47話 新しいクラブを作ろう
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都 カルティア魔法学園
トキは友人たちに生徒会の話は断ったことを伝えた。
少し、いやかなり面倒な方に話がいってしまったことも簡潔に話した。
「トキって本当に人を笑わせるのが旨いよな」
「人事だと思って、てめー。何が旨いだ」
「私はそのうち女性関係のもつれから、女に後ろから刺されるのに銀貨3枚賭けるわ」
「じゃ~俺は尻に敷かれて涙目なトキに銀貨5枚」
「僕は恨みを買ってブンゴット君に刺されるに銀貨1枚かな」
「「ありえる!」」
「てめーら、人で賭けをしてんじゃねーよ!」
ただ、チーグルの意見は結構現実的なことかもしれないとも思えていた。
「はいはい、その話はここまで。新しいクラブを作るって話しようぜ。んで、俺思ったんだけどさ、別に冒険者ギルドに拘らず、商人やチーグルみたいに職人目指すやつも入れるように、学園ギルドを設立するってのはどうだ?」
「お~なるほどな。でも商人や職人だと派閥とか対立があったりすんじゃね?」
「そこは学生の内は協力して、卒業したら自由競争ってしたらいいんじゃね?ギルド規約とか作る必要性があるけど」
「いいんじゃないかしら。いい見習い期間にもなるだろうし、その繋がりで顔も効くようになりそう。細かい調整は全てギルドマスターに任せるわ」
「そうだな」「そうだね」
「おい。」
「「「言いだしっぺはトキだろ(だよ)(でしょ)」」」
ため息が漏れるが、人との繋がりはできそうだから我慢する。
その後も詳細を煮詰めていった。
クラブ活動を作るのに顧問が必要だとか、部員が5名以上必要といったことはなかった。
所属するクラブ会員と代表者の名前、活動内容及び予算案を書いて生徒会に提出、そのあと学校側で承認されれば設立となる。
ゆとり世代でも育成しようというのだろうか、かなり緩く思える。
放課後や昼休みの時間を割いて、ケオランたちに相談しながら決めていく。
『学園ギルド』
代表者 カルティア魔法学園1年 トキニア=ゼペルルクス
・商業、農業、漁業、各職人、冒険者、魔法ギルドなどの学生生活時におけるギルド活動の指導、扶助、支援、情報交換を主な活動とする。
・学園ギルドに所属できる資格は学生であることで身分は問わない。またギルド内における身分による差別を一切禁じる。
・指導とは、後輩に対する初期教育や助言であり、派閥への組み込みではなく、学園ギルド員はいかなる他ギルドの派閥、勢力、集団にも与しない。
・扶助とは、独立した組織である学生ギルドに所属する者同士が、異なるギルドで活動している場合でもお互いを助け合えることを指す。
・支援とは、学園からの予算を必要なものを揃える初期投資として活用できる体制であることを指す。
・情報交換とは、各ギルド活動をする上で集められた情報をギルド員が閲覧し、活用することができる体制を指す。
・学園ギルドでは、各ギルドで活動する者をまとめ、それを情報部門、ギルドマスターが把握する。
・ギルドマスターは任期終了時における後任の指名権及び、問題を起こしたギルド員の除名権限を持つ。
「こんなところか?俺の権限は消すか、変えるかしてもいいかもな。情報部門までできるかわからんけど、新聞クラブの人とか勧誘してみるか」
「そうだな。ギルドマスターの権限はそのくらいあってもいいだろ。あとは、所属したい人を募らないと」
「掲示板のところに張り紙貼ったら?僕、絵は得意だから書いてくるよ」
「頼む。それも許可もらわんとな。今日の放課後一緒にいこうぜ」
「了解」
「私は陰ながら応援しているわ」
「……これは陰ながらでも応援してくれるようになったと喜ぶべきなのか?」
「トキの努力が報われたな。まぁひとつ進歩じゃね?」
たいして変わった気がしないが、最初よりはマシな扱いになったかなと思う。
仕事が早いチーグルは翌日の朝には書いて貼ってくれたらしく、食堂で朝食を食べていたときにそう報告をくれた。
別に、人が集まらなくても4人でやっていくつもりだったのだが――
「トキニア君!見たよ掲示板!僕も入りたいんだけど、いいかな?」
「あ、ああ。じゃ~この書類に目を通してよかったら、クラスと名前、あと活動する予定のギルド名を書いて」
