42話 入試試験、剣鬼登場
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
一人先行して戻ってきたトキは受付で報告を済ませ、受験勉強に励むことにした。
局長のおかげで対策はばっちりなはずので、覚えた内容を復習するだけだった。
5日後、いよいよ受験日がやってきた。
体調は問題なく、緊張して眠れないといったこともなかった。
ギンは今日も元気である。
ハクは今日はお留守番だ。
トキがずっとお世話になっている宿屋でも、受験するのであろう同じ年頃の子が数日前から見かけられていた。
2年ほど前から事情を話していた宿の女将は、
「いよいよだね。頑張っておいで!」
と肩をバンバン叩いて励ましてくれた。
最初の丁寧さが嘘のように親しい間柄になってしまった。
がんばります、とだけ告げて宿を出る。
去年と同様、いやそれ以上に王都は朝から賑わっていた。
多くの子供たちが学園のある北区に向かっている。
どの子も張り詰めた顔をしていた。
その中でもギンを連れたトキはかなり目立っている。
(流石に試験中は連れてっちゃ~だめかな)
周りとはかけ離れた緊張感のなさである。
いよいよとなってトキは受験が、その先の学園生活が楽しみになっていた。
カルティア魔法学園は北区の第3区画に建っている。
開始時間まではまだ十分時間はあった。
魔法学園には初めて入ることになるトキは辺りをキョロキョロと見渡していた。
外見上は王都の町並みと同じ石造りの建物だ。
木を運ぶ依頼があったので、宿屋のように内装として使われたのだろう。
正門の前で案内の人がいた。
正面の建物に行けばいいらしい。
受付で受験料を払うと受験番号を渡された。
『0690』だったので、やはり今年も受験者は多いようだ。
後ろを見れば、続々と受験生たちが学園に集まってきている。
各番号ごとに受験場所が決まっているようで、トキも案内を見て0600~0699の部屋に入る。
中は段状の講義室になっていた。
自分の番号が記された場所に座る。
左端から2列目の一番後ろだ。
緊張に包まれていて物音一つしない。
軽く目を瞑って開始時間を待つ。
少しのざわめきが起こった。
ようやく筆記試験が始まるようだ。
説明が行われ、試験官がひとりひとりに問題用紙を配っていく。
大きな砂時計があり、それで時間を知らせるようだ。
質疑応答は一切認められない。
はじめっ!という合図で問題用紙を見る。
国や世界の歴史、地理、四則演算、魔法の基礎知識など、大して広くもなく浅い問題ばかりだった。
少し、いやかなり拍子抜けだった。
時間が半分は残っていたが、何度も見直しをして消化する。
筆記試験が終了すると解答・問題用紙が回収されて、いよいよ魔法試験となる。
魔法試験は先に500名が行うため、0501~1000番の人は待機となるらしい。
(時間余すなぁ。どうしよう)
他の人たちも同じようだ。
すると、左隣の男の子が小さい声で話しかけてきた。
「なぁなぁ、筆記試験つまらなくなかったか?簡単すぎるっつーか」
「俺も同じ意見。まぁ魔法試験の方が重要なんじゃね?」
楽しみだよなぁ、とワクワクしているその少年は赤い髪をフロントからトップまでツンツンに立てていて、きりっとした顔立ちをしている。
背を丸めて机に臥せっているが、体つきもかなりいいように思えた。
試験中は私語厳禁と言われたのだが、その後も彼は話しかけてきた。
「俺、ケオラン=マッキスってんだ。よろしくな。一応子爵家だけど、三男だから気にしなくていい。お前は?」
「こういっちゃなんだけど、貴族らしい言動じゃないぞ。俺はトキニア=ゼペルルクス。トキでいい」
「やっぱりか!!」
いきなり大声をあげたため皆がこちらを向く。
トキが大声をあげたわけではないが、気まずくて二人して下を向いた。
「一応、試験中だからな。静かにしとこう」
小さい声で話すトキにケオランもコクコクと頷いた。
ようやく先の500名が終わったようだ。
そして、トキの列の順番がやってきた。
ケオランにお先、と言って席を立つ。
小さくがんばれよ、と応援してもらった。
第6演習場と書かれたところで試験内容を聞かされた。
「魔法試験は3つ行います。一つ目はあそこに打ち込まれた杭を攻撃してもらいます。これは魔法を使っていればどのような方法でもかまいません。順番は、第一試験は下一桁1の人から順に、第二試験は逆に下一桁0の人から、第三試験は立候補した順からとなります。二つ目三つ目の試験内容は後ほど説明します。よろしいですか?では0681番の人からどうぞ」
(試験官が机に二人、んで他の受験者も見ることになるのか。第二試験が最初だから体力、ってか魔力温存するか?まぁ他の受験者のレベルを見てからでもいいか)
最初の受験者の男の子は随分気合が入っているようだ。
勢いよく返事をし、手を上にあげて集中しだした。
(……まだか?発動遅くね?そんなに元気が集まらないのか?)
