48話 剣の師匠、めちゃくちゃにして
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都 カルティア魔法学園
申請が通るまでは時間がかかるので、それまでは冒険者のギルド活動をすることにした。
学園ギルドメンバー同士ですでにパーティを組むことを決めた人たちもいて、設立を訴えた甲斐もあったというものだが、トキたちはいつものメンバーだった。
トキは短剣で前衛、ケオランは槍の中衛、ユユは意外にも長剣と盾を使う前衛で水属性の魔法を使い、チーグルは後衛で土属性の純魔法使い。
回復魔法はトキがちょろっと、ユユが少し使える程度なので、そのうち後衛を増やしたいものだ。
いつも一緒にいるせいで誰もこのときは気づかなかったことがあった。
いや、正確には忘れていたのだ。
適当な依頼を持って受付カウンターに依頼書を出す。
ついでにパーティ申請をする。
すると、受付が答えた。
「申し訳ありませんが、Bランクであるゼペルルクス様は他の皆様とパーティを組むことはできません。皆様がCランク以上にならなければ規則により受理できませんし、上位ランカーは下位ランクの依頼を受けることはできないと最初の説明でも申したはずです」
「わ、忘れてた。そういえば、そうだったわ」
「では私たちだけでパーティを組みましょう。パーティ名は『|ぼっちじゃない仲間たち《ただしトキを除く》』で」
「『孤独は放置』はどうだ?」
「『|仲間と思ってたのは自分だけ《君の仕事はお留守番》』ってのはちょっと長いかな?」
わいわい楽しそうにパーティ名を決め合う三人を眺めながら、トキは∞を地面に書いていじけていた。
チーグルのはひどいただの悪口になっているが、もはや突っ込む元気もない。
結局名前は保留となり、依頼に出かける三人を見送ったトキは心を癒してもらおうとギンの相手をすることにした。
(一人で依頼を受けてもさらにボッチプレイが続くだけか。弱った。弱ったぞこれは!ギルドマスターってぼっちなんだって~なんて言われかねん。どうしよう……。時間は無駄にしたくないしなぁ。自分を鍛えることに専念するか。グスン)
立ち上がりトキは以前から考えていたことを実行に移すことを決めた。
向かう先は学園のとある部屋。
「たのもーー!爺さんいるか!?」
「うおっ!?あぁお主か、ノックくらいできんのか?」
やってきたのは魔法学園学園長ロリック=シルバーの部屋。
幸い一人で部屋にいたようだ。
「爺さん!あんたを男として頼みがある!俺に修行をつけてくれ!」
「いきなりだの。どういうことだ?」
「なんつうか、全て忘れちまいたいっていうか、無茶苦茶にしてほしいっていうか」
「お主少し危ないぞ?まぁお茶くらい出すから落ち着きなさい」
ずずずず
「あ~落ち着く~。ごっそさん」
「お粗末さまでした。それじゃまた来なさい」
「おう、じゃな~。……って、ちょっとまてー!話は済んでねーぞ!」
「私は暇ではないのだよ。他の先生に頼みなさい」
「だが、断る!」
「断ってるのは私なのだがね」
「俺の魔法の師匠は飛行魔法開発者リッケンボルト=スティンガーだ。それに釣り合う剣の師匠はあんたしかいない」
「それは光栄なのかの?しかし、お主一人を特別扱いするわけにはいかんのだがのぉ。…まぁ休日に小一時間手合わせしてやるくらいはいいか」
「十分!ありがとう!爺さん!」
「学園長先生と呼べ。あと敬語を使え。でなければこの話はなしだ」
「わかりました、学園長先生。よろしくお願いします」
断られるだろうと思っていたが、少しでも見てもらえるなら御の字だ。
それ以外の時間はギンとハクを連れて魔法の練習、ギルドマスターの仕事の時間にしようと決めた。
資金稼ぎは後回しにする。
(最悪、一人ででも稼いでやるさ)
先を言えば、学園ギルドが承認されたのは提出から2週間後であった。
その間にトキは風属性の攻撃魔法について、風魔法Ⅰの担当教師であるティエボナ=ヘルスに話を聞いてみた。
「ヘルス先生、風魔法についてご意見が聞きたいのですがよろしいですか?」
「ええ、もちろんですよ。どういったことでしょう?」