こんな感じで、張り紙を貼ってから1時間目が始まる前の時点で、すでに8名の新入生から返事をもらえていた。
「予想以上に大所帯になりそうだな。そういえば先輩方も入る可能性もあるがトキ、ちゃんとまとめれるか?」
「そん時は先輩の中からでも補佐を選ぶわ」
その後、2コマ目の体術Ⅰの授業を終えていつものメンバーで食堂へ行こうとした際、たまたま掲示板の前を通りかかったトキは目を疑った。
掲示板の前には4,50人もの人だかりがあり、掲示板には横1m、縦2mくらいの巨大ポスターがあった。
それにはギンであろう白銀の鳥が羽ばたく姿が見事に描かれており、でかでかと『銀翼 トキニア=ゼペルルクスが新たに学園ギルドを設立!』と書かれていた。
「お、おい、チーグル。あれは一体なんだ?」
「いや~自分でいうのもなんだけどさ、あれ自信作なんだよ。目立つでしょ?」
「目立ちすぎだよ!しかも人の名前使って!」
「おいおい、トキよ、プッ。それはあんまりだろう、プフッ。チーグルに任せたのはお前で、プハッ、チーグルはその期待に見事に応えただけだぞ!プッハァハハハハ!」
「最初から最後まで笑ってんじゃねーよ、こらぁ!あんなもん撤去だ!撤去!」
はぎ取ろうと向かうトキを全員で無理やり抑え、食堂へ引っ張っていった。
食堂に行くと、続々と希望者がやってきた。
2年生もその中には含まれている。
どうやらトキたちが考えた活動方針に共感するものがあったらしい。
結局、掲示した1日目は46人、2日目は28人、3日目は8人と合計82名もの人が参加を表明した。
1年生、2年生でクラブ活動に入っていない者のうち7割ほどが集まり、これはギルド活動をしている者ではほぼ全員にあたる。
学園ギルドは一気に学園内における最大集団となった。
放課後、大きな教室を貸し切って希望者に集まってもらった。
「皆さん、こんにちは。学園ギルド創立者の1年、トキニア=ゼペルルクスです。この度は集まっていただきありがとうございます。今日集まっていただいた目的は、現在の状況説明と予算案に関する議論、そして連絡網を作ることです。では、まず状況説明からですが、できるだけ早く予算案を決定し、生徒会に提出。その後、学校側に承認されなければ活動することはできません。なので、時間を無駄にせず、早く濃密な議論をお願いします。ギルドの活動内容・方針はお知らせした通りですが、なにぶん初めての試みなので不透明な点や曖昧な点がある、もしくは起きると思います。そういったことがありましたら週1回定時報告会を開いて、議題にあげようと思っています。では、予算案に関して議論する前に活動するギルド毎に分かれてください」
魔法ギルド26名、冒険者ギルド24名、職人ギルド18名、商業ギルド9名、農業ギルド5名、漁業ギルド0名。
その後、それぞれ部門毎に部長という責任者を決定し、話し合って必要経費を算出してもらう。
議論は遅くまで続いたが終わらず、途中経過をまとめて明日の放課後も集まることになった。
(なかなかいい人材が揃っていそうだな。大量大量)
微調整をしながら予算案まで作成が終了し、トキは代表者として部長5名を連れて生徒会へ提出に向かう。
それまでの間、トキが生徒会入りを断り、新たな組織を作ろうとしていることや他の1年生が3名、新たに生徒会入りしたことが噂になっていた。(もちろんニブルと取り巻き2人のことではない)
ニブルと言えば、トキが噂を自ら流したこともあるが、生徒会の話を断ったあたりから絡んでくることもなくなっていた。
エレスティナはあれからトキに何の接触もしてこなかったので、トキは生徒会の2人が暴走を止めてくれたのだろうと考えていた。
だが、生徒会室を訪ねると、エレスティナはいきなりこんなことを口にした。
「あら、トキニア君、ごきげんよう。とうとう私を迎えにきてくれたのですか?」
吹き出しそうになったが、懸命に耐えた。
ルウとラックも同様で、他の人は意味がよくわかっていないようだ。
(こいつ、ホントわかってねーな。いや、無視だ無視。スルーで通そう)
見回すと、生徒会室では新生徒会のメンバー6名がお茶をしていた。
(こいつらいつもサボってんな。手が足りないとか言ってたけど嘘じゃね?)
