41話 Bランク昇格試験:盗賊討伐
新暦1347年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア
配達依頼も今回を終えると契約が満了する。
あれから配達はハクに乗って行っていた。
最初はハクに街道を疾走してもらっていたのだが、それでもハクの体力が普通の馬と違ったため、十分短い期間で届けることができた。
しかし、トキはそうしながらも魔法の練習を欠かさなかった。
次第に魔法の発動範囲を広げていき、1時間ほどなら空中に道を作ることができた。
なので、基本はハクに地上を走ってもらい、ショートカットするときだけ空を走るようにした。
これによって劇的に時間が更に短縮されたのだが、当初はハクよりもトキが先に根を上げてしまい、そううまくはいかなかった。
腿と尻の皮が剥けたことや慣れない長時間の乗馬に体力が削られたこと、酔ったことが原因だ。
それに慣れた頃にようやくハクが役に立つようになった。
なったと思ってたら配達終了となったしまったわけだが……。
しかし、資金の方は問題ない。
いや、ハクの食いっぷりが凄まじくて宿にいる間の料金がおひとりで一泊銀貨2枚と人間様を上回ってしまい、消費は激しくなってはいた。
それでも、通学費用金貨155枚は余裕を持って貯めることはできた。
配達依頼料と王家や国の依頼料、宿をとらず野宿することもあって、現在トキの預金額は金貨400枚を超えていた。
つまり、白金貨4枚である。
予定よりも大幅な収入を得られたことにより心にも余裕がもてている。
最後の依頼を終えたトキは局長室へと向かった。
(この仕事、楽しかったな。届けたら喜んでもらえたし、俺も運んだ甲斐があったって実感できた。ほんと村の復興って目標がなかったら続けたかったな)
局長室の扉を叩く。
返事を待って入室すると、局長がトキを見つめ座りなさいと声をかけた。
「早かったな。トキがここに来てからあっという間だった。君が仕事を受けて来始めてからは、私をはじめここの職員全員が仕事に対して見つめ直すことができたよ。トキ、ありがとう。君は私が最初に言ったとおり、この仕事に対して真摯に向き合い、完璧な仕事運びをしてくれた。君の働きは満場一致で賞賛に値するだろう。場所が変わっても、君の今後の活躍を期待しているよ」
「恐れ入ります。私もこの依頼を受けることができてよかったと実感しています。短い間でしたが、お世話になりました。局長、くれぐれも無理をなさらないようにこの仕事に励んでください」
短いやり取りをしただけなのに、お互いに目頭が熱くなっていた。
この時が来ることはずっとわかっていたことだった。
涙を見せまいと上を向く局長に、トキは一礼して部屋を後にした。
トキには珍しく、ずっと変わらず敬語を使った相手だった。
使うべき敬える人だった。
あの人の下でなら働きたいと思えた。
(でも、俺には違う目標がある)
そう思い返していたトキを今度は流通局の職員たちが拍手で出迎えてくれた。
職員だけじゃない。
ここへ直接送り物を持ってきた人まで皆が拍手を送っては、お疲れ様、ご苦労さま、と声をかけてくれる。
耐え切れず涙を流すトキに職員の一人が花束を送ってくれた。
「ありがとうございます」
涙ながらトキは何度も礼を言った。
ここの一員として働けたことに感謝した。
またお会いしましょう、と最後は笑顔でそう言って流通局を後にした。
明けて翌日、久々に冒険者ギルドに赴いた。
冒険者ギルドに来るのもひと月に一度報酬を受け取りに来るくらいになっていたからだ。
今回は上位クラスのBクラスへのランクアップのために来ていた。
「トキニア=ゼペルルクス様ですね。ランクアップ申請は受けております。ランクアップの条件はこちらが指定するBランク依頼を達成してもらうことになります。今回は盗賊の討伐ですね。情報が整い次第、明日か明後日には出発してもらいますので、ギルドに待機していてください。なお、ランクアップ試験には同行者を伴いますので、顔合わせもそのときにお願いします」
「待機は明日からですね。わかりました」
配達依頼をずっとしていたので人を殺したことはなかった。
(冒険者って人を笑顔にする仕事だけじゃないんだな)
そういうこともありえるとわかっていたが、久しく忘れていた。
気を引き締めて取りかかることにする。
翌日、討伐と聞いていたが、一応捕縛用に長いロープなどの装備を整えたトキはギルドに再び顔を出した。
昼まで休憩所で待機していると、どうやら情報とやらが整ったらしい。
呼び出しを受ける。
呼び出しをしたカウンターの前に男3女1のパーティがいた。
例の同行者のようだ。
「ゼペルルクス様、こちらが今回のランクアップ依頼の同行者になります。パーティ名は『集う刃』。ランクはAです。細かいことは彼らに道中お聞きください」