そして、直径50cmほどの火の玉を発現し、杭に向かって投げた。
直撃はしたが、焦げる程度だ。
(まぁ……人相手なら有効か?遅いけど。いや、まだ一人目だ。きっと元気を集めてくれる人がいなかったんだ)
しかし、次の人は浅い切り傷をつける風刃を2回出しただけに終わり、次の人は水弾で衝撃を与えただけ、次の人は閃光魔法で光ってる内に飛び蹴りをかましていた。
(なんか、おもしろ芸大会みたいだな。どうしよう、逆に心配になってきた。でも、この組がレベル低いだけってこともあるしな。この日のために頑張ってきたんだから精一杯しなくちゃだめだろ)
気合を入れ直し、トキの番がやってきた。
杭との距離は10mほど。
腰の短剣を慣れた手つきで抜く。
魔法をいつも通り3つ同時展開させ、左剣を払い斬撃の刃を放つ。
修練によって射程も伸びた風の刃が杭に向かって飛んでいく。
払うと同時に加速して接近、斬撃の刃で真っ二つになり空中に浮く切れた杭を風の刃でさらに真っ二つに斬った。
受験者はおろか試験官まで口を開けて驚いていた。
(おいおいおい。試験官だろが、あんたら。ちゃんと見てただろうな?)
問題児扱いされても困るので、睨まず剣を鞘に戻し、受験者の列に戻る。
受験者は何が起こったのか全然わからない様子だった。
「第二試験は障害物走になります。水に落ちないように走り抜けてください。ただし、左右から魔法の妨害が2箇所ずつ入りますので、躱すか防御してやりすごしてください。妨害者への攻撃は禁じますが、妨害なら構いません。では、え~0690番の人からお願いします」
(第二試験が最後の方がよかったな。まっ、しゃーないか)
足元は岩場で下に水が溜まっており、全長50m幅10mほどのアスレチックのような試験場だ。
妨害者はその左右にある高い台の上に立っている。
(見た感じ在校生の優秀者とかか?いくらなんでもニッセルトのおっさん並の範囲魔法はしかけてこないだろう。全力で加速して、前側の二人は置き去りにして、あとは反応見てだな)
「よーい、スタート!」
全力の加速をかけて岩の上を翔ける。
その加速にトキの思惑通り、前の二人が慌てて魔法を放つがもう遅い。
その魔法を置き去りにして、トキは平面を走るように駆け抜ける。
奥側の二人が魔法を発動する。
左の方が早いと見て、左前方から放たれた火の玉を高く飛んで側方宙返りで躱し、着地と同時に右前方へ再び側方宙返りをして水弾を躱した。
そして、そのまま加速しゴール。
風魔法がなくては真似できない曲芸だったが、トキもこのような躱し方は初めてだったので内心冷や汗をかいていた。
(あっぶねー!もう1回やれって言われても絶対できねーわ!)
トキの身のこなしを見て、他の受験者はようやく自分との力の差を感じ、意気消沈していた。
(知らんぞ……。俺は全力を出して絶対受かるんだから)
その後は一人も完走できないという無残な結果に終わった一行は次の試験場に移動した。
「第三試験は模擬戦になります。あちらの試験官と魔法を使用し戦ってください。勝つ必要はありませんが、最後の試験です。全力を出してください。では立候補した者から、ん?」
さっき話していた内容では立候補による順番だったはずだが、なにやら他の試験官が話しかけている。
「すみませんが、少々予定が変更となります。受験番号0690番の人は最後に試験を行ってもらいます。その際、試験官が変更となります」
(おいおいおい、どういうことだよ)
「すみません。それは公平な判断による変更なのでしょうか?」
「説明は他の受験者が終わってからさせていただきます」
「……わかりました」
(公平じゃないってことか?上の人間が口挟んできたとか?)
