46話 暴走、止まりません!
こんな予定じゃなかった、とだけ。
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都 カルティア魔法学園
トキはあれから一日一回はニブル=ブンゴッドに絡まれていた。
名前を聞いてようやくトキも思い出したのだが、なんでも彼は生徒会に入りたいらしい。
入学式で生徒会長エレスをひと目見て気に入り、生徒会に入ってやる、将来は俺と結婚しろ、などと相変わらずの傲慢な言動で生徒会室に突撃したらしいが、あえなく門前払いされたとか。
そこに会長が直々に誘ったというトキの噂を聞きつけ、文句をつけにくるようになったのだ。
学内ではギンを連れていないせいか、どうやらトキのことは忘れているようだった。
クラスは違うが剣術Ⅰの授業が一緒で、その授業前後や昼休み、放課後にこちらを見つけてはいちゃもんをつけてくる。
生徒会役員は生徒会長のみ選挙を行い、他は会長からの指名のみで着任することができる。
いくらトキに文句を言おうが、生徒会に入れるわけではない。
(まぁ、会長もあれを指名したくはないだろうな)
トキの身長は今155cmほどと平均より高く、以前はニブルの方が背も高かったのだが、彼は髪型・顔・身長はそのままに体重だけが成長してしまっている。
容姿の点ではトキとは比べるまでもないだろう。
今日もさらっと隠れながら食堂までいき、ケオラン、チーグル、ユユとともに食事をとっていた。
すると、数日前と同じ現象が起こった。
(あ~注意するの忘れてた。また噂になるぞ、これ)
頭を抱えるトキにケオランが楽しそうにドンマイと肩を叩く。
「ちわーっす。会いに来たってことは、まだ諦めてなかったんですかね?生徒会長」
「ごきげんよう。ええ、話がつきましたので、今日の放課後また生徒会室に来てもらえますか?」
「わっかりました~」
トキは一応敬語のつもりで話しているが、その態度は不遜なものだった。
しかし、エレスティナは気にせず、ではこれでと言って食堂をあとにした。
毎朝の修練でトキの本気も見たことがあるケオランは不思議そうに尋ねた。
「前回脅したとか言ってなかったっけ?」
「ああ、殺気出してな。あちらには俺を入れる方にメリットがあるってことなんだろ」
「で、どうすんだ?」
「う~ん、お前らといた方が面白いし、冒険者クラブとか作れば学校内でも他人と接点もてそうだしなぁ。相手の出方次第だけど、たぶん入らねーぞ」
「おっ、冒険者クラブか。いいね!後輩指導に相互扶助、情報交換とか色々できそうだな。お前らはどう思う?」
「いいんじゃないかな。僕はギルドで少しでもお金貯めれたらいいし」
「私は一人ででも冒険者活動するつもりだから、どっちでもいいわ」
話を固めるのは今日の放課後の話し合いが終わってからとなった。
放課後、またもやニブルが立ち塞がったが、トキはいち早く発見して外へ脱出、飛行魔法と隠形魔法を駆使して3階の生徒会室の窓を叩いた。
窓を叩く音に気づいたエレスティナが近づくと、トキは隠形魔法を解除した。
驚く三人に謝罪しながら部屋へと入らせてもらう。
「噂に聞く飛行魔法を見れて光栄ですけど、一体何故窓からこられたのですか?」
「あ~前回言うの忘れてた俺も悪いんですけど、会長の責任もありますね」
原因が自分にもあることに驚くエレスティナだが、どうやら自覚がないらしい。
「ニブル=ブンゴッドという1年生を知っていますか?以前生徒会室にも来たらしいですけど」
三人ともあの傲慢な態度を覚えているようで、嫌なものを思い出したかの様子だ。
「会長が俺に公衆の面前で声をかけたのが噂になって、それを聞いて俺に不満をぶつけてきたってワケです。最初に話しかけられてからは毎日ですね。自分の立場やその影響にはもう少し気を配ったほうがよろしいかと思いますよ」
エレスティナはトキの話を聞いてバツが悪そうに深々と謝罪をした。
顔色が悪くなるほどで、少し言いすぎたのかもしれない。
ルウとラックはだからあれほど~と普段から注意しているように叱っている。
「まぁ俺のことは気にしないでください。今はいいですけど、手を出してくるようなら潰しますから」
トキの爽やかな笑顔が逆に怖いと思った3人だった。
それで話はどうなりましたか、と本題に話を移す。
「さっきの話のせいで余計頼みにくくなったんですけど、もしかしてわざとですか?」
「まさか!僕は幼気な新入生で、まだ12歳。一日一善がモットーなピュアボーイです」
こんな子を入れようとしてるがいいのか?と、エレスティナを見るルウとラックの顔には書いてある。
「想像してたよりもずっと君はいい性格をしているようですね」
「それについては素直に受け取らせてもらいます」
エレスティナの精一杯の嫌味を今度は含み笑いでさらりと躱す。