準備はできているね、とリーダーっぽい人に聞かれたので頷く。
ギルドを出て南門から出るようだ。
「馬がいるんですが、連れて行ってもいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
爽やかお兄さんに礼を言ってすぐにハクを連れてきた。
特にパーティの人達は反応がなかった。
門を通り、街道を南東に進む。
同行者がいるので今回は徒歩のスピードに合わせる。
詳しい情報を聞くため、ハクからは下りていた。
「噂の銀翼に同行できてうれしいよ」
『集う刃』のリーダーは爽やかお兄さんのジェイムさんで、剣と小盾を持つ前衛だ。
ニカっと笑うと欠けている歯が見えるが、愛嬌のある笑顔でそれがチャームポイントになっている。
「子供とは聞いていたが、ほんとに子供だな。がっはっはっは」
大きな盾と斧をもつアルムさんは豪快なおっさん。
無精髭のせいでおっさんに見えるが、剃れば実は若そうだ。
「例の飛行魔法が使えなくてトロトロとした旅足だけど我慢してくれな」
斥候役をするロインさんは一番若く、気さくな兄やんって感じ。
元狩人らしく弓矢と短剣を装備している。
「何かあれば私が回復するから安心して」
紅一点のチエルさんは純魔法使いだが、攻撃より回復魔法を得意としてるらしい。
金というより黄色の髪をしていてフードをかぶっているが、なかなかの美人さんっぽい。
同行者に選ばれるだけあっていい人たちだ。
実力はまだわからないが、こういうことには慣れているのだろう。
余裕があるし、野営の準備などは手際がいい。
今回の依頼はゴウホウ山地の南端近くで出没している盗賊の討伐。
生死は問わない、とのこと。
ナルビス、カルティア両国で活動しており、被害が増していて今回討伐要請が入ったらしい。
冒険者の場合Cランクでは弱い魔物討伐、Bランクでは実践での対人戦闘、Aランクでは中位の魔物討伐がランクアップ試験になることが多いので、今回は通常とのこと。
トキには敵の索敵、作戦立案、戦闘をサポートを受けながらこなしてもらうと言われた。
ランクアップにはそれを見る同行者の認定が必要となる。
事前の情報では盗賊の根城となる地域は判明しているが、特定には至っていない。
野営をしながら往復30日程度を見込んでいるらしい。
(あれ?これ受験ギリギリになるんじゃね?)
不安に思い聞いてみたら、帰りは間に合うように飛んで帰ってもいい、と言われた。
それを聞いてほっとしたが、最後に少し復習する時間がほしいため、あらかじめそうすることを伝えておく。
そんな話をしながら皆、ギンとハクに夢中だった。
ギンは大人しいのでかまわないのだが、ハクは人に触られるのを嫌がるので見ててハラハラする。
嫌がる基準はわからず、平気だったのはジョーと局長くらいだった。
無邪気な子供にまで警戒するので、同行者を負傷させてランクアップ失敗となっては目も当てられない。
全員に注意してもらうように警告しておく。
ところで、自分のことを知っているんですね、と聞くと当然のように答えられた。
「銀翼は最近じゃ、王都の名物だろう。王都どころか国のあちこちで目撃されているから、この国では知らない人の方が少ないと思うよ」
そりゃこんな派手な生き物連れて空飛んでりゃ話題にもなるわな、とアルムさんは豪快に笑っていた。
名物って、勘弁しろよ、と内心げっそりするが自業自得である。
王都を出発して13日目の昼前、目的の地域まで来た。
Aランクだけあって体力もあり、トキもハクに乗りながらだったので想定よりも早く着いたのだ。
ゴウホウ山地から流れるナムル川の上流域で、目の前には山と森が広がっている。
ジェイムが今後の方針を聞いてきた。
「さて、まずは目標を見つけなきゃね。どうする?」
「川も近いですし少し拓けているので、ここに拠点を作ってギンに偵察してもらいます。ギンなら見つけるのも早いでしょう。そのあとに私が空を飛んで根城を確認し、戻ってきます」
「わかった。銀翼のお手前拝見といこうか」
斥候のロインは今回出番なさそうだな~と苦笑いをしていた。
こちらが発見されないようにするため火は焚かなかった。
寝床と水を補給している内にギンの鳴き声が聞こえた。
「見つけたようなので行ってきます。一度周囲を確認した後、必ず一旦戻ってきます」
仕事はえー、と皆関心した。
アルムがロインにお前さんよりギンの方が上だな、と茶化していた。
装備を確認して空へと飛び上がる。
下で感嘆の声があがっていたが、すぐに聞こえなくなった。
かなり上空まで来たトキはギンの後を追った。
案内してもらうと、どうやらカルティア側のゴウホウ山地の山腹にある洞窟が根城らしい。