「実は新しい攻撃魔法を覚えようとしているのですが、範囲攻撃と貫通性のある攻撃を考えているんです。まず、殲滅力のある範囲魔法について何か思い当たる魔法はありませんか?」
「そうですね。有名なものはストーム、サイクロン、ハリケーン系統でしょうか。巻き上げて落とす、または巻き込んで切り刻む魔法ですね。視覚や聴覚を封じる効果もあります。流動型魔法にあたりますが、これはかなり大型でないと殲滅するくらいには操作が必要です。扱うのはかなりの高等技術ですね。他には対流を操作して広範囲にわたり窒息させたとか山を斬るほどの風の刃を出したという逸話もあります。これは眉唾ですが。私が思うに、新たな魔法を作り出すより、今ある魔法を発展させた方が時間的にも労力的にも効率的だと思いますよ」
「あ~そうでしたか。う~ん、じゃ~そっち方面で考えてみます。貫通性のある魔法はどうでしょう?」
「う~ん、風属性自体があまりそういう点に向いていないんですよね。どうしても線や面での攻撃になりますので。しいて言えば、突風で刀剣などを加速させたりでしょうか。的確な助言ができなくて申し訳ありませんが」
「いえ、大変参考になりました。ありがとうございまず。また何かあれば相談に乗ってください」
「私でよければいつでもどうぞ」
範囲魔法に関しては斬撃の刃を大きくし、飛ばす速度をあげ、射程を伸ばすようにすることにした。
今は1mほどの大きさで射程は15m、速度は人が全速力で走るよりは速いくらいだ。
目標は大きさは倍に、射程は50m、速度はトキの全力加速と同じくらいにする。
(速度は難しそうだけどな)
貫通性魔法は無理そうだったら水属性を試すことにするが、まずは風属性で挑戦する。
貫通力のあるものといえば、銃弾を思い浮かべた。
(あれは確か、螺旋状になったライフリングで回旋運動をさせるんだよな。銃弾の種類によっても貫通力は変わった気がするけど。とりあえず、先を尖らせて風を螺旋状に動かすところからするか)
手を前にかざし、イメージを浮かべたまま魔力を放出して発動させる。
ヒュウウと旋風ができているが、小さく弱い。
そのまま魔力を放出し続け、大きく速く螺旋運動をさせる。
(もっと鋭く!もっと強く!もっと速く!)
魔力が尽きかけるまで続けたが、少し速くなったかな?という程度に終わった。
無駄な努力にならないようにと願いながら今日は寮に帰ることにする。
それからというもの、室内でもトキは手の中に小さな旋風を起こして速く回す練習をするようになった。
授業中以外ではそうしていたので、友人たちには新魔法の練習と説明している。
あちらのギルド活動は順調なようで、休日は三人で依頼を受けている。
ロリックとの手合わせは試験のときとは違って毎度ボコボコにされ、トキが立てれなくなるので1時間ほどで終了となってしまっている。
相変わらずロリックの剣は見えないほど速く、どこから攻撃しようが全て防がれてしまう。
防御といってもトキの剣戟を剣で滑るように受け流し、トキの態勢を崩してのカウンターが多い。
(たぶんそうしていると思うんだけど……まるで剣の結界だ。死角がないんだよな。こっちの動きを全てわかっているような)
一度どうやって防いでいるのか、なぜこちらの攻撃がわかるのか、聞いてみたところ、
「お主は手の内を簡単にさらけ出すのを良しとするのか?自ら喧伝すると?私はそんな愚かなことはしないぞ」
と言われてしまった。
おっしゃる通りのなので自分で理解しなければならない。
涼しい時間帯なのに汗びっしょりになりながらも手合わせは続く。
そういえば、剣術Ⅰの授業でこんな一幕があった。
実は生徒会に入ったファエルが同じ授業を受けていたのだ。
この授業では周りをあまり見ていなかったトキはこのとき初めて気づいた。
というのも、1対1の掛かり稽古のときにファエルがトキの相手に名乗り出たのだ。
「ジブリスタ侯爵家長男ファエル=ジブリスタだ。トキニア=ゼペルルクス、貴様に身の程を教えてやる」
ちなみに、ファエルの入試成績は次席で、長剣と火魔法の使い手らしい。
この授業で扱うのは1本の木刀なので、トキは主に素振りと防御に重点を置いていた。
ロリックがよく使う受け流しを覚えようとしていたのだ。