新たに入った1年生は男子2名女子1名で、人数分増えたソファーに並んで座っている。
男子のうち、1人は後ろを肩くらいまで伸ばした金髪イケメンで、なぜかトキを睨んでいた。
片方の黒髪男子は理知的な雰囲気で、興味がないように1人お茶を飲んでいる。
女子は薄茶色の髪をアップで纏めて横に流しており、ファウスタイン家の冷徹レイスを思い出しそうな横目でこちらを見ていた。
(クラスメートじゃないっぽいけど、これまたクセのありそうなのを入れたもんだな)
少しの観察を終えたトキは早いとこ用件をすませることにした。
「こんにちは。今日は新設するクラブの申請書を持ってきました」
「却下」
「はい?」
(気のせいか書類を受け取ってさえいないのに一蹴されたような……)
「却下、と言いました」
「……その理由をお尋ねしても?」
「申請内容はほぼ把握しています。もし、そのようなことが承認されたら、トキニア君が忙しくなって会えなくなっちゃうじゃないですか」
意味を100%理解したトキ、ルウ、ラックは頭を抱える。
「生徒の模範たる生徒会長が、そのような個人的な感情で物事を決めるのはどうかと思うんですけど」
「か、会長。それはどういう、意味で……?」
横から金髪イケメン君が信じられないことを聞いたかのように口を挟む。
そちらには見向きもしないでエレスティナはトキにニコリと微笑みながら答えた。
「ちょうど昨日家からのお返事をもらえたのでタイミングが良かったです。お父様、お兄様に結婚相手にトキニア君を選んだと言うと、全面的に賛同していただけました。私の目を信用していたようですし、想像していたよりもずっと良い相手だと言っていただけれましたよ?お母様は元々私を応援してくださっていたのですが、大変喜んでもらえて私も一安心です」
場が静寂を包む。
信じられないといった表情で口を開けるもの6名、頭を抱えている者3名、お茶を飲んでいるもの2名。
「こ、このような平民と、婚約されるというのですか!?」
「私が選び、公爵家当主及び次期当主が認めたことです。ファエル君には関係ありません。ああ、トキニア君。ちなみに王家の方へも根回し済みです。国王陛下と王子殿下が大きな声で笑うところを初めて見たとお父様はおっしゃっていましたわ。王族の方へはあなたの方からもご報告してくださいね」
次々と爆弾を投下していくエレスティナにトキは放心していた。
絨毯爆撃をされて逃げ道が見つからない。
ファエルと呼ばれた少年が自分は認めないと言うように不満に満ちた目で睨んでくる。
(ニブルがいなくなったと思えば次はこいつかよ。エレスに惚れてんのか?)
「一応言っとくがエレスが勝手に言ってるだけで、俺は認めてないからな。結婚する気もないぞ」
「貴様!ケルスト会長を呼び捨てにするなど無礼だぞ!」
トキにはそのつもりはないと伝えたかったのだが、逆効果だったようだ。
エレスは初めてトキが名前を呼んでくれたことに体をくねらせて喜んでいる。
おそらく貴族なのだろうが、どうもこのファエルは身分を重視する性分のようだ。
「あ~じゃあケルスト会長。申請書は渡しときますんでよろしくお願いします」
「そんなもの却下だ!とっとと消え失せろ!」
(それじゃエレスの思惑通りになんぞ?頭に血のぼってんなー。めんどくせ)
ファエルは無視してエレスに申請書を押し付け部屋を出る。
肩を落として嘆息するトキに部長たちはお疲れ様でしたと労ってくれた。
一応さっきの出来事は内密にとお願いしたが、無駄なことだろうと思った。
数日のうちにどこから漏れたのか、尾ひれ背びれがついた噂が飛び交うことになる。




