43話 試験結果とケオラン
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
試験結果発表の日がきた。
受かってなかったらロリックに抗議してやるつもりで、ギンを肩に乗せて結果を見に行く。
学園に入ってすぐに掲示板があり、そこは受験生でごった返していた。
飛行魔法を使ってやろうかと思ったが、自重することにした。
しかし、トキが人垣の中に行こうとすると、ギンを連れたトキの姿を見た受験生たちが避けて道を開けていく。
(なにこの十戒。俺、何かした?)
気を悪くしたトキはその道を進まず、引き返して学園の樹木の陰に腰を下ろした。
(まぁ、後で確認すればいいだろう)
ギンの頭を撫でながら人が減るのを待っていると、見た顔がこちらへやってきた。
「よお、トキ。受かったみたいだな」
「5日ぶりだな、ケオラン。まだ見てないんだが、お前はその様子じゃ受かったみたいだな」
赤い燃えるような髪をした子爵家の三男のケオラン=マッキスがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「なんだ、まだ見てないのか。俺も受かったが、お前さんより下だったぜ」
「あん?下ってなんだ?」
「いやはや、さすがは噂の銀翼。おめでとう!お前さんが首席合格者だ!」
面白がるように言うケオランとは反対に、トキは不合格を言い渡されたかのように顔を歪ませた。
「首席ってことまで発表されたのか?」
「あん?上位10名は特待生として学費が免除されるだろうが?」
「はぁ!?まじで!?」
「知らなかったのかよ。その10名だけは名前つきで発表されるんだよ。んで、一番上にトキニア=ゼペルルクスってあったぞ」
「……合格して嬉しいはずが、複雑な気分だな。もうちょい手を抜いてりゃよかったか」
「なに言ってんだよ。お前、特別にあの剣鬼と最後に手合わせしたんだってな。試験が終わった日にはそれ含めて噂になってたぞ?」
「あ~もういいわ。これ以上聞きたくない」
トキは耳を塞いで拒絶を示す。
ケオランもそれを見てこれ以上は言うのを止め、肩をすくめるだけだった。
「まぁ人がもうちょい少なくなったら自分でも見てくるよ」
「そうしな。そうだ、この後昼から説明会があるらしいから一緒に行こうぜ」
「ああ、かまわんぞ」
そうして待つ間、ケオランにギンを紹介してあげた。
ケオランが目を爛々と輝かせて触ってもいいかと言うので、嫌がらないようにしろよと念押しして許可する。
ケオランはギン相手にまるで人と接するように話しかけていた。
トキにはケオランが貴族なのか本当に疑わしく思えてきていた。
人が少なくなってきてから、ギンと一緒に掲示板を見に行く。
ケオランも「俺も俺も」とついてきた。
今はもう50人ほどしかいない。
掲示板の右端から見ていると、どうやら今年の受験者数は少なくとも1218名だったらしい。
競争率8倍以上ということだ。
見ていくと、確かに0690という番号があった。
トキと一緒に受けた組ではトキの他に合格者はいない。
そして、左端に合格発表者の掲示板とは別に小さい掲示板があった。
上位成績者とは書かれていないが、前年度と同様に成績の良い順に授業料免除者を記したものらしい。
一番上にはトキの名前が書かれていた。
そして、ケオランの名前も。
「ケオラン。お前、成績よかったんだな」
「お前に言われたくねーよ」
呆れた表情のケオランだが、彼の成績は五席だった。
成績上位者の実力に興味がわいたトキはケオランに魔法をみせてほしいと頼んだ。
ケオランは快諾し、トキには噂の飛行魔法を見せてもらうことを約束させた。
一緒に昼食をとりに街に出かけ、説明会の後でという話になった。
ケオランは槍を使い、火属性魔法を得意とするらしい。
ケオランの実家であるマッキス子爵家は北西に領地を持つ領主で、何もないど田舎だという。
配達依頼では行ったことがない町のようだ。
「家を継ぐ可能性はなかったからな。昔から家にあった槍を振ったり、罠を仕掛けて狩猟をしたり、好きにしてたんだよ。燃えちまうから魔法はあんまり使わなかったけどな。んで、将来どうするかなって時に、王都に魔法学園ができるって話を聞いてな。こんなところにいるよりはって飛びついたわけよ。トキはなんで魔法学園に?」
トキは経緯をかいつまんで説明した。
「なんつーか、波乱万丈だな。お前の人生。いつか物語にできそうだぜ?」
ケオランは楽しそうに話すが、トキの家族の話を聞いて眉を寄せていた様子から気をつかってくれたようだ。
(いいやつだな)
素直にそう感じていた。
気を使えるし、話をしていて楽しいし、背は高く、顔も男らしいかっこよさがあり、成績も優秀な貴族。
(あれ?こいつモテそうじゃね?これで優しくされたら惚れるんじゃね?)
