45話 生徒会長エレスティナ=ケルスト
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都 カルティア魔法学園
寮生活がスタートしたが、いたって快適なものだ。
部屋は二人で12畳ほどの広さで、二段ベッドと机、椅子が二つずつ。
相手がケオランなので気を使う必要もなくなっている。
ギンは部屋で寝たり、窓から出かけたりと自由に過ごしている。
ハクは厩舎で毎度のごとく牛飲馬食。
太りそうなので、トキは馬番の人に時間があれば運動させるようにお願いしておいた。
放課後は出来るだけ連れ出してあげたいものだ。
連絡をしていれば外泊もできるし、寮の食事は美味しかった。
かなり自由なかんじが気に入っている。
ケオランは朝に強く、毎朝ランニングと素振りをするというので、トキも付き合うことを決めた。
朝からでも入れる浴場があるので、汗を流して食事を終えてから教室に向かう。
今日の授業は算数、魔法理論、魔法属性学、剣術Ⅰ。
トキがこの学園で習得したいと思っていることはまず、剣の基本を学び直すこと。
今までは昔父ロクスに教えてもらった微かな記憶を頼りにほぼ実践の中、我流で練習してきた。
短剣の二刀流で回避重視、自分の魔法を合わせたこのスタイルに助言や指導をしてくれる剣の師を必要としていたのだ。
リッケンボルトは魔法の師であり、魔法に任せてとてつもないスピードで斬るだけだったからだ。
次に、少しでも回復魔法のレベルを上げること。
もしくは回復魔法が使える仲間を作ることだが、授業の中ででも見つけていきたい。
これは後者を見据えており、魔法は他のことに力を注ぎたい。
建築や農業、統治に関しても同じで、人材の確保は重要だ。
あとは風属性の攻撃魔法となんらかの感知系魔法。
以前も考えたことだが、攻撃魔法とは範囲攻撃と貫通性攻撃のことだ。
一応それぞれ候補はあるが、教師や友人に意見を聞きたいと考えている。
トキたちが授業を受け始めて2日目のこと。
運動Ⅰの授業を終えて、少し汗が気になるが我慢して昼食を食べに食堂に来ていた。
食堂は寮とは別の建物にあり、寮生活をしていても食事の度にここまで来る必要がある。
メニューは定食でいくつか毎日違ったものが用意されており、円形のテーブルがいくつも並んでいる。
大きい窓ガラスから陽が差し込み、テラスに出て外で食事をすることもできる。
トキはあれからケオラン、チーグル、ユユと行動するようになっていた。
食事を受け取り席を確保し、話をしながら食べていた。
「やっぱり冒険者ギルドに登録するかなぁ」
「そっちもできるような新しいクラブを作るってのもありだけどな」
「例えば……建築クラブとか?」
「一人で積み木遊びでもしていなさい。私はそれを陰ながら笑っているわ」
「陰湿すぎんだろ。チーグル涙目じゃねーか。まぁ俺は陰ながら応援するよ」
「結局入ってくれないんだね。グスン」
「グスンって言葉にする人は初めて見たな。で、トキなら何作るんだ?」
「そうだな~……ん?」
話をしていると食堂がざわついた。
入口から誰かが入ってきたようだ。
(あれは……生徒会長か。来るのは珍しいのかな?)
相変わらず風格漂う歩みで、エレスティナは立ち止まり辺りを見回し始めた。
そして、トキたちの方を見つめこちらに向かってくる。
(こっち来ちゃったよ。これは、俺らが目的か?)
