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銀翼の飛翔  作者: fey5
第5章 学園と仲間と ―初年度―
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57話 一命を取り留めて

新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 ファウスタイン侯爵領 イースコット村




「――ました――さい」



光が差し込んで眩しいかのように目を細めたまま視界を開く。


まばゆい感じとは裏腹に黒い天井が見えた。



「トキニア。大丈夫か?私がわかるか?」



灰色の髪を後ろに流している男性と艶のある黒髪を後ろで簡単に縛った女性。


二人共忘れることはないトキにとっての恩人。



「……シリウス様。……マルサ様」



自分の問いかけに答えたトキにほっと安堵を漏らしたファウスタイン侯爵夫妻。


どうやら自分は助かったようだと思い、起き上がろうとした。



「ぐっ!」


「トキニア、無理するな。治癒魔法をかけたが、今は安静にしなさい」



傷は治っても体力は回復していないようだ。


トキは自分が気を失った後のことを聞いた。



「ギンが単独で戻ってきたため、領兵はその案内に従って捜索し、森で倒れていたトキニアを発見したらしい。竜王の死体もな。元々ここへ向かっていた私は報告を聞いて、急いでここイースコット村に駆けつけた。気を失ってから今日は3日目になるな。他に魔物の姿はないようだ」


「そうでしたか。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。それと、ありがとうございました」


「うむ。それでだ、トキニアよ。あの竜王はそなたが倒したのか?」


「……はい。命からがらでしたが。最後にギンが助けてくれなければ死んでいたでしょう」


「そうか。素材の解体はさせておく。とにかく今は体をゆっくり休ませなさい」



お礼を再度言うと侯爵夫妻は部屋を出て行った。


あの二人には嘘やごまかしはできなかった。


竜王、トキも討伐されたことがないSSランクの怪物ということは知っている。


それを成し遂げた今、さらなる厄介事が舞い込むことになるだろう。


とにかく今は体力の回復に努めようと思って、傍らにあった果実に口をつけた。




一方――



「大変なことになった。まさか竜王が現れるとは。ましてや、それを倒してしまうとはな」


「トキニアが心配です。あの子はまだ12歳の子供。どんなことに巻き込まれるか……」


「わかっているさ、マルサ。トキニアは私たちの子供同然だ。できる限りのことはしよう」



侯爵は安心させるように妻の肩に手を置いて言って聞かせた。


そこへライベイン=クォートが来て指示を仰いだ。



「シリウス様、竜王の遺体はいかがなされると」


「引き続き可能な限り解体せよ。あれは討伐した者の所有物だ。厳重に保管しろ」



はっ、と言って監督に向かう。


一素材でもかなりの資産になりうるものだ。


あれだけでどれだけの価値があるか想像もつかない。


万が一にも不正などが起こらないよう侯爵自身も現場に向かうことにした。




目を覚まして3日目、ようやくトキの体も元に近づきつつあった。


立ち上がり歩くことも出来だしたので、ファウスタイン侯爵と改めて今後の話をすることにした。



「今回の件だが、まず隠し通すことはできないだろう。王都はおろか、国を超えて噂が飛び火することは目に見えている。トキニア、そなたはどうしたいのだ?」


「何も変わりません。私は魔法学園に通い、資金を貯めて、パイオニル村を復興するために戻る、それだけです」


「だが、そなたの周囲は変わるだろう。勧誘や招待がひっきりなしに舞い込み、嫉妬や恐怖、悪ければ暗殺の対象となるやもしれん。それでもか?」


「はい。これは変わることはありえません。手を出す輩がいれば、返り討ちにします」


「……そうか。だが、何か困ったことが起きたらすぐ言いなさい。必ず手助けしよう」


「ありがとうございます」



トキは深々と一礼した。


これからの予定については、墓参りをして王都に帰ることになった。


ファウスタイン侯爵もこのまま王都に向かうようだ。


というのも、素材を王都まで運搬するためである。


責任をもって無事届けるとトキに約束したのだ。


暴風竜の素材は馬車6台に満載(一部はみ出ている)するほどとなっていた。


皮・鱗・骨・筋・翼膜・角・爪・牙・内蔵の膜や袋・魔石・心臓とほとんどの部位が解体されていた。


肉や内蔵、血は腐るので焼却したらしい。


魔石というのは魔物が必ず持っている鉱石のようなもので、ほとんどの場合は欠片のような小ささだ。


しかし、この暴風竜の魔石は大人の拳よりもふた回りは大きかった。


透き通った輝く銀色という不思議な色合いをしており、とても綺麗で魅入ってしまう。


現在では宝石としてしか使い道がないが、この色あいと大きさならとてつもない額になりそうである。


心臓はその一部のことで、心臓の中から魔石と同じくらいの大きさで白く石化した物が出てきたらしい。


知らされなければそこらへんに落ちている石としか思えない。


持ってみると軽かった。


そしてその軽さで思い出した。


背嚢からガソゴソ探して一番底にあったソレを取り出す。


瓜二つのような白い石が並ぶ。


それは数年前、まだ老師と修行という遊びに付き合わされていた際、何とかの盗賊王の秘宝が眠るという洞窟でスケルトンに投げつけられた石だった。


思い出の一品となっていたのだが、竜の心臓の一部だったらしい。


(で、だから何?って話なんだけど……)