(学園長のは受け流すってレベルじゃないけどな。接触した感覚もないんだから)
ロリックとの隔絶した技量をなんとか埋めようとこの課題に取り組んでいる。
ファエルは幼少の頃から習っていた王国騎士団の剣を使う正統派だ。
トキは丁度いい練習相手だと受け流しの練習に励んだ。
ファエルは憎悪と嫉妬、怨念をもってトキを叩き潰そうとする。
猛攻するファエルと防御に徹するトキ、この授業ではこれからよく見られる光景となる。
ちなみにニブルは生徒会室に再度行った際このファエルに返り討ちにあったらしく、以降大人しくなっていた。
他の授業の様子はどうか。
運動Ⅰや体術Ⅰではまだまだ体力作りなどが主となっている。
運動Ⅰでは整列や行進などの団体行動から始まった。
体育大学や軍隊のような厳しさで精神的につらいものがあり、前期はこれが終始続くものと思われる。
体術Ⅰでは短中長距離走や障害物走から始まって、今は少しだけ組手についても指導が入りだした。
薬学Ⅰはこの国で採取される薬草の紹介からその効用や注意、または他国の話、歴史を混じえた研究の話など多岐にわたり講義が続けられている。
なかなか面白い授業であり、今後は薬の作成や実地研修をしていくそうだ。
王国史、世界史は眠たくなることが多く、算数はトキにとって簡単すぎるので退屈に感じられている。
古代の遺産については興味深いのだが、やはり新暦以前のことはよくわかっていないことが多いようだ。
魔法属性学と魔法理論はやたらと難しい表現をされるのだが、自分が使わない魔法についての知識が増えるのでありがたい。
魔法についての基本的な知識は母リリーに教えてもらったことと大差なかった。
魔力の有無は遺伝によるものが最有力だが、仮説に過ぎず立証されてはいない。
胎児のときにおける環境や完全なランダム、偶発的に備わるなど色々提唱されてはいるらしい。
これと同じように魔力がなぜ魔法となって発現するのかは謎で、この世の理というものも人が勝手に提言したに過ぎない。
案外老師と同じように、皆不思議魔法使いであると言えなくもないのかもしれない。
魔物の存在も不思議現象だ。
普通の獣が魔物に変化するところを目撃したという報告があり、それらに共通することから魔力を過剰に溜め込むことが原因と推察されている。
魔物に共通されるのは赤い目と好戦的であること、そしてその行動原理で唯一確認されるものは食欲のみ。
なぜ人間や霊獣は魔物化しないのかも定かではなく、それらを受けて人間や霊獣を高尚な存在として讃えたり、逆に魔物を神の使いとして崇め、人間は滅ぶべきなのだと主張する狂信的な信仰も存在している。
(「ファンタジーだから」の一言で納得しろ。んでもって、もっと授業を簡単にしろ)
治癒魔法Ⅰの授業ではいい人材を見つけることができた。
同じクラスのシンク=テルガーという男子生徒だ。
彼は入試試験を十席で合格した優秀な子で、一番得意な治癒魔法を見せずに合格したらしい。
商業ギルドに登録して親の手伝いをしており学園ギルドにも入っていたのだが、当初トキは知らんなかった。
ロリックにボコボコにされて満身創痍なトキの体を治してくれたことがきっかけで話すようになったのだ。
是非とも仲間にほしいと思って話を聞いてみたのだが、彼は王都で開業している治癒院の跡取りで、親のあとを継ぐと決めていると断言されてしまった。
休日には毎度お世話になって、彼の魔法を見る度に悔やまれることになる。
他の生徒についてはまだわからないが、優秀な治癒魔法使いは引っ張りだこな存在だ。
残念な表情を浮かべ話を聞いていたトキに、シンクはもし仲間に引っ張れそうな人がいたら紹介するよと言ってくれた。
これにもトキは感謝して、是非お願いしますと礼を述べた。
これが叶うのは結構先になるのだが、そのときにトキは世間の狭さを感じることになる。
今までずっと文章1p、ストーリー1pで2pずつポイントいただいていたと思ってましたw
この2pってブックマーク人数で増えていたんですね^^;
その勘違いのせいで、毎回いただく評価は文章もストーリーも最低評価だと思ってました。アハハ。。。
先日初評価をいただけたことと重ねて、気づかせてもらえたことに感謝申し上げます。