トキの予想どおり、領地にいた頃は町の娘たちから人気があったケオランだが、本人にはその気はなく、うまいこと距離をとっていた。
今後行動を共にすることが多くなる二人だが、主にケオランは同学年以下から、トキは同学年以上の女性から絶大な人気を誇ることになる。
昼食を食べた二人は説明会に行くことにした。
合格者発表のときよりはかなり人が少ない。
保護者を連れた子や貴族っぽい服装の子も結構いた。
入学式は10日後、トキは必要なくなったがその時に授業料を払う。
寮もあるらしく年間金貨10枚らしい。
宿代のことを考えると、近いし安い。
だが、トキにとって重要なのはギンやハクも一緒にいられるかということだ。
(あとで質問してみよう。必要なら追加料金くらい払ってやる。授業料免除だし)
入学式の日までに学園のローブと選択する授業に必要な教材を購入しておくように言われる。
魔法学園は前期と後期に分けられ、夏休みと春休みが1ヶ月半ほどある。
授業は連続で5日行い、その後の1日が休みとなる。
1週間が6日だとすると週休5日制で、一ヶ月は5週あるというわけだ。
授業は必須科目があるが、他は選択方式になっており一般科目、魔法科目、武術科目をそれぞれ一定数以上選び合格しなければならない。
必須科目を不合格になったり、選択科目を一定数以上合格しなければ留年となる。
去年で留年者はいないらしく、卒業者には国から就職などで保証がつくという。
例をあげると、騎士団や宮廷魔法使いなどへの道も用意されるようだ。
授業は午前に2つ、昼食をはさんで午後に2つの計4つ。
試験の時のような砂時計を使って知らせ、一授業90分。
生徒会やクラブ活動もあるそうで、入学式の後には新入生歓迎会も兼ねた勧誘の場が予定されている。
放課後を使って活動するらしいが、ギルドで依頼を受ける人もいるとのこと。
トキには優秀な人材の確保という目的がある。
(他学年と交流できる点はいいけど、資金稼ぎもしないといけないし、悩ましいところだな。一名は確保できているから幸先いいけど)
チラッと隣に座るケオランを見る。
熱心にどんなクラブ活動があるのかと資料に目を通している。
(あっ、後で成績上位者の名前、全部チェックしとかなきゃ。まだ撤去されてないよな?)
説明会も終わり、トキはケオランを待たせたまま質問に向かった。
すると、教師と思われる中にロリック=シルバーの姿が見えた。
「どーも。先日はお世話になりました」
「ほっほっほ。受かってよかったな。それで、わざわざ挨拶に?」
「いや、爺さんって教師なのか?ちょっと質問があるんだけど」
「ん?そういえば前は言っていなかったか。私は学園長をしている」
「はぁ!?まじかよ。なに?剣魔十傑が学園長をする決まりでもあんのか?」
「たまたま、と言いたいが、国の方はそうではないかもな。それで質問というのは?」
「ああ、寮には鳥や馬は一緒に入れるのかなって思って。鳥の方は部屋にも入れたい。病気の方は月一回検査して証明書もちゃんとあるし、かなり賢いから今泊まってる宿では食堂でも一緒なくらいだ」
「おお、話に聞く銀翼の連れか。ふむ、馬の方は貴族が乗ってくる場合があるから、厩舎があるんで問題ないな。鳥は月一検査をして寮の管理人に提出すること、相部屋となるので相方の了承を得ること、食堂へは連れて入らないこと、この3つを条件に認めよう。これは他のペットを飼う者と同じ条件なのでな」
「わかった。あっ、あそこにいるのが仲のいい友達で『ケオラン=マッキス』っていうんだ。あ~できればあいつと同じ部屋がいいなぁ。子供の我侭を聞いてくれる我侭な大人っていないかなぁ。……じゃあこれで」
「……教師や先輩には敬語を使うことを忘れるでないぞ」
ど~も、と返事してケオランの所へ向かった。
名前を強調して伝えたので、これでロリックの我が侭に付き合わされたことはチャラにしてやろうとトキは考えていた。
