32話 配達依頼と二つ名
新暦1345年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア 流通局
案内所のようなところでギルドから預かっていた書類を見せると、建物内の会議室のような部屋へ通された。
そこにできる仕事人、ナイスダンディ、上司にしたい人No1というカンジのちょび髭の2枚目が座っていた。
40歳くらいに見えるが、目が少年のような輝きを持っている。
しかし、トキが促されて座り、話し始めてからはギラっと変わって一気にまくしたてた。
「初めまして、トキニア君。私はカルティーニ=レクディアン伯爵だ。ここ流通局の局長をしている。話はハウゼン男爵から聞いている。君の能力を疑ってはいないが、これだけははっきりと言っておこう。君の人格を私は知らない。ハウゼン男爵も君とは一度会ったきりだ。まだ何も成し遂げていない君には信用がない。実績がない。ここ、流通局で扱う物は機密情報だ。高価な商品だ。人の想いだ。それぞれに込められたものがある。それを我々は誇りと信頼をもって毎日応えている。それでも自分を使えという理由を君から直接聞きたい」
「伯爵様がおっしゃったようにまだ私は何もなしえていません。ですが、私には夢があります。もう5年も前に私を残して滅んだ故郷。その復興が生きる目的です。学園に入ることも、お金を稼ぐことも、その夢のために必要なことです。故郷の百余の墓石に誓います。私はモノを届けるこの仕事に誇りを持ち、責任を果たすと。能力云々の話ではなく、この仕事での信用を積み重ねるチャンスをください」
トキは自分の胸の内を明かした。
最初は割がいいと確かに考えていたが、伯爵に問われて答えていたらそれが自分の答えだった。
(甘い考え、だな)
よく分からされた。
一攫千金とか考えている暇があるなら実績と信用を積み重ねろという話だ。
言い終わって頭を下げたトキに対して、レクディアン伯爵はゆっくり間を置いてから答えた。
「いいだろう。だが、試用期間を設ける。1ヶ月間見習いとして各方面に行ってもらう。何かあれば誰かしらに失うものが出るということだけは忘れないように」
「はい。肝に銘じておきます。よろしくお願いします」
こうしてトキは試用期間はあるものの、無事依頼を受けることができた。
(あれ?これ依頼じゃなくて就職みたいじゃね?)
なんだか、色々腑に落ちないところがあるが、今は喜ぶことにした。
翌日からトキは第2区画への通過許可証を得ることになった。
トキの仕事は毎日届けられる手紙や荷物をひとつの街へ持っていき、王都宛のものがあれば持ち帰ることである。
(ポストマンに俺はなる!2年限定だけど)
トキの初仕事は北西の町ヤルッセンに決まった。
馬で10日ほどの距離になるが、トキならば3日あれば着くであろう。
預かる荷物はさほど多くなかった。
手紙がほとんどで小包が2つほど。
背嚢に詰めてもらって出発する。
いってきます、と言うと気をつけて、と返された。
門から歩いて王都を出て、ギンと一緒に空を飛ぶ。
空の旅も順調だ。
あらかじめ、初めて行く場所に関しては地図をもらっている。
精巧なものではないが、それでも迷うことなく到着することができた。
空を飛んで現れたトキは町の警備の者に驚きと警戒で迎えられた。
郵便配達の身分証明書を提示するまでは動くなと剣まで向けられたのだ。
困惑しながら謝られたが、2年間はまた来ることもあります、とだけ伝えておいた。
それから、王都への郵便物を受け取って、すぐ出発となった。
時間には余裕があるが、遊びにきているわけではない、と自分を戒めたのだ。
ギンはトキと一緒に飛べるのでずっと上機嫌だから楽でいい。
それから戻ってきたトキは流通局の人間にも驚きと疑惑の目で迎えられた。
しかし、王都への郵便物がある以上、間違いなく往復してきた証があるので信じざるを得ない。
感嘆の声が広がる中、局長のレクディアン伯爵が出てきてトキに言い放った。
「トキニア君。早く届けるというのも大事だが、確実に届けることの方がもっと重要だ。君ならわかるね?今後もその姿勢を忘れないように献身してくれたまえ」
慢心しないこと、積み上げた評価は他愛のない一回の失敗で崩れ去ることもある。
トキは他人より早く届けることができることを証明したが、まだまだ新入りの枠に踏み込んだばかりだ。
依頼を完遂するための準備を怠らないように心がけたトキは、それからは王都に戻ったら1日休むこと、目的地に着いたら宿で一晩寝てから戻ることにした。
それでもトキは他の3倍以上の速度で仕事を完遂し、流通局を始め、第2区画内の役所で噂になるのに時間はかからなかった。
「白銀の鳥を連れた少年が空を飛んで手紙を届けているらしい」
トキが依頼を初めて3ヶ月を過ぎた頃には、王都でもたびたび見かけられたことで住民の方へもその噂は飛び火していった。
コートに描かれた銀の翼を纏い空を翔け、白銀の鳥を従わせることから、いつからかトキは『銀翼』とあだ名されることになる。
勘弁してくれと嘆息したのは仕方ないことである。