今は盗賊の姿は見えないが、ギンに全幅の信頼を置いているため迷いはない。
(拠点からは3,4時間ってところか。見張りはいないな。入口は……あそこだけか。しっかし、ベタなアジトだな)
周囲を見て回ったが、外に盗賊はいなかったので、全員中にいることを前提に思案する。
(状況を説明して、入口を見張りつつ早朝に侵入するか。けど、中の状況が把握できていないのは怖いな)
夕方前に拠点へ戻ったトキは早い夕食をとりつつメンバーに報告した。
「ということで、早朝に私とロインさんを先頭に索敵しつつ、できるだけ静かに敵を無力化していきたいと思います。懸念は中の状況がわからないこと。盗賊全員が中にいるのかは1名捕縛して尋問すればいいでしょう。しかし、中のどこにどれほどの盗賊がいるのかが判明しませんと、こちらが危険にさらされるかもしれません。そこのところは何か情報はありませんか?」
「目撃情報では盗賊は20名弱で馬はなし、弓で射掛けて足を止めてから襲いかかってきたそうだ。魔法を使う者はいなかったらしい」
「地形は順番にしらみつぶしに探っていくしかなさそうですね。では、入口が見れるところとそこから少し距離をとって睡眠をとれるところに1名ずつ見張りをたてて、交代しながら夜明けを待ちましょう。日が登る頃に襲撃します。先頭は私とロインさん、二人でできる限り静かに敵を無力化。気づかれた場合と敵が一箇所に多くいた場合はジェイムさんとアルムさんが戦闘に参加。私たちは遊撃に回ります。チエルさんは入口辺りに待機。治療などで呼ばれるか、もし外から盗賊が現れて倒せない状況なら中で合流してください。どうでしょうか?」
「うん、いいんじゃないかな。最後にひとつだけ確認をしときたい。トキニア君、君は人を殺したことはあるかい?」
「……ありません。ですが、冒険者になればそうなることは覚悟していました。それに……」
「それに?」
食べていた干し肉を置いたトキは魔法を発動させる。
「こういっちゃなんですが、盗賊程度に遅れを取るなんてことはないかと」
瞬時に向かいにいたジェイムの背後をとってそう告げた。
「おいおいおい」
「み、見えなかった」
「うそ……」
「ははは。どうやらいらぬ心配のようだね。でも、一瞬のためらいが自分を、そして仲間を傷つけ死なせることもあるというとことは忘れないでくれ。相手は盗賊。何十人もの人が死んでいるんだ。ためらうなよ」
「はい。肝に銘じておきます」
トキ自身、このメンバーも相手もその戦力を把握しきれていないため、力を出し惜しみするつもりはなかった。
そんな不明瞭な状況で相手を殺さないようにすることの難しさは理解していたので、皆殺しも辞さない覚悟だった。
ギンに案内を補助してもらいながら、洞窟近くに着く頃には真っ暗になっていた。
夜の森を歩いたせいで体力と精神力が削られてしまったが、大きな問題はない。
トキは入口の方をギンに任せ、最後に見張りをすることになった。
ハクは拠点に待機だ。
日が登る前に全員を起こし、準備する。
洞窟の中は薄暗く、奥の様子は全然伺えない。
トキが浮遊した状態で左前に、その右後ろにロインといった陣形で罠を警戒しつつ奥へ進む。
すると左右両方に小部屋が見えた。
事前に決めていたハンドサインでトキが左部屋でアルムがバックアップ、ロインが右部屋でジェイムがバックアップという形で突入することにした。
部屋の中には火が焚かれた松明が壁にかけてあったため、様子がわかった。
こちらは5人が寝ている。
どうやらあちらも5人寝ているようだ。
合図をして同時に侵入する。
手前側から順に、布を顔にかぶせながら喉を短剣で突き刺す。
曇った声をあげてビクッと反応した後動かなくなる。
(嫌な感触だな)
獣で慣れたせいか、あまり血が見えないせいか、吐き気はなかったがいい気分ではない。
音を立てないように次々と葬っていく。
無事に掃討を完了して部屋を出る。
反対側も問題なく終わったようだ。
奥に進むと通路が二手に分かれていた。
距離があるので、分岐点にアルムを置いてトキ、ロイン、ジェイムの順番で右の通路から調べていく。
突き当たりはさっきの小部屋より広い空間があり、物置となっていた。
木箱やら刀剣やらが散らかっており、人の姿はない。
それを確認して、戻ろうとするとアルムの大声が聞こえた。
「戻れーー!!」
さらに金属音が聞こえ出す。
急いで戻ると、分岐点から左通路に少し入ったところでアルムが大盾を構えて、直剣を持った盗賊3人と戦っていた。
奥から隙間を縫って矢も飛んできている。
アルムは大盾でそれらを防ぎつつ、斧で牽制しなんとか通路を塞いでいた。
(相手は前衛剣3に中衛槍2、後衛弓2。さらに一人が奥にいる。通路は3人並んで戦えるかといったほど。上は……いける!)