他の3人もその姿に気づいたようで、チーグルが面白い挙動をし始めた。
ケオランが何の用だろ?と囁いてきた。
さぁな、とだけ返す。
ユユは無表情のまま食事を続けている。
「ごきげんよう。お食事中にごめんなさい。私は生徒会長をしているエレスティナ=ケルストです。トキニア=ゼペルルクス君、今日の放課後に生徒会室に来ていただいけないかしら?少しお話があるのだけど、ご都合はどうでしょう?」
「……ええ、かまいません。少しであるなら」
「そう、ありがとう。ではお待ちしていますね。では、これで」
(まあ予想はつくけど、もうちょい人目をはばかって欲しいもんだな。いや、それが狙いか?ツバつけてますってか)
「勧誘かね?」
ケオランがトキの予想と同じ答えを口にする。
まっ、今日の放課後にわかるだろと答えておいた。
それより飯が冷めると食事を再開する。
周囲はトキたちのテーブルに注目して噂話に勤しんでいた。
放課後、んじゃ行ってくると言ってケオランたちと別れた。
ケオランたちは冒険者ギルドに行って登録をするらしい。
金はかかるが、可能性は一番高いので今日のうちに済ませて、簡単な依頼も体験することになっていた。
ユユとチーグルの実力は知らないが、ケオランがいるので危険な目には会わないだろう。
教室を出るときも出てからも、トキを見ながら話をしている生徒が多かった。
(どいつもこいつも人をなんだと思ってるんだ?言いたことがあるなら正面からこいっての)
すると、本当に正面から来てしまった。
取り巻きのような二人を連れた太った男子生徒がトキの前を塞ぐ。
「トキニアというのは貴様だな。たまたま首席で入学したからといって調子に乗るなよ。おおかた取引でもしてその座を掴んだのだろ「ああっ!!」んん?」
言葉を遮ってトキは廊下の外を指差した。
皆がそれに応じて外を見る間に魔法を発動、すり抜けて階段を登る。
いつの間にかいなくなったトキを探す三人。
喚き声が聞こえるが知ったことではない。
(めんどくせーし、うるせーし。相手なんぞしてられっか。しかし、どっかで見たような……)
既にトキの記憶からは消されてしまっていたが、彼の名前はニブル=ブンゴッド。
ブンゴッド辺境伯の長男で以前トキが配達依頼をしていた時に、ギンをよこせと絡んできた少年である。
成績は中の上で入学できたのだが、自分が最も優れていると信じて疑わない。
体型(特に腹)が優れているのは誰もが認めるところ。
ニブルを回避したトキは3階にある生徒会室にやってきた。
ノックをして入室すると、生徒会長のエレスティナ、そして知らない男女2名が座ってお茶を楽しんでいた。
教室の倍はありそうなかなり広い部屋で、隣の空間には執務机があり、手前の一人掛けソファーでそれぞれ3人は寛いでいる。
「いらっしゃい、トキニア君。お茶を用意するからそちらへどうぞ」
失礼しますと断って、トキもソファーに腰掛けた。
(いいもの使ってんな。生徒会ってのは優遇されてんのか。それとも会長だからか)
ソファーやカップなどの調度品はどれも貴族が使ってそうなものばかりだった。
お茶を出してもらいエレスティナ会長が話し始める。
「トキニア君、今日は来てくれてありがとう。最初に、簡単な自己紹介をさせてもらいますね。昼にも言いましたが、私はエレスティナ=ケルストといいます。本校の生徒会長を務めていて、公爵家の長女です。ですが、学校規則にもあるように身分ではなく、一人の先輩として接していただければと思います。よろしくお願いしますね」
「次は私かな。私はルウ=シャオラ。タルム女王国の出身だが、縁あって今はこの国に住んでいる。エレスに無理やり生徒会に入らされたただの書記だ。よろしくな」
その言い様にエレスティナがプンプン怒っており、その様子やエレスと愛称で呼んでいるところから親しい仲であることが伺われる。
ルウは短い黒髪で年下の女生徒から人気がありそうな美少年風のルックスで、さばさばした性格のようだ。
「僕はラッケスタ=フォルム。ラックって呼んでね。ルウと同じくクラスメートだったんだけど、二人に攫われて今は会計をしてる。よろしくね」
ラックは人が良さそうな細身長身で、赤茶色の髪をした童顔イケメン。
その外見とは裏腹に生徒会の2人には遠慮がない様子で、抗議に対して事実だろと断言していた。
