31話 ジョーとの出会い
新暦1345年 ガレリア大陸 カルティア王国 王都カルティア 冒険者ギルド
ハウゼン男爵家での一件から3日後、ギルドへ行くと男爵が駆け寄ってくれた結果がトキを待っていた。
明日の2の鐘が鳴る頃に流通局へ来るように、とのことだ。
まずは面接をされるといったところか。
昨日、一昨日と採取依頼を2件分ずつ済ませたが、明日に備えて今日は休養にすることにした。
現在のトキの装備や荷物は以前と変わりないが、(特にギンを乗せる左肩が)ボロボロになっているコートだけは新しくしようと思った。
老師のコートまでとは言わないが、これでは見てくれが悪い。
そういうわけで服屋と防具屋を練り歩くことにした。
今は(肩に止まっていたいらしい)ギンと一緒なので注目を集めている。
ずっと乗せていると肩がこるが我慢する。
自分の左肩はギンのためにいつでも空けておくのである。
冒険者ギルドの通りにある防具屋へやってきた。
定宿以外で屋内に入る際、ギンには上空に待機してもらう。
この店ではあまり商品を置いていない。
オーダーメイドをするタイプの店らしい。
「嬢ちゃん、なんの用だ?」
話しかけてきたのは背が高く、ガタイのいい40代くらいの髭を生やしたスキンヘッドの男だった。
切り傷でふさがった右目とは逆に、左目はギラギラしてトキを睨みつけており、シャツを盛り上げている傷のついた筋肉がピクピクしている。
そして、トキはビクビクしていた。
「えっと、これでも男です。す、すみません。防御も兼ねる素材のコートがほしくて見てました、すみません」
(こえーー!この人、絶対人殺したことあるよ、絶対!)
強面の中年親父はトキを下から上まで睨みつけた。
「おい、そのコート脱げ」
(おまわりさん助けてー!かつあげ?これってカツアゲされてるパターンなの!?ジャンプさせられるの!?)
心の中の悲鳴が木霊する。
が、逃げたら逃げたで新たな旗が立ちそうである。
諦めて所持金全て、金貨5枚と少しをコートと一緒に手渡そうとした。
「あん?ちっ。そういうことかよ、てめぇ」
(え?え?俺何かした?ご不快にさせてしまいましたか?お金少ないですか!?)
「す、すみません」
目線を合わせれず、冷や汗をかきながら左下を向くトキ。
男はそんなトキの頭を掴み、無理やりグイグイと目を合わさせようとした。
「おい、こっち見ろや」
「か、勘弁してください」
「いいから見ろってんだろ!?ねじ切るぞ!?」
「ひ、ひいいい!」
顔を見合わしても焦点は合わせないトキを尻目に、男はトキの顔をよーく眺めて言った。
「お前、名前は?」
「ト、ト、トルコ=フランスです」
「……嘘だな」
(心読まれた!?物は見えないけど心は見える感じの人!?まじ最恐なんですけど!)
「で、ホントは?」
「ト、トキニア=ゼペルルクスです、すみません」
「やはり、そうか。てめぇ……」
(ウソツイテ、ゴメンナサイ)
男はギローーーーーっとトキを黙殺する。
「話は聞いている」
屈めていた腰を伸ばして男はそうトキに告げた。
しかし、当のトキには何の話なのかわからない。
「お前さんがロクスの息子だな。家族のことは……残念だったな」
10秒ほど考えてようやくトキは思い立った。
「も、もしかして、このジャケットを贈ってくれた人ですか?」
「ああ、俺はジョー=マッケラン。確かにそいつは俺が作ってロクスに送ってやった物だ。あいつには世話になったし、客としても贔屓にしてもらっていたからな」
(この人が……。父さん、よくこんな人をお世話できたな)
トキの的はずれな感心を外に、ジョーは話を戻した。
「まぁお前さんが元気にやってんなら、あいつも満足だろう。それで、コートだったか。予算はどうする?」
「えっと金貨10枚くらいまでなら出せれます。なるべく軽く、肩の部分だけは丈夫にしてほしいです。相棒の巨鳥が止まるので。それとできましたら、明日までにとか……いえ、なんでもないです」
「まずは巨鳥のことからだな。どこにいる?」
「は、はい。すぐ呼べます」
すぐにトキは外に出てギンを呼んだ。