援護に駆けつけたトキは素早く相手の戦力を把握し、指示を飛ばす。
「アルムさん、ジェイムさんは盾で防御主体に相手を押し込んで!ロインさんはその陰から牽制を!俺は後ろを叩く!」
こちらの指示に迷うことなく動いた彼らは優秀だった。
連携をとりつつ相手を押し込んでいく。
トキは疾風の鎧を発動させて左壁を蹴りながら盗賊たちの上を駆け抜ける。
前を見ていた中衛の二人は反応が遅れ、トキの突破を許してしまう。
弓の二人も予想だにしないトキの動きに、慌てて矢を放つもそこにトキはいない。
さらに天井、右壁を蹴って加速したトキは右側の弓使いの首を逆手に持った左剣で斬りつける。
そのまま勢いを殺さず方向を変え、左側にいた弓使いも同様に首を掻っ切った。
手応えを感じたトキは奥にいた一人に向かって、またもや壁を蹴って加速しつつ襲いかかる。
その3次元的な速い動きを捉えることができる者はおらず、後方にいた一人の首も切り裂いたトキは中衛に対して向き直った。
ものの10秒足らずで仲間が3人殺された様子を見て、こちらを向いていた槍使いの一人は戦意を喪失させていた。
完全に及び腰になった相手にトキは今度は地上で加速して両腕を斬りつけ、右足に短剣を刺した。
そうしている内にジェイムたちも残りの盗賊を倒したようだ。
トキは最後に斬った槍使いを仰向けにし、相手の左腕を片膝で、右腕を上げさせ右手で押さえながら短剣を見せつけ、尋問を始める。
「おい、殺されたくなかったら答えろ。入口近くの部屋にいたお仲間の話じゃ、まだ外に仲間がいるらしいな。その数と居場所を吐け」
トキは冷酷に剣を喉につきつけながら言った。
もちろん、そんな話を聞くまでもなくお仲間は死んでしまったので、これはカマかけだ。
「し、知らねー。俺たちの仲間はここにいるだけだ」
「てめーの命が少し手元が狂うだけで散ってしまうっていうこの状況……まだよくわかってないらしいな」
トキが斬った左腕の傷口を短剣で軽く刺す。
「うがあああ!」
暴れる男を魔法を使って押さえつける。
「俺は正直者が好きだし、傷口に塩は塗らないまでも、間違ってまた剣を突き刺してしまうかもしれん。よーくそのへんを理解して口を開けよ?」
「ほ、ほ、ほんとなんだ!俺たちは、ここにいるだけ!他に仲間なんて知らない!」
「……そうか、ご苦労」
涙を流しながら顔を歪ませている盗賊に対し、トキは短剣のナックルガードで喉を叩きつけた。
おそらく、死んではいないだろう。
ぱっぱっと埃を払ったトキは爽やかに報告する。
「どうやらここ以外には盗賊はいないようですね。私はこれから奥を確認してきます」
そう言って、てくてく歩いていくトキに3人はドン引きしていた。
「容赦ねーな……」
「トキニアさん、まじ怖ぇ」
「人を殺したことないって?冗談だろう」
他に盗賊はいなかったので、チエルと合流して生き残った盗賊を連れて拠点に戻った。
盗賊は全部で18名、内死者14名。
死体は洞窟の外で燃やすことになった。
洞窟にあったもので金目になるものは持って帰ることになり、全員で分配する手はずだ。
というのも、一部をハクに乗せてトキだけ先行して帰り、ギルドに預けておくことになったからだ。
鑑定やランクアップの認定などは、ジェイムらが王都に着いてからなので後日のお預けとなる。
再び一人旅となったトキはハクに乗ってカファの煙を吹かしていた。
(あ~うまい)