他の受験者たちは恐る恐る挙手して試験に挑んでいった。
もはやこの中ではトキが抜きん出ていることは明白なようだ。
そして、いよいよトキの出番となる。
交代して現れたのは木剣を持った中年の男性、いやもう老人といってもいいくらいだ。
背が曲がっていたら、剣を構えるより杖をついていてもおかしくないくらいの年齢である。
だが、見える体つきは似つかわしくないほどに鍛えられている。
様子を見ていてトキは違和感を覚えた。
(なんだ?この爺さん。なんか不自然なような気がする……。いや、自然すぎるのか。剣を持っているのが自然すぎる?)
その老人は木剣を下げた手に持ったまま話しかけてきた。
「すまんの。面白そうな子が受験していると聞いてついわがままをしてしまった。評価は公平になるようきちんと行うので、安心して全力を出しなさい」
(こういう大人に絡まれる運命なんだな、俺って)
「わかりました。全力で向かいます」
トキが短剣を抜き放つと相手も木剣を構えた。
全身が粟立つ。
(っ!……あぁだめだ。勝てねぇ。勝てる気がしねぇ。何なんだよ、この爺さん)
持っているものは木剣。
だが、正中に構えた剣はやたらと大きく見える。
いや、相手のすべてが大きく感じてしまう。
(この威圧感……つくづく縁があるのかね)
二本の短剣を構えたままトキはまず剣ではなく、言葉を交えることにした。
(一応、確認だ)
「なぁ、爺さん。俺はあんたに会ったことはないが、あんたの名前に思い当たるものがあるんだわ」
「ほう、なんという名かな?」
「剣魔十傑の一人。剣鬼ロリック=シルバーとか氷界のおっさんが言ってたな」
「ほっほっほ。氷の若造に教えを請うたか。いかにも。私がその剣鬼だ」
「ただの情報交換だよ。ほんと、どいつもこいつも。剣魔十傑ってのは厄介な要注意人物ばっかだよ」
「好きで名を連ねているわけではないのだがな。さて、お話もこれまでとしようか」
「わーったよ」
まずは様子見に斬撃の刃を二撃放つ。
ロリックは木剣でそれを打ち消した。
(見えねーし……。木剣がブレた感じしかしなかったぞ。にしてもあれは硬化魔法でもかけてるのか?無茶苦茶だな)
遠距離攻撃は意味をなさないようなのでスピード勝負を挑む。
相手の間合いぎりぎりと思われる距離を保ち、加速しつつ翻弄する。
しかし、ロリックは微動だにしない。
背後に回ったトキは相手の間合いに飛び込んだ。
相手は加速するトキに背を向けたままだ。
突き放つ動作に入った瞬間、こめかみの前に木剣の先があった。
置かれるように向けられた剣先を、急制動をかけて体をねじって躱そうとする。
バランスを完全に崩したが、倒れながら左剣を振り下ろす。
いつの間にか向きを変えていたロリックはそれを軽々と防いだ。
その態勢からバク転して距離をとる。
(相手がその気なら軽く4回は負けてるな)
トキにとっては明らかな格上だった。
だが、全力を出すと決めたトキは空中も使った3次元攻撃に移る。
斜め上に斬り上げ、側方上空から斬り下ろし、回り込んで後方斜めから斬り上げる。
ロリックを中心にドーム上に移動しながら攻撃し続けた。
だが、やすやすと全て防御されてしまう。
3次元運動は慣れていないせいもあって魔力消費が激しく、その急制動に耐えられないトキは次第に速度が落ちていった。
そして、とうとう止まってしまう。
「はぁはぁはぁ……んぐっ、はぁはぁはぁ……」
「どうやらここまでのようだの。いや、なかなか楽しませてもらった。大変優秀で結構」
「あんたは、余裕しゃくしゃくだったけどな……」
「ほっほっほっ。では試験はこれまでとする。あとは任せた」
引き継いだ試験官が結果は5日後に学園の掲示板で発表されると教えてくれた。
合格者にはその後、昼から説明がされるそうだ。
ロリックのせいでくたびれたトキはとっとと帰ってベッドに倒れ込んだ。