「では気を取り直して、前回聞いた3つのことですが、一つ目についてはあまり気にすることはないでしょう。生徒会は学園外との関わりもありますし、必要とあらば私個人から最適な人材を紹介します。三つ目に関しては実際のところ、トキニア君自身、もう気にしていないのでは?いくつかの家の当主とも顔見知りのようですし、国王陛下や王子殿下、その婚約者であるナルビス王国の王女殿下ともお話されていると聞くくらいですから」
「おいおい、あんたどこまで知ってるんだ?王宮の中まで間諜がいんのか?」
「いえ、噂を聞いただけです」
「へ~そんな噂が……」
エレスティナは首をかしげながらにっこりと微笑んだ。
トキは作り笑いの中で歯を食いしばった。
「二つ目ですが、トキニア君はそういった知り合いに借りることは考えてないのですか?」
「ええ、そんなことを頼めるほど厚顔無恥ではないですから。誰かさんと違って」
エレスティナは表情を変えない。
トキは売られた喧嘩は買う主義なのである。
しかし、エレスティナはその売り方がトキには少々予想外だった。
「では、公爵家から出してもらいましょう」
「?……出してもらう理由がわからないんですけど?」
「簡単なことです。私が嫁げばいいんです」
「「「はぁ!!??」」」
ルウとラックもどうやら説得の手法は聞いていなかったらしく、トキと一緒になって声をあげた。
「ちょ、ちょい待て。一応、一応聞いとくが、あんたが嫁ぐって……どこに?」
「トキニア君にですよ?それ以外に今の会話の中で候補はないと思いますが」
「デスヨネ~。……で、なぜ俺に?」
「話はよく聞いてください。生徒会に入る条件のためですよ」
「うん。色々言いたいことはあるがまず、平民の俺に公爵家の人間が嫁げれるわけがないですよね?」
「家の方は兄が二人いるので問題ありません。私は魔法学園で入学から卒業までずっと首席を維持することを条件に、結婚相手は自分で決める自由を確約してもらっています。自慢ではありませんが、成績を落とすことはありえませんので問題ないです」
(どっかで聞いたような話……いや聞いてないか)
「いや、問題出まくりだろ。さっき言ったことをもう忘れたのか?自分の立場と影響をちったあ考えろ」
「それを考慮してもです」
「俺への配慮はないわけね。いや、それにしても将来の相手だぞ?なぜに俺?」
「なぜって自分の立場と影響を考えみてください」
言い返されて腹が立ったトキを制して、指を折りながら続けた。
「優秀な魔法使いで世界に一人しかいない飛行魔法の使い手。その魔力量は21390と私はおろかこの国の宮廷魔法使いすらも上回り、若干12歳でBランクが確定した実績もち。身分に合わせない横柄な人柄ながらも、平民でありながら多くの貴族・王族・剣魔十傑との個人的な繋がりをもつ。霊鳥と霊獣という美しい仲間がいる。それだけのものを持ちながらも故郷の復興という目的だけを見据える一途さ。野心のなさも私にはプラスポイント。背は伸びそうだし、綺麗な白銀の髪に可愛らしい顔立ちは将来性あり。実は白銀という名が嫌だったりするところとかも可愛いし、少し怖いところはあっても大切な人は守るというスタンス。それから――」
「あああああっ!もういい!も~聞きたくない!よくわかりました!ってか、俺のこと調べすぎでこえーわ!」
「がんばりました。まだ言い足りませんが、十分にあなたは魅力的ですよ?たぶん家の方もそんなに反対しないんじゃないでしょうか」
「はぁ、さいですか。わかった。ん万歩譲ってあんたが嫁ぐとしよう」
「私ってそんなに魅力ないですか?自分で言うのはなんですけど、容姿はいい方だとは思うんですが。……はっ!胸!胸ですか!?やはりもっと大きくないと!?ルウみたいに!?少年っぽいのに実は着痩せするタイプで大きいルウみたぁぐぐ!」
途中からルウによって強制ストップさせられた。
「いやいやいやいや、ちょっと落ち着こうぜ。キャラが星の彼方までぶっ飛び始めてますよー。あとラック先輩、そんなにルウ先輩の胸を見ない」
「いや、そんな!僕は!いや、ルウ!違うよ、違うから!」
顔を真っ赤になって胸元を隠すルウにラックは必死になって弁明するが、トキははっきりと凝視していたのを見ていた。
落ち着いてから話を再開し始める。
「でだ、嫁いだとしても俺は嫁さんの家に金を苦心するような真似はできねーよ?」
「クス……男の子の意地ってやつですか?でも、それもちょっと可愛くてプラスポイントですよ?」
ハリセンかスリッパがあったら頭を叩いているところだった。
「それに俺、年上はちょっとな~」
「トキニア君は遅生まれで、私は早生まれなので学年こそ違いますが、年齢は一緒ですよ?」
「と・に・か・く!俺は生徒会には入りません!嫁も結構!」
「と・に・か・く!生徒会はまだしも、奥さんにはしてもらいます!」
手段と目的がもはや変わってしまっているエレスティナに、処置なしと判断して窓から逃走した。
(あ~じじいのとこでギンとハク連れて隠居生活しようかなぁ)




