56話 暴風竜との死闘
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国南部 大森林
轟々と圧倒的な破壊力を伴ったブレスを瞬時の判断で躱しながら接近していく。
森の中の全力疾走は困難を極めたが、転びそうになっても疾風の鎧で無理やり体を立て直し止まらないようにする。
止まればブレスの餌食となるのは目に見えていた。
それほどの距離に達したトキは上空で変わらず羽ばたく竜王の姿を確認した。
短剣を振り抜き、斬撃の刃を放つ。
それを竜王はその名に相応しく、風を纏っているだけで避けもせず防いだ。
どうやらトキの遠距離攻撃は鼻息にも足らない程度のものらしい。
トキは竜王にとってブンブンとうるさい蝿でしかない。
(うわぁ~これ、もしかしなくても相性最悪なんじゃ……)
風を纏った竜王は体を反らし、力を込めるように翼を打った。
(かかかかかいひーーー!!)
トキの何倍もの切れ味を持ちそうな大きい風の刃が出鱈目な速度で2,30本飛んできた。
3次元運動も加えて、泣きそうになりながら必死に回避したトキの周囲はまるで開拓されたかのように丸裸になっていた。
(あんなカンジの見たことあるぞ。魔剣アンサラーって華奢な猫さんが言ってた)
そんな感想を他所に再びブレスを吐く竜王。
若干体を反らすくらいの予備動作だとブレスのようだ。
解析出来たところで命懸けであることに変わりはなく、判断を少しでも間違えれば詰むだろう。
さらにトキの攻撃が全く効かない可能性も出てきた。
そこでトキは一枚のカードを切った。
「俺が悪かったーーー!話し合おうじゃにゃーーー!!」
やはり和平交渉は無理のようだ。
問答無用でトキにブレスを連続で放ってくる。
(こういうのってクールタイムとかないんでしょうか!?)
竜王にはそんなものは存在しないらしく、バンバン打ってくる。
試しに逃げようとして離れるとトキの速度について来た。
(あいつの空中での速度は俺の森の中での全力疾走と空中での速度より速くて、何もない平地での俺の全力速度よりは遅いくらいか。まずは地面に降ろさなきゃ話にならんな)
そのためには翼を使えなくすればいい。
あのブレスと風刃の嵐を掻い潜って、爪や尾などを避けながら効くかもわからない直接攻撃をする。
(無理というより無茶すぎる。掻い潜るのはまだしも、空中では躱しきれる自信ねーよ?)
こういう時に閃光魔法などで目くらましを使える人がいれば、と考えたトキは思い出した。
『有名なものはストーム、サイクロン、ハリケーン系統でしょうか。巻き上げて落とす、または巻き込んで切り刻む魔法ですね。視覚や聴覚を封じる効果もあります。』
風魔法Ⅰの担当教師であるティエボナ=ヘルスの言である。
竜王の攻撃を避けながら、今の自分でもできることで作戦を考えていく。
(まず、感知の特定からだな。視覚はない。嗅覚も距離や風向きからしてないだろう。聴覚はあれだけうるさく吠えてるんだから違う。気配や振動ってのもないよな。となると、残りは熱か魔力か。いくつか確かめなきゃならんな)
魔道具を取り出して火種から枯れ木に火をつける。
火事にならないようにそれを森の中に置き去る。
幾度か繰り返したが、竜王はそちらには見向きもせずトキを狙い続けていた。
次にトキは自分と同じ大きさくらいの竜巻を二つ左右に放ってみる。
すると竜王は三方とも巻き込む形でブレスをなぎ払ってきた。
これまでよりも広範囲に攻撃してきたため、トキは上へ回避するしかなかった。
姿を見せたことよりも、切り返しスピードが落ちる空中に身を投げ出してしまった事態に警鐘が鳴る。
すかさず竜王のブレスが襲いかかってきた。
ブレスに当たるくらいならと、浮遊に回す分を一切なくし、疾風の鎧の全てを落下する方向に形を変えて加速した。
全力加速で落下した結果ブレスを避けることはできたのだが、止まることができず地面に衝突する。
「ぐはっ!!」
背中から凄まじい衝撃が全身に走り、呼吸が止まる。
後頭部は保護していたが、疾風の鎧が体を覆っていてもなお、とてつもない衝撃を受けてしまった。
目眩や痛みを無視してトキはすぐにそこから横に回避する。
(止まっちゃだめだ。くっ、体中いてーけど、こりゃ左肩はイってるくせーな)
走る振動だけでも響くように痛み、左腕はもう動かすことができなかった。
左手で短剣を持ったまま、髪を結んでいたリボンで体と左腕を結んで固定する。
(これでだいぶ楽には……。とにかく、あいつの感知は魔力って予想はついた。魔法にも反応してたから、まだやりようは出てきたな。次は――)
竜王と戦い初めてかれこれ1時間は経過していた。
トキの魔力が多いといっても、すでに体感では半分を切っている。
これ以上のダメージや長期戦は避けたいトキは仕掛けることにした。
再び竜王に向かって突撃する。
痛みに耐えながらブレスをギリギリで避けつつ、竜王の姿を捉えた。