「おほん、以上3名が現在の生徒会役員です。主に、生徒の各活動や生活の補助、行事の運営、各規約の制定・改変などを仕事としています。去年開校したばかりなので問題は山積していて、正直人手不足なのが現状です。それで、今日の本題なのですが、トキニア君、あなたに生徒会に入っていただきたいのです。銀翼の名とともに実績を積まれ、国やギルドからも信頼を受けるあなたにこの学園でも活躍していただきたいのですが、どうでしょう?」
(公爵家の情報網でも使ったのか、随分と俺のことを知っていそうだな。とりあえず、そこらへんのことを聞いてみてからかな)
「過大評価していただいて恐縮なのですが、私のことをどこまでご存知なのでしょうか?」
「他は噂程度でしか知りません。霊獣を連れていること、今年の首席合格者で風魔法を使い空を飛べること、そのくらいです」
(表情を変えない人だな。周りから攻めてみるか)
「そうですか。実は私には目的があり、この学園に入学しました」
「目的?」
ルウが尋ねてくる。
ラックも知らない様子だ。
(政治に関わるのは勘弁なんだが、こっちは思惑なしか?やっぱ正面の公爵令嬢だけが要警戒かな)
「はい、その目的に対して生徒会へ入ることは利点が少ない、というよりデメリットが大きいのです」
「目的というのは問いませんが、デメリットについてはお聞かせ願いますか?」
気になった様子の2人を制してエレスティナが問う。
「大きく分けると3つ。様々な人材と知古を得ること、資金稼ぎ、政治に巻き込まれる心配、この3点ですね。生徒会に入るなら、一つ目は学生、または教師に限られそうですね。生徒会に入るより、もっと広く出会う場を作れないわけでもありませんし。二つ目はギルド活動をするつもりだからです。時間を制約されたくはありません。三つ目はおふた方は知りませんが、まぁはっきり言えば公爵家がどういう意図があるのかが懸念ですね。私は自分の力を危険視しています。今後の向上と運用次第では第2のガルツ=ルーパーにさえなりうるでしょうから。そのつもりはまったくありませんがね。人質でもとられたらわかりませんから」
「それは……怖いですね。ちなみに、資金というとどのくらいを目標にしているのですか?」
「白金貨100枚ですね。最低でも50枚は持っておきたいです。もちろん学生の間に貯まるとは思っていませんよ?」
三人は息を飲んだ。
白金貨100枚あればひと家族が3代に渡って暮らしていける。
現代の日本円に換算すれば5億くらいか。
子供の戯言に思えるでしょうね、とトキは苦笑いする。
しかし、トキはギルドランクS以上を目指しており、その報酬や素材売却額はAランク以下とは桁が違う。
Sランク以上はこの大陸でも50人といない。
冒険者ギルドに限るとSランクは10人、SSランクは3人のみ。
その最上位ランカーになるつもりなのだ。
苦笑いしながらもトキの目は本気で、目的に向かって先を見据えている。
個人が村を復興しようとするならば、そのくらいなければ不安が残る。
ファウスタイン侯爵ならば出資してもらえる可能性はあるが、なにも辺境の辺境であるパイオニル村である必要性はない。
命を救われただけでも十分に思っているし、それに加えて金銭を要求できるほど顔のツラは厚くない。
だから、資金に関しては最初から自分で全て賄うつもりでいた。
その様を見てエレスティナが先ほどは言わなかったことを口ずさむ。
「あなたは本気で故郷を……」
自分の故郷のことまで勝手に調べられていたことに対して、トキは殺気を漏らしながら警告する。
「一つ警告、いや忠告しておく。あんたも知っての通り、俺の家族はもういない。故郷もない。だが、仲間や友はできた。それに手を出すなら、貴族だろうが国だろうが潰すぞ?家が絡んでんならそっちにもそう伝えろ」
トキの殺気に当てられ、三人は冷や汗をかき、生唾を飲んだ。
盗賊を殺してからトキの威圧感は高まっていた。
つい言葉を荒げてしまい、落ち着くためにも話を終わらすことにした。
「……失礼。こんな俺を本当に生徒会に入れていいのか、よーくもう一度話し合ってくれ。その上で、さっき言った三つのことをクリアするなら俺も考えよう。今日はこれでお暇させてもらう。じゃあな」
部屋を出て歩きながらトキは反省していた。
(やっちまったー!危険人物指定されたかも。ま~そのときはそのときか。ま~大丈夫だろ、たぶん)
否、トキは開き直っていた。
今日の会談がどのような結果をもたらすのか、わかるのは3日後のことであった。




