた結果と言えるでしょう」
「ははは。そう言われるとうれしく思うぞ。現場の人間の言葉は何よりの励みになる。それで、今日はどういった用件なのだ?竜王討伐の話を聞くだけでも十分だがな」
「本日はひとつ、土産をお渡しするために参りました。こちらになります」
トキが出したのは両手で持つほどの木箱だった。
「そのまま渡すのもどうかと思いましたが、見習いの学生しか細工職人に知り合いがおりませんでしたので、原石のままお渡しすることにしました」
木箱の中に入っていたのは暴風竜の魔石。
磨かれたことによって輝きが増しており、木箱から光が溢れていた。
「トキニア……これは?」
「暴風竜の魔石になります」
「こんな魔石は、いやこのような輝石は初めて見る。吸い込まれるような、包み込まれるような、なんとも不思議な輝きだな」
「そうですね。この世で最も美しい色と言えるのではないでしょうか」
「…………」
国王マルキスの言葉にセルクスが同意し、宰相のイレントは食い入るように見つめていた。
「トキニアよ、これを……?」
「はい、王家に寄与させていただきます」
「トキ、この魔石の価値はとんでもないものだぞ?それこそ売りに出せばどのくらいの値がつくかわかったものではない」
「残りの素材は売るつもりですし、実は自分の分はとってありますので。それと、私の勝手なのですが、それは王子殿下とアリビア王女殿下の結婚祝いを兼ねております。その魔石を使って結婚指輪を作っていただければと思い献上しました」
「「ふはははは」」
トキの言い分にマルキスとイレントが笑い出した。
セルクスは照れたように髪をなぞる。
「よい弟分を持ったな、セルクス。時間は少ないがこれ以上のものもあるまい。これで結婚指輪を作るよう至急手配せよ。イレント、頼んだぞ」
「はっ」
「トキ、ありがとう。きっとアリビア王女殿下にも喜んでもらえるだろう」
「勿体無きお言葉で」
恭しく頭を垂れるトキを見てまた笑いが起こった。
その後も暴風竜との死闘や学園ギルドの話に花を咲かせる。
魔石の大きさから結婚指輪を作っても残ると思われるので、王妃様にネックレスでも作るというのはどうでしょうと進言すると、マルキスは唸りながら考えておくと言っていた。
三者とも忙しい身なので時間は短かったが、落ち着いたらまた来てくれと言われて退出した。
およそ2ヶ月後にトキの装備も完成しオークションが開かれ、それから1ヶ月後には建国記念日と王子殿下の結婚式が催される。
それまではのんびりして過ごそうと画策していた、のだが。