その用途がわからないので、これもまた思い出の一品として埃をかぶることになるだろうと、背嚢にしまった。


白石と魔石だけ受け取り、他の素材を侯爵に任せたトキは墓参りに行くことにした。




二年半ぶりとなる帰郷は前回と変わらず、草刈からするハメになった。


夏真っ盛りな日照りの中、汗をかきながら作業を進める。


なんとか墓周りだけは綺麗にすることができた。


村の中は道というものは消え去り、建物もその骨格がわからないほどの廃墟となっている。


復興するには草刈と廃墟の撤去から始めなくてはならないだろう。


墓に水をかけてあげながら、これまでの報告をした。


配達依頼のこと、ハクとギンのこと、知り合った人たちのこと、学園のこと、自分のこと。


(復讐なんて考えてなかったんだけどね。仇がいるかもしれないって聞いて、少し嬉しくなっちゃってさ。殺意が芽生えてた。だから、バチが当たったんだろうね。竜王なんて怪物に出くわして、危うく死にかけたよ。ハハハ。復讐なんてのは止めて、この村の復興だけを考えることにするわ。その方が皆も安心するだろ?)



一通り報告を終えたトキは墓の前に座って今後のことについて思案した。


以前からの目的――金、人、力。


今回の件では思いがけない大金を得ることになりそうだ。


まずは自分の装備を一新して、残ったものは売るつもりだ。


それがいくらになるかわからないが、復興資金の足しにはなるだろう。


必要であるなら引き続き冒険者ギルドで稼げばいい。


学園ギルドを設立してから職人や商人、魔法使い、冒険者との縁は広がっている。


あとはどうやって引っ張てくるか。


誘致――住人もそうだが、おそらくそれが一番の難点となるだろう。


そこも一緒に考えてくれるような人材、会計のジャクエルをまずは説得しておきたい。


他には建築士としてチーグル、治癒魔法が使えるシンク(もしくは紹介してもらう)、土魔法使い、商業部門(ジャクエルの補佐)、農業部門、職人部門、防衛戦力(ケオラン、ユユはこれに当てはまる)くらいか。


挙げればキリがなさそうだが、30人を目安に募ってみることにする。


これも資金次第となるが。


(聞いたことはないけど、オークションをして釣り上げてみるか。商業ギルドか国に頼みたいけど、どちらにしても土産が必要かな)


力については現状を伸ばしていく方向でいいだろう。


暴風竜がしていた(おそらく)魔力感知を是非とも習得したい。


この世界の生物は必ず魔力を少なからず持っているらしいし、ガルツ=ルーパー対策にもなるだろう。


音や匂いを捉えるように人間が自分以外の魔力を感じようとするなら、それは魔力か魔法をもってしてか、そういう特殊な器官を持っているとしか考えられない。


(魔眼とかなら別の方法探すしかないな。そんなのほしくないけど。もしくは目に魔力を集めて凝とか?んなアホな)


自分の魔力を一つの器官として、イメージ的には触覚に近いだろうか。


トキは自分の魔力を放出してみる。


右手から魔力が靄のように出ているのがわかる。


体内でできたことを体外でもできるようにすればいいように思えるが。


靄を左手で上から包む。


自分の感覚なのではっきりとはしないが、右手で左手を感じ取れているような気がした。


ギンを呼んで試してみる。


右手から出た魔力を動かしてギンに触るイメージ。


キュエエ


(触った!けど、これじゃあ魔力感知じゃないな。それにこれじゃ情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。触ったもの全てを感知してたら感知半径も極少にならざるを得ないし却下だな)


そうなると魔力を感知するにしてもしないにしても、やはりそういう魔法を作るしかない。


暴風竜というくらいなので、風属性の感知魔法を使っていたのだろうか。


闇属性だと影を広げるくらいしか方法が思いつかないが、それだと先ほどのと同じく相手にバレバレだろう。


その点、風属性だとまだ自然だ。


形としては、自分を中心に渦のようにゆっくり一本の紐のような風を回して、動くものを感知する感じだろうか。


索敵半径にもよるが、ものすごく魔力消費が激しいような気がする。


モノは試しと目をつむって魔法を発動してみた。


(……これはギンか。形もわかるな。あっ、左翼を嘴でつばんだ。半径を広げて……ハクが左後方にいる。草を食べてるな。まだ広げれるか?……ここら辺が限度か)


半径約30mが今の限界のようだ。


しかし、これは他に何もしていない場合だ。


戦闘中なら他にも魔法を使うし、この半分以下になるだろう。


(結局、練習が必要だな。ケオランに頼んで目隠しして朝のトレーニングをするか)



ひと段落つくと、いつの間にやら夕方になっていた。


今日はここで野宿することにして、明日ファウスタイン侯爵家に行くことにした。


明日の午前中には侯爵夫人が帰ってきているはずだ。

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