「ほう、こいつか。なるほど、わかった。金は後でいいが、明日までだと一からは作ってられんな。だが、そうだな。既存のやつを突貫でやればさほど時間もかからんだろう。明日の朝にとりにこい。それまでにきっちりと、いいもんを用意しといてやる」
「あ、ありがとうございます。すみませんが、よろしくお願いします」
(結局ここで買うことなったな。商売上手って感じじゃなかったけど。時間は足りるのかな?まぁこのジャケット作るくらいだから腕はいいだろう)
明日はなんとか格好のついた服装でいけそうだと安心する。
用事も片付いたし、今日はもう帰って寝ることにした。
翌日、1の鐘が鳴って朝食をとってからジョーのところへ向かった。
店は……開いているようだ。
「ごめんください」
「おう、きたか。コートできてるぞ」
「おはようござい……ま、す」
おそらく徹夜で仕上げてくれたのだろう、ジョーの目は充血し、血走っていた。
かなり、昨日以上に怖い人相になっている。
(人を斬りたくて仕方ない人だよ、これ)
ジョーは細い木のような管を口に咥えて辺りを探り出した。
なぜそう出来たのか不思議だったが、トキは素早く魔道具を取り出して昔にあった上司に接する部下のように火を出した。
「おう、気が利くな」
ふーっと煙を吐いたジョーは尋ねた。
「お前、よく俺が火種を探してたって分かったな」
「いえ、なんとなくです。その咥えてるのは何ですか?」
「なんだ、知らなかったのか。こいつはカファの樹皮だよ。それをちょいと加工して吹かすとすーっと落ち着くんだ。吸ってみるか?」
「昔カファの樹皮でラリったことがあるので、遠慮しときます」
「おいおい、そりゃそのままだとひどいことになるに決まってるだろう。こいつはそんなんじゃない。騙されたと思って一回試してみろ」
「悪の道への勧誘にしか思えないんですが、じゃ~一回だけ」
すっと吸ってふーっと吐いてみた。
(あ、全然なんともない。胸はすっとするな、これ)
「なんかいいですね、これ。中毒性はないんですか?もしくは体に害とか」
「だろ?俺は仕事が終わったら自分への褒美にしてるが、中毒性があるほどではないな。カファの樹皮は鎮静作用があるが、こいつは薄いから大丈夫だ」
「ふ~ん、自分へのご褒美か。嗜好品になるんですね」
「ああ、管はもう1本あるからやるよ。カファの樹皮は王都の商会ならだいたい扱ってるからそこで買え。1つだけつけてやろう」
「あ、ありがとうございます」
トキは無駄使いの道具を手に入れた。
「あ、それでコートの方は?」
「おお、そうだった。そっちが本命だったな。ちょいと待てや」
(怖いけど、なんだかんだいい人っぽいな。怖いけど)
「ほれ、こいつだ」
ジョーが持ってきたコートは黒地に白い紋様?がついたロングコートだった。
フードつき、問題ない。
前で止める箇所は一つ、問題ない。
素材はよくわからないけどかなり軽い、問題ない。
素材はかなり硬い印象で防刃性ありそう、問題ない。
背中から脇下を通って前までに銀糸で縫った翼の絵柄、これ問題ないと言える人がいたらこう言いたい「バッカじゃね?」と。
「あの、素材とか造りはいいんですが、この背中のは……?」
「あん?おめーの鳥見てよく映えるようにしたんだが?文句あんのか?」
「いえ~まったくないですぅ~」
(言ったら殺しそうじゃねーか!)
「そいつの素材はジャケットと同じホムラオオワシを使ってるから、防刃性と防火性がついてる。肩の部分にだけグラウンドリザードの革を後から2重にして当ててるから破れることもないだろ。背中のデザインはマラカイコの銀糸で縫い上げた。一晩かかったぜ。どうだ、いいコートだろ?いいコートだよな?」
「エエ、トテモキニイリマシタ」
(そんなところに一晩かけるなよ、ボケ!)
「値段はまけにまけて金貨8枚で手を打っといてやる」
「ハイ、アリガトウゴザイマシタ」
(なんて不憫な子とか、痛い子とか、可哀想な子とか思われるんだろうな。ハハハ)
コートを纏ったトキは肩を落として流通局へと出かけた。