上の学年では9割以上が寮生活をしているらしいが、貴族の中には家から通うものもいると説明があった。
ケオランに確認したところ、面白そうだから寮に入ると聞かされた。
これであとはロリックがうまくやってくれればギンとも一緒にいられる。
他の家族は住んでいないが、王都の第二区画に子爵家の家があるらしく、ケオランが武器を取りに行くため第二区画の南門近くで待ち合わせすることになった。
トキもハクを迎えに行くついでに宿の女将に報告する。
とても喜んでもらえたが、寮生活になりそうだと言うと残念がられた。
会えなくなりそうなことになのか、常連客がいなくなるからなのか。
ハクに乗って待ち合わせ場所にいくとケオランがすでに待っていた。
「悪い。待たせたな」
「気にすんな。トキは馬を持ってたんだなぁ。あれ?角が生えてる?」
「ああ、こいつは霊獣のブースホースでハクっていうんだ。結構人見知りするから気をつけろよ」
そう言うが、ケオランに対してハクは警戒していなかった。
ケオランが首を撫でるが静かにしている。
「かっこいいな、こいつ。くれ」
「やらん。お前は大丈夫みたいだな。おい、ケオラン。後ろ乗れよ」
「え?いいのか?」
「ハクが嫌がったらダメだったけどな。問題ないらしい。歩かせるのも悪いしな」
やった、と嬉しそうに後ろに乗る。
ハクはあれから成長して軍馬よりも大きくなっていたため、乗るのにも一苦労だ。
鐙を空けてやり、手を借りてトキの後ろに乗る。
「鞍は一人用だからな。落ちないように気をつけろよ」
「わかった」
二人で南門を抜けて街道を外れ草原にやってきた。
「トキ、まずは飛行魔法っての見せてくれよ」
「かまわんが……どうするかな。ケオラン、ハクに乗ったままでも飛べるんだが、どうする?」
「ええ!?俺も飛べるのか!?」
「飛ぶというより、ハクに風属性で作った道を走ってもらうんだ。空中を走ることになるから落ちたら死ねる」
「ぜひ!頼む!」
「わかった。じゃ~お前はこの鎖をベルトと鞍に繋げといてくれ」
それを確認したトキは行くぞと言って魔法を発動させた。
人を乗せて発動するのは初めてだが、問題はなかった。
『風の道』
走り始めてから次第に坂を登っていく。
側面が空いたドーム状に薄緑の風の膜が張られている。
横を見れば遠くの景色が見られた。
「飛んでる!俺、空を飛んでる!」と後ろで歓喜の声があがる。
ゆっくり周回軌道で元の場所に降りてきた。
ケオランは当分興奮が収まりそうにない様子だ。
その後、トキが単独で飛行魔法を見せた。
旋回したり、直角に曲がったり、3次元運動を見せたり。
あまりにケオランが喜ぶものだから調子に乗って魔力が尽きかけてしまった。
じゃ~次は俺の番だな、と今度はケオランが槍を構える。
すると、すぐに槍先が火を纏う。
(発動が早いな。慣れてる)
そして、鋭い突きを放つと、槍先から火の玉が飛んでいく。
槍の先には火が纏ったままだ。
今度は鋭い突きを連続して放ち、ボボボボボッと5つの火球を繰り出した。
(射程は20mくらいか)
払うと火がブレて跡が残る。
石突きにも火を纏わせ、大車輪のように槍を回す。
トキもおおお、と拍手を送った。
「いやいや、ケオランやるなぁ」
「ま~こんな感じだ。魔法使うのはあんま練習してないんで学園で磨いていこうと思ってる」
「いやいや、お前はもう一人前だよ」
「いやいや、そんなことないって」
「いやいや、お前はもう一人前の曲芸師だよ」
「いやいや、じゃねーし!俺は曲芸師になったつもりも、なるつもりもねーから!」
「う~ん、十分食っていけそうだぞ?」
「曲芸師はそんな甘いもんじゃねーだろ。素人が適当なこと言うな。って、俺がその道の人みたいじゃねーか!」
「自分でボケたんじゃねーか。こっちに振るなよ」
「お前が言い始めたくせに」
ぐぬぬ、と唸ってるケオランをよそにハクを呼んで帰ることにする。
俺を放って帰るな、とケオランも乗り、王都へと戻った。