体を大きく反らした竜王は翼を打ってカマイタチの嵐を放つ。
トキはそれを今度は前に向かって避けようとした。
疾風の鎧を切り裂き、各所から鮮血が飛ぶ。
それでも竜王の真下に到達したトキは左右に先ほどと同じような竜巻を起こした。
竜王がそれに反応してブレスを左右に放つ、と同時に真下でも竜巻を起こす。
竜王が真下の竜巻にブレスを吐く動作に入った瞬間、竜巻の流れに乗って舞い上がった。
ブレスを吐いた竜王、その背後をようやくとったトキは風の刃を発動させて狙いを絞って全力で加速する。
狙いは左翼の付け根、鱗の隙間。
乾坤一擲の一撃が竜王の皮を穿つ。
ジャシュ
ギャアアアアア
トキの捨て身の攻撃はどうにか竜王の体を貫くことが出来た。
飛行がままらなくなった竜王はトキもろとも、きりもみしながら落ちていく。
突き刺さった風の刃を解除し、落下の中反対の翼の付け根も斬りつける。
しかし、今度は不安定な状態だったため鱗に弾かれ、トキは宙に投げ出された。
ドーーーーン
竜王はそのまま前のめりに地面に落ちた。
トキは態勢を立て直しながら竜王とは離れた地面に降り立つ。
裂傷と肩の痛みが激しくなっていた。
血止めの薬と稚拙な治癒魔法で止血する。
(折れてるだろうな。少なくともヒビは確実。出血はだいぶ止まったけど、血を失いすぎたか。クラクラする。あとは……)
簡単な応急処置を終わらせたトキは竜王の方を見た。
衝突で死ぬことはないだろうが、相当なダメージはあるはずだ。
あわよくば、このまま逃げれないかと考えていると、竜王の方から破壊の咆哮が飛んできた。
(ぐっ!!)
疾風の鎧を瞬時に発動し、痛む体を必死に動かしてなんとか避ける。
相手はまだまだ戦えるようだ。
竜王は地を走ってこちらに向かってきていた。
グゥアアアアア
王としての尊厳を傷つけられたからか、矮小な存在によって地に下ろされたからか、とにかく大層ご機嫌を損ねてしまったらしい。
大型トラックのような巨体が迫りくる圧力はブレスの比ではない。
速度はブレスよりも劣るが、太い幹をなぎ倒し声を荒げて突撃してくる。
大地を震わす振動がトキの元にも届いてくる。
だが、地面に落ちたならば勝機はある。
(地上のスピードなら負けない!)
トキも竜王に向かって加速する。
襲いかかる爪と牙をかいくぐり、側面から竜王の目を目掛けて飛びかかる。
「ぐっ!!」
宙に浮いたトキは竜王の尾によって叩き落された。
数十m吹き飛ばされながらも、咄嗟に防御を厚くしたおかげでまだ生きていた。
「ぐうぁ……」
しかし、左腕は肘からおかしな方向に折れ曲がり、服もろとも皮膚が裂けていた。
左脇腹も傷んで呼吸が苦しい。
痛みで涙が自然に出るが、それでもトキは立とうとした。
(まだ……まだ……だ。俺は……生きる!)
立つことが苦しいため魔法で宙に浮き、戦える姿勢に戻す。
満身創痍なトキを見て余力がないことを悟ったのか、竜王はゆっくりとこちらへ進んできていた。
(どうする?どうするんだ?この体じゃあ満足にスピードも出せないし、出せたとしても一方通行。切り返しも停止もできないだろう。残す手は……)
軽く手を振るうことにさえ悲鳴をあげながらも、トキは遠距離攻撃を仕掛けた。
発生した竜巻が竜王を捉えるが、その歩みを止めることさえできない。
斬撃の刃も鱗に当たるのでダメージはなし。
(もう……手はないのか?あとは特攻するしか……ない?)
死ぬ覚悟を決めようとした。
そのとき――
ギュエエエエエエエ
右上空から閃光のような銀の矢が竜王の左目に突き刺さった。
ギャワアアアアア
(ギン!?……これに賭ける!!)
負傷した竜王は爪を振り回してギンを追い払い、舞い上がったギンに向けブレスを放とうとした。
ちょうどトキからは竜王が左を向いて、右目が正面に向けられていた。
止まることを考えず、トキはその右目を狙って加速した。
加速Gが体中をギシギシと締め付けるが、目標だけに集中し続ける。
ドドシュッ
風の刃による刺突が竜王の右目から頭を通って左目までを貫いた。
トキはスピードを殺すことができず、そのまま森の中へと飛び込んだ。
ズザザザザァァァ
ズゥゥン
時同じくして竜王もまた同じように地に伏した。
キュエエエ
ギンがトキの傍らに舞い降りてきたが、トキはもう立てなかった。
力を振り絞ってギンになんとか礼とお願いを頼む。
「ギン……すかった。……がと。イースコ……って、たすけ……きて。」
キュエエ
言葉はうまく伝えられなかったが、意味はわかったらしい。
(とりあえず、助かった。……疲れた)
人類史上初の偉業を単独で成し遂げた若干12歳の少年はそう安心して気を失った。
皆川亮二さんの作品好きです。
イメージとして出てきたのはこれが2回目ですね。
話変わってSSランクの王については全部考えてしまいました。
名前もじってますが、竜王以外は共通点ありです。